インタビュー
これぞ“匠の仕事”。CD「スクウェア・エニックス効果音集」をプロデュースする矢島友宏氏にいろいろ聞いてみた
東京ゲームショウやスクウェア・エニックスが主催するコンサートなどでの限定販売商品であるにも関わらず,話題が話題を呼んでシリーズは継続。近く開催される東京ゲームショウ2013では,4作目の「スクウェア・エニックス効果音集 3」がリリースされることになっている。
そこで今回は,「効果音集」シリーズの企画・プロデュースを担当する,スクウェア・エニックスのサウンドディレクター 矢島友宏氏へインタビューを行った。
1990年代後期からスクウェア・エニックスの効果音制作に携わってきた矢島氏の,効果音に対するこだわりや,時代ごとの進化,そして新譜「効果音集 3」について,あれこれと聞いてきた。
いわゆるBGMとは異なり,裏方イメージの強い効果音。そこに矢島氏が込める熱い魂を感じていただければ幸いだ。
スクウェア・エニックス ミュージック公式サイト
システム音はリテイク100回もあるこだわりの音
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
このインタビューの前に,これまでにリリースされた「効果音集」を聴かせていただいたんですが……。
(食い気味に)意味分かんないですよね(笑)。
4Gamer:
えっ! いやいや,あの……聴いたことがある音が聞こえると,「あっ!」と懐かしい気持ちが蘇りましたよ。
矢島氏:
(笑)。1作目は僕も遊ぶ側だった時代のファミコンとゲームボーイ用の作品から抜粋したものですから,僕もそうですけど同世代の人には懐かしいでしょうね。そもそも音の総数が少ない時代だったので,このCDに収録されているもので,ほぼすべての効果音なんですよ。だから最初は,99トラックを埋められるのかが心配でした(笑)。
4Gamer:
全部合わせてもそこまでの数にならないんじゃないかという懸念があったんですね。
矢島氏:
ええ。2作目でスーパーファミコンの時代に入ったんですが,今度はどうやって99トラックに収めるの? となりました(笑)。
4Gamer:
確かに2作目以降は,だいぶ厳選された印象があります。
そもそも,どうしてこんなCDを作ることになったんですか?
矢島氏:
当初は配信サービスを使って効果音を売りたいという相談があったんです,でも一つ一つの効果音を売るのって面白味はないし,売れるのか? という疑問がありました(笑)。
そもそも効果音って裏方仕事ですから,裏方らしく「限定品としてワンコインで99トラック使い切ってしまうCDなら,お土産感覚で面白いんじゃないか?」という話になりました。無料配布という話も出たんですけど,それだとお土産を買ったという感覚が薄れてしまうこともあり,販売という形にしました。
4Gamer:
作れば作るほど赤字になってしまうのでは,会社としてOKを出せませんよね。
そういう意味で,イベント限定販売,しかもワンコインという商品設計はうまい落とし所だと思います。
矢島氏:
旅行先でキーホルダーやペナントなどのお土産を買うじゃないですか。その場で買う瞬間は楽しいし思い出になりますよね。家に帰ってきてから見ると熱が冷めちゃったりすることも多いですが(笑)。
そういう感じで,開けなくてもいいから旅先の記念に買っておくかという感覚で,興味を持ってもらえればと思っています。
4Gamer:
開けなくてもいいんですか?
矢島氏:
ええ。買ってくださった方のいい思い出になるよう,CDの中身には手間暇をかけてこだわっていますけど,封を開けてもらわなくてもいいんじゃないかなって。ペナントみたいに部屋に飾っておいてもらってもいいかな。なので聴かなくてもいいですよ(笑)。
4Gamer:
そうやってある程度の期間は大事に保管しておいて,いざ聞こうと思ってみたら,収録時間の短さに驚くかもしれません。
矢島氏:
実際,プレイヤーさんからも「もっと収録できるだろ」というツッコミはありましたね(笑)。
容量的には,99トラックを最大として,1トラックに複数の効果音を詰め込むことも可能なんですけど,そこは効果音屋の意地もあるんです。やはり,作った人間にとってみればカーソルを動かす「ピッ」という音でも,一つの作品ですから。
4Gamer:
それを短いからといっていくつもまとめて1トラックにはできない,と。
矢島氏:
ええ。それに,このCDはプレイヤーの皆さんとクリエイターの接点を作るという意図もありますからね。そのあたりは大事にしたくて。
4Gamer:
効果音屋は,こんなことを考えながら音を作っているんだよ,という断片的な情報ですね。
矢島氏:
そうそう! なので,毎回お約束で,1トラック目はカーソル音の「ピッ」なんですよ。しかもその音には,ものすごく手間暇が……それこそリテイク100回レベルのこだわりがあるんです。
4Gamer:
えっ,本当ですか!
矢島氏:
ゲーム開発を進めるにあたって,“基本システム音”と呼ばれる四つの音――つまりカーソル音,決定音,キャンセル音,ビープ音と呼ばれるNG行動の音の四つを,開発の初期段階で作ります。そしてそれを,サウンドテストも兼ねて,ひとまず動作しているゲームに乗せてみるんです。
システム音って,プレイヤーがそのゲームで遊んでいると,一番多く聞くことになるものなんです。だからこそ,ゲームに乗せてみないと分からないこと,気付かないことも多いわけです。
4Gamer:
例えば……?
決定とキャンセルが対になっていなかったり,カーソルとキャンセルの音が合っていなかったりなど,いろんなケースがありますね。最近のシステム音はインタフェースが細かいですから,100個以上のSEを使います。それらも同様ですから,とんでもない数のリテイクが出るんです。ゲームのグラフィックスと音のフィーリングが良くない……電子的な音なのか,幻想的な音なのかとかね。
そうやって試行錯誤を繰り返すので,作り手としては強い思い入れが生まれるんですよ。プレイヤーさんにしてみれば,FFの召喚獣に当てられた効果音のほうが印象は強いかもしれませんが,あれは絵に対して音をつけるので,イメージがしやすいんです。
4Gamer:
システム音に,そんな手間暇が掛けられているとは知りませんでした。では,サウンドの部署でないスタッフからのリテイクもあるんでしょうか?
矢島氏:
いっぱいありますよ。
「なんだか音が気持ち悪い!」みたいな抽象的なリテイクも含めて。
4Gamer:
確かに抽象的ですけど,具体的に説明するのも難しいですよね。
矢島氏:
ええ。どう直したいのかを聞くわけですけど,最終的には「欲しい音を口で言ってみて!」とかになります。そうやって,専門用語でなくていいので,彼らの伝える意思を探っていくんです。
効果音作りはそういう意思疎通ができていないと楽しくないし,いいモノにならないと思います。まあ,本当のところ音を作っている側も,よく分からない時は多いですし。
4Gamer:
何が正解かは分かっていない,と。
矢島氏:
そう,正解がないものを探しているんです。だからリテイク作業の最中は苦悩しまくります。
それに,修正依頼を先送りにしていると,開発者の耳が慣れちゃうケースもあるんですよ。その後依頼どおりに音を変えた途端に,「前のほうが良かった」みたいに言われたりするので,困っちゃうんです(笑)。
4Gamer:
ああ,では耳になじむ前に,修正依頼に応じていく必要があるわけですね。
矢島氏:
ですね。経験からすると,一週間もするとなじんでしまうから,そうなる前に新しくする必要があるんです。だから,開発初期段階だとシステム音はコロコロ変わることが多いです。
4Gamer:
そんな苦労があるんですねぇ。
矢島氏:
ええ。没にしたシステム系の音だけでも,余裕でCDを作れますよ!
まぁ,ほかのタイトルに流用する場合もあるので,まるっきり無駄になるわけではないんですけどね。
ドラクエの効果音は“秘伝のタレ”。FFは毎回が新作
4Gamer:
ところで,システム音を作るにはどれくらいの時間がかかるものなんでしょう?
時間という意味ではそれほどかかりません。半ば思いつきで「ピッ」って音を作って完成ですから,皆さんが想像するとおりの作業だと思います。
時間がかかるのは,作ってはリテイク,作ってはリテイクの繰り返しに対してですね。言われた内容に悩む時間もあるし,時には自分でダメ出しをして手直しする場合もありますし。
4Gamer:
その段階で,グラフィックスはどれぐらい出来上がっているものなんですか?
矢島氏:
まだラフな段階です。システム音はイメージの1枚絵だけを参考に作る場合もあります。まずは(ゲームに実装して)鳴らしてもらうことが大事なので,イメージだけを手がかりに1か月くらいでパパッと作ってしまいます。
4Gamer:
そこで開発側の抱いているイメージと異なるシステム音を作ってしまうと,リテイクが発生してしまう,と。
矢島氏:
そうなんですよ。仮版として作っていてもリテイクは来ます(笑)。
で,その次に作るのが,足音なんかのキャラクターの挙動に関する音ですね。基本的には,プレイヤーが操作する部分の音から作ることが多いですね。その後は環境音などを当てていって,召喚獣なんかは,メニューや世界観がほぼ固まった段階で作りこんでいきます。
4Gamer:
サウンドとひとくくりに言っても,音楽と効果音は別物だと思うのですが,チーム内ではどういった形で作業を分担しているんでしょうか。
矢島氏:
弊社の場合だと,基本的にはコンポーザーと効果音エディターのほかに,サウンドプログラマーというサウンドのシステムを専門に作っているプログラマーがいます。ゲームって,音を鳴らすのが意外と難しいですからね。
その現場を取りまとめるのが僕のようなサウンドディレクターで,さらにその上にゲーム全体のディレクターがいるという形です。
つまり,音に関しては現場から僕のところに集まってきて,それを持ってディレクターと協議するという形です。
4Gamer:
では,完全に分業制なんですか?
矢島氏:
基本は分業なんですが,たまにその垣根を超えることもありますね。
例えば,アイテムを獲得したときの音をちょっとメロディックにしたい場合はコンポーザーに頼む場合もあるし,逆に短めのファンファーレ音なんかだと曲として依頼が来ていても,効果音エディターが作る場合もあります。
それと,コンポーザーの作業はゲーム制作の中盤から後半に参加する場合が多いです。作曲はシナリオや世界観が,ある程度固まってきてからでないと手がつけられないので。
4Gamer:
ある程度の基礎工事が終わってからじゃないと,作曲の仕事はやりようがないんですね。
では,音作りに取り掛かるにあたって,スタッフ構成はどのように決めていくんでしょう?
矢島氏:
まずはサウンドディレクターがゲーム側のディレクターと方向性を決めたあと,サウンドプログラマーと,音周りをどうしようかという相談をします。人の声をいっぱい出そうとか,環境音に力を入れよう,とかの技術的なコンセプト立てですね。
それから効果音エディターが参加してきます。システム音はコンセプト立てと並行して行う場合が多いので,僕が作ってしまっていたりとかのケースもあります。
4Gamer:
サウンドディレクターという役割は,どんなお仕事を担当しているんですか。
簡単に説明すると,音のイメージを決めたり,音に関する技術的部分の設計や進捗の管理,クオリティのバランス取りが仕事です。ただこれは,あくまで僕のスタイルなんですけどね。というのも弊社のサウンドディレクターは,仕事のやり方も得意分野もそれぞれに異なるんですよ。
僕の場合は,仕様設計が得意なので,サウンドの仕組みを作る部分に力が入ります。なので,僕の担当するゲームはサウンドのシステムが複雑になりがちで,スタッフが迷惑するという(笑)。
4Gamer:
な,なるほど(笑)。
矢島さんは「ファイナルファンタジー」シリーズと「ドラゴンクエスト」シリーズの両方の効果音に関わっているそうですが,何か違いはあるものですか?
矢島氏:
ドラゴンクエストシリーズの場合は,音のコンセプトが明確だと思います。みんなが“ドラクエ”と聞いてイメージするモノから外れる音にはしません。“秘伝のタレ”みたいなもので,ハードや規模の変化によって継ぎ足される要素はあるけど,イメージが劇的に変化することはないのが特徴でしょう。
ファイナルファンタジーシリーズは,毎回が新しい世界観なので,気持ちを新たに好きなモノを作るという意識ですね。その都度,世界観に対して音をすりあわせていくような形で。
4Gamer:
ちなみに,効果音の制作にあたって何か心がけていることはありますか?
矢島氏:
あんまり深くは考えていないんですが,方向性だけはしっかり打ち出すことでしょうか。とはいえ,最後は“いい感じ”って言葉に集約されちゃうんですけどね。
自分だけが満足するより,周りの人に納得してもらえるかという,客観的な目線が大事ですよね。あとは,効果音ってそれだけが目立ったら困るので,そこは意識していますね。効果音は読んで字のごとく,あくまで“効果”ですから。ゲームになじんだ効果音は,遊んでいるときに音だけが目立っては聞こえないと思います。
けど,それを逆手にとって意図的に驚かせたりすることはありますね。この辺はクリエイターの意図が感じられるところです。
4Gamer:
そういえば,効果音が際立って聞こえるときって,何らかの違和感を覚えていることが多いですね。それを演出として意図的に組み込むこともある,と。
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(c) 2013 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA
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(C)2012-2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
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