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「マブラヴ」とVRが融合を果たした“始まりの日”。吉宗鋼紀氏のトークセッションも実施された「Muv-Luv × HTC Vive 体験会」レポート
「マブラヴ オルタネイティヴ」の世界観を,仮想現実対応ヘッドマウントディスプレイ(以下,VRHMD)「Vive」で体験できるというこのイベント。そのほかにも,「Steam Controller」によるゲーム試遊コーナーやゲストを招いてのトークセッションもあり,入場無料のイベントながら,内容はかなり盛りだくさん。それもあってか当日は早朝から行列ができるほどの盛況ぶりで,VRデモの整理券は早々に全滅し,入場制限まで行われるほどとなった。
本稿では,筆者が実際に「マブラヴVR」を体験してみて感想に加え,「マブラヴ」の原作者である吉宗鋼紀氏と,フリーライターのBRZRK氏によるスペシャルトークセッションをレポートする。いずれも「マブラヴ」ファンには興味深い内容になっていたので,ファンはぜひ最後まで読んでほしい。
東京 | |
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ドスパラ秋葉原本店 | 4月9日(土)〜5月8日(日) |
秋葉原GALLERIA Lounge | 4月9日(土)〜4月10日(日) |
4月29日(金)〜5月8日(日) | |
名古屋 | |
ドスパラ大須店 | 4月16日(土)〜4月20日(水) |
大阪 | |
ドスパラなんば店 | 4月23日(土)〜4月26日(火) |
「マブラヴ オルタネイティヴ」公式サイト
「ベルサールは地獄だ」と,誰かが言った
それではさっそく,読者がもっとも気になっているだろう,VRデモのレポートからお届けしていこう。なお,お恥ずかしい話ではあるが,単なるいち「マブラヴ」ファンである筆者には,VRHMDの技術的な面はさっぱり分からない。なので,今回のレポートはそうしたファン目線のものであることをお断りしておく。「Vive」の技術面について深く知りたい人は先に掲載しているこちらの記事をチェックしてほしい。
さて,事前情報では「大量の地球外生命体『BETA』と,戦術歩行戦闘機(戦術機)『Tactical Surface Fighter(TSF)』の戦いをリアルに描いた内容」になると発表されていた「マブラヴVR」。
「キービジュアルに『XG-70d 凄乃皇・四型』の姿があるし,オリジナルハイヴに挑む衛士になれるのかなぁ〜。イスミ・ヴァルキリーズみたいに戦えるかなぁ〜」などとワクワクしつつ会場に到着した筆者だったが,蓋を開けてみればプレイヤーはまさかの名も無き歩兵。暗く,ガラクタが散らばる小部屋で唯一光を放つ端末には「生存者は塹壕に向かえ」との指令が映しだされている。オマケに,装備はアサルトライフル(※竹槍のようなマズルの形状から,ソビエト連邦のAKMであると思われる)のみだ。
ここからすでに嫌な予感はしていたが,指示に従って鉄扉を開け,外に出てみれば,そこはどこの国とも知れない雪深き戦場。周囲には友軍どころか,動くものは一つもない。原作ファンなら理解してもらえると思うが,戦術機でも「死の8分」を乗り越えられるか怪しいのに,ただ一人生身でBETAの闊歩する戦場を歩くなど狂気の沙汰。まさしく「地獄ここに極まれり」といったシチュエーションである。
仮想現実ならではのリアルな孤独感,不安感に苛まれて思わず「オォゥ……」という力のない声が出てしまったが,気を取り直し,操作方法をあらためて確認する。左のコントローラを進行方向の矢印に合わせれば次のフィールドに移動,右のコントローラで発砲という極めてシンプルな操作系だったので,移動自体は戸惑いなく行える。
覚悟を決め,雪原を先に進むと……いきなり恐怖感を煽る足音と共に歩兵の天敵とも言える“戦車級”BETAが出現。こちらに向かって突進してきた。生理的嫌悪感を煽る醜悪な姿,こちらを喰らう気満々の大口。想像以上の威圧感で取り乱しそうになりつつも,必死のフルオート射撃でこれを撃破。コントローラとの連動が非常にスムーズなのは特筆すべき点であり,直感的なエイムで,ちゃんと狙った場所に弾が飛んでいくのには驚いた。
BETAをこの手で撃破した喜びも束の間,その後も移動するたびに四方八方から戦車級が襲い掛かってくるので,気の休まるヒマがない。1匹の戦車級を迎え撃ち,背後の足音に反応して振り向いてみると目と鼻の先に別の戦車級が迫っているという恐怖演出に何度か漏らしかけた。これが現実であれば,2,3回は喰われていたはずだ。
途中,遠方を巨大な“要塞級”がゆっくりと移動しているのを発見した時はさすがに絶望しかけたが,原作どおり対人探知能力は低いようでこちらに気付かず。やり過ごすことができた。しかし,まさかあの圧倒的な威容を現実で体験できる日が来ようとは……VR恐るべしである。
追ってくる戦車級をなんとか振り切り,目的地である塹壕に到着。激しい吹雪で視界がまったくない中,本当にやってくるかどうかも分からない救援を待つ。やがて吹雪が止み……視界が開けると,大地を割らんばかりの轟音と共に前方から戦車級の大群が迫ってきた。
「さすがにこれはもうダメだ」と死を覚悟し,せめて最期の瞬間まで1匹でも多くのBETAを殺そうと引き金を引いたが……ここでまさかのジャム(弾詰まり)が発生。「そんなのアリかよ!?」と叫びたくなるのを堪えつつ,排莢口にガッチリ詰まっている薬莢をどうにか外せないものかと左手で叩いたり銃を振ったりしていると,眼前の地中からいきなり戦車級が出現。唯一の武器を失い,自決すらできず,あとは喰われるしかないという状況で無意識に後ずさりしてしまう。「シュヴァルツェスマーケン」で散っていった歩兵達の気持ちが嫌というほど理解できた瞬間だ。
戦車級が大きく腕と口を広げ,「もはやこれまで」と思った瞬間。ジェットエンジンの音が響いたかと思うと眼前で戦車級が爆散し,血煙と化した。何が起きたか理解できず,塹壕に伏せて戸惑っていると,左前方の木々を薙ぎ倒しながら新たな戦車級と要塞級の群れが来襲。
「いっそ一思いに殺せ!」という気持ちでその絶望的な光景を眺めていると,再びジェットエンジンの音と共に2機の戦術機が出現。あっという間にBETA群を殲滅し,大地に降り立つ。特徴的な紅白のデモンストレーターカラーのXFJ-01aと,ダークパープルグレーのXFJ-01b。両機とも,「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス」に登場した「不知火・弐型」だ。とくに,XFJ-01aはすぐそばに立っていたため,そのリアルなスケール感に思わず息を呑んでしまった。巨大ロボットを見上げるこの感動,お台場のガンダム以来である。とても仮想現実とは思えない。大げさな表現ではなく,確かに「そこにいる」のだ。
……こうして,救援に駆けつけてくれたユウヤ・ブリッジス少尉とタリサ・マナンダル少尉に命を救われたところで,デモは終了。思った以上に没入していたようで,筆者はVRHMDを取り外してもしばらくボーッとしていたくらいだ。
取材用に撮影した写真や動画をあらためてみると,グラフィックスのレベルは一昔前のゲームかと思うくらいの粗さだったのだと気付かされるが,これをVRHMDで体験すると,まったく印象が異なるのだから不思議なもの。
これは「Vive」に限らず,VRHMDを扱った記事全般に言えることなのだが,「実際に体験してみないとスゴさが分からない」のが実に口惜しい。本稿を読んで少しでも興味がわいた人は,ぜひドスパラの体験会に足を運んでもらえたら幸いだ。一人でも多くの人とこの感動を共有したい。心からそう思える,エポックメイキングな体験だった。
吉宗鋼紀氏が語る,「マブラヴ」とVRの未来
冒頭でもお伝えしたように,ここからはマブラヴの原作者・吉宗鋼紀氏と,“ファンボーイ代表”のフリーライター・BRZRK氏によるスペシャルトークセッションの模様をお伝えしていこう。
会場に集結した衛士達,もとい熱烈な「マブラヴ」ファン達の拍手を受け登場した吉宗氏とBRZRK氏。リリース当時から本作の大ファンだというBRZRK氏は,ファンクラブの会員証をステージ上で掲げ,今回は「ファンボーイとして」この場に来たことを強調。吉宗氏は「日本人にはバーチャルボーイというトラウマがあるので(笑)」などと,ゲーマージョークで会場を沸かせつつ,和やかな雰囲気でトークセッションはスタートした。
壇上では吉宗氏とBRZRK氏に加え,今回のイベントでMCを務めたアナウンサーの大河原あゆみさんも交えてトークが展開された。大河原さんは今回のイベントで初めて「マブラヴ」の世界に触れたとのことで,VRデモではBETAの恐ろしさを嫌というほど味わった様子。これに対して吉宗氏は,実にいい笑顔で「作品全体で新規ファンを大事にしていきたい」とコメントしていた。また古参のファンであるBRZRK氏だが,出演のオファーがあった段階では「マブラヴ」のVRイベントだと知らされておらず,後日公開された情報を見て驚愕したという。「(嬉しすぎて)死ぬかと思いました」と,吉宗氏に喜びを伝えていたのが印象的だ。
ここで話題はスクリーンに移り,アージュ(ixtl)の名物広報こと“りえねぇ”が,会場内で試遊できるVRデモを体験してみるというコーナーへ。スクリーンにはそのプレイの様子が中継で映し出され,そこに吉宗氏自らが解説や補足を加えていった。
VRの映像について吉宗氏は「平面で見ると映像は一世代前のクオリティかもしれませんが,これがVRゴーグルを着けるとまったく違うんです!」と力説。また,「今回のVRデモはテストプレイの時点よりも表現をマイルドにした」とのことで,当初はもっと過激な――それこそBETAに喰われる瞬間まで描いた内容だったそうだ。
吉宗氏は,今のVR業界は規制がまったくない状態であるといい,自分達で基準を探りながら制作していかなければならないと,VRコンテンツ制作の難しさについて語った。現時点では問題にされない表現でも,今後はダメになる可能性があるとのことだ。
一方で,VRの魅力は存在感だといい,「最初にデモで戦車級を見たときに,BETAという架空の生き物ではなくトラやライオンといった猛獣が柵無しで目の前にいるようなゾッとする感覚がありました。やはり,VRの“スゴさ”はそこにある」「『想像しやすい恐怖』がVRとの最大のマッチングポイントであり,お化け屋敷のような体験の方が精神に響くだろうと考えた」とも語っていた。
BRZRK氏は,今回のVRデモを体験したとき,戦車級のBETAが迫ってきたときに喰われるところまで想像してしまい走馬燈がよぎるほどだったそうで,「友達に『マブラヴ』を勧められてから,『マブラヴオルタ』をクリアするまで」の一部始終を見といい,会場の笑いを誘っていた。
続いて話は,先日最終回を迎えたテレビアニメ「シュヴァルツェスマーケン」の話題に。第1話冒頭で雪原を侵攻するBETA群を塹壕で待ち構えるシーンを観た吉宗氏は「これをVRで体験したい」と思い立ち,今回のデモに反映したという。それをアニメの演出担当である大河広行氏に体験させたところ,「これをアニメ制作前に見ていたら,演出がガラッと変わっていた」と言われたという。
前述したように,歩兵としてアサルトライフルでBETAと戦うというシュヴァルツェスマーケンのワンシーンを彷彿とさせる今回のデモだが,吉宗氏によれば「本来であればアサルトライフルで戦車級を撃破するのは難しいが,ただ喰われるだけでは寝付きが悪くなるだろうと。なので,現場のアイデアで弱点の感覚器官を撃てば倒せるようにアレンジしました」とのこと。
また,今回のマブラヴVRの制作では,同人で「マブラヴオルタネイティブ」のFPSを作っていた人物に関わってもらったそうだが,「当初は徒歩でフィールドを移動できたが,酔いやすい人に配慮してワープするようにした」「初期のバージョンではアサルトライフルのマガジンを自ら交換しなくてはならなかったが,1回のプレイに時間がかかりすぎるので弾切れなしにした」など,いろいろと試行錯誤しながらの制作だったとのことである。
さらに話は,VRコンテンツ全体の話に。VRHMDで体験したいことを聞かれたBRZRK氏は,「佐渡ヶ島ハイヴの攻略を伊隅大尉の視点で」「戦術機のコクピットで悠陽殿下を膝に乗せたい」「屋上で彩峰に会いたい」など,原作ファンならではのアイディアを披露。同じく彩峰スキーの筆者を含め,会場からは賛同の声が多数あがる。
それを受け,吉宗氏も戦術機のコックピット視点は実現したいと言い,「戦術機の網膜投影は,まさにVRHMDのような見え方をします。レバーをふたつ握っているのもコントローラで再現できますし,リアリティが損なわれない」と相性の良さを語っていた。
2時間にも及んだトークセッションもいよいよ大詰めとなり,最後はファンからの質問コーナーへ。会場の誰しもが期待するVR対応「マブラヴ」について聞かれると,吉宗氏は「それは皆さんの“コレ”次第ですよ(笑)」と,人差し指と親指で輪っかを作って回答。筆者もファンの一人として,すぐにとは言わずとも,VRゲームが成熟してきた頃には実現してほしいものだ。2アージュ,いや,3アージュくらいは待ちますんで!(※1アージュ=3年)
来るべきVR時代への夢と希望,そして「マブラヴ」愛を全身で感じることのできた今回のイベント。吉宗氏は,「ユーザーの発想は僕らを越えていく」「人間が楽しむためにVRをどう利用するか。そういう発想でどんどん意見を出していくべき」とも語っていたので,VRの面白い活用方法を思いついた人は,ぜひ吉宗氏に意見を送ってみてはいかがだろうか。
最後に,BRZRK氏と吉宗氏が最後に語ったコメントを掲載し,本稿の締めとしよう。
(BRZRK氏)僕はただのファンボーイですが,「マブラヴ」の世界はVRを通して,新たな側面が見えてくると思います。VRを手にした「マブラヴ」が,今後どうなっていくのか楽しみです。何だかんだ言って,まりもちゃんを立体で見たいですし。「あのシーン」で3日間くらい動けなくなりたいです(笑)。
(吉宗氏)今回のVRデモは,自分なりに可能な社会へのアプローチということで,「始まりの日」だと思っています。現状に風穴を開けたいという考えで,色々な人を巻き込んでここまで来ました。その姿を皆様が見て,参加・協力していただければ,世の中を僕らのコンテンツから変えていけると思います。皆で力を合わせていきましょう!
「マブラヴ オルタネイティヴ」公式サイト
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