企画記事
ゲームフリークは競馬フリーク!?――ゲームフリーク×4Gamerで唐突に「日本ダービー」の結果予想企画を実施してみた
なかでも,「優良なダウンロード販売タイトルやインディーズゲームをどう取り扱うべきか」はとりわけ大きな問題だった。総じてニュースバリューという意味では目立たない一方で,こういったところにこそ,開発者の熱量を含む“次のヒットの芽”が埋もれているのも確かで,メディアとしてそこをどうやってフォローしていけるのか――といった議論が交わされていたのである。
「今からでも何かできることがあるのでは?」
そう思い立った我々4Gamer編集部は,さっそくゲームフリークへと赴き,「ソリティ馬」の現状や,リリース後に感じた販売上の課題について聞きながら,今後に向けてのヒントを探ってみることにした。そこで出てきたのは,開発メインのゲームフリークとしては,そもそもプロモーションの仕方がよくわからないし,専任の人員もいないこと。ニンテンドー3DSのダウンロードゲーム市場の特殊性などなど。話を聞いていて感じたのは,彼らの抱える悩みや問題点がインディーズゲーム全般の抱えるそれと同様だということでもあった。
これらの問題は,突き詰めていくと結局「コスト/お金」の話に行き着く。小規模なインディーズゲームに潤沢な広告予算があるわけがないし,メディア側はニュースバリューの無い(少なくとも,最初はみな無名だ)タイトルを積極的に取材しづらい。この対費用効果とのミスマッチこそ,商業メディアが積極的にインディーズゲームを取り上げづらい障壁となっているものでもあるのだ。
「うーん。結局はお金の問題になるのか……」
皆ががっくりとうなだれるなか,ソリティ馬の企画を担当したゲームフリークの一之瀬氏がこう言い放った。
「競馬で当てればいいんですよ!」
「そもそも僕は,ソリティ馬を通じて競馬の面白さを伝えたかったんだから!」
競馬の素晴らしさについてを熱く語り始めた一之瀬氏は,「TAITAIさんは競馬をされたことがないんですか? 分かりました。じゃあ僕が,競馬新聞の読み方からレクチャーします!」と言って,そこから2時間にもおよぶ“講義”が始まってしまった。
――そして,2時間後。「これでもう,競馬の予想もばっちりですね!」とにこやかに話す一之瀬氏にうながされて,なぜかみんなで6月1日に行われる「日本ダービー」の予想をしてみよう!という流れに。……あれ,こんな話をしにきたんだっけか?
というわけで,今回4Gamerでは,今週末に行われる「日本ダービー」の結果予想企画を唐突に実施する。
本企画に参加してくれたのは,ゲームフリークで「ポケモン」シリーズのサウンドを担当し,「ソリティ馬」ではゲームデザイナーを務める一之瀬 剛氏と,同社のプログラマーを務め,「ソリティ馬」の企画を立ち上げた田谷正夫氏。そして4Gamerからは,編集部一の(唯一の?)競馬ファンであるAkiyamaと,ダビスタとウイニングポストでしか競馬を知らないTAITAIの計4名が,「第81回 日本ダービー」を予想してみた。
「日本ダービー」特集サイト(JRAサイト内)
――「日本ダービー」予想――
一之瀬 剛氏 予想
凱旋門賞での夢の対決に向けて。牝馬 レッドリヴェール に賭ける!
※この競馬予想は,2014年5月21日(オークスが行われる4日前)に行っています
今年のクラシック戦線,一番の注目はやはり,歴史的な名馬の階段を上り始めたハープスターの存在でしょう。常に最後方からレースを進め,直線は次元の違う脚で,すべての馬をゴールまでに抜きさります。歴史的名馬である父・ディープインパクトを彷彿させるハープスターの走りには,魅了されずにいられません。
そのハープスターに勝るとも劣らない牝馬が,今年の世代にはもう1頭います。2歳女王戦でハープスターに唯一,土をつけたレッドリヴェールです。実際に阪神JF,そして先に行われた桜花賞共に,ハープスターとタイム差なしで渡り合いました。
このレッドリヴェールは,ソリティ馬でいうところの、まえかわ調教師的判断からか,はたまたオークスでハープスターと当たりたくないからなのか,なんと果敢にダービーに参戦することが決まりました。
今年のダービーの予想は,出走はしていないハープスターを一つの基準において(事実,ハープスターは皐月賞馬イスラボニータに新潟2歳Sで完勝しています),ハープスターと互角に戦ってきたレッドリヴェールだって相当に強い馬なのだ!説で行きたいと思います。
少し気の早い話ですが……。
この日本最強の牝馬2頭が,秋には日本の競馬関係者の夢であるキングスゲート(凱旋門賞)で再対決する。世界最高峰の舞台で,この牝馬2頭がワンツーフィニッシュを決め,これまでの日本馬の歴史の無念を全て晴らす。そんなストーリーの1ページを飾る夢のダービー予想でもあるのです。
一之瀬 剛(いちのせ ごう):
ゲームフリーク サウンドデザイナー,プランナー,予想家。競馬歴19年。
トウカイテイオー,サイレンススズカ,ナリタブライアンなど,圧倒的な強さを誇る馬が好きな一方,トロットサンダー,ベニノコバン,ミラクルドラゴンズという超のつく大駆け馬にも思いを馳せるロマン派。皐月賞2着馬シャコーグレイドに,実際に乗ったこともある(乗馬で)。1995年の天皇賞・秋(1着サクラチトセオー)で馬券デビュー,翌1996年のマーチSでアミサイクロンの逃げ切りに賭け,馬連8万8960円を見事的中させている。
一之瀬氏が語る「僕と競馬人生」
ブライアンとトップガン。阪神大賞典にはシビれました。
現在の自分は自他ともに認める競馬フリークだと思いますが,もともとは,どちらかと言えば意味もなく競馬には嫌悪感を感じていました。金曜日になると競馬新聞を広げる友達を,「何が面白いんだか・・・」と軽蔑していたように思います。今考えれば,競馬に付随する「ギャンブル」という要素への嫌悪感だったのかもしれません。
それが,あの頃のみんなに「ごめん!」と謝り,一緒に競馬の話をしたいと思うくらいの競馬好きになり,実際に「ソリティ馬」という競馬ゲームを作るまでの競馬馬鹿に成長したんですから,先のことなんてわからないものです。
競馬と出会ったのは,ゲームフリークに入ってからです。1995年のことですね。開発の森本(※)と渡辺(※)は出会った頃から大の競馬ファンで,当時,秋のGIレースを前に周囲を競馬に引き込むために,自前で馬柱を作って会社の壁に貼り出し,皆に予想を立ててもらうといった試みをやってたんですね。僕も猛プッシュを受けて,ゲーム感覚で競馬予想をして馬券を買ってみました。結果はその年の有馬記念まで全敗。
※森本茂樹:ゲームフリーク バトルディレクター。ポケットモンスターシリーズのバトルシステムを担う凄い人
※渡辺哲也:ゲームフリーク 取締役 開発1部長。ゲームフリーク開発1部のとっても偉い人
当時はね,ギャンブルだとしか思っていなかったから,当たらない競馬が面白いわけありません。もう,ただただ,「アタラナイ」「ツマラナイ」「クヤシイ」「ワケワカラン」ですよ。悔しいから年が明けても買い続けました。射幸心をあおられた鬼です。本気度150%くらいの。マンバケン・マンバケン・マンバケンって,頭の中はそればっかりになっちゃって。でも,毎週負けつづけて,毎回どうして負けたのか考えながら新聞とにらめっこをしていたら,ある法則に気付いたんです。
それはハンデ戦のレースで,軽ハンデで人気薄のない逃げ馬が稀に逃げ切り,馬券が高配当になるケースがあるということです。同じ条件でさらに逃げ馬が1頭しかいない時なら,なおさら展開に恵まれるからか,逃げ切るケースが増えます。そこからはハンデ戦の鬼ですね。競馬新聞で軽ハンデの逃げ馬を探し,そこから馬券を買うことを続けました。
そして運命の日,1996年3月9日を迎えます。
中山競馬場ではマーチS,阪神競馬場では阪神大賞典が行われました。マーチSは軽ハンデの逃げ馬が1頭。アミサイクロンというその逃げ馬から,全馬に流しました。14頭立ての最低人気だったアミサイクロンは逃げ残り,このレースを的中できたのです。当たった嬉しさはひとしおでしたが,心の中に棲みついていた欲の鬼は姿を消していました。
馬券が大当たりした興奮冷めやらぬうちに行なわれたのが,阪神大賞典。そこで自分は,ブライアンズタイムという歴史的な種牡馬を父に持つ,2頭の名馬の壮絶なマッチーレースを目の当たりにしたのです。3コーナーからまくり気味に上がっていく菊花賞・有馬記念馬マヤノトップガン,それに合わせて上がっていく3冠馬ナリタブライアン。直線に入った時にはもう,他の馬がいなくなってしまったのではないかと思えるほどの差がつき,テレビカメラには馬体を合わせた2頭だけが映っている。走っている馬自身を意識したのは,あれが最初かもしれませんね。とにかく美しく格好良く見えました。この19年を思い返しても,あれだけ直線の時間が長く感じられ,あれだけ興奮したレースはありません。今起きた衝撃を,何度も何度も頭の中で反芻しました。森本さんと電話でマーチSのこと,阪神大賞典のことを話しました。「889倍もついてるよ!」と言われ,あらためて驚きました。当てる喜びと名勝負を目の当たりにした興奮,私の競馬覚醒のスイッチは,この日ついに「ON」になったのです。
1996年の阪神大賞典は,2頭の年度代表馬によるマッチレースとなった(写真提供 JRA)
田谷正夫氏 予想
人気と血統はウソをつかない。皐月賞2着のトゥザワールドで勝負
※この競馬予想は,2014年5月21日(オークスが行われる4日前)に行っています
今年のダービーは,牝馬レッドリヴェールの参戦によりお祭り感が割増しされたことと,距離不安がささやかれるフジキセキ産駒のイスラボニータが皐月賞を勝ったことで,混戦模様の体を成しているようです。皐月賞1番人気2着,実力はあるはずのトゥザワールドの影が,なんとなく薄くなっている気がするので,思い切って◎に抜擢しました。「実力に見合った評価をされていない」おウマさんを狙っていくのが,自分の買い方の基本のような気がします。
ダビスタから入っただけあって血統も中途半端に気になったりはします。というわけで,対抗には父タニノギムレット×母父トニービンという,いかにも東京2400を走りそうなハギノハイブリッドを推してみます。東京コースは共同通信杯で敗けちゃっていますが,それはまぁ見なかったことに。実際大きな不利があったレースですし。
▲で押さえるワールドインパクトは,ジョッキーに注目。いやー素晴らしかったですよねヴィルシーナ。ありがとうございました本当に(※)。内田騎手はエイシンフラッシュでダービーを実際に勝っていますし,今年のダービーでも何かやってくれそうな気がして注目しています。
※内田騎手は今年のヴィクトリアマイルを人気薄のヴィルシーナで逃げ切り。田谷氏はこのレースをしっかり的中させている!
皐月賞を勝ってダービーに出てくるウマに△って,男らしくないと思われるかもしれません。けれど自分は,男らしくなくてもいいのでイスラボニータに△打ちます。だって皐月賞馬ですもん。もしサニーブライアンくらい人気が出なければ◎もあったかもしれません。
もう一頭の△ベルキャニオンですが,実はPOG(ペーパーオーナーゲーム)で自分が所持している馬なんです。
つい先日のNHKマイルカップで一之瀬さんが,自分のPOG所持馬であるキングズオブザサンを買わず,1,2着を押さえた三連複を握りしめて憤死した姿を真横で見てしまったため,1度あることは2度ある保険として買っておきます。ワンアンドオンリーも買いたいんですけどね。ベルキャニオンにしました。
馬券は◎トゥザワールドを1着固定の3連単,◎トゥザ○ハギノ▲ワールドを中心にした3連複の2方面で勝負します!
牝馬レッドリヴェールについても軽く触れておきます。実はすごく応援しています。頑張ってほしいと思っています。でも馬券的にはそこまで手が伸ばせません。応援している方,すみません。ダービーで弾みをつけて,凱旋門賞でハープスターと名勝負をしてほしいですよね。
田谷正夫(たやまさお):
ゲームフリーク プログラマー,「ソリティ馬」ディレクタ−,予想家。
競馬に開眼した日:1990年12月23日。
オグリキャップ引退レースの興奮と,地元の古本屋で500円で買った初代「ダービースタリオン」の面白さにより,完全に競馬の魅力に取り込まれる。ゲームの情報を得るためにバイトしてパソコンを購入,血統チェックができるフリーソフトに感銘を受け「プログラマーってすげー。科学のちからってすげー。」ということでプログラムを学び始め,ゲーム会社でのアルバイトを経て,2000年にゲームフリークに入社。
Akiyama 予想
400mの距離不安は杞憂,調教師の経験値が違う。
※この競馬予想は,2014年5月21日(オークスが行われる4日前)に行っています
僕はあまり馬券を買いません。いつもだいたい3連単を1着固定で4点くらい。当たるのは年に数回というレベルです。今回も実際の購入はイスラ→トゥザ→ウインの一点になるんじゃないかなぁ。比較的人気どころですが,今の府中,中段にいてしっかり脚を使えるのはイスラボニータだけだろうと思います。400メートルの距離延長を憂慮する人が多いようですが,栗田調教師はヤマニンゼファーで天皇賞・秋を制しています。1600mと2000mの間にある差に比べれば,2000mと2400メートルの間にある差というのは,同じ400mでも軽いですからね。終わってみたら皐月賞の1・2・3着かよ,というダービーを予想しています。
△の2頭はなんというか願望ですね。ショウナンラグーンはメジロドーベルの孫です。日本有数の牝系が,今の競馬でもしっかり戦っていけることを証明してほしい。ハギノハイブリッドは,イスラとこの馬が首の上げ下げしてるところを想像するとかわいいなぁという理由で選びました。ハナジロー同士の馬券と考えると面白いですよね。
Akiyama:
4Gamer編集部 校正。ハイセイコーブームを経験し,ミスターシービー,シンボリルドルフ,ナリタブライアン,ディープインパクト,オルフェーヴルの5頭の3冠馬を見ているじいさん馬券師。競馬歴は長いが「ソリティ馬」はかなりヘタ。記憶に残る名馬にはサクラスターオー,オグリキャップ,ヒシアマゾンを挙げる。なんでも「次の時代を切り開いていく馬が好きなんですよねー」ということだが,詳細は長くなりそうなので割愛。
TAITAI 予想
やや人気薄ながらもハギノハイブリッドに注目!
※この競馬予想は,2014年5月21日(オークスが行われる4日前)に行っています
完全なる競馬初心者の私が,一之瀬氏の“講義”を受けて,競馬の予想にはいろいろな要因が絡むことを知ったわけですけど,直近の着順やタイム,血統,調教の状態,騎手,コースの状態や右回りか左回りか,レース展開などなど……。あの〜,正直いって情報量多すぎ。
とはいえ,いろいろな話を聞くなかで,少なくとも「データ上(競馬新聞を見て)」で――その日の調子とかは省いて――私自身が“見るべき”と感じられたのは,馬の能力そのものを推し量れるタイム(上がりタイム)と,血統の二つでした。ただ,後者に関しては絶対的な知識量が足りなくてよく分からない。なので,今回は主に「上がりタイム」の項目を中心に新聞と睨めっこしつつ候補を絞っています。
純粋な数値だけでいえば,イスラボニータやレッドリヴェール,トゥザワールド,ワンアンドオンリーあたりに目が行きますが,一方で,馬券を買って当てるという視点で考えると,あまり人気のものに寄っても面白味がない。……というわけで,微妙に人気薄ながらも能力値が高そうな馬はないか?と考えた末,個人的に注目したのはハギノハイブリッドです。
正確に言うと,ハギノハイブリッドが1着となる確率は低いと思っているので,◎を付けるのは本来は間違いかもしれませんが,馬単,三連単を狙う軸馬としてハギノハイブリッドを推してみたいと思った次第。というわけで,そのほかの注目馬はやや人気通りのものを押さえつつ,そこにハギノハイブリッドが絡めばあるいは……といった展開を期待します。当たるといいなぁ。
TAITAI:
4Gamer編集部 副編集長。競馬といえば,ダビスタやウイニングポスト,ギャロップレーサー,ダービーオーナーズクラブなど,ゲームのタイトル名しか連想できない典型的なゲーム脳。ミスターシービー,シンボリルドルフ,トウカイテイオー,ナリタブライアン,ディープインパクトあたりの名前は知っているものの,「ああ,ゲームで強かったあの馬か」という認識です。現実の競馬歴は2週間くらい。
完全に「ソリティ馬」の話から脱線し,競馬についてやたら熱く語る一之瀬氏と田谷氏を見て,「なんだかよくわからないけど,本当に競馬が好きなんだなぁ」と思い,その後はほとんど思いつきで進んだ結果,実現した本企画。実際の予想がどうなるかはさておき,今回あらためて感じたことは,やはり面白いゲームの根底には,何かしらの熱意が込められている――ということだった。そのことはまた,今回の一連の出来事の中で,「コスト/お金」に代わりうる一つのトピックを,改めて指し示してくれたようにも思える。
「ソリティ馬」が登場したときには,なぜソリティア+競馬なんだろう?と思ったりもしたが,遊ぶ人が遊べば,「これは絶対に競馬好きが作ったゲームだ」と分かるという。長年ゲームを作り続けてきたベテランのゲーム開発者が,これだけの“競馬愛”を込めて作っているのだから,それはある意味当然のことなのかもしれない。ただ,今のところ「ソリティ馬の購買層はゲームファンが中心で,まだあまり競馬ファンには届いていないようだ」とのことだったので,この企画を通じて,「ソリティ馬」が本当の競馬ファンに届いてくれるなら幸いだ。
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「ソリティ馬」公式サイト
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