インタビュー
今,カプコンが本格的にソーシャルゲームを展開する真意とは? 東京制作部 開発運営室長 兼 ソーシャル事業室長の杉浦一徳氏に聞いてみた
少し前までは,あくまで「ゲーム業界の外側」と思われてきたソーシャルゲーム市場だが,そのあまりの勢いに,ゲーム会社各社は対応を迫られているのだ。
そんな中で,大手ゲーム会社の一角であるカプコンが新たな動きを見せ始めた。社内にソーシャルゲームの開発運営チームを設け,本格的にソーシャルゲーム市場に参入し始めているのである。
これまでも携帯電話向けのコンテンツや,iOS/Android端末に向けてアプリをリリースしているカプコンだが,ソーシャルゲーム市場における展開は比較的“控えめ”であり,どちらかというと後発に入る部類である。
そんなカプコンが,なぜ今このタイミングで,どのような戦略を持って,ソーシャルゲーム市場に乗り込んでいくというのだろうか。今回4Gamerでは,東京制作部 開発運営室長 兼 ソーシャル事業室長の杉浦一徳氏に話を聞く機会を得たので,その真意について聞いてみた。
「Capcom Online Games」公式サイト
カプコン公式サイト
ソーシャルゲームに親和性の高い社内スタッフを集めて結成した新チーム
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,今回カプコンがソーシャルゲームのビジネスを本格的に展開する,ということで,ソーシャル事業立ち上げまでの経緯などを教えてください。
正直な話,ドラマチックな展開はあまりないんですよ。
カプコンとして「ソーシャルゲームという分野に本格的に取り組まないといけない」ということは,一井※や小野※をはじめとした,私の上司の間で,前々からあったテーマだったんです。
私は,直接の上司である小野から,「ソーシャルゲームの仕事をやらないか?」と軽く聞かれたので,「やってもいいですよ」と答えたら,けっこう大変なことになりました(笑)。
もちろん,責任は重大でやりがいもある仕事なので,ぜひ挑戦をしてみたいという思いもあったんですが,上司の小野には,軽く誘われてうっかりOKしたら騙されたことがたびたびあったんですけど,今回はその極め付けとなりました(笑)。
※ 一井克彦氏(カプコン 取締役専務執行役員 / コンシューマ事業管掌)
※ 小野義徳氏(カプコン CS開発統括 副統括 兼 東京制作部部長)
4Gamer:
杉浦さんは,「モンスターハンター フロンティア オンライン」と「イクシオン サーガ」の運営プロデューサーを兼任していて,そこにさらにソーシャルゲームの仕事が加わるわけですよね。大変ではないですか?
杉浦氏:
先日のインタビューや,「VS.クエスト チャンピオン トーナメント in Winter 2012」のイベントでも,お話しさせていただいたのですが,「MHF」や「イクシオン サーガ」は,若いスタッフに少しずつ権限を委譲しているので,私自身の負担は以前よりも軽くなって来ているんです。
以前,その話を小野に報告したことがあったので,それが「ソーシャルゲームの仕事をしないか?」という打診につながったのかもしれませんけど(笑)。
大変だと思うことを1つだけ挙げるとすれば,大阪本社と東京支店,両方のスタジオでそれぞれ開発を進めているところでしょうか。両方とも私が見ているので,今は月の半分を東京,もう半分を大阪で過ごしているんです。さすがにもう若くもないので,体力的に少し厳しいというのが,大変といえば大変ですね。
もちろん,その分やりがいも大きいので充実感のほうが全然上回っていますし,上司のほうが忙しいので文句は言えません(笑)。
4Gamer:
失礼ですが,杉浦さん自身は,今までソーシャルゲーム事業を専門にやってきたわけではありませんよね。初めての取り組みという面で,不安はありませんでしたか?
杉浦氏:
まず,何かあれば一井や小野が相談に乗ってくれる,といった会社からの全面的なバックアップがあります。また,「MHF」の運営で培ってきた経験をうまく応用させればいいということも分かったので,今はまったく心配していません。
まったく不安に感じていなかったというと嘘になりますが,そう感じていたのは,最初の1か月程度でしたね。今はやりがいが99%,プレッシャー1%という感じです。
4Gamer:
オンラインゲーム運営のノウハウは,ソーシャルゲームでも活かせるものですか?
杉浦氏:
そこはもの凄く活かせると感じています。
私個人としては,ソーシャルゲームの市場は非常に活気があることもあって,オンラインゲームの市場に比べてもそれなりの売上を出せる,という恵まれた状況にあると思っています。
ただ一方で,我々自身のソーシャルゲーム事業がどうかといえば,急速に立ち上げたこともあって,運営面での絶対的な経験値がまだまだ足りてないのが実情です。自己採点では,オンラインゲーム運営の半分以下で,合格点には遠く及ばない点数ですから,これを早くオンラインゲーム運営並みに引き上げることが急務だと考えています。
4Gamer:
ソーシャルゲーム運営としての経験値は及ばなくとも,今の情況ならば,これまでオンラインゲームで培ってきたノウハウを活かせば,十分逆転は狙えると。
ソーシャルゲーム事業に本格的に取り組むにあたって,カプコン社内で組織改変や人事異動はあったんですか?
杉浦氏:
社内事情については詳しくお話できない部分もありますが,チームの核になるのはもともとモバイル系コンテンツを手がけていたスタッフで,そこにオンラインゲームとアーケードゲームの開発経験を持ったメンバーなど,多彩なスタッフ を加えています。
4Gamer:
オンラインゲームとアーケードゲームの分野からスタッフを加えたのはなぜですか? オンラインのほうはなんとなく分かりますが,アーケードは少し意外な気もします。
オンラインゲーム事業のスタッフは,B to C※のビジネスモデルが主ですから,お客様のサポートに慣れていますし,アイテム課金などのノウハウも持っています。
アーケードゲームは,あまり接点がないと思われるかもしれませんが,ビジネスモデル自体は「1プレイ100円」というようなスタイルなので,ソーシャルゲームやオンラインゲームと相性がいいところがあるんですよ。
※ Business to Consumer:企業(Business)と消費者(Consumer)間の取引きを指す。
4Gamer:
なるほど。アーケードゲームもいわばB to Cのビジネスモデルですし,「あと100円」を払いたくなるような仕組みを考えるという面では,親和性が高そうですね。
杉浦氏:
ソーシャルゲームにも,「もうちょっと遊びたい」というタイミングでお金を払っていただくような仕組みがありますから,まったく畑違いというわけではないんです。
親和性の高い部署から人材を集められたのも,会社側がソーシャル事業に理解を示し,後押ししてくれたからです。このビジネスに対する,カプコンの大きな期待を感じています。
2012年は7〜8タイトルをリリース予定? うち半数はカプコンの人気IPを活用
4Gamer:
2012年内に,ソーシャルゲームを何本くらいリリースする予定なんですか?
杉浦氏:
現状だと,7〜8タイトルを見込んでいます。あまり参考にはならないと思いますが(笑)。
4Gamer:
あまり参考にならないというのは?
杉浦氏:
日進月歩の業界ですから,1か月後に同じ質問をいただいたとしても,6タイトルとか,12タイトルとか,全然違う数字をお答えする可能性があるんです。
ともあれ,その7〜8タイトルのうち,半数以上は2012年の上半期のうちにリリースしておきたいと考えています。
4Gamer:
それらのタイトルは,カプコンの既存IPを活用したタイトルなんですか?
投入時期はまだお話できませんが,全体の半数程度はそうなります。
やはり,「モンスターハンター」や「バイオハザード」といった,カプコンが持つ強いIPを利用しないのはもったいないですし,それらを投入したほうが成功率は高いですよね。まずはそれらのIPを投入して経験を積み,「カプコンのソーシャルゲーム」の認知度を高めるのが目標です。
それと並行して,新しいオリジナルIPを作り出すことにも,もちろん挑戦していきます。事業の立ち上げ時期にいきなり投入するとハードルが高くなりますが,オリジナルIPを生み出すというのは,これまでカプコンが家庭用ゲーム機でずっとやってきたことです。
他社でもオリジナルIPのソーシャルゲームでヒットを飛ばしているところがありますから,カプコンがやってやれないわけはないだろうと。
4Gamer:
ここ数年で,ほかのゲームメーカーも,自社IPを使ったソーシャルゲームを積極的に投入するようになりました。そういった市場動向をどのように捉えていますか?
杉浦氏:
参入したばかりの人間が言うのもおこがましいのですが,私は常に「歴史は繰り返す」「愚者は経験に学び,賢者は歴史に学ぶ」という言葉を意識しています。
もともとのソーシャルゲームはフィーチャーフォン向けでしたから,機能もグラフィックスも,シンプルにせざるを得ませんでした。家庭用ゲーム機にたとえるなら,ファミコン登場前後の黎明期といったところでしょうか。
ここ数年のハードの進化,とくに高機能スマートフォンの登場に伴って,ソーシャルゲームにおいても,グラフィックスは向上し,ボリュームは増え,オンラインで遊ぶことも普通にできるようになりました。
開発側から見ても遊ぶ側から見ても,「やれること」は格段に増えていますし,ソーシャルゲームもあと3年後,5年後には大きく進化しているでしょう。
4Gamer:
ソーシャルゲーム業界の経験がなくとも,これまでのゲーム業界の歴史に学べば,成功できる可能性は十分にあるというところでしょうか。
ソーシャルゲーム事業では後発となるカプコンとしては,どのような戦略を考えているのでしょうか。
杉浦氏:
やはり将来を見据えると,フィーチャーフォンの市場が今後縮小していく傾向にあることは容易に予想できます。ですから,スマートフォン向けのタイトルをどのように作っていくのか,というところに労力を割いていきます。
4Gamer:
フィーチャーフォン向けのソーシャルゲームはやらないということですか?
やらないのではなく,フィーチャーフォンとスマートフォン両対応のような形で,押さえるべき部分だけ押さえる,というスタンスですね。
フィーチャーフォン向けのソーシャルゲームは,マネタイズの部分まで含めて成功の方程式がある程度定まっていますから,その枠内でビジネスをやっていけば,極端に外すことなく,そこそこの成功は収められます。
4Gamer:
スマートフォン向けのソーシャルゲームでは,どのような戦略を考えているんですか?
杉浦氏:
スマートフォンでは,「これをやっていれば,まず失敗しない」というフィーチャーフォンのような手法はまだ確立されていません。強いて言えば,巨額の宣伝費を投じてユーザーさんに強烈に印象付けるといった方法が挙げられますが,それができる企業は,ごく一部に限られます。
正直な話,カプコンはフィーチャーフォン市場では出遅れましたが,他社も苦労しているところなので,そうした手法の確立が大きな分岐点になるはずです。
4Gamer:
カプコンがその手法をいち早く確立できれば,十分戦えると。
杉浦氏:
ただ,スマートフォンでは,ハードウェアの性能的にもビジネス的にも,「やれること」が多岐に及びます。その分,さまざまな手法が考えられますから,それに合わせたバリエーションを当然用意しなければなりません。
うまくいくタイトルも失敗するタイトルもあるとは思いますが,2012年秋までには,いくつかバリエーションを持たせた形でリリースできればと考えています。
4Gamer:
ソーシャルゲームの開発費は,かつては1000万円から3000万円,最近だと5000万から1億円くらいが相場だと言われていますが,カプコンでは1タイトルあたりの予算規模をどの程度で考えているんですか?
杉浦氏:
正直なところ,ソーシャル事業は立ち上げたばかりで,トライ&エラーを通じていろいろなことを吸収しながらやっているところです。いきなり巨額の予算を投じるというのは少し違うとは思いますが,ゲームの内容によっても大きく変わってくるので,予算規模についてはなんともいえないですね。
4Gamer:
そんなに変わるものなんですか?
杉浦氏:
最近の分かりやすい事例で言うと,今はカードゲームが大きなブームになっていることもあって,イラストレーターさんへの仕事の相場がとても上がっています。
たとえば,カードゲームタイプのソーシャルゲームを作ろうと思ったら,カードの絵柄は,少なくとも数百枚という規模で必要ですよね。仮に,イラストレーターさんにお願いするイラスト1枚当たりのギャランティが1万円高くなれば,それだけでも予算は相当変わってきますから。
4Gamer:
カードゲームでいえば,2月21日からサービスが始まる「みんなと モンハン カードマスター」は,gloopsとの共同開発なんですね。
Mobageでソーシャルゲームを展開するという話をDeNAさんとさせていただいたときに,「モンスターハンター」のカードゲームを作るならgloopsさんと一緒にやりたいなと,私が言ったことから始まったんです。
4Gamer:
gloopsがいいと指名したのはなぜですか?
杉浦氏:
やはり,Mobageのカードゲームといえばgloopsさんといえるほど,多くのオリジナルタイトルでヒット作品を出していることが大きいですね。
私は,ものごとの勝敗の9割は戦略で決まると考えているので,gloopsさんに協力していただけたという時点で,成功するのはほぼ確実だと考えています。あとはどれだけ大きく成功できるかですが,そこはDeNAさんとgloopsさん,そしてカプコンで話し合いながら進めています。
4Gamer:
確かに,ソーシャルゲームのノウハウと実績を持っているのは大きいですね。
杉浦氏:
そうですね。gloopsさんは,オリジナルタイトルで成功していますから,本来は,ライセンスが絡むカプコンとの仕事を引き受ける必要なんてないはずなんです。それでも引き受けていただけたのは,非常にありがたかったですね。
数年後の家庭用ゲームとの連携を見据えたソーシャルゲーム市場参入
4Gamer:
ソーシャルゲームを遊ぶ人は,いわゆるライトユーザー層が中心で,通勤・通学や休憩といった,短い時間にプレイしているという印象があります。一方で,先ほどお話いただいたように,スマートフォンでは,「やれること」が増えていますよね。
カプコンとしては,既存のライト層と,今後増える可能性があるコア層の,どちらの方向を目指していくんですか?
杉浦氏:
私が重要だと考えているのは,「短時間でもゲームを遊んだ感覚を味わえる」ということです。
4Gamer:
ということは,ライトユーザー層を狙っていくと?
大きく分ければそうなりますが,その中でも二つの方向性があります。
一つは,ゲームで遊びたいけどゲームが難しくてプレイできない,あまりプレイする時間が取れない,というような方々に,短時間で手軽に「ゲームをやった感」を提供することです。たとえば,スマートフォンのアプリに期待されているものなどが,それに該当すると思います。
あくまで,私個人としての経験を踏まえた見解ですが,私自身もアクションゲームで遊ぶのは大好きですけど,歳を取ってくると肉体的についていけないときがあって………すごく悲しいんですよね。
また,社会人だと平日は仕事がありますし,子供がいれば土日は家族サービスもしなければいけないなど,どうしてもゲームを遊ぶ時間が取れなくなってきます。ただそれでも,何かしらゲームと接点を持っていたいという人達は確実に存在しています。
もう一つは,これまでゲームに触れたことがなかった人達に,時間を過ごす方法の一つとして,面白さを提供することです。言い替えると,有意義に楽しい感情を共有できる場を提供するというような感じでしょうか。
4Gamer:
ということは,既存のゲーマー層を呼びこもうとは考えていないんですか?
杉浦氏:
そうですね。据置型/携帯型といった家庭用ゲーム機を持っていて,ゲームをプレイする時間を十分に取れる方に,ソーシャルゲームを遊んでいただくことは,あまり考えていません。
そういった方々には,カプコンから今後リリースされる家庭用ゲーム機やオンラインゲームのタイトルを,どんどんプレイしていただきたいです。
4Gamer:
カプコンとしては,住み分けができればいいと。
杉浦氏:
今は何かの事情で家庭用ゲーム機で遊べない方々も,数年後に再び遊んでいただけるようになるかもしれません。そのようなとき,またカプコンの家庭用ゲーム機のタイトルを手に取っていただけるように,接点を維持し続けるという意味合いもあります。
3年も5年も離れてまったく接点がなくなってしまうと,もう一度ゲームをやろうという気力は,なかなか湧かないんですよね。
4Gamer:
確かに。
また,ソーシャルゲーム以前はまったくゲームに触らなかったような人は,最初はワンボタン操作や短い文章のようなシンプルなもので満足できても,2年3年と続けていけば,次第に物足りなくなるでしょう。その頃には,ゲームに対して相当のニーズを抱いているはずです。
そのように,ゲームに対する欲求が強くなった方には,「カプコンはこういうゲームも用意しています」と,家庭用ゲーム機やオンラインゲームのタイトルを提供することもできるわけです。
4Gamer:
家庭用ゲームのIPを利用したソーシャルゲームが起点なら,なおさら誘導がしやすいわけですね。
杉浦氏:
ええ。つまり,ソーシャルゲームと家庭用ゲームとの接点がどんどん増えていくわけですし,何かしらの新しいジャンルが生まれるかもしれません。そうなったとき,カプコンが持っているIP,人材,ノウハウといった財産が,大きな意味を持ってきます。
カプコンのソーシャルゲーム事業に関して言えば,短期的に売上や収益を上げることが目的なのではなく,3年後,5年後を見据えて,カプコンにいい影響をもたらすと考えたからです。
ゲーマーの求める“ゲーム”と,ソーシャルゲームに求められる“面白さ”は違う
4Gamer:
少し話が逸れるかもしれませんが,杉浦さんは,ソーシャルゲームの面白さはどこにあると考えていますか?
私自身がゲーマーなので,それは難しい質問ですね。
今,ソーシャルゲームを遊んでいる人の主軸は,いわゆるゲーマーではない方々が多いと捉えています。その人達が,どういう心理でソーシャルゲームを遊んでいるのかは,ゲーマーである私には,推測するしかありません。ただ,カードを育てるような要素は,既存の育成シミュレーションゲームなどに通じるところがあるので,楽しいと思える部分は確実にあるとは思います。
ゲーマーの視点でソーシャルゲームを語ると,ネガティブとも取られかねない話になってしまいますが,ゲーマーは自身のニーズにフックとなるものがない限り,ソーシャルゲームを遊ばないだろうとも思っています。
4Gamer:
素人目線だと,ゲーマーも満足できるソーシャルゲームを作ればいいのでは? と考えてしまうのですが。
杉浦氏:
言葉にして表現するのは難しいのですが,多くの人,先に申し上げた主軸層がソーシャルゲームに求めているものは,ゲーマーが考えるゲームとは違うものだと考えています。ですから,それができるようになるには,あと数年はかかるでしょうね。
4Gamer:
数年ですか?
杉浦氏:
例えば,「MHF」で有料のアイテム販売を始めたとき,非常に多くのお客様からのお叱りの声をいただきました。しかし,それでもアイテム販売を継続し,数年経った今は,状況が変わってきています。アンケート結果や体感レベルの話ですが,導入当初は9割以上が否定的でしたが,今では5割以上が肯定的といったところでしょうか。
4Gamer:
否定派が減って肯定派が増えたというか,ユーザーの意識が変わってきたと。
杉浦氏:
今,家庭用ゲームが好きなゲーマーの中には「ソーシャルゲームが気に食わない」とおっしゃる方も多いかもしれません。
ただ,お客様が実際に体験してみないと分からないことや,時代の流れとともに変わること,あるいは時が経つことで解決することなどが存在しますから,1〜2年後には状況が変わっている可能性もあります。
そう考えると,今はあまり悩みすぎないで進めていくほうがいいのかなと思いますね。
4Gamer:
では,どのようなことをすれば,ゲーマーでない人達に受けるものをゲーマーが作れると思いますか?
杉浦氏:
私個人は,根本の部分でどうやってもゲーマー視点から抜け出せませんから,多くの方々の意見や要望を,真摯に受け止めようとしています。そのアプローチが間違っていなければ,そこまで外れたことにはならないと考えているからです。
また,フックになるものがあればユーザーの皆さんにゲームを遊んでもらえるというわけではなく,プラスして企業努力が必要になります。
4Gamer:
企業努力としては,具体的にはどのようなものを考えていますか?
杉浦氏:
ソーシャルゲームもオンラインゲーム同様,B to Cのビジネスモデルです。サービス業的な側面もありますから,少なからずお客様の要望に応える必要があります。ソーシャルゲームも,さまざまなニーズに今後は応えなければならなくなるでしょう。
例えばPvP,フレンドとの協力プレイ,コレクション要素や育成要素,ギルド,ゲーム内ランキングのトップなど,「ゲームに求めるもの」は本当に人それぞれです。今,ソーシャルゲームを遊んでいるのは,そのタイトルの中に自分が求める引っ掛かりがある人達なんですよね。
人気IP,質の高いサービス,優れた開発力という強みを生かし市場全体の底上げを図る
4Gamer:
杉浦さんは,「MHF」のオフラインイベントなどで,オンラインゲームでは,できる限り長く運営を続けることが最優先の課題だと常々おっしゃっていますが,ソーシャルゲームでもそのポリシーは変わらないのでしょうか。
そうですね。やはりソーシャルゲームもオンラインゲーム同様に,サービスがストップしてしまえば,お客様の手元には何も残りませんから,「MHF」同様,長く続けていくというポリシーのもとに進めています。
ただ,企業である限り仕方のないことですが,赤字になって収益が見込めないタイトルであれば,事業判断でサービスを閉じる可能性もあるでしょう。
先にお話ししたように,今のところ7〜8タイトルを並行して進めていく予定ですが,現在展開しているタイトルは,外部に開発・運営を委託するケースが多いです。もちろん,カプコン側の意向を汲んでもらったうえで協力して展開をしていきますが,最終的には運営する会社に判断が委ねられるでしょうから,難しいところではありますね。
今後は,カプコンが自社で運営するタイトルも増えていきますので,そうしたタイトルでは,これまで培ってきたカプコンの運営思想が強く反映されていくと思います。
4Gamer:
結果を残してきている「MHF」並みのサポートが実現できたら,運営に期待ができそうですね。
杉浦氏:
まさに,そこがチャンスなんです。
家庭用ゲームもオンラインゲームもそうですが,ソーシャルゲームには数え切れないほどのタイトルがあって,どれで遊べばいいのか分からないという人もたくさんいると思います。
その中でカプコンには,有名なIPと高いサービスを提供するノウハウ,そして優れたゲームを提供する開発力があります。
有名なIPがあれば,どこかで「名前を聞いたことがある」と関心を持ってもらえるかもしれません。サービスに関しては,ホテルでも何でもそうですが,同じ値段なら,サービスがいいほうを選びますよね。そして,いずれお客様が面白いゲームを求めるようになったとき,カプコンはそれに応える開発力を持っています。
現時点では,サービス面でまだまだ至らないところもありますが,そうなったときに最も有利な立場にいられるよう,今のうちにしっかりと改善を進めていきます。
4Gamer:
カプコンの強みといえば,アクションゲームについてはどうでしょうか? 現在のソーシャルゲームでは,カードゲームのような静的なものが多いのですが,今後,アクションゲームのような動的なものが増えていく可能性もありますよね。
これは,あくまでも個人としての見解ですが,いくつかの理由から,今のところソーシャルゲームにアクションは難しいと思っています。
今おっしゃられたように,現在は,カードバトルタイプのソーシャルゲームが人気です。ただ,多くの人はミッションをやり込んだり,キャラクターを育てたりといった要素を楽しんでいて,カードバトルのPvPをやっている人はそれほどいないんです。
したがって,PvPが大きなウリになるであろう,アクションのソーシャルゲームは流行らないと睨んでいます。
4Gamer:
日本人らしいといえば日本人らしい傾向ですね。
杉浦氏:
もう一つは通信です。一般的に,アクションゲームは,常に同期を取っていなければ,世間から求められるレベルのものは成立しません。それなりの通信環境が要求されますから,いつでもどこでも気軽に対戦というわけにはいかなくなります。そうなると,ソーシャルゲームとしては成立しなくなりますよね。
たとえば,端末側にデータを保存するという解決策もできなくはないですが,そうするとチートの問題が出てきます。対戦でチートができてしまったらゲームとして成立しませんから,やはりデータはサーバーで管理するしかありません。さまざまな事情を考慮すると,現状の3G回線では難しい,というのが私の見解です。
4Gamer:
公衆無線LANなどのインフラがもう少し整わないと,実現は難しそうですね。
杉浦氏:
あとは,ソーシャルゲームがもともと多くの人と一緒に遊ぶ目的で作られたことを考えると,アクションという要素で,遊べる人を絞ってしまうのもどうかと思うところがあります。
実は,そこを乗り越える代替案を考えてはいるんですが,まだアイデア段階で,実現するには,もうちょっと時間がかかりそうなんですよ。
4Gamer:
それはどんなものになるのか,見てみたいですね。期待しています。
目指すのは“同じ価値観を持つ人”同士をマッチングさせるゲーム/運営体制
4Gamer:
ソーシャルゲームは,海外と国内でヒット作の傾向が異なりますが,そこをどう考えていますか?
杉浦氏:
当然,カプコンとしては海外展開も考えています。海外を専門に担当するチームもいますし,海外の企業から,一緒に開発をしようというオファーもいくつかいただいたりしています。
ちなみに,ランダムでアイテムを入手する“ガチャシステム”は日本では浸透していますが,海外では基本的に通用しません。ただ,トレーディングカードにあるようなブースターパック形式なら受け入れられるので,私自身としては,海外ではガチャではなく,ブースターパック方式での展開を考えています。
4Gamer:
では,少し話を広げて,アプリやブラウザベースのゲームなどを含めて,ゲームプラットフォームとしてのスマートフォンは,今後どうなっていくと考えていますか?
杉浦氏:
まさに悩ましいところです。Androidは自由度の高さゆえに,現状はマーケットが分散していますよね。ゲームプラットフォームとしては,戦国時代状態なのではないかと思います。
4Gamer:
杉浦さんは,長らくオンラインゲームの運営・開発を取りまとめる立場にいますが,どのようなことを心がけているんですか?
良質なサービスを提供するには,まず組織作りをきちんとやったうえで,それを維持することが重要です。
人的リソースが限られた中で破綻が起きないよう,分業制にして一人当たりの負担を軽くしたり,スタッフが業務に対するモチベーションを持ち続けられるよう,残業していたら声を掛けてねぎらったりと,スタッフのモチベーションを維持できるような配慮をしています。でも,いつも遅くまで頑張らせちゃっているんですけどね(苦笑)。
4Gamer:
モチベーションでいえば,オンラインゲームの開発・運営は,何年も似たような業務が続きますが,スタッフが飽きてしまうようなことはありませんか? 韓国の話ですが,2005年から2006年頃にかけて,そうした問題がクローズアップされたこともありました。
杉浦氏:
私達の場合は,2010年以前は「MHF」しか扱っていませんでしたが,2011年からは複数のタイトルを手がけることになりました。
「MHF」だけだった時期でさえ,ハンゲームさんとのチャネリングやXbox 360でのサービス開始など,何かしらの技術的な試練が毎年のようにありました。2012年は,それ以上に大変な年になりますから,飽きたと言っている暇はないでしょうね。
私自身,アップデートやイベント,キャンペーンなどは,前とまったく同じことを繰り返すなと言っています。8割は同じでもいい,しかし残り2割は新要素を入れたり,調整したりしようということですね。そうなると,サーバーやシステムのエンジニア込みでプロジェクトを進めなければならなくなることもあります。
それぞれに課題やハードルがあり,さらに一部のスタッフはタイトルを兼任しています。サーバー構成一つとっても,新しいタイトルではあえて既存タイトルと違う構成にして,どちらのパフォーマンスがいいかを比較するといった,チャレンジする姿勢も根付いています。
また,ソーシャルゲームを手がけるようになってからは,外部のデベロッパとやり取りするようにもなりましたから,そこでも刺激を受けています。もう毎日が文化祭状態です(笑)。
4Gamer:
カプコンが,ソーシャル事業を通じて目指すものは何でしょう?
従来の家庭用ゲームと比較すると,オンラインゲームやソーシャルゲームはお客様同士の接点が多くなります。ゲームを提供する側が悪いやり方を選んでしまうと,必ずお客様同士のトラブルが発生しますから,そこをどうやっていい方向に持っていくか,ということは常々考えています。
トラブルが起きるのは,お客様の持っている価値観が異なるからです。DLCを買う/買わない,1日数時間遊べる/遊べないといったように,価値観の異なる人達を一つのゲームにまとめて,「コミュニティを作ろう!」「○○ファンは楽しもう!」なんていうのは,まったくの見当違いなんです。
私達がやらなければならないのは,同じ価値観の人達を引き合わせることです。そこまでやって初めて,オンラインゲーム/ソーシャルゲームの運営なんです。
しかし今,カプコンも含めて,それを満足に実現できているところはないと言ってもいいのではないでしょうか。この課題を何とか,いい形で実現できるようにしたいとはいつも考えていますし,少しずつですが,実際にいろいろ取り組んでいます。
私自身,かつて一緒にオンラインゲームを遊んだ人達の中には,今でも付き合いのある友達がいます。そういった,価値観の同じ人を引き合わせて,長く繋がりを持たせるようなところまできちんと考えた設計思想を持つゲームを,いつか手がけてみたいですね。
4Gamer:
最後に,4Gamer読者に向けて,カプコンのソーシャル事業に期待して欲しいことなどをお願いします。
杉浦氏:
カプコンの自社開発運営タイトルに関しては,ソーシャルゲーム開発運営全体のレベルを引き上げるくらいのサービスを提供していくつもりの意気込みで挑みます。
MHFでは,他社に先駆けて,運営レポートや動画配信,きちんとした補償などを実践してきた自負がありますので,ソーシャル事業でも,いろいろなサービスやお客様とのコミュニケーションを確立していきます。まずは「カプコンなら安心だよね」と言われる体制作りを目指します。
また,もともとカプコンは骨のあるゲームを作ってきた企業です。ソーシャルゲームでも,小さなところから研究を重ねて,最終的にはゲーマーから見ても続けていきたくなるようなものを作っていきますので,ぜひ,叱咤激励をお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
大手の国内ゲームメーカーが次々にソーシャルゲーム市場に参入するなかで,4Gamerでも,関連するインタビュー記事の掲載が増えているわけだが,各社ともに共通しているのは,いずれも数年後のビジョンを持って動いているという点だ。
ソーシャルゲーム市場が一定の規模感を持つに至って,大手ゲーム会社が本格的な展開を見せ始め,さらに激しい競争が行われていくことが予想されるわけだが,カプコンが目先の利益ではなく,その先に来るであろう市場およびゲーム自体の変化を見据えて新規事業に取り組んでいることは,今回の杉浦氏の発言からも読み取れたのではないだろうか。
これは杉浦氏も言っていたことではあるが,カプコンは,数々の人気IPと高い開発力を備え,さらにMHFという国内トップクラスのオンラインゲームの開発・運営チームを抱える,国内でも稀有なゲームメーカーである。
その総合力を駆使して,いわば“後の先”の戦略を実施するというのが,カプコンが企図するソーシャルゲーム戦略なのだろう。それがどのように結実していくのか。今後リリースされていくという,各タイトルの展開に期待したいところだ。
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