レビュー
399ドルで買える“ナンバー2”が,ハイエンド市場に価格破壊をもたらす?
Radeon R9 290
(Radeon R9 290リファレンスカード)
AMDはこのR9 290を,競合の「GeForce GTX 770」(以下,GTX 770)キラーとして,10月31日に情報解禁する予定だった。しかし,その直前となる30日になって,「性能面の最適化が進んだグラフィックスドライバを用意できた」として,解禁日を延期のうえ,「GeForce GTX 780」(以下,GTX 780)キラーとして仕切り直してきたいきさつがあったりする。
AMDによれば,新しいドライバを適用したR9 290は,いわゆる4K解像度において「GeForce GTX TITAN」(以下,GTX TITAN)すら凌駕する性能を発揮できるというが,実際のところはどうだろうか。今回は,超高解像度環境でのテストも交えつつ,R9 290の実力に迫ってみたい。
R9 290XからCompute Unitを4基削減の一方で
足回りはR9 290Xと同じスペックを維持
R9 290Xでは,64基の「Stream Processor」が,キャッシュやレジスタファイル,スケジューラ,テクスチャユニットなどと「Compute Unit」を構成。それが11基まとまって,1基の「Geometry Processor」や1基の「Rasterizer」,4基の「Render Back-Ends」などと一緒に“ミニGPU”たる「Shader Engine」を構成するような格好になっている。R9 290XではShader Engineを4基搭載するから,総Stream Processor数は 64
AMDに「4基はどう削られているのか」を問い合わせたところ「あらゆる可能性が考えられる」との回答が得られたので,典型的(と思われる)例を4つほど下に示したが,そのほかにも「2基のShader UnitでCompute Unitが2基ずつ削られている」など,いろいろな可能性は考えられよう。いずれにせよ,歩留まり率向上のため,Shader EngineあたりのCompute Unit数には相当なバラツキが許容されているというわけである。
なお,「Compute Unitの削られ方で,性能が変わることはあるのか」という疑問はもっともだが,こちらはまだ回答が得られていない。何か情報のアップデートがあれば,追記するなりの対応をしたいと思う。
GPUコアの動作クロックもR9 290Xの最大1000MHzからR9 290では最大947MHzへと約5%下げられているが,一方でまったく変わらないのがグラフィックスメモリ周りだ。上に示したブロック図からも読み取れるように,合計64基となるROPユニットの数や,512bitのメモリインタフェース,それに5000MHz相当のメモリクロックは,R9 290とR9 290Xでまったく同じとなる。GPUレベルにおけるR9 290Xとの違いは事実上,Shader Engineの内訳とGPUコアクロックだけという理解でよさそうだ。
そんなR9 290のスペックを,R9 290XやR9 280X,Radeon HD 7000シリーズの最上位モデルとなる「Radeon HD 7970 GHz Edition」(以下,HD 7970 GE),そしてGTX TITANおよびGTX 780と比較したものが表1だが,ここでもR9 290とR9 290Xのスペックがかなり近いというのが分かるだろう。
なお,表には入れていないが,R9 290Xと同じくR9 290も,プログラマブルサウンドエンジン「TrueAudio」を搭載しており,また,AMD独自API「Mantle」をサポートしている。
リファレンスカードの外観はR9 290Xと瓜二つ
ただしデュアルVBIOSは“従来製品と同じ”に
おそらく,R9 290XとR9 290とで,リファレンスデザインは完全に共通化されているのだろう。GPUのスペックが近いのだから,合理的な判断が下ったともいえそうだ。
ただし,Dual BIOS Toggle Switchの機能は,R9 290とR9 290Xで異なっていた。10月24日掲載のレビュー記事でお伝えしたとおり,R9 290Xでは,「Quiet Mode」と「Uber Mode」という2つの動作モードが割り当てられていたのだが,R9 290では,HD 7970 GEと同じく,「標準のVBIOSを破損した場合には,2番めのVBIOSから起動できる」という実装になっていたのだ。
AMDに確認したところ,これは正常な仕様とのこと。なので,R9 290では,R9 290Xとの差別化のため,Dual BIOS Toggle Switchの挙動が従来製品と同じになっているということなのだろう。
なお,AMDからは「GPUクーラーを取り外すべからず」のお達しが出ているので,今回も基板の写真はお伝えできない。この点はご了承を。
テストには最新ドライバを利用
4K解像度でのテストも行ってみる
テストのセットアップに入ろう。
今回R9 290の比較対象として用意したのは,先の表1でその名を挙げたGPUとなる。テストシステムのハードウェア構成は表2に示したとおりだが,用意したグラフィックスカードのうち,ASUSTeK ComputerのR9 280X搭載製品「R9280X-DC2T-3GD5」は,メーカーレベルで動作クロックが引き上げられたクロックアップモデルであるため,MSIのオーバークロックツール「Afterburner」(Version 2.3.1)を用い,動作クロックをリファレンス相当にまで下げている。
Radeon搭載製品のテストに用いるグラフィックスドライバは「Catalyst 13.11 Beta V8」だ。実のところ,当初R9 290のテスト用としてAMDから全世界のレビュワーに配布されたのは「Catalyst 13.11 Beta V6」だったのだが,情報解禁直前になって急遽差し替えられたため,4Gamerでもそれに従っている。
一方,GeForce搭載製品のテストに用いた「GeForce 337.70 Driver」は4Gamer初登場となるが,これは,北米時間11月7日の「GeForce GTX 780 Ti」正式発表に向けて全世界のレビュワーに対して提供されたリリースとなる。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション14.0準拠。ただし,
- いま述べたとおり,Radeon用のドライバが急遽差し替わり,すべて再テストせねばならない事態が発生した
- AMDは「4K解像度においてR9 290がGTX TITANより高いスコアを示す」と宣言しており,その実態を確認する必要がある
新規に追加した2タイトルにおけるテスト方法はR9 290Xのレビュー時と揃えてあるので,詳細はそちらを参照してもらえればと思うが,ざっと確認しておくと,両アプリケーションではいずれも公式ベンチマークを実行することとなる。
GRID 2では「ULTRA」プリセット選択のうえ,レギュレーション準拠の「標準設定」「高負荷設定」を,新生FFXIVベンチ キャラ編では「標準品質(デスクトップPC)」「最高品質」をそれぞれ実行し,2回の平均値をスコアとして採用するという流れだ。
テスト解像度は,R9 290がハイエンド市場向けということで,基本的には1920×1080ドットと2560×1600ドットを選択。さらに,4K解像度に対応したシャープ製のディスプレイ「PN-K321」を短期間ながら試用する機会に恵まれたため,同製品の3840×2160ドット解像度に対応するCrysis 3と新生FFXIVベンチ キャラ編,GRID 2の3タイトルでは当該解像度でのテストも行う。
……と言い切りたかったのだが,実際に接続してみると,Radeon搭載環境ではGRID 2のアプリケーションがエラーを吐いて起動できなかった。そのため,4K解像度でのテスト結果を示すのは,Crysis 3と新生FFXIVベンチ キャラ編のみとなる。
なお,Crysis 3では,レギュレーション14世代で規定する「標準設定」ですら十分に描画負荷が高いことから,4K解像度のテストにおいては標準設定と「エントリー設定」を用いることもあらかじめお断りしておきたい。
念のため付記しておくと,新生FFXIVベンチのテスト設定は,1920×1080ドットおよび2560×1600ドット時と同じだ。
最後にもう“2つ”。まずR9 290Xは,標準設定であるQuiet Modeでテストを行う。次にCPU「Core i7-4770K」では,自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の挙動がテスト状況によって変わる可能性を排除すべく,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
新ドライバ効果!? GTX 780といい勝負を演じるR9 290
4K解像度ではGTX TITANに並ぶ場面も
3D性能検証のグラフはいずれもモデルナンバー順に並べてあるが,画像をクリックすると,より負荷の高いテスト条件で得られたスコア順に並び変えたものを表示するようにしてあると案内しつつ,順にテスト結果を見て行こう。
グラフ1は「3DMark」(Version 1.1.0)の結果となる。R9 290Xがそうであったように,下位モデルとなるR9 290もここでのスコアは目を見張るものとなっており,対GTX 780で4〜5%程度高く,対GTX TITANでも約97%に迫っている。
ちなみに,R9 290Xと比べると93〜94%程度,R9 280XやHD 7970 GEと比べたときには123〜125%程度。R9 290XとR9 280Xの間,というよりは,かなりR9 290Xに近い性能特性を示していると述べてよさそうだ。
次にグラフ2,3は「Crysis 3」のスコアをまとめたものとなる。
R9 290の話をする前に,R9 290Xのスコアからドライバの最適化状況を見てみると,R9 290Xは先のレビュー時にGTX 780の99〜105%程度というスコアだったのが,“Catalyst 13.11 Beta V8対GeForce 331.70 Driver”では98〜110%程度というスコアになっており,AMDがレビュワー向けのドライバを土壇場でアップデートしてきた意味はあったと言っていいだろう。
それを踏まえてR9 290を見てみると,高負荷設定の1920×1080ドットのみ,対GTX 780で約91%に落ち込み,β版ドライバらしいところを見せているものの,それ以外では100〜105%程度と,「おおむね上回る」と述べていいスコアにまとまっている。対R9 290Xでは93〜96%だ。
続いて,「BioShock Infinite」のスコアをまとめたものがグラフ4,5である。
BioShock InfiniteはRadeonへの最適化が果たされているタイトルではあるのだが,R9 290のスコアはほんのわずかにGTX 780へ及ばなかった。ただ,その差は1〜3%程度なので,かなり善戦していると述べていいのではないかとも思う。
グラフ6,7は新生FFXIVベンチ キャラ編の結果だが,今回のテスト群中,新生FFXIVベンチ キャラ編はR9 290にとって最も苦しいものになっている。とくに標準品質(デスクトップPC)の2560×1600ドットでGTX 780に約1割ものスコア差がついているのは目立つが,これは,GPUコアの最大動作クロックが低く抑えられ,R9 290Xからさらにテクスチャユニット数が削減されたことで,DirectX 9世代のタイトルを前にしたときのテクスチャ性能差が競合との間で開いたということだろう。
一方,ある意味でメモリ勝負になる最高品質だと,512bitインタフェースがもたらす広いメモリバス帯域幅により,対GTX 780で94〜98%程度にまでスコアは持ち直している。
スクウェア・エニックスはスコア7000以上であれば極めて快適にゲームをプレイできるとしているので,それが1つの参考になるのだが,平均フレームレートのほうが分かりやすい人も多いと思われるため,平均フレームレートベースのグラフ6’,7’も用意してみた。こちらもチェックしてみてほしい。
GRID 2のテスト結果がグラフ8,9で,ここではCPUボトルネックによるスコアの頭打ちが生じている標準設定の1920×1080ドットを除いたすべてのテスト条件でR9 290がGTX 780を上回った。足回りが同じR9 290Xに対しては(やはり標準設定の1920×1080ドットにおけるスコアを無視すると)90〜94%程度と順当なスコア差がついているだけに,ゲームエンジン側のRadeonに向けた最適化や,Radeon R9 290シリーズの広いメモリバス帯域幅などが効果を発揮したと見るべきではなかろうか。
さて,結果として2タイトルだけになってしまった4K解像度のテスト結果である。
グラフ10はCrysis 3のスコアをまとめたものだが,R9 290はエントリー設定で約13%,標準設定で約5%,それぞれGTX 780のスコアを上回り,標準設定ではGTX TITANと並ぶスコアを示した。
もちろん,その実フレームレートは10fps台であって,とてもプレイアブルと呼べたものではない。Crysis 3クラスのゲームをこの解像度で動かしたいのであれば,最低でも2-way CrossFireが必須と言えるが,超超高解像度環境で,Radeon R9 290シリーズの広いメモリバス帯域幅が奏功しているのも間違いないところだ。
一方のグラフ11は新生FFXIVベンチ キャラ編の結果だが,R9 290は対GTX 780で94〜96%程度のスコアにまとまった。より描画負荷の高い最高品質でスコアを縮めたのは,メモリバス帯域幅の広さによるものと思われるが,それよりも注目したいのは,標準品質(デスクトップPC)であれば,4K解像度であっても7000を大きく超えるスコアを示し,プリセットを最高品質にしても「快適」とされる指標をクリアできること。新生FFXIVクラスの描画負荷であれば,4K解像度でのゲームプレイが現実的になってきたというのはなかなか感慨深い。
なお,ここでもグラフ11’に平均フレームレートベースのグラフを示しておいたので,合わせてチェックしてもらえればと思う。
消費電力はGTX TITANと同レベル
リファレンスクーラー搭載時のGPU温度は高い
R9 290XはGTX TITAN以上の消費電力で話題を集めたが,シェーダプロセッサ数が削減されているR9 290ではどれくらいの消費電力低減を期待できるだろうか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみよう。
その結果がグラフ12で,まずアイドル時のスコアはR9 290Xと同じだった。参考までに,無操作時にディスプレイ出力が無効化されるように設定し,省電力機能「AMD ZeroCore Power Technology」を有効化したときの消費電力も75Wで同じだったので,アイドル時の消費電力はR9 290Xから変わっていないと見ていいだろう。
一方のアプリケーション実行時だが,これはR9 290X比で確実な低減を確認できる。R9 290のスコアは371〜383Wと,R9 290Xと比べて15〜26W低く,おおむねGTX TITANと同レベルにまで落ちてきた。GTX 780と比べると15〜35W高いが,まあこれは,R9 290Xの消費電力値からしてやむを得まい。
続いて,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,「GPU-Z」(Version 0.7.3)からGPU温度を追った結果がグラフ13となる(※GPU-Zの最新版はバージョン0.7.4だが,R9 290Xのレビュー時と揃えるため,あえて1つ前のバージョンを用いた)。
各カードは搭載するクーラーが異なり,温度センサーの位置も異なるので,横並びの比較には向かないのだが,それでも「R9 290のGPU温度が高い」ことは見て取れよう。R9 290Xのレビュー時に筆者は,R9 290Xリファレンスカードに搭載されるGPUクーラーの冷却能力に問題があると指摘したが,R9 290リファレンスカードで得られたスコアも,それとまったく同じ。高負荷時に堂々の(?)90℃超えであり,リファレンスデザインを採用する製品がカードメーカーから登場したら,それは温度面で扱いにくい製品となりそうである。
なお,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,リファレンスクーラーの静音性はあまり高くない。うるさいと目くじらを立てるほどではないものの,静かさではGTX TITANやGTX 780のリファレンスクーラーに軍配が挙がる。
R9 290Xからの性能低下はわずかで,
価格は150ドル引きの399ドル。これは面白い
日本におけるR9 290Xカードの“初値”が7万円前後ということを考えると,日本では税込み5万5000円前後スタートあたりが現実的なところだろうか。ドル円相場的には「うーん」と唸らざるを得ないものの,国内におけるGTX 780カードの実勢価格が極端な高付加価値モデルを除くと6万7000〜7万6000円程度(※2013年11月5日現在)なので,相対比較においては,ハイクラス市場において相当に面白い存在となりそうである。
消費電力が高めで,また,リファレンスデザイン採用モデルはGPUクーラーの冷却能力に懸念が残るというのはR9 290Xと同じ。惹かれた人は,R9 290Xのレビュー記事でも述べたように,カードメーカー各社のオリジナルクーラー搭載モデルが出揃うのを待って選ぶのが得策だろう。
AMDのRadeon R9シリーズ製品情報ページ(英語)
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