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クリエイターはキャラクターとどう向き合うべきか。CD Projekt REDのクエストディレクターが語るキャラ作りの極意
GDC 2023で「クエストデザイン10のレッスン」というセッションで注目を浴びたサスコ氏は,Reality Pump Studios時代の「Two World II」で脚本やクエストデザインを手掛けるようになってから14年ほどの経歴を積んだ,ゲーム業界で最も脂の乗った“若い世代のベテラン”の1人と言えるだろう。
今回のセッションでは,サスコ氏のチームが制作したクエストを紹介しつつ,ゲームで特定のキャラクターを作り出すことの意義を解説した。前回と同様に作品のネタバレを含む内容なので,まだCD Projekt RED作品をプレイしていないという人は注意してほしい。
ストーリー作りにおいて,キャラクターは最も強力な武器
サスコ氏は冒頭で,「あなたのキャラクターは,ストーリーを形成していくうえで最も強力な武器」だと述べ,企画段階では各キャラクターがゲームのストーリー中でどう機能するかに集中すべきだと語った。例えば,「サイバーパンク 2077」を象徴するキャラクターの一人である“ジュディ”は,ゲーム開発が始まって1年以上経つまで「ブレインダンスの技術者」という名前だった。
その後,彼女のキャラクターとしての役割を正確に定義し,クエストやストーリー全体のボリュームが増えるにつれてその役割も拡大。ゲームにとって必要なキャラクターへと昇華した。
「ザ・ウィッチャー」の著者であるアンドレイ・サプコフスキ氏が少し前にCD Projekt REDを訪問した際,「キャラクターはストーリーの中でのみ生きる存在であり,さらに言うならそのストーリーのためのもの。あなたが語っていないストーリーにキャラクターなど存在しない」と語ったという。
これはつまり,「キャラクターはストーリー上のコンテクストを与えられて価値を生み出すものである」ということだと,サスコ氏は理解したそうだ。
また,同様に「サイバーパンク 2077」の“ジャッキー”も,「プレイヤーが本編を始めるまでの,チュートリアルの案内役としての機能を果たしていた」という。つまり,多くのプレイヤーが「自分の相棒であり,ゲームの重要なキャラクター」だと思っていた彼がゲームの序盤で死んでしまうのは,主人公のVが一人で成り上がるための仕組みの一部だったからにほかならない。
さらに,ジャッキーがダンスフロアで少し不器用に踊るシーンを配置することで,プレイヤーに2人の深い絆を意識させ,その絆が断ち切られるという,一種のトラウマ的なゲーム冒頭の展開を作り出したと述べていた。「キャラクターの存在は,クエストのストーリーよりもプレイヤーの記憶に深く刻まれる」とサスコ氏は指摘し,「それこそが,キャラクターが最も強力な武器である理由です」と続けた。
クリエイター向けキャラクター・マニュアル
「キャラクターの目的」を定義したうえで,「どのようにキャラクターを構築するか」について,サスコ氏はCD Projekt RED社内で使用されているという“キャラクター・マニュアル”の基本原則を紹介した。「コンテクスト」「コンフリクト」,そして「アーキタイプ」の3つだ。
●コンテクスト
サスコ氏は,「ウィッチャー3 ワイルドハント」のメインクエストである“ブラッディ・バロン”について,「未来のクエストデザイナーたちには,これを教材として参考にしていただきたい。ストーリー中には全体を象徴するようなキャラクターが必要で,私たちの場合,それがブラディ・バロンなのです」と説明する。
彼が酔っ払いなのは偶然ではなく,PTSDのような精神的な問題を抱えているからであり,妻や子供たちに対する暴力行為は,ストーリー全体を象徴するように意図的に考えられていたそうだ。「ゲームのコンテクストを正確に理解することで,より良いストーリーを創造するための適切なキャラクター作りが可能になるはずです」とサスコ氏は強調した。
●コンフリクト
「サイバーパンク 2077」では,元ノーマッドの傭兵“パナム”がリーダーのソウルに反発するシーンがある。サスコ氏によると,このシーンを通じて多くのファンがパナムというキャラクターを愛するようになったそうだ。「キャラクターに何を喋らせるべきかが分からない,またはストーリーの展開が乏しいと感じる場合,それは“コンフリクト”(対立)を十分に描けていない証拠でしょう」とサスコ氏は話す。
同作の最重要キャラクターであるジョニー・シルバーハンドも,初登場シーンでは敵対的なセリフを主人公に吐き捨て,敵か味方か不明確な存在として描かれている。サスコ氏は,「ジョニーは対立そのものです。彼は2023年の抗争中で一度死んだ後,2077年に何も知らないまま復活します。彼自身が持続するコンフリクトの一部であり,そのすべての行動はコンフリクトが生み出しているのです」と述べた。
サスコ氏によると,キャラクターが世界やほかのキャラクターと対立すること,あるいはキャラクター自身が内面的な価値観の対立を抱えることは,「ストーリーテラーなら誰もが考えるストーリー構造上の基本」だそうだ。しかし,多くのゲームではこれが十分に表現されていないため,キャラクターが興味深い存在になりきれていないと,サスコ氏は指摘する。
●アーキタイプ
“タケムラ”は,ナレーティブ・ディレクターのフィリップ・ウェバー氏が開発したキャラクターで,企業文化を体現している。当初,タケムラは企業という一つの団体に対抗するキャラクターとして設計され,“主を持たない浪人”というアーキタイプから発展させたものだったという。初期の企画段階では名前がなく,クエストやデショーンという別の主要キャラクターのストーリーアークを完結させる役割が与えられていった。
サスコ氏は,「アーキタイプからキャラクターを作り上げるのは簡単だが,クリシェに陥りがちであるため注意しなければならない」と指摘する。“クリシェ”とは,使い古されたセリフやステレオタイプな容姿などを指し,創作活動では「クリエイターの怠惰や無知」を示すものとして避けられることが多い。
たとえば,アクションやホラー映画では,サプライズシーンの直前に「嫌な予感がする」というセリフが登場することが多く,映画「ディファニーで朝食を」では,ミッキー・ルーニーが演じた“出っ歯で眼鏡をかけた日本人キャラクター”「ユニオシ」が登場する。
そのためサスコ氏らは,浪人というストイックなイメージを打破するような要素を追加した。タケムラはラーメンからパンケーキまで,食については異常なほどの興味を示し,常に評判の店を探しているというお茶目な一面を持つキャラクター像が加えられたのだ。
●ディコンストラクション
サスコ氏はもう1つ,キャラクター制作で重要な要素として「ディコンストラクション」をあげた。ディコンストラクションとは,完成したストーリーをキャラクターのストーリーアークやクエストごとに分解し,「なぜそのストーリーが展開していくのか」や「そのキャラクターがなぜそのような行動をとるのか」を解析する作業を指す言葉だ。これは,自分たちが作り上げたストーリーが本当に意味のあるものかを確認するための作業だとサスコ氏は言う。
例えば,「サイバーパンク 2077」に登場するハナコは,ゲーム開発が佳境に入った2019年に追加されたキャラクターで,「サイバーパンク的」なストーリーを強化するために作られたそうだ。加えて,タケムラが属する企業的視点からの近未来の情景を,より深く描くという目的もあったという。
サスコ氏は最後に,「ゲーム中のキャラクターは2〜3行の説明文でその人物像を明確に表現し,自分たちが理解できるものかどうか」が非常に重要だと強調した。キャラクターの背景を作り込むと非常に複雑になりがちだが,上司や同僚にキャラクターのイメージを紹介する際には,ゲーム内で起こりうる状況を絡めるのではなく,自分の言葉から想像力を広げられるように努めるべきだと述べた。そして,それが2〜3行の説明で完成しなければならない。
さらに,「そのキャラクターがどのように話すのか,最終的なものでなくても良いので,そのセリフを短く追加しておくと,ほかの人にもイメージしやすいキャラクターになる」と付け加え,サスコ氏自身の企画書の書き方を手ほどきしていた。
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- ライター:奥谷海人
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