インタビュー
月刊HobbyJAPAN「Tony'sヒロインワークス」連動インタビュー。美少女絵師・Tony氏に聞く,これまでとこれから(前編)
このたび4Gamerでは,月刊HobbyJAPANの連載「Tony'sヒロインワークス」との連動企画として,Tony氏にインタビューを行った。制作集団・アルビオンワークスを新たに立ち上げ,「シャイニング」シリーズのみならず,より広い範囲での活動を目指すというTony氏に,これまでの仕事を振り返りつつ,今後の展望を聞いてみよう,という趣旨である。インタビューには「シャイニング」シリーズのプロデューサーであり,またTony氏との交流も深いという,セガの澤田 剛氏にも同席してもらっている。
なおこのインタビューは,フィギュア周辺の話を中心にうかがった本稿(前編)に加え,イラストレーターとしてのTony氏の来歴,また制作にかける想いなどが中心となる後編を,後日掲載の予定だ。
完成度の高さから,絶大な人気を博しているTony氏のフィギュアシリーズ。そのハイクオリティの秘密はなんなのか。本邦初公開のイラストなども交えつつ紹介していくので,「シャイニング」シリーズのファンのみならず,Tonyファン,そしてフィギュアファンも,ぜひご一読いただきたい。
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セガ「シャイニング」シリーズ公式サイト
Tony氏個人サイト「T2 ART WORKS」
月刊HobbyJAPAN 公式サイト
「Tony'sヒロインワークス」から生まれたハイクオリティ
4Gamer:
Tonyさんと言えば,「シャイニング」シリーズのキャラクターデザインで,4Gamer読者にもお馴染みだと思うのですが,フィギュア展開にも積極的で,高い人気を博しているとお聞きします。フィギュアへの取り組みというのは,いつ頃から意識されたのでしょうか。
それはプロデューサーである澤田さんに,先見の明があったのが大きいと思います。
澤田 剛氏(以下,澤田氏):
「シャイニング・ティアーズ」を発売した1か月後くらい――2004年末頃に,マックスファクトリーさんの「かすみ(DEAD OR ALIVE)」の完成品フィギュアが大ヒットしたんです。それを見て「これだ!」と思ったところから「シャイニング」シリーズのフィギュア化がスタートしました。
4Gamer:
あのかすみフィギュアは,確かに凄かったですね。当時の完成品フィギュアとしてはクオリティが凄まじく,一部では「乳神様」とまで呼ばれていました。あの乳は,我々の心まで揺さぶりましたね。
HobbyJAPAN:
ホビー業界としても,あのかすみフィギュアは,かなりセンセーショナルな製品でした。でもあのタイミングで決断したのは,確かに先見の明だったのかもしれない。そこから「シャイニング」シリーズのフィギュア連載が,月刊HobbyJAPANでスタートし,現在の連載「Tony'sヒロインワークス」につながっているんです。
4Gamer:
2005年のスタートですから,かなりの長期連載ですね。Tonyさんのフィギュアって,世に出たもので何種類くらいあるんですか?
Tony氏:
「シャイニング」シリーズだけで70種類以上,自分がデザインしたキャラクターということであれば,恐らく90種類以上はあるんじゃないでしょうか。実際,僕も飾りきれないくらいですから(笑)。
4Gamer:
凄まじい数ですね。しかし数もさることながら,フィギュアとしての完成度が,どれも半端なく高い。なにか秘訣があるんですか?
Tony氏:
かなり初期の段階から,原型に監修をさせてもらっているのが大きいですね。普通はもっと原型が完成してから見るものらしいんですが,もっと前の段階……それこそ,まだ顔もないような状態から見せていただいて。
4Gamer:
では,監修するときのポイントはどんなところですか?
Tony氏:
とにかく重要なのは“顔”だと思っているので,そこは常に気をつけています。
澤田氏:
アイプリ(※目の塗装)が間違ってたら直してもらったりね。Tonyさんだけでなく,監修はセガ側でもしっかり入れています。あとよく問題になる部分で言えば,頬回りの顔の輪郭ですね。いわゆるアニメ的な「横顔が平べったくなる」デザインが,Tonyさんの絵には合わないんですよ。そういう場合,かなり細かく修正を入れますね。
HobbyJAPAN:
Tonyさんの絵は顔の輪郭がスマートなので,立体化するとき,どこに曲面を作るかが難しいんですよね。ワンアングルなら問題なくても,視点をずらすと変に見えたりして。
Tony氏:
そういった事情もあって,僕のフィギュア制作は主にリアルな造形に強い原型師さんにお願いすることが多いですね。
4Gamer:
なるほど。確かにTonyさんのイラストは,アニメ絵というよりリアル寄りな気がします。
澤田氏:
フィギュア制作もイラストと同じで,原型師さんの作家性が強く出たほうが面白い場合もあるんです。例えばゲーム用の3Dモデルをそのまま立体化したとしても,全然可愛くなかったりする。それよりは,イラストからは少し離れていても,原型師さんが解釈した“可愛さ”が出ているほうがいいこともあって。この判断が難しい。
Tony氏:
4Gamer:
ああ,確かに可愛い(笑)。なるほど,奥が深いですね。
HobbyJAPAN:
Tonyさんのキャラクターは,そもそもフィギュア化を前提にデザインされている部分があるので,それも大きいですよね。イラストレーター自身が,フィギュア監修に深く関わっていることは,あまり多くはないですから。
Tony氏:
そうですね。「ブランネージュ」の水着フィギュアなんかは,分割形成することを考えて,腕の部分にワンポイントを加えています。そういうパーツ構成を考えたデザインは,確かに気を使っています。
4Gamer:
ブランネージュというと,これですね。おお,この尻肉は,どの角度から見てもいやらしい……じゃなくて,素晴らしい……。
澤田氏:
フィギュアの金型って,たい焼きの鉄板みたいな構造をしてるので,形が複雑だと型から抜けなくなっちゃったりするんです。だからどうしても分割する必要が出てくるんですが,水着だと服で体が隠れないので,難しいんですよ。
4Gamer:
肌の上に分割ラインが見えると,悲しい気分になりますよね。
ところで先ほどの話でちょっと気になったのですが,3Dモデルをそのまま立体化すると,フィギュアとしてはイマイチなものになるわけですよね。では逆はどうなのでしょうか。フィギュアをスキャンして,ゲーム用の3Dモデルにすることはできるのでしょうか。
澤田氏:
恐らく今の技術なら可能でしょう。そもそも,僕が「シャイニング」シリーズのフィギュア化に積極的だったのも,将来的にシリーズを3Dグラフィックス化することを見越して,そのための参考資料としても使えるんじゃないかという思惑があってのことですし。
Tony氏:
実際,キャラクターを3Dモデルに起こす時は,フィギュアをかなり参考にしてますよね。
澤田氏:
めちゃくちゃ役に立ってますよ。やっぱりイラストには可愛さを強調するための“嘘”があるんですね。それに対して,フィギュアは立体物としての形をしっかり持っているので,資料としての価値が高い。ただ,3Dモデルのためだけにフィギュアを作るのは,手間を考えると現実的ではないと思います。
4Gamer:
でも,3Dモデルとフィギュアとでは,造形という意味で近しい部分があるわけですよね。ということは,3Dモデラーと原型師に求められる能力は,本質的には同じと考えていいのでしょうか。
澤田氏:
3Dモデルの制作も,原型師と同じで作家性の高い作業ですからね。「シャイニング・アーク」の3Dモデルだって良くできてますが,実はTonyさんの絵に凄く似てるというわけではなかったりする。
4Gamer:
3Dモデルを制作したスタッフの解釈が入っているわけですね。
澤田氏:
そうです。ゲーム中のキャラクターが可愛いと感じたら,その開発スタッフの中に,凄腕の3Dモデラーがいたということですね。
HobbyJAPAN:
実際,今は実際に粘土をこねなくても,データから原型が作れてしまう時代になっています。原型師の浅井真紀さんなどは,率先して3Dグラフィックスツールを活用しているとお聞きしますし。アンドゥ(※直前の操作の取り消しやサイズ変更)が手軽にできるのが大きいみたいですね。
4Gamer:
では凄腕の原型師さんなら,凄腕の3Dモデラーになれる可能性が?
澤田氏:
ソフトの扱い方さえ習熟すれば,可能性はあるんじゃないでしょうか。でも,逆は難しいかな。
「水着シリーズプロジェクト」にアルターとアルファマックスが新参入
4Gamer:
では,これからのTonyさんについてうかがわせてください。制作集団・アルビオンワークスを立ち上げ,2013年はより幅広く活動を行っていくとのことですが,具体的にはどんな企画が動いているのでしょうか。
Tony氏:
そうですね。新しいことにどんどん挑戦していこうと思っています。イラストの仕事でも,これまで手がけてこなかったライトノベルや,アニメのキャラクターデザインなども積極的にやっていきたいなと。
フィギュアで言えば,これまでゲーム制作が本格化したことでお休みしていた「シャイニング」の「水着シリーズプロジェクト」も,新たなイラストを描き下ろしていける体制ができてきましたので,どんどん進めていきます。
4Gamer:
おお,どんなフィギュアが登場するのでしょうか。
澤田氏:
これまではマックスファクトリーさん,それからコトブキヤさんが中心となって進めてきましたが,ここで新たにアルターさん,アルファマックスさんが参入します。
アルターからは,まず「ローナ」と「シャオメイ」の水着フィギュアが登場します。そしてアルファマックスからは,「ルフィーナ」と「カグヤ」が登場する予定です。さらにオリジナルでも2体ほどプロジェクトが動いているので,今後についても色々と楽しみにしていただければと。
HobbyJAPAN:
アルターさんは,これまでにも「シャイニング」シリーズのフィギュアをリリースされていましたよね。
澤田氏:
ええ。今回の「ローナ」「シャオメイ」のいずれも,以前の「ミスティ」を手がけた矢遠双嗣(しとおふたつ)さんが原型を担当してくれるそうなので,ぜひ期待していただければと。
Tony氏:
アルターさんはデザインが無茶であるほど造形に情熱を燃やしてくれるみたいなので,個人的にもすごく期待しています。水着ではありますが,ローナは耳や尻尾がついていてかなりボリュームがありますし,意外と形が複雑なんですよ。ポーズもあえて動きのあるものを,という注文でしたし,完成が楽しみですね。
HobbyJAPAN:
一方,アルファマックスさんも,「シャイニング」シリーズでこそありませんが,Tonyさんのフィギュアを手がけた実績があります。
澤田氏:
そうですね。ですから「シャイニング」シリーズにも参加していただける,といったほうがいいかもしれません。
4Gamer:
いやいや,盛りだくさんですね。話をお聞きしていると,フィギュア制作はもはやTonyさんにとってメインの仕事と言っても過言ではないように思えます。
Tony氏:
やっぱり,どれだけ数が出ていても,自分が描いたキャラクターが立体物になるというのは,格別に嬉しいですから。澤田さんからは,最近よく「ガンプラみたいにナンバリングしておけばよかった……」なんて言われますけど,これからも続けていきたいですね。
大人気のVOCALOIDを始め,オリジナルフィギュアも続々登場
4Gamer:
「シャイニング」シリーズからは少し離れますが,とくにマックスファクトリーのVOCALOIDのシリーズなどは,フィギュアとしてかなり反響も大きかったのではないかと思います。
Tony氏:
VOCALOIDの「キャラクター・ボーカルシリーズ」では,「ミク」と「ルカ」が発売されているのですが,どちらも反響が大きかったですね。ルカのフィギュアなんか,2012年に最も売れたフィギュアの一つだそうで,すごくありがたいです。
HobbyJAPAN:
「キャラクター・ボーカルシリーズ」については,月刊Hobby JAPAN 5月号で,新たに第3弾「鏡音リン」と「鏡音レン」のラフ画を公開しましたが,そちらもものすごい反響でした。
Tony氏:
Twitterとかで,なんだか大騒ぎになってましたね(笑)。VOCALOIDシリーズは,僕のアレンジが皆さんに受け入れられるのかって,最初はビクビクしてたんですが,結果的に前向きにとらえてもらい,本当に良かった。あと原型が智恵理さんだったのも,高評価の理由だと思います。
4Gamer:
リンはともかく,レンはTonyさんのフィギュアとしては珍しい,男の子のフィギュアですよね。イラストを描き起こすにあたって,苦労はありましたか?
Tony氏:
現在の形に落ち着くまでには,紆余曲折がありましたね。最初はもっと頭身が低くて幼い感じだったのですが,次に描いたレン君は,僕が描く男性キャラらしく,細身のイケメン系で,かなり大人っぽい感じだったんですよ。そしたら版権元であるクリプトンさんに,イケレン(イケメンなレン)もいいけど,フィギュアの購入者はやっぱり男性が多いと思うのでもう少し可愛い方が良いのでは……という意見もいただいて(笑)。
4Gamer:
確かに(笑)。
Tony氏:
もう少し可愛いほうがいいだろう,ということで,現在の形になっています。でも女性向けのフィギュアというのも面白そうなので,今後はそういう方向もやってみたいですね。
4Gamer:
これだけ続くと,気の早い話ですがこのシリーズも長く続いてほしいですね。
Tony氏:
これまではオリジナルの衣装を尊重したデザインを心がけていたので,衣装デザインも含めた独自のものもやってみたいですね。あと,VOCALOID自体のキャラクターデザインも,機会があればやってみたいです(笑)。それと,「シャイニング」シリーズ以外であれば,こういうのもありまして……。
HobbyJAPAN:
これは画集「ガールズ・ガールズ・ガールズ!9」(メディアクリエイション刊)の表紙イラストですね。
Tony氏:
コトブキヤさんからお話をいただいて,この表紙イラストの女の子がフィギュア化されることになりました。コトブキヤさんは「シャイニング」シリーズでは長くお付き合いがあったのですが,オリジナルは今回が初になります。
4Gamer:
おおお。メッチャかわいいですねぇ……Tony顔のダブルピースとか……。
澤田氏:
いいですよね,このキャラ。「シャイニング」シリーズに欲しいくらい(笑)。
Tony氏:
そういえば,僕のキャラクターでダブルピースのポーズって珍しいですね。そういう意味でも,色々と話題になったイラストだったりします(笑)。このイラスト1枚しかないところからスタートしているので,ラフ※ではかなり細かいところまで新たに設定を起こしています。
※このラフ画は,2013年4月25日発売の月刊HobbyJAPAN 6月号に掲載となる。
HobbyJAPAN:
羽根や衣装などが,とてもフィギュア映えしそうですね。
Tony氏:
来月には原型もあがってくると思いますので,僕も楽しみです。羽の部分なんか,すごく綺麗に作ってありましたよ。あと,成人向けになりますが,ネイティブさんからオリジナルイラストの着せ替えフィギュアも出ます。18歳以上の人は,こちらにも期待していてください。
4Gamer:
本当に盛りだくさんですね。ちなみに,Tonyさんがこれまで関わってきたフィギュアの中で,とくにお気に入りの作品というと,どれになるのでしょうか。
Tony氏:
うーん。それこそ一つだけというのは難しいですが……ここに飾ってあるもので言うと,この「シャイニング・ウィンド」の「クララクラン」ですかね。ここにないものまで含めると,本当に色々あるので,何から紹介すればいいやら(笑)。
澤田氏:
セガ関連に加えて,ほかのも合わせると,現時点で30種類くらいプロジェクトが動いていますよね。さらに「水着シリーズプロジェクト」もあるので,どうしても数が増えます。
4Gamer:
「水着シリーズプロジェクト」は,ゲーム中に登場しない水着を,フィギュアのためだけに新たに描き起しているわけですよね。いろんな意味で気が遠くなりそうなプロジェクトだ……。
澤田氏:
今後は「シャイニング・アーク」までに登場したキャラクター,20体ほどの水着フィギュア化を進めていきます。一体何年かかるんだって話ですけど。そろそろTonyさんのフィギュアだけをまとめた「まとめ本」がほしいくらい。
HobbyJAPAN:
「Tony'sヒロインワークス」の連載も,もう30回以上続いているので,アリかもしれませんね。
澤田氏:
新しいフィギュアがまだまだ登場するので,どこで区切るかが難しいですけどね。じゃあ,「まとめ本」がほしいという人は,ぜひHobby JAPANさんまで要望をお願いします! ということで(笑)。
4Gamer:
それはぜひお願いしたいですね(笑)。ではインタビュー後編は,絵師としてのTonyさんの来歴に迫ってみたいと思います。
※インタビュー後編に続く。
■関連記事:
■月刊HobbyJAPAN 6月号は本日発売!
本日4月25日発売の月刊HobbyJAPAN 6月号では,「Tony'sヒロインワークス」の第38回が掲載。本インタビューのダイジェスト版と共に,新作フィギュアとして「シャイニング・ブレイド」の「アイラ」(アルカディア)と「アルティナ」(コトブキヤ),2体の製品サンプルをチェックできる。
またインタビュー中にも話題に上った,「ガールズ・ガールズ・ガールズ!9」表紙イラストフィギュア(コトブキヤ)のラフ画も掲載されている。Tony氏のファンは,そちらもあわせてチェックしてみよう。
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セガ「シャイニング」シリーズ公式サイト
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(C)Tony
(C)Crypton Future Media, INC. www.piapro.net
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