インタビュー
PS Vitaを持つ硬派なRPGファンに捧げたい。「ヴァルハラナイツ3」プロデューサーのはしもとよしふみ氏に,“大人向け”作品の持つ魅力を語ってもらった
今回4Gamerでは,本作でプロデューサーを務めた,マーベラスAQLのはしもとよしふみ氏にインタビューを行った。前作では現場から離れていたはしもと氏が,本作でプロデューサーとして復帰した理由や,節目となる「3」というナンバリングにかける想いをお伝えしたい。
「ヴァルハラナイツ3」公式サイト
楽しんでくれるコアなゲームファンがいることを信じて
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずはこの「ヴァルハラナイツ3」が,一体どんなゲームなのか,簡単に説明していただけますでしょうか。
「ヴァルハラナイツ」はもともと,ダークな世界を描いたアクションRPGとして,2006年にPSP向けにリリースした作品です。外伝などを含め,これまでシリーズとして続けてきたんですが,今回は正統続編となる完全新作として,PS Vita向けに発売させていただくことになりました。
4Gamer:
シリーズとして初めてPS Vitaというプラットフォームでのリリースとなりますね。今回,PS Vitaを選んだ理由を教えてください。
はしもと氏:
企画段階では,すでに普及しているPSPで出すという案もあったんですが,第一作で確立した「グランドロジックバトル」という,複数のキャラクターと対峙して戦っていくシステムを,今の時代に合わせて表現するにあたって,もっとリッチなものにしたかったんですね。となると,PSPではハードウェア的にどうしても限界があるんです。
さらに言いますと,第一作を発売したのが2006年のことですから,そのときに遊んでくださった方も,年齢を重ねているわけで,一つ上のハードを選んで一緒にスタートしたいという狙いもありました。
4Gamer:
PS Vitaは2月末に値下げが行われたほか,話題作も次々と発売されて市場も活性化してきましたが,それまではちょっと厳しい時期が続いていたと思います。おそらく,本作を企画されている段階では,PS Vita向けに出そうというのは,かなりの勇気が必要だったんじゃないかと思うんですが。
はしもと氏:
確かに会社として,勇気は必要でしたね(笑)。
ただ,そこはあえて挑戦してみようという意識で臨んできました。というのも,今回のコンセプトの一つに「原点回帰」というものがあったので。
4Gamer:
原点回帰,ですか。
はしもと氏:
ええ。第一作を発売した頃のPSPも,シリーズ作品ではないオリジナル作品にとっては厳しい環境だったんですが,今回もそれと似たような状況下であることを認識したうえで作り始めたんです。
4Gamer:
そういえば,PSPにもそういった時期がありましたね。
はしもと氏:
ええ。そして当時も,我々が本気で作れば遊んでくださるお客さんがいるだろうと信じて,第一作を送り出したんです。その結果,熱を持って遊んでくださる方が,実際にたくさんいらっしゃいました。
今回もそのときのことを思い出しながら,PS Vitaをお持ちで,なおかつゲームを深く楽しみたいと思っているお客さんが必ずいると信じて,挑戦してみたんです。
4Gamer:
ゲームを深く楽しみたい……つまり,コアゲーマー向けの作品を,PS Vitaで出そうという試みなんですね。
はしもと氏:
そうなんです。実際,遊んでみるとすぐに死にますし(笑)。最近のゲームとしては,かなり難しい部類なんじゃないでしょうか。もちろん,すぐ死ぬことを美学としているゲームではありませんが,いかに死なないように進むか,あるいは死ぬことをいとわず馬力で進むかという,プレイヤーさんの性格的な面に難しさが反映される作りになっているんです。そのうえで,トライ&エラーを繰り返して攻略してほしいんです。
いわば,昔のRPGを遊んだときに感じられた,ゲームの上手下手とは関係なく楽しめる感覚に近いものがあると思います。
4Gamer:
そういえば昔のRPGには,そういう味わいがありましたよね。
セーブのタイミングを間違えてしまっただけで,取り返しのつかないことになったり(笑)。
はしもと氏:
昔はセーブデータにまで影響して,キャラクターをロストしてしまうような過酷な要素も多かったですよね。
さすがに今のゲームでそこまでやってしまうと,ゲーム自体を放り出してしまうプレイヤーさんも多いと思いますので,そのあたりの遊びやすさには配慮しています。ご安心ください。
4Gamer:
難しいながらも遊び続けられる,モチベーションを維持できるバランスに設定されていると考えてよろしいですか?
はしもと氏:
そのあたりを目指しています。
ゲームのツボを心得た人ならば,難なく進んでしまうこともあるかもしれませんが,そういう方に合わせた難しさにしてしまうと,今度はそれ以外の方にとって苦しくなりすぎてしまいますので,ある程度までは割り切った調整をしていますけど。
4Gamer:
難しいことは難しいが,今の時代なりの手加減はしているということですね。
“大人”だからこそ分かる世界を描きたい
4Gamer:
ところで,これまでに発表されてきた情報だと,7 vs. 7の戦闘や歓楽街の存在などがクローズアップされていますね。それぞれの特徴や魅力を教えてください。
はしもと氏:
自分が戦いつつ仲間にも指示を出せるというのが,ヴァルハラナイツの戦闘の面白さですので,仲間も敵もできるだけ多くして,入り乱れて戦えるような仕様にしたかったんですね。
例えば自分が強い技を使おうと思った瞬間,敵が一斉に襲いかかってきたりするんですが,本作では仲間に指示ができるので,かかってくる敵を見て,自分を守らせることもできます。このように,団体戦にしたからこそ生まれる,戦い方の幅があるんです。
こうしたシステムを組み込んでいくにあたって,PS Vitaが持つ表現力の限界までキャラクターを出した結果,7 vs. 7という数字になりました。
4Gamer:
なかなか気を抜けない戦闘になりそうですねぇ。
歓楽街については,いかがでしょうか?
はしもと氏:
こちらは,単に女の子とイチャイチャできるというネタではなく,「監獄城」という悪い奴らがいる閉鎖された空間においては,きっと夜の商売が生まれるだろうと考えた結果,出来てきたものなんです。
そこにいるやさぐれ者たちは,まやかしの癒しを求めて夜の商売にだまされつつもお金を落としているだろう,と。でも,そこで働く女の子達が儲けているかというと,必ずしもそうではなく,きっと彼女達を牛耳っている裏の人が必ずいるわけです。
つまり,閉鎖的で小さな世界ながら,そこに回っている経済があるということを表現したい……というのが,この歓楽街の出発点でした。ですからゲームをプレイしていただければ,この世界観だからこその夜の街,というのがご理解いただけると思います。
4Gamer:
歓楽街そのものが持つ淫靡できらびやかな雰囲気だけを,娯楽として提供しようというわけではない,と。
はしもと氏:
ええ。表裏一体の“何か”があるアウトローな世界を,ファンタジーに組み込んだら,こうなるんじゃないか? と考えた結果です。
「勇者のような人達がそんな場所に行くわけがない」と考える人も多いと思うんですが,世界にはさまざまな人達がいるわけですから,遊び方にも幅を持たせたかったんですよね。クリアだけを目的に突き進んでもらってもいいですし,こういったものにどっぷり浸かりたい人は毎日通ってもらってもいい,と。
4Gamer:
どれぐらい歓楽街で遊ぶかもまた,プレイヤーの性格次第といったところでしょうか。
そうそう,もう一つ,倒した敵から金品を奪う行動が,「まさぐりシステム」と名付けられていることに驚いたんですが,これはどこから着想を得たんですか?
はしもと氏:
仕組みとしてはTPSなどにもよくあるものですが,やはりダークな世界において,日本の白黒映画のような泥臭さを出したかったというのがあります。そこに似合う言葉は,やはり「まさぐる」だろうということで,システム名として使わせていただきました(笑)。
4Gamer:
言われてみると,確かに泥臭い感じはありますね。
それらを含めて,全体的に人間の罪や業といったものを正面から描こうとしているのかな? という印象を受けました。
はしもと氏:
誰がいつ裏切るか分からない世界ですからね。世界にも仲間達の中にも,嘘がはびこっていて,そこでどう生きていくかがテーマになっていますから。
4Gamer:
なぜ,そういった重いテーマを選んだんですか?
はしもと氏:
先ほども少しお話ししましたが,2006年にヴァルハラナイツを遊んでくれた方も,きっと今では酸いも甘いもかみ分けられる大人になっていると思うんですね。
そういう大人にしか分からない,大人だからこそ分かるものを作りたかった……という思いがあるんです。
4Gamer:
確かに第一作から7年も経っていますもんね。
どれだけ大人になったかは,個人差があると思いますが(笑)。
はしもと氏:
そうですね(笑)。
まあ,コーヒーやお酒なんかもそうですけど,年齢を重ねることで分かる味ってありますよね。20代のプレイヤーには「10代の頃の自分は分からなかっただろうな」という部分を,30代以上のプレイヤーの方には「20代の頃の自分には分からなかっただろうな」という部分を,ゲームの端々で感じ取ってもらいたいんです。
4Gamer:
そう伺ってみると,歓楽街に対するとらえ方も,若者と大人では違うものになりそうですね。
もちろん,「わー,女の子がたくさんいる!」というところから入っていただいて構わないんですが,大人の方にはぜひその裏側まで想像しながらプレイしていただきたいですね。
歓楽街で働くキャストの女の子達についても,仲良くなれば仲間にできるNPC程度の位置付けにしようと考えていた時期もあるんですが,せっかく大人に向けた作品なのだからと,彼女達にもこの世界観を背負わせようと考えたんです。そして最終的に,彼女達と仲良くなることで,なぜこの仕事に就くにいたったのかを語ってもらえるようにしました。
そのおかげなのか,彼女達のバックストーリーを知ってしまうと,ほかのキャストに浮気できなくなるというテスターからの感想もあったぐらいです。
4Gamer:
確かにそういう話を聞いてしまうと,感情移入の度合いが変わってきそうですね。
はしもと氏:
きっと好きになると思いますよ。親密になるとロード画面で,彼女達から手紙が来たりしますから,なおさらに。
4Gamer:
それはグッときますねぇ……。
ところで,そうやって仲間にしたキャスト達には,NPCとして戦力になるだけの強さが備わっているんでしょうか?
はしもと氏:
実はそのあたりもキャラクターごとに設定しているので,話しかけながら想像してみてください。性格と強さが正反対のキャラクターもいますから,そのギャップも楽しんでいただけるだろうと思いますよ。
4Gamer:
公式サイトでは10人のキャストが紹介されていますが,ほかにもいるんですか?
はしもと氏:
ええ,もっとたくさんいます。
4Gamer:
ちなみにボイスは入っているんですか?
はしもと氏:
はい。パートボイスですので,フルボイスという形ではありませんが,とても魅力的な声優さんが声を担当していますので,声優ファンの方にも楽しみにしていただきたいですね。
“続編”としての「3」ではなく,“信頼”の「3」
4Gamer:
はしもとさんがこのシリーズの制作に本格的に関わるのは,実はヴァルハラナイツ1以来とのことですね。このタイミングで復帰されたことには,何か理由があるんでしょうか?
これもやはり,最初にお話しした原点回帰というのが最大の理由です。
また,正直なことを言いますと,現場に任せていたのですが,シリーズが続けられないぐらい数字も落ち込んでしまいましたので。けれど,思い入れのある作品ですから,終わらせたくはなかったんですよね。このシリーズを次へつなげるためには,やはり直接関わるのがいいだろうというのも,理由の一つにはあります。
4Gamer:
なるほど。
ヴァルハラナイツシリーズは,ダークな世界観のファンタジー世界を舞台としていることや,アクションRPGであることなど,いくつかの共通項はあるものの,ストーリー上のつながりなどはありませんよね。しかもナンバリングタイトルとしての前作から数えると,5年ぶりに3が発売されることになるわけですが,別の作品ではなく,3という形を選んだのも,そういった思い入れがあるからこそということでしょうか。
はしもと氏:
そうですね。もちろんシリーズではない新作としてリリースする可能性もあったとは思います。
ただ今回の3というナンバリングについては,PS Vitaという新たなプラットフォームで,どういった立ち位置を目指すかとなったときに,“続編”としての「3」ではなく,脈々とシリーズを続けてきた“信頼”の「3」という意味を込めているんです。
4Gamer:
信頼,ですか。
はしもと氏:
ええ。実は弊社のシリーズ作品は,「ルーンファクトリー」なども,ナンバリングこそしていますが,前作を遊んでいないと分からないということはありません。
どちらかといえば,安心して遊んでいただくための“しるし”としての,ナンバリングタイトルであるととらえていただけると嬉しいですね。
4Gamer:
シリーズが続いているのは,プレイヤーからの支持を受けているから,という“しるし”ですね。
RPGの続編というと,どうしても世界観やストーリーに連続性があって,前作を知らないと楽しめない要素があったりもしがちですが,そういったことは一切ないということでしょうか。
はしもと氏:
そう言い切れると思います。映画にしてもゲームにしても,シリーズを続ける過程で,3作目は終点にも新たな起点にもなる節目なんですよね。そこをちゃんと作って,“今のヴァルハラナイツ”はこんな作品なんだ,ということを示したかったんです。
4Gamer:
つまり続編であり,集大成でもあるが,新たなスタートを切るための一作としての意味合いが強い,と。
はしもと氏:
ええ。さらに言いますと,PS Vitaでは,ゲームアーカイブスで配信しているPSP用のシリーズ作品も動くんです。つまり,新作と旧作を同じハード上で比較できてしまうんですね。そのとき,“新作には5980円という対価を支払うだけの価値がある”と感じてもらえないなら,売ってはいけないとすら思っていますから。
そういったこともあって,今回は,続編として変わらない美学を重視するよりも,お金を出してもらう以上は,変わったことでお客さんに満足してもらえるようなものを出したいという,強い思いがあります。
4Gamer:
発売日が当初発表の1月から,5月へ延期されたのも,そういったこだわりを持って細部まで作り込んだからということでしょうか。
はしもと氏:
はい。お待たせしてしまうのは申し訳ないと思いつつ,3という集大成の作品を目指す意味で,ゲームとして面白くなるような調整と,アクションにおける挙動などを中心に,かなり時間をかけて作ってきました。
4Gamer:
実際の開発期間はどのぐらいだったんでしょうか?
はしもと氏:
およそ2年半ぐらいですね。
実はもっと前に,現場からの企画書は上がってきていたんです。担当者も違いました。ただ,それがいわゆる「モンスターハンター」のような“狩る”ゲームそのままになっていたんですよ。分からなくはないけど,目標もなく同じことをして,それが何になるのかと。また,「前作で人気のあった装備です」と現場に見せられたものが,女子高生の制服装備だったんです。正直,これはいろいろな意味でマズイと思いました。
そこで一度白紙に戻し,現在のような方向性になるよう,チーム体制を含め練り直しました。
4Gamer:
そんないきさつがあったんですね。
もし当初の方向性で,このタイミングで発売されていたとしたら,同系統のタイトルの中の一つになっていましたね。
はしもと氏:
本当にそう思いますね。あのままの方向性で進んでいたら,どんなにクオリティを突き詰めたところで,恐らく「ああ,あったあった」という程度で終わってしまったと思うんです。
4Gamer:
とはいえ,単純な“売りやすさ”とか“分かりやすさ”という意味だけで言えば,“狩る”方向も捨てがたいと思うんですが……?
はしもと氏:
うーん,売るだけがすべてじゃないと思っていたからでしょうか(笑)。
会社の役員という立場としては,言いにくいことではあるんですが,“狩る”ゲームに関しては,長けている会社さんに任せておけば,本当に面白いものを作ってくれますからね。
ヒントにした部分がどこかにあったとしても,そのままどこかで見たことがあるような,“想い”もちゃんと乗っていないようなものは作りたくなかったんです。
4Gamer:
今回の作品はマルチプレイ要素もアドホックでの2人プレイのみになっていますよね。オンラインでのマルチプレイにも非対応ですし。これは,一つの流行との差別化をはかるべく,あえてシングルプレイを重視しようという狙いなんでしょうか。
はしもと氏:
いえ,そこは差別化というよりも,PS Vitaという新しいハードで最初のヴァルハラナイツを作る以上,マルチプレイよりも1人で楽しめる本編を深くしたいと考えたのが理由です。
ただ,今回の方向性が評価されて,もし次があるようでしたら,そのときにはPS Vitaの市場動向を見越しつつ,マルチプレイ要素を厚くしていきたいとは思っています。
4Gamer:
その場合,今回のような1人で黙々と遊ぶアプローチとは別のものになりそうですか?
はしもと氏:
ええ。取って付けたようなマルチプレイではなく,ほかのプレイヤーと一緒に遊ぶことを念頭に置いたデザインになると思います。
実は,やりたいことはすでにたくさんあるんですよ。例えば,日本人が好きな自己犠牲的なところをマルチプレイで表現するとか。
4Gamer:
そこまでの構想が,すでにあるんですね。
PS Vitaは,技術者がたたくことで伸びるハード
4Gamer:
ところで,今回ヴァルハラナイツ3を作るにあたって向き合った,PS Vitaというハードについては,どんな印象を持ちましたか?
ハード的な魅力としてはやはり,家庭用のテレビでは見られないような,有機ELディスプレイにあると思っています。
弊社の「朧村正」や「閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-」などもそうですが,このハードでしか見られない映像を作れるというのは,大きな強みだと思いました。グラフィックスを使った企画がとくに映えるので,まだまだいろいろな見せ方が出てくるでしょうね。
4Gamer:
PS Vitaは暗い色の発色がくっきりと出ますから,ヴァルハラナイツ3のような暗い世界を表現するのには,向いていると思いました。
はしもと氏:
そうですね。1の頃は,明るいところでプレイするのがちょっと厳しかったですもんね。
PSPの頃は,デザイナーもどうしても明るく描こうとして,グラフィックスが原色に近い色味になってしまいがちでしたが,PS Vitaでは画面に描かれている情景が暗いままでも,はっきりと見えますから,見た目にも楽しいと思いますよ。
4Gamer:
ゲームはグラフィックスだけではないと言われつつも,おろそかにはできない部分ですもんね。
ただ,ヴァルハラナイツ3のスクリーンショットやムービーなどを見てみると,グラフィックス表現としてはけっこう割り切った部分があるように思いました。そうした取捨選択は,何を基準にされていたんでしょうか?
はしもと氏:
本作は映像主体ではなく企画主体だったので,そこを基準にしています。こういう企画があるから,ここは見せてここは切り落とすという選択ですね。何よりも重視したのは,ゲームとしての面白さなんですよ。
4Gamer:
とにかく緻密にグラフィックスを描くということではなく,ゲームとしての面白さを実現するためのグラフィックスを重視したわけですね。
はしもと氏:
はい。その一方,技術者としてPS Vitaをいじり倒すことで,一体どこまで表現できるのかは,開発中にすごく気にしたところです。技術者がハードをいじり倒すときに,「たたく」という言葉を使うことがあります。かつてのスーパーファミコンやセガサターンなどがそうだったように,PS Vitaはすごくたたき甲斐のあるハードでしたね。
このヴァルハラナイツ3で,一体どこまでの表現ができるのかたたき続けた結果が,現在の形なんです。でもPS Vitaに関しては,まだまだたたける余地は残っていると思いますよ。
4Gamer:
そうやってたたき続けた成果として,何か分かりやすい例はありますか?
はしもと氏:
そうですねぇ。実はあの戦闘も,最初は7 vs. 7を表示できなかったんですよ。でも,たたき続けた結果,最終的にはきちんと表示できました。
4Gamer:
そういった作業を進めているとき,「同時に14人が出せるはずだ」という確信があるものなんでしょうか。
はしもと氏:
ええ,何とかすれば出ると思っていましたね。万が一出なかったらどうしよう? なんてことは,一切考えませんでした(笑)。
もちろん現場は大変だったと思うんですが,スタッフに対しては叶えてくれるだろうという絶対の信頼がありましたし,実際に叶えてくれたので,また次も同じスタッフでやりたいと思っています。
最初はファイターを選ぶのがオススメ
4Gamer:
さて,ここまでお聞きする限り,ヴァルハラナイツ3には難しいゲームというイメージがあるんですが,最初のうちはどんな職業だと遊びやすいでしょうか?
最初のうちは,やはりファイターのような戦士系が遊びやすいと思います。とりあえず剣と盾を持って,敵を攻撃しつつ防御もしながら,世界を見ていただきたいですね。ただ,突き進むだけでは解けないところはたくさんあるので,そうなったら別のトリッキーな職業を選んでもらったりするのがいいんじゃないでしょうか。
また,ずっと同じキャラを操作するのではなく,仲間がいるときは切り替えができますので,そこでいろいろな操作に慣れてみてください。
4Gamer:
ちなみに,はしもとさんはどんなプレイスタイルなんですか?
はしもと氏:
私は死にたくないので,仲間にすぐ回復をしてもらって,少し進んでは街に戻ってという,行ったり来たりスタイルですね。超防御派で,なかなか先に進めないという(笑)。
4Gamer:
昔のRPGだと,それが基本姿勢でしたよね(笑)。
はしもと氏:
確かにそうでしたね。
でも例えば,アカトキや機械人のように突き進める職業や種族も用意していますから,それを1キャラだけ入れてみたり,その手のキャラクターだけで仲間を固めてみたりすると,ゲームの進め方はかなり変わってくると思いますよ。
4Gamer:
そうそう,種族とメイン職業,サブ職業の組み合わせによって,キャラクター育成にも幅を持たせているようですが,それだけでもかなりのボリュームになっていそうですね。
はしもと氏:
ええ,膨大です(笑)。ですから混乱をしないように,ゲーム中は段階を追って少しずつアンロックされていくような形にしています。種族や職業も最初に選べるものは少なく,徐々に次の段階へと進むような流れですね。
また本作の場合,職業を変えなくても進められるバランスになっているんですが,新しい職業に変えると高度な戦術が実現できる半面,選択肢が増える分,難しさが生じる可能性もあるんです。極論すると,最初の職業で突き進むほうが,ゲームとしては分かりやすくなっているんです。
4Gamer:
そのあたりはプレイヤーが好みに応じて選択すればいいということですね。
ゲームを一通り遊ぶとして,一般的なプレイヤーの場合,どのぐらいのプレイ時間が必要になりそうですか?
はしもと氏:
レベル上げが必要なゲームなので,想定としては60〜70時間を見ていただければと思います。さらにやり込みを含めると100時間以上になるかもしれません。
ただこれはあくまで我々作り手の基準なので,もっと早く終える人も,もっとかかる人もいるとは思います。
4Gamer:
たっぷりと遊べることは間違いなさそうですね。
さらに長く遊べるよう,DLCを配信する計画などはありますか?
はしもと氏:
やりたいとは考えています。
具体的な内容はまだお話しできる段階ではありませんが,単純にアイテムなどを配信するだけではなく,短いシナリオなどを配信したいと思っていますので,楽しみにしていてください。
4Gamer:
分かりました。
では最後になりますが,はしもとさんから4Gamer読者の……そうですね,とくに濃いゲーマーへ向けてのメッセージをお願いします。
はしもと氏:
ゲームに対する知識的な深さを持っていて,PCなどにも詳しく,酸いも甘いもかみ分ける読者さんが多いと思うんですが,このヴァルハラナイツ3は,そういう方にぜひ遊んでいただきたいゲームに仕上がりました。
まだPS Vitaを持っていない方が,ソフトと一緒にハードを買っても,きっと喜んで頂ける内容だと自負していますので,より進化したこの“悪い世界”をニヤニヤしながら楽しんでください。
4Gamer:
楽しみにしています。ありがとうございました。
はしもと氏の話で,このヴァルハラナイツ3が一体どういった方向性で作られているのかが,お分かりいただけたかと思う。あえて売れ筋の線からは外し,じっくりと遊べるRPGを欲するコアなプレイヤーへ向けた内容は,近年のゲームではあまり見られなくなっていたものだ。
その分,難度は高めに設定されているようだが,プレイヤースキルが必要な難しさではなく,トライ&エラーの繰り返しで進めていけるバランスになっているほか,チュートリアルなども充実しているとのことなので,決して間口が狭いというわけではないだろう。
PS Vitaで,こうした歯ごたえのあるゲームを遊んでみたいと思っている人は,この新しくも懐かしいRPGを体感してみよう。
「ヴァルハラナイツ3」公式サイト
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