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「KINGDOM HEARTS Orchestra -World of Tres-」レポート。「KINGDOM HEARTS」の物語を,映像とともにフルオーケストラで演奏
オフィシャルコンサートとしては今回で3回目となる本公演は,東京公演を皮切りに世界11か国17か所をツアーで回り,ゲームの映像とともに,KHシリーズの物語をオーケストラアレンジで楽しめるプログラムが展開される。これまでの人気曲に加えて,今年1月に発売された「KINGDOM HEARTS III」(以下,KHIII)の楽曲も演奏も盛り込まれている。このコンサートの夜公演の模様と,楽曲を製作した作曲家への合同インタビューをお届けしよう。
「KINGDOM HEARTS Orchestra -World of Tres-」セットリスト
<1部>
(※各タイトル下の楽曲を含むメドレー)
1. Dearly Beloved from KINGDOM HEARTS III(作曲:下村陽子/編曲:和田 薫)
2. Music from KINGDOM HEARTS(作曲:下村陽子/編曲:和田 薫)
・Destiny Islands
・Traverse Town
・Hand In Hand
・Friends in My Heart
3. Music from Re: Chain of Memories(作曲:下村陽子/編曲:和田 薫)
・Scent of Silence
・Castle Oblivion
4. Music from KINGDOM HEARTS II(作曲:下村陽子/編曲:亀岡夏海)
・The Afternoon Streets
・Working Together
・Reviving Hollow Bastion
・Cavern of Remembrance
・Deep Anxiety
5. Music from 358/2 Days(作曲:下村陽子/編曲:宮野幸子)
・Critical Drive
・Sacred Moon
・Musique pour la tristesse de Xion
6. Pretty Pretty Abilities from coded(作曲:下村陽子/編曲:亀岡夏海)
7. Music from Birth by Sleep(作曲:下村陽子/編曲:マリアム・アボンナサー)
・The Worlds
・Dearly Dreams
・Destiny's Union
・Night in the Dark Dream
・Night of Tragedy
8. Music from Dream Drop Distance(作曲:下村陽子・関戸 剛/編曲:竹岡智行)
・Dream Eaters
・Sweet Spirits?
・Majestic Wings
・Link to All
9. Music of Another Time(作曲:下村陽子/編曲:亀岡夏海)
10. Diabolic Bash(作曲:下村陽子/編曲:山下康介)
・Destiny's Force
・Shrouding Dark Cloud
・The Fight for My Friends
・Vim and Vigor
・The Encounter
・Another Side -Battle Ver.-
・Unforgettable
・Rage Awakened -The Origin-
・L'Impeto Oscuro
<2部>
(※未公表の楽曲名を多く含むため,メドレータイトルのみ紹介)
11. Face My Fears -KINGDOM Orchestra Instrumental Version-
(原曲:宇多田ヒカル & Skrillex/編曲:和田 薫)
12. Symphonic Suite: The Worlds of Tres I -Of Gods and Toys-
(作曲:下村陽子・石元丈晴・関戸 剛・Disney/編曲:亀岡夏海)
13. Symphonic Suite: The Worlds of Tres II -Tangled with Scares-
(作曲:下村陽子・関戸 剛/編曲:亀岡夏海)
14. Symphonic Suite: The Worlds of Tres III -A Frozen Fracas-
(作曲:下村陽子・石元丈晴/編曲:宮野幸子)
15. Symphonic Suite: The Worlds of Tres IV -A Pirate?s Tale-
(作曲:下村陽子・石元丈晴/編曲:竹岡智行)
16. Symphonic Suite: The Worlds of Tres V -A Hero's Journey-
(作曲:下村陽子・石元丈晴・関戸 剛/編曲:山下康介)
17. Overture to the Decisive Battle
(作曲:下村陽子・石元丈晴/編曲:マリアム・アボンナサー)
18. 光 -KINGDOM Tres Orchestra Instrumental Version-
(原曲:宇多田ヒカル/編曲:和田 薫)
19. Rhapsody in Tres for Piano, Chorus and Orchestra
(作曲:下村陽子・石元丈晴/編曲:西木康智)
20. アンコール:誓い -KINGDOM Orchestra Instrumental Version-
(原曲:宇多田ヒカル/編曲:和田 薫)
演奏:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
コーラス:洗足フレッシュマン・シンガーズ
(※敬称略)
コンサートは2部構成で行われ,前半の1部では,歴代KHシリーズの楽曲を発売順に演奏している。
美しいピアノのイントロから始まる,おなじみのタイトル曲「Dearly Beloved」のKHIII版「Dearly Beloved from KINGDOM HEARTS III」でコンサートはスタート。同シリーズの作曲家である下村陽子氏の挨拶を挟んで,初代KHの「Music from KINGDOM HEARTS」からのメドレーでは,懐かしい楽曲が映像とともに演奏された。
各シリーズを代表する名曲がチョイスされ,フィールドのメドレーに時折バトルの楽曲を織り交ぜて緊張感を演出するなど,作品ごとにメリハリのある展開に心が躍る。
1部ラストの「Diabolic Bash」はシリーズのボス戦のメドレーで,本当にボスラッシュを体験しているような気分に。映像に映るボスが客席に襲い来るようなる迫力のある演奏で,1部が締めくくられた。
そして後半の2部は,KHIIIの楽曲を主体とした構成となった。オープニングテーマ「Face My Fears」のインスト版「Face My Fears -KINGDOM Orchestra Instrumental Version-」は,ボーカル部分をバイオリンが演奏し,物語の始まりを飾っている。
12曲目から16曲目までは,KHIIIの各ワールドのBGMとバトルの楽曲がオーケストラアレンジされ,交響曲として構成。映像にはワールドで出会うキャラクター達も登場し,多くの来場者がつい最近味わったばかりのゲーム本編のストーリーを追体験するような構成だ。
途中のMCには,下村氏とともにKHIIIの楽曲を手がけた作曲家の石元丈晴氏と関戸 剛氏が登壇した。石元氏は,普段1人でPCの前で作っている楽曲がフルオーケストラによって演奏され,ファンと一緒に楽しめる特別な機会を光栄に思うとコメント。一方関戸氏は,自身の楽曲が編曲家と演奏家の方々の手によってすばらしい演奏となり,天にも昇るような幸せな気持ちになったと語る。メドレーでの構成となったことでテンポやキーが頻繁に変化し,生演奏するのは相当な技量が必要だと絶賛していた。
後半はクライマックスに向けてだんだん盛り上がっていく構成で,17曲目の「Overture to the Decisive Battle」ではダークシーカー編を締めくくる決戦を迎え,激しいコーラスはこれまでにないほどの緊張感を演出していた。
そしてラスト1曲前とアンコールはKHのメインテーマとも呼べる「光」とKHIIIの「誓い」のオーケストラバージョンで,ラスト曲「Rhapsody in Tres for Piano, Chorus and Orchestra」では下村氏がピアノで演奏に参加。KHシリーズの17年の歩みを締めくくった。
コンサートのラストには下村氏とともに,KHシリーズのエグゼクティブプロデューサーの橋本真司氏がスペシャルゲストとして登壇した。昨年還暦を迎えたという橋本氏は,長年勤めてきたエグゼクティブプロデューサーを同社の間 一朗氏へとバトンタッチし,以降はKHシリーズの全体を見る役目となることを発表している。
続いて,KHシリーズのディレクターである野村哲也氏が,今後予定されているKHIIIの有料DLCについて「まだ何もお見せできませんが」と前置きしつつ,いくつかの情報を明らかにした。
「キングダム ハーツIII Re:MIND(仮)」と名付けられたこのDLCでは,追加シナリオ「Re:MIND」,リミットカットボスとそれに伴うエピソード,シークレットエピソード&ボス,英語ボイスへの切り替えなどの内容が含まれるという。配信時期や価格なども未定だが,細かく分けるのではなく,すべてが揃ってから配信するそうだ。
また同時期に無料DLCも配信予定で,こちらは新キーブレード&新フォームが用意されるとのこと。次の新情報の発表は「雨の多い時期」になることを約束した。
この「KINGDOM HEARTS Orchestra -World of Tres-」のツアーは,今年いっぱいにかけて世界11か国を回り,2019年11月30日には大阪のグランキューブ大阪が千秋楽となる。今回の公演に行けなかったというファンは,そちらに足を運んでみよう。
コンサートの終了後,下村氏,石元氏,関戸氏に向けた合同インタビューも行われた。また野村氏,間氏からの公演に対するメッセージも届いたので,そちらもお届けしよう
――ツアー初日となるコンサートを終えての感想をお聞かせください。
下村陽子氏(以下,下村氏):
スケジュール的にもかなり大変で,なおかつ私と野村哲也さんがやりたいことを合わせた結果として,ものすごい盛りだくさんな内容になってしまったので,無事初日が終わって本当にホッとしているというのが正直な気持ちです。
石元丈晴氏(以下,石元氏):
フルオーケストラでの演奏は,レコーディングでは体験したことがあるのですが,コンサートは初めてのことでしたので,なんだか大人の階段を上がったような気持ちです(笑)。僕は音楽の行き着くところはライブだと思っていて,聴きに来てくれた方に対していかに衝撃を与えて印象を残すかが大事なことなので,このコンサートで楽器や声を通してそれを初めて実現できたのはよかったですね。自分自身も感動しました。
関戸 剛(以下,関戸氏):
指揮者や演奏者の皆さんのプロ魂を,お客さんと一緒に共有できたのは本当に幸せでしたね。こんなに幸せなことはこの先ないんじゃないかって思うぐらい,ワクワクドキドキさせていただきました。
僕はビルとかの巨大な建物が好きで,いつも「あれを作っている人間が同じ人間なのか」と思うんですが,編曲家や演奏家の方を見ると同じような気持ちになるんです。同じ時代に生きていてよかったと思うぐらい凄いと思うんですよ。実際に演奏を聴くと,本当にそれを実感しますね。
――3時間近くにもおよぶメドレーのプログラムでしたが,どういったコンセプトで選曲したのかを教えてください。
下村氏:
私は何かを選ぶというのがすごく苦手で,とくに前半のシリーズのメドレーなどは,あれだけたくさんのワールドがある中から曲を選ぶというのは本当に難しかったです。そこで,何かに特化するのではなく,プレイしていてよく訪れる場所や,共通してかかるイベントの曲などを主に選びました。
その一方で,後半のKHIIIでは,すべてフィールドとバトルをセットにして,そのワールドにいるような気分を味わえるという,前半の構成と相反する形でチョイスしました。
――日本では3回目となる公式コンサートですが,企画はいつ頃から温めていたのでしょうか。
下村氏:
KHIIIの発売に合わせて,新曲でコンサートをやりたいという話は以前からあったんですが,それが決まって動き出したのは,具体的には言えないぐらいの時期です(笑)。これほどのコンサートをするのに必要な一般的な準備期間に比べると,かなり短い期間での準備でしたね。
――今回は主にメドレーによる構成でしたが,具体的な曲数は何曲ぐらいだったのでしょうか。
下村氏:
直前で入れ替えた曲もあったので,私も最終的な数は把握できていないんですが,最初にセットリストを作るときに演奏候補曲のプレイリストを作ったときの曲数は77曲でした。1メドレーにつき5曲前後と考えていただくのがいいと思います。構成当初は「本当にできるのかな」と思いましたが,無事実現できました。
――アレンジする編曲家の方はかなり大変な様子だったのではないですか。
下村氏:
コンサートは時間が決まっているので,いかにその中に納めるかというのがとにかく大変で,「あと5分削ってください……」みたいなやりとりが続いて,本当に大変でした。
――石元さんと関戸さんは,演奏楽曲に関して何かオーダーなどはされたのでしょうか。
石元氏:
出てきたものを聴いて一言二言は返したぐらいですね。むしろ僕が口を出すとダメになっちゃうかもしれないとも思って(笑)。
関戸氏:
僕も同じです。
編曲を担当された方は「グミシップの曲が大変だった」というお話でした。曲がとにかく長いんです。実はこれには理由があって,当初指定されたムービーの尺で曲を作ってほしいというオーダーがあり,そのムービーが4分ぐらいある長いもので,それに合わせて2回ぐらいのループで聴かせる2分ほどの曲を作ったんです。ところが製品版を遊んでみると,シーンが割と早めに切り替わっていて,「やってもうた」と(笑)。でも今回のアレンジは,苦労されただけあって本当に素晴らしい内容でした。
――このコンサートでは,野村さんと下村さんのやりたいことを詰め込んだとのことですが,それぞれどんなことをやりたかったのでしょうか。
下村氏:
哲さんは,前半は過去シリーズの集大成を,そして後半にKHIIIの曲を入れるという,今回の構成に則ったプログラムを希望していて,一方の私は全体をKHIIIの曲で構成するプログラムを基本に,その間に過去曲を挟んで,1曲ずつをしっかり聴かせたいという構想だったんです。
そこで私の希望を取り入れるためにはどうしたらいいかということで,後半にKHIIIの全ワールドを入れ込んで全曲聴かせるという構成で,折り合いをつけるような形でした。
――下村さんから見た石元さんと関戸さんの楽曲と,石元さんと関戸さんから見た下村さんの楽曲の,それぞれの印象を教えてください。
下村氏:
関戸さんの曲は本当に要素が多く,とにかくたくさんのものがある感じで,ものすごく凝っているなという印象があります。全体的にワクワクして,普段ギターを弾いている関戸さんのイメージとは少し違う,色彩豊かなところが好きです。
一方石元さんの曲は,シンプルでまっすぐ来る感じが,「可愛い担当」の関戸さんとは対照的な「格好いい担当」なのかなと思います(笑)。
可愛いだけではなく格好いいところもあるKHシリーズの世界観に,お二人のセンスはすごくマッチしていて,とても魅力的だと思いますね。
関戸氏:
下村さんの曲はすごくキャッチーなんですが,それでいて飽きさせないんです。僕はその理由が気になって,何曲か下村さんの曲を解析したことがあるんですよ。
下村氏:
えっ,怖い!(笑)
関戸氏:
僕自身興味がありまして,勉強させていただきました。僕が好きなロックやポップスはコードで曲を表現するので,1小節に1つのコードがつくと,その小節は1つのハーモニーで進みます。でも,下村さんの曲は短時間でハーモニーが変わっていくんです。キャッチーなメロディでありながら,バックグラウンドがそれを飽きさせないようになっているというのは,本当にすごいなと思いますね。
石元氏:
下村さんのKHの曲はずっと昔から聴いていて,下村節は分かりやすいと思っていたんですが,別の作品では全然違うことをやっていて,そこはビックリしましたね。でもこれだけたくさんのファンに愛されるのは,何かクセになるような下村さんならではのメロディが必ずあって,曲を聴いただけで下村さんが作ったことがわかる個性があるのが強みだと思いました。
――最後にKHシリーズファンに向けて一言ずつメッセージをお願いします。
関戸氏:
コンサート中,コーラスや分厚いアンサンブルを聴くと,僕の中で熱いものがこみ上げてくるんですが,そのタイミングで客席でも感極まって涙している方がいるんですよ。それを見てみんな同じ気持ちになっていることが実感できて,本当にこの場にいられて嬉しいと思いました。
石元氏:
僕も今日は1ファンとしての体験で,“すごい”とかそんな言葉だけでは表現できない内容だと感じました。言葉で表現できないのが音楽で,コンサートはその究極ですからね。生でしか味わえないものがあると,改めて思いました。
下村氏:
今日壇上で橋本さんの話を聞いたときに,初代KHの頃のことを思い出していました。その頃は続編が出るとは思っていませんでしたし,それこそオーケストラコンサートをできるなどということは考えもつかないことで,こんな夢のようなことが自分の人生に起こるんだと,正直今も信じられないです。
私は,曲を書くというやりたいことをやってきて,それに応えてくださるファンの方の思いが力になって,こんな素晴らしいコンサートができるというのが,本当に嬉しいです。ここで慢心せず,舞い上がり過ぎず,応援してくださる皆さんを裏切らないような作品作りを続けなければならないと改めて思いました。KHシリーズのゲームも音楽も,これからも一層,よろしくお願いします。
――ありがとうございました。
●ディレクター,野村哲也氏のコメント
というわけで,前回来られた方も今回いらっしゃったでしょうか?
自分も来ていました。
さすがに毎回登壇するので,「どうせまた出て来るだろうな」という空気をひしひしと感じました。
自分自身,慣れてしまったせいか,ついついしゃべりすぎて予定を押してしまいました。
次回あたりからはあえて登壇を控える回を作り,「出るのかな?出ないのかな?」という感じにしていこうと考えています。次回があればですが。
さて,本題です。コンサートの準備も,実は本番の3週間前から編集が始まり,数日前まで映像の編集がかかってしまい,絵と音をシンクロさせるこのコンサートの形式からいえばオーケストラの皆さんには大変な思いをさせてしまったかと思います。
にもかかわらず,本番では映像にぴったり合わせて演奏していただき,とても感動的なコンサートになっていました。
また次回があれば,今まで来てくださった方も,まだ一度も来ていない方も,ぜひ会場へ足を運んでいただければと思っています。
ただその時私は来ないかもしれません。
以上です。
●新エグゼクティブ・プロデューサー,間一朗氏のコメント
担当とは言え日が浅く,正直未だ何のお手伝いも出来ていないのですが…素晴らしいコンサートにございました!
お呼びいただきまして,光栄です。
壇上からもお話しさせていただきましたよう,演奏,映像はもちろん,グッズ等の細部に至るまで,会場すべてを以て「キングダム ハーツ」を体感出来たよう思います。
ご来場の皆さんにおかれましても,きっとそうだったのではないでしょうか。
なお自身にとっては,大いに幸せ!であるだけでなく,これからを思うに身の引き締まるひと時でもありました。
心より,この素晴らしい空間にて,また皆さんとお会いいたしたく存じます。
- 関連タイトル:
KINGDOM HEARTS III
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