インタビュー
よく分からないまま,とりあえずダウンロード。そこがヒットの要因かも――「ケリ姫スイーツ」と「にゃんこ大戦争」の開発者にいろいろ話を聞いてみた
ケリ姫スイーツと言えば,2013年3月にシリーズ累計500万ダウンロードの達成が発表されており,一方のにゃんこ大戦争も4月23日に同じく累計500万ダウンロードを達成したばかりと,どちらもいまスマートフォンで人気を博している作品だ。
「にゃんこ大戦争&ケリ姫スイーツ」スペシャルコラボページ(ケリ姫公式サイト)
それにしても,これら2作品がなぜ,これほどの人気を獲得しているのか。前作から人気の高いケリ姫はまだしも,にゃんこ大戦争の大ヒットはなんだかよく分からない。あまた存在するスマートフォンアプリから,選ばれた理由とはなんだったのだろうか。今回,「ケリ姫スイーツ」を開発するガンホーの西村大介氏と,ポノスで「にゃんこ大戦争」を開発する升田貴文氏のお二人に,コラボレーションに至る経緯や,それぞれの作品の裏話を聞いてみた。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まず,「ケリ姫スイーツ」と「にゃんこ大戦争」がコラボレーションするに至った経緯から聞かせていただけますか。
弊社の方からポノスさんに「ぜひやらせてください」というお願いをさせて頂きました。というのも,個人的に「にゃんこ大戦争」を遊ばせて頂いて,「これは面白いゲームだな!」と惚れ込んでしまいまして。開発元のポノスさんと一緒に何かできないかと考えたんです。
4Gamer:
業界飲み会とかで知り合ったではなくて,割とビジネス的な問い合わせからのスタートだったんですか?
升田氏:
そうなりますね。ただ,最初にお話をいただいた時もあまりビジネスライクって感じではなくて。「一緒に楽しいことやりましょう」みたいな内容だったので,僕らとしては乗りやすい感じでした。自分で言うのもなんですけど,ポノスってそんなにちゃんとした会社じゃないので,ビジネスライクなメールが来ても,なんというか“構えちゃう”んですよね(笑)。
西村氏:
たぶん,最初にご提案した企画書に,数字は載せてなかったですよね。
升田氏:
そうなんです。だから,このコラボには(ビジネス的に)どんな意味があるのかとか,僕らはあんまり考えてないんです。ガンホーさんからご提案を頂いて,実際にお会いして意気投合して,そのまま勢いで今回のコラボにって流れですよね。
4Gamer:
最初の企画書ってどんな内容だったんですか?
西村氏:
普通の提案なら,組んだら売上がどうのとか,ユーザー数がどうのとか,そういう資料を作るんですけど,今回はそういうのがまったくなくて。「こうしたら面白いと思うんですけど,やりませんか?」みたいな,割とざっくりとした内容でした。
升田氏:
そうそう。数字などはなにもなくて,本当に漠然とした感じでしたよ(笑)。
西村氏:
「ケリ姫スイーツ」と「にゃんこ大戦争」って,両方ともシュールな切り口だけど中身は真面目に作っている作品だと思うんですけど,僕はそこにシンパシーを感じたんですよね。キャッチーな世界観を用意しつつも,中身はゲームとして成立するものを作っているというのは,お互いに共通するテーマなのかなと感じていて。
4Gamer:
しかし,コラボレーションの内容を見ると,結構な手間暇をかけていますよね。会社として,そんな適当に動いてしまって大丈夫だったんでしょうか。
そうですよねぇ(苦笑)。実際,にゃんこの開発チームは3人しかいないので,とても大変でした。弊社的には本当に総力体制で開発をさせて頂いた感じで。
4Gamer:
3人ですか。確かにそれは大変そうですね。ちなみにケリ姫の開発チームって何人くらいなんですか?
西村氏:
ケリ姫の開発は8〜10人くらいですね。……って,なんだかうちがまるで「凄く大規模なチーム」みたいな流れになっていませんか(笑)。
升田氏:
いやいや。8人もいるなんて,とても羨ましいですよ(笑)。
「にゃんこ大戦争」はビジネス的には失敗だった?
4Gamer:
今日は,実はコラボレーションのお話にかこつけて,「ケリ姫スイーツ」や「にゃんこ大戦争」のヒットの要因についてどう考えているのか,お話を聞ければと思っているんです。どちらの作品も,ダウンロード数で数百万件という数値になっていますが,これって従来のパッケージゲームとかでは考えられない規模感かつ,スピード感ですよね。
西村氏:
ホントにそうですよね。
4Gamer:
とくに「にゃんこ大戦争」は,今現在も月に100万ダウンロードペースで伸びている状態です。その要因だったり,ダウンロード数が伸びていくうえでの施策だったり,当事者がどう感じていて,どういうアクションを行っているのかをお聞きしたくて。
西村氏:
まず「ケリ姫スイーツ」に関してお話すると,結構堅実にというか。着実にダウンロード数が伸びているって状態なんですよね。あんまり面白い話にならなくて申し訳ありませんが……(苦笑)。
4Gamer:
「ケリ姫」はシリーズ2作めですし,「手堅くヒットした」というイメージですよね。各メディアさんがきっちり取り上げて,プレイヤーからもちゃんと評価されて遊ばれている――みたいな。一方で,「にゃんこ大戦争」の方は,なんだかよくわからないんですけど……。
正直な話,「にゃんこ大戦争」に関しては,プロモーションらしいプロモーションは何もしてないんですよ。僕らもまったく想定外のところで,いきなりヒットしてしまったという感じで。会社的にもパニック状態でしたよ(苦笑)。
4Gamer:
ヒットしたキッカケというか,火が付いたキッカケは把握されているんですか?
升田氏:
今年の1月にAndroid版をリリースして,そこで一気にダウンロード数が伸びたんですが,その原因はよく分かっていません。iOS版を出した時点では,「まぁこんなもんかな?」という数値で,徐々に右肩下がりみたいな推移だったんですが,Android版を出したあたりから,一気に爆発して。
4Gamer:
そういえば,僕が「にゃんこ大戦争」の存在を知ったのは,実はドワンゴの川上さんが遊んでいるのを見てなんですよね。やっぱり,クチコミで広まったんでしょうか。
升田氏:
ああ,あの方が「にゃんこ大戦争」を遊んでいるってメディアで公言してくれていたのは,火が付く一つのキッカケだったような気はしています(関連記事)。でも,記事の中で「2万を課金したら,ボタンを押すだけのゲームになっちゃった」っておっしゃっていたのを見て,ビジネス的には失敗だったのかなぁ……って,僕はかなり反省しましたけど(笑)。
4Gamer:
「にゃんこ大戦争」って,売り上げの方はどうなんですか?
西村氏:
気になりますよねぇ。
升田氏:
具体的な数値は言えませんけど,App Storeのセールスランキングを見て頂ければ,「だいたいこんなもんか」っていうのが分かる(※)と思います。ダウンロード数から考えると,売り上げはそこまで大きくないですよね。やっぱり,課金するポイントが少ないんだと思います。
※4月26日の時点で56位。ちなみに「ケリ姫スイーツ」は22位で,1位は「パズル&ドラゴンズ」となっている
4Gamer:
まぁでも,そこが逆によかったのかなとも思うんですけどね。無課金でもかなり遊び込めるから,友達に勧めやすかったりしますし。
そのへんのさじ加減は難しいですよね。ケリ姫でも,なるべくプレイヤーさんにストレスを与えて課金,みたいなことはしないように心がけてます。そういう意味では,コンティニュー課金もあまりよくないのかもしれないし,まだまだ発展/改良の余地はある部分なのかなって気はしていますし。
4Gamer:
ただ,課金してもらわないとビジネスにならないですからね。
西村氏:
でも目指すところは,やっぱりお客さんがちゃんと納得して,熟考された上でお金を支払っていただくっていうところですよね。そこのコンセプトというか,目指す方向性は逆に明確だと思っています。このゲームにはお金を払ってもいいなって,そういう前向きな気持ちのタイミングでお金を払って頂けるのが,一番の理想ですよね。
升田氏:
そうですねぇ……。
とりあえず気になってしまう作品
4Gamer:
しかし,スマートフォン市場で作品をヒットさせるために,「ケリ姫」や「にゃんこ大戦争」の企画を立てるとき,とくに意識したような部分って何かあるんですか?
うーん,そうですね。まず,どこかしら尖ってないと,スマートフォンアプリの場合は埋もれてしまうというのはありますよね。だから世界観だとか,お客さんから見て“分かりやすい”“刺さりやすい”っていうところはかなり意識しています。
升田氏:
やっぱり,とにかく“わかりやすさ”ですね。そもそもポノスはとても小さな会社ですから,どこかで奇をてらった作品を作らないと,お客さんに振り向いてもらえないんです。App Storeとかでずらっといろいろなアプリが並んでいるなかで,どうにかして“何か違う感じ”を出していかないといけないんですよね。
4Gamer:
その意味でいうと,「にゃんこ大戦争」って,なんだかよくわからないけど,とりあえず気になってしまう作品だと思うんですよね。
升田氏:
ああ,それはかなり大きいと思います。見かけた時に,なんだかよく分からないんだけど,とりあえずダウンロードしてしまうみたいな。遊んでみてから,はじめて「こういうゲームだったのか」って分かる感じですよね(笑)。
実際,「にゃんこ大戦争」にはキモネコってキャラというか,ユニットがいるんですけど,このキャラをとにかく形にしたかったんです。結果としてゲームって形になりましたけど,キモネコの“気持ち悪くて面白い”って感覚を,お客さんに投げかけたかったんです。
4Gamer:
なるほど。
升田氏:
その意味で言うと,今回のコラボでは,ケリ姫さん側がその“気持ち悪くて面白い”って要素をちゃんと押してくれてるので,「ああ,分かって頂いてる!」と感じていました。
西村氏:
ありがとうございます(笑)。
4Gamer:
ちなみにインパクトを持たせるって意味では,ネーミングなんかは相当議論したりするんですか?
西村氏:
弊社の場合は,まず“姫が蹴る”ってコンセプトが最初にあって,「ケリ姫」という名前は最初に固まっていました。そのうえで,後から「クエスト」や「スイーツ」って単語を後付けしている感じですね。後ろの名前の方は,100個ぐらい案を出して,その中から選んでいます。
升田氏:
うちは私が独断で決めちゃいます(笑)
4Gamer:
でも「にゃんこ大戦争」にしろ「ケリ姫」にしろ,一言で伝わるわかりやすさというか,インパクトはやっぱりありますよね。
升田氏:
まあ,「にゃんこ大戦争」の場合は,さっきもお話したように,キモネコというものがまず企画の中心にありましたから,猫というキーワードは絶対に必要だったんですね。で,猫なのか,キャットなのか,にゃんこなのかって考えていったら,やっぱり「にゃんこ」だろうと。
4Gamer:
まぁ「にゃんこ」ですよね(笑)。でも,なんで「大戦争」なんですか?
いや,その後に付けるネーミングに関しては,「にゃんこ」とは何か相反するものというか,違う印象を与えるものをくっつけることで,プレイヤーさんに違和感を与えたかったんです。で,いろいろ考えた結果,「戦争」ってワードがいいかなと思ったんですけど,「にゃんこ戦争」だと,ちょっとシリアスすぎる。
4Gamer:
確かに。
升田氏:
そこで,戦争の前に「大」を付けてみようと考えたんですね。なんというか,「大」を付けると,ちょっとコミカルになるというか,パロディになるというか,エンターテイメントっぽくなるじゃないですか。
4Gamer:
ああ,「怪獣大戦争」とか「妖怪大戦争」みたいな。
升田氏:
そうそう。なんかちょっと,いい感じになるんですよ。で,「にゃんこ大戦争」と。これはよい響きですよね。
西村氏:
なるほどねぇ。
升田氏:
こんな話は社内でもまったくしてないので,社員からはいまだに「一体どういうネーミングなんだ?」と思われているでしょうけど(笑)。
4Gamer:
でも,数あるスマートフォンアプリの中で,「にゃんこ大戦争」や「ケリ姫」がヒットした理由が少し分かったような気がします。最後に,読者さんに向けてコメントをお願いします。
西村氏:
「にゃんこ大戦争」は,初心者の方からコアな方まで,幅広い人が楽しめる懐の深い作品だと思います。ちょっと遊ぶだけですぐに面白さが伝わって,それでいてやり込めるの内容になっているので,いつも「ケリ姫スイーツ」を遊んでくださっているプレイヤーさんにも,ぜひ一度触れてみてほしい作品だと思っています。今回のコラボレーション企画が,そのキッカケになればとても嬉しいですね。
升田氏:
「ケリ姫スイーツ」は,シュールさという部分で「にゃんこ大戦争」とは親和性の高い作品だと感じています。ゲームとしても凄くちゃんと作り込んであって,「やっぱりゲーム会社の方は凄いな」と再認識しました。ですから,「ケリ姫スイーツ」を遊びながら,息抜きで「にゃんこ大戦争」の方を遊ぶだとか,そんな感じで楽しんで頂ければと思います。ゲームとしてみたら,「にゃんこ大戦争」は本当にゆるい作りなんで,癒やし的な感じで遊んで頂ければと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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