インタビュー
シャープの新型ハイエンドスマホ「AQUOS zero」が実現したのは「価値ある軽量」。開発陣にコンセプトと技術的ポイントを聞いてみた
2018年10月3日に,シャープが2018年冬モデル新製品としてAQUOS zeroを発表した数日後というタイミングで,しかもそのキャリアはAQUOSブランドの端末も扱っていただけに,なぜラインナップに注目のハイエンドモデルがないのかというのは,もっともな疑問であっただろう。
だが,そんな質問に出てくるほど,12月21日に発売となるAQUOS zeroは魅力のある端末だというのが,根底にあるのは間違いない。
シャープ初の有機ELパネル採用に加えて,重量約146gという6インチ級スマートフォンでは最軽量クラスのボディという特徴を備えたAQUOS zeroは,どのようなコンセプトをもとに,どのようにして製品化を実現したのか。シャープでAQUOS zeroの商品企画とハードウェア開発を担当したメンバーへのインタビューを通して,そのポイントを明らかにしてみたい。
シャープのAQUOS zeroスペシャルサイト
素材感を生かした印象的なバックパネルが目を引く
AQUOS zeroは,6.2インチサイズで解像度1440×2992ドット,アスペクト比9:18.7というシャープ自社製の有機ELパネルを採用するAndroidスマートフォンである。取り扱うキャリアは今のところソフトバンクのみで,MVNOからの販売やSIMロックフリー端末としての販売も予定はないという。
ボディの形状や外観はオーソドックスなスマートフォンのそれである。ボディ前面はほとんどがディスプレイで覆われており,画面上部に大きめの切り欠き(ノッチ)がある一方で,ハードウェアボタンや指紋認証センサーは前面から排除された。
一方,インカメラだけがノッチ部分に組み込まれていたAQUOS R2と異なり,AQUOS zeroは,インカメラのほかにセンサー類もノッチ部分に配置しているので,ノッチが横方向に大きくなっているわけだ。
なお,今どきのスマートフォンとしては珍しく,AQUOS zeroの本体カラーは,「アドバンスドブラック」と呼ばれるこの1色のみで,カラーバリエーションは用意されていない。
素材感を生かしたバックパネルに加えて,アウトカメラと指紋認証センサーが背面の中心線上に移動したことも,外観におけるポイントと言えよう。AQUOS R2では,静止画用と動画用のデュアルレンズ式アウトカメラを採用していたが,AQUOS zeroではオーソドックスなシングルレンズのアウトカメラとなり,レンズは中心線上の1つだけである。
アウトカメラ側レンズと撮像素子のスペックは,AQUOS R2の静止画用アウトカメラと同じで,画像処理エンジン「ProPix」を採用したことでノイズの低減能力が向上し,ノイズが多くなりがちな夜景の写真でも,よりきれいに撮影できるようになったという。
また,詳しくは後段で説明するが,金属製の筐体フレーム部分がへこんでいることで側面を持つときに肌が直接金属に触れにくくなるため,筐体が熱を帯びてもユーザーが暖かさを感じにくいという利点もあるそうだ。
AQUOS zeroの仕様には,2つほど注意すべき点もある。
1つめは,microSDカードに対応していないこと。AQUOS R2までは,SIMカードトレイにmicroSDカード用のスロットもあったのだが,AQUOS zeroにそれはないので,ストレージの増設はできない。
その代わりというわけではないが,AQUOS zeroの内蔵ストレージ容量は128GBと,AQUOS R2の64GBと比べて倍増している。データサイズの大きなゲームを複数プレイしているような人でも一安心といったところか。
2つめは,ヘッドセット接続用の3.5mmミニピン端子を持たないことで,ゲーマーなら気になるかもしれない。USB Type-C―4極3.5mmミニピンの変換アダプタは付属しているが,DAC機能を内蔵するタイプなので,音声出力に遅延がないかどうかは確認してみる必要があるだろう。
スペックも確認しておこう。
AQUOS zeroは,Qualcomm製のハイエンドSoC(System-on-a-Chip)である「Snapdragon 845 Mobile Platform」を採用している。内蔵メモリ容量は6GBで,内蔵ストレージ容量は先述のとおり128GB,ディスプレイパネルは解像度1440
AQUOS R2と比較した場合,SoCは同じで,AQUOS zeroのメインメモリ容量は1.5倍,内蔵ストレージ容量は2倍だ。ディスプレイパネルの解像度は,AQUOS R2(1440
AQUOS zeroの主なスペックを以下にまとめておこう。
●AQUOS zeroの主なスペック
- メーカー:シャープ
- OS:Android 9.0
- ディスプレイパネル:6.2インチ有機EL,解像度1440×2992ドット,アスペクト比 9:18.7,最大リフレッシュレート60Hz
- プロセッサ:Qualcomm製「Snapdragon 845」
- ・CPUコア:Kryo 385 Gold(最大2.8GHz)×4+Kryo 385 Silver(最大1.7GHz)×4
- ・GPUコア:Adreno 630
- ・モデム:Snapdragon X20 LTE
- メインメモリ容量:6GB
- ストレージ:内蔵128GB(※microSDカード非対応)
- アウトカメラ:有効画素数約2260万画素,F1.9,画角約90度(35mm換算22mm相当),光学式手振れ補正機能搭載
- インカメラ:有効画素数約800万画素,F2.2,画角約86度(35mm換算23mm相当)
- バッテリー容量:3130mAh
- 対応LTEバンド:FDD LTE Band 1/2/3/4/5/7/8/11/12/17/18/19/21/25/26/28,
TDD LTE Band 38/39/40/41/42 - 対応3Gバンド:Band 1/2/4/5/6/8/19
- 最大通信速度:下り774Mbps,上り37.5Mbps
- 待受時間:約555時間(4G),約635時間(3G)
- 連続通話時間:約2230分(4G),約1810分(3G)
- 無線LAN対応:IEEE 802.11ac
- Bluetooth対応:5.0
- USBポート:USB Type-C
- 公称本体サイズ:73(W)×154(D)×8.8(H)mm
- 公称本体重量:約146g
- 本体カラー:アドバンスドブラック
- 価格:9万9840円(税込,一括払い価格)
念のためにベンチマークテストを実施して,AQUOS zeroの性能を検証しておこう。今回はAQUOS zeroの試作機とAQUOS R2で同じベンチマークテストを実行し,性能差の有無を確認してみた。テストに用いたのは発売前の試作機であるため,製品版とは結果が異なる場合があることをお断りしておきたい。
まずは,定番の3Dグラフィックスベンチマークアプリ「3DMark」の結果から見ていく。グラフ1は,Sling Shot Extreme UnlimitedのOpenGL ES 3.1プリセットによる計測結果をまとめたものだ。総合スコアの差は1%未満と誤差レベル,Graphics scoreは約2%ほどAQUOS zeroが上回り,逆にCPU性能を見るPhysics scoreは約2%ほどAQUOS R2が上回るという結果となった。差がないわけではないが,ほぼ同等の性能と見なしていいだろう。
一方,Sling Shot Extreme Vulkanの結果(グラフ2)は少し傾向が異なり,総合スコア(Overall score)はAQUOS R2比で約92%,Physics scoreは約76%と,やや差を付けられる形となった。Graphics scoreは1%未満の差なので,VulkanのテストにおけるCPU性能の差が,総合スコアにも反映されたと見ていいだろう。
ただ,複数回計測しても,両機のスコアに大きな変動はなく,発熱やバッテリー残量の影響というわけでもないので,Physics scoreにここまで大きく差が付いた理由は分からなかった。
次に,総合ベンチマークアプリの「PCMark for Android」で,Webブラウジングやビデオ,写真,文書の編集などを行う「Work 2.0」と,画像認識処理やバーコードスキャン,文字認識処理を行う「Compute Vision」という2種類のテストを実行してみた。
スコアをまとめたグラフ3を見ても分かるとおり,Work 2.0はAQUOS zeroが約1%上回り,Compute Visionは1%未満の差という結果となった。PCMark for Androidにおいて,両機の性能はほぼ同等と見なしていいだろう。
最後に,ストレージ性能を計測するアプリ「AndroBench」で,読み出しおよび書き込みテストを行った。結果をまとめたグラフ4を見ても分かるとおり,その差は小さい。ランダム読み出しのみ,AQUOS zeroが約17%上回るという大きめの差がついたものの,逐次読み出しの差は1%未満,逐次書き込みはAQUOS R2のほうが約2%,ランダム書き込みはAQUOS zeroが約2%速かったという程度だ。アプリやファイルの操作になると,この程度の差は体感できない。
多少差が付いた項目もあったが,これらのテスト結果からすると,AQUOS zeroとAQOUS R2の間に,大きな性能差はないと明言してよさそうだ。当然の結果ではある。
AQUOS zeroが目指したのは「価値ある軽量」
AQUOS zeroについて,まず聞いてみたかったのは,「zero」という名前を選んだ理由だ。これについて篠宮氏は,「『スマートフォンの本質に立ち返って考えたうえで,ゼロベースであるべき姿を開拓したい』という思いを込めた名称として選んだ」と述べていた。
既存のスマートフォンにおける既成概念を,単純に「あって当たり前」とするのではなく,誰をターゲットにどういう物を作るか,一から考えた新しいフラッグシップモデルを目指した取り組みが,AQUOS zeroとして結実したわけだ。
余談気味だが,IGZO液晶搭載スマートフォンが「R」で,有機ELパネル搭載スマートフォンが「zero」というルールではないとのこと。将来の製品がどうなるかは分からないが,名前が採用パネルを示すわけではないと篠宮氏は明言していた。
そんなAQUOS zeroにおいて,開発チームが最も重きを置いたのはやはり軽さであるが,単に軽さを追求するのが目的であったわけではないと,篠宮氏は言う。
現在のスマートフォンは,高品位のコンテンツを楽しむデバイスとして使われている。AQUOS R2が,Dolby Laboratories(以下,Dolby)のサラウンドサウンド技術「Dolby Atmos」に加えて,HDR表示規格「Dolby Vision」に対応したのも,そうした現状を踏まえたハイエンド端末として生み出されたからだ。
もちろん,軽いだけでは今どきのハイエンド端末として意味がない。そこで,大画面で美しい映像表示とサウンド再生,バッテリーを含めた高いスペックや性能といった要素を満たして,高品位のコンテンツ体験を楽しめる軽量な端末の実現が,AQUOS zeroにおける目標となったわけだ。篠宮氏は,「価値ある軽量」と表現していた。
有機ELパネルの特性に合わせた発色の調整技術を採用
篠宮氏によると,AQUOS zeroは,有機ELパネルありきで企画した製品ではなかったという。シャープは,液晶パネルと有機ELパネルのどちらも自社開発の製品を有しているゆえに,それらにどのような得失があるかも把握しており,端末の特性に合わせて適当なものを選択できる。そのうえで,重点である軽さに加えて,動画やゲームを楽しみたいというユーザーに向けた端末として適切なディスプレイパネルは何かと考えて,有機ELパネルを選択したという。
加えて,スマートフォンに有機ELパネルを採用するメーカーは多いものの,軽量化に重点を置いた端末というのはほとんどないので,AQUOS zeroにおける新しい提案になるという理由もあったそうだ。
一方,有機ELパネルを単純に採用するだけでは,コンテンツを楽しむ端末として十分ではない面もある。そこでAQUOS zeroでは,3つのポイントを軸に作り込んでいったという。
1つは有機ELパネルの湾曲である。たとえば,Samsung ElectronicsのGalaxy Sシリーズのように,湾曲した有機ELパネルを採用するスマートフォン自体は珍しくない。ただ,そうした製品でも,湾曲しているのは有機ELパネルの左右端だけであり,前面のほぼ全体はフラットというのが一般的だ。それに対してAQUOS zeroでは,緩やかではあるが有機ELパネル全体を円筒のように湾曲させているというのが大きな違いである。
湾曲型を選択した理由は,主に2つあると篠宮氏は述べた。1つめの理由はデザイン面である。前面が緩やかに湾曲するという今までにない形状を採用するとともに,背面にも今までのスマートフォンにはない素材を活用することで,目新しさ,技術的な先進性といった要素をアピールできるというわけだ。
有機ELパネルは曲げられるものだが,パネルの裏には湾曲に適さない部品もあるので,全体を湾曲させるとなると技術的難度が格段に上がるという。そこをどうやってAQUOS zeroでクリアしたのかは,明らかにされなかったが,他社製品で全体を湾曲させた端末がないというあたりで,難しさがイメージできるのではないだろうか。
もう1つの理由は,「タッチの性能に新たな視点を提示したい」(篠宮氏)というものだ。人間の指は,関節を軸にして曲がる動きをする。それを考慮して,「自然な指の動きをすることで,タッチ性能が良くなるようにしたかった」と篠宮氏は述べていた。指の設置面積が狭くなると,タッチ操作の認識は難しくなる。そこで,パネルを全体を軽く湾曲させることで,どこに指を降ろしても指の設置面積が一定以上になるようにこだわったということだ。
湾曲以外にも,AQUOS zeroの有機ELパネルには,いかにもシャープ製品らしい見どころがある。それは,「リッチカラーテクノロジーモバイル」と呼ばれる画質の調整技術だ。
「テレビでつちかった映像技術を,スマートフォンにも応用する」といった話は他社製品でも耳にするが,実際にどのような技術をどう生かしているのか,細部が明らかにされることは少ない。今回,篠宮氏はテレビのAQUOSで積み重ねたノウハウを,AQUOS zeroでどのように活用しているのかも明らかにしてくれた。
先述のように,有機ELパネルは高コントラスト比,広色域という特徴を有するが,単に有機ELパネルを使うだけで高画質を実現できるものではないと篠宮氏は説明する。
たとえば,広い色域を有するというのは利点であるが,ときに広すぎるということもあるという。そのため,単純にコンテンツを表示しようとすると,コンテンツ制作者の意図した色からずれてしまうこともあるそうだ。また,有機ELパネルは高コントラストであるものの,黒の微妙な階調表現は得意ではないそうで,黒つぶれを起こしてしまう場合もあるという。「(有機ELパネルは)真っ暗は得意なのですが,黒の階調感を表現しようとすると難しい面がある」(篠宮氏)。
AQUOS zeroのリッチカラーテクノロジーモバイルは,まず先述した有機ELパネルにおける色ずれを抑制して正しい色を表現するのが役目である。単純に表現しようとすると,原色に近い色ほど色ずれを起こしやすくなるので,それを抑制して映像や画像本来の色味に近づけるわけだ。
それに加えて,階調つぶれも抑制して黒の深さを表現可能としている。
以下の写真は,右側が色ずれを補正していないデモ機,左側はリッチカラーテクノロジーモバイルで色ずれを補正したデモ機で,同じ画像を表示した様子である。右側は赤い花弁の色がどぎつく出すぎており,細かい階調表現も見えない。一方,補正後の左側は花弁の陰影をきちんと表現できており,立体感さえ感じられるほどだ。
リッチカラーテクノロジーモバイルにおける3つめのポイントは,正確な色の表現に取り組んだうえで,有機ELパネルらしい色を付けているという点にあるという。具体的には,肌色のような中間色は,色域を拡大することなくコンテンツに忠実な色で表現する。一方で,原色に近い色になるほど,自然でなめらかな色味なるように色域を拡大して表現しているという。
篠宮氏は,3つめのポイントがとくに難しく,「技術陣は最後まで調整に取り組んでいた」と振り返っていた。液晶パネルに関しては,スマートフォンとしては理想というレベルの表示をシャープは実現できていると篠宮氏は述べるが,AQUOSスマートフォンでは初採用ということもあり,有機ELパネルの特性に合わせた表現を実現するのに技術陣は苦労していたということだ。
筐体フレームとバックパネルに新素材を採用
挙動はR2よりもマイルドに
ここで有機ELパネルから離れて,AQUOS zeroの軽量化に貢献した筐体フレームとバックパネルについても見ていこう。
AQUOS zeroでは,筐体フレームの素材としてマグネシウム合金を採用することで,AQUOS R2のアルミ合金製フレームと比べて41%程度の軽量化を実現したという。また,先述したとおり,バックパネルの素材には,大手繊維企業である帝人のパラ型アラミド繊維「テクノーラ」を使ったアラミド繊維強化プラスチックを採用し,AQUOS R2のガラスパネルと比べて,約29%の軽量化を実現したそうだ。
有機ELパネルもAQUOS R2の液晶パネルと比べて約38%軽くなっているそうで,これらを組み合わせて最終的な約146gという公称本体重量を実現できたというわけだ。
AQUOS zeroの筐体フレームに使われたマグネシウム合金は,軽さと強度を確保できる素材として,かつては薄型軽量を重視するノートPCでよく使われた素材である。ただ,加工が難しくてコストがかかり,そのうえ燃えやすいという弱点があるため,一時のブームをすぎると採用製品は少なくなってしまった。マグネシウム合金製のフレームや外装パネルを採用するスマートフォンは,現在でもかなり珍しい部類である。
田邊氏によると,アルミ合金製フレームとマグネシウム合金製フレームを比較すると,後者のほうが若干熱伝導率は低いそうだ。放熱という点でつけ加えると,アラミド繊維製バックパネルの熱伝導率は,樹脂製パネルと同程度で,AQUOS R2のガラスパネルに比べると低い(=熱を拡散するスピードが遅い)という。
つまり,熱を素早く拡散するという点では,アルミ合金製フレームとガラス製バックパネルを採用したAQUOS R2よりも,AQUOS zeroは不利と言えよう。
そこで田邊氏ら技術陣は,いくつかの対策をAQUOS zeroに盛り込んだ。
1つは,熱伝導率が非常に高いグラファイト製放熱シートをフレームに貼り付けることで放熱面の差をカバーすること。手法自体はAQUOS R2と同様のもので,有機ELパネル,SoCやカメラの熱を拡散する金属板,そしてリアカバーの裏といった部分にグラファイト製放熱シートを貼り付けることで,放熱の効率を向上させているそうだ。
もう1つの対策は,熱を素早く逃がすことに重点を置いたAQUOS R2の放熱構造とは異なり,ユーザーが熱を感じにくくすることに注力するポイントを変えたことであると,田邊氏は説明する。
熱伝導率が違う部材を使う以上,同じ手法ではうまくいかないであろうことは分かっていたので,別のアプローチで熱による悪影響をユーザーにもたらさないようにしたわけだ。
AQUOS R2とAQUOS zeroは,部材の熱伝導率だけでなく仕様面における違いが放熱設計にも影響を与えていると田邊氏は指摘する。AQUOS R2では,なめらかハイスピード表示に対応するIGZO液晶や,Snapdragon 845がもたらす高性能を体感してもらうべく,切れが良くレスポンスの速い「スポーツカー的な切れのある制御」(田邊氏)を実現した。そのため,AQUOS R2の放熱効率は非常に高く,熱をすぐに発散させることが可能な構造であったという。
一方,AQUOS zeroの有機ELパネルは60Hz表示ということもあり,AQUOS R2ほど尖った制御は必要ない。そうした要因もあり,AQUOS zeroでは,R2で切れを効かせた部分を抑えたSnapdragon 845としてはごく普通の制御に戻すことで,温度の上がり方も変えたという。田邊氏は,AQUOS R2とAQUOS zeroを車に例えて「すごく切れのいい車がいいのか,多少マイルドな車がいいのか,お客様によって好みが違う」と,個性が異なる製品であることを強調していた。
加えて,AQUOS zeroはユーザーが手に持っても熱を感じにくい設計であるため,逆に筐体内に熱を残せる――田邊氏曰く「熱をねばれる」――そうだ。単純に言えば,AQUOS zeroはAQUOS R2よりSoCなどの温度が少し高温になっても高性能で動作し続けるようにチューニングを施しているため,結果としてAQUOS R2と同等の性能を持続できるという。それでいてAQUOS zeroは,ユーザーが熱いと感じにくい製品になっているという説明だった。
もちろん,これは特定ゲーム向けに性能を最適化するためではなく,相応に負荷の高いゲームを連続でプレイし続けることで,AQUOS zeroで映像のカク付きやタップの取りこぼしを起こさないかどうか,AQUOS R2と比べて顕著な性能差がないかを検証するための仕事だ。最終的にミリシタ担当からは「体感できる性能差はない」とのお墨付き(?)を得られたとのこと。
田邊氏も「最高画質のモードできっちり動くのが大事」と述べて,実ゲームにおける性能に自信を示していたので,ゲーマーとしては歓迎できる話ではないだろうか。
電源ICの並列化で充電中の発熱を抑制
AQUOS zeroは,電源周りにも面白い特徴がある。
スマートフォンの内部には,充電用のUSBポートから取り入れた電気を電池へと流す途中に電源ICと呼ばれる回路があり,バッテリーが必要とする電源電圧を供給する役目を果たす。電源ICは,充電時には相応の熱を発する。充電しながらスマートフォンを使っていると背面が熱くなることはよくあるが,このときの熱源になっているのが電源ICだ。
一般的なスマートフォンの場合,電源ICは1つしか搭載していない。それで十分に機能を果たせるからだ。しかし,充電時は1個の電源ICに負荷がかかり続けるため,かなりの熱を発しがちである。その熱でスマートフォンが壊れてしまうことはないが,端末が高温になることでSoCの動作が遅くなることはあり得るし,手に持ったとき不快に感じることもあるだろう。
当然ながら電源ICの配置は,ほかの回路,とくに無線関係の部品などに悪影響を与えない位置をシミュレーションによって見つけ出す必要があり,それだけの手間がかかる。だが,これによって電源ICの熱が1か所に集中することを避けられるようになり,充電しながらゲームをプレイしていても,筐体が不快なほど熱くなることを避けられるというわけだ。
なお,田邊氏によると,2つの電源ICのうち1つはSnapdragon 845用の基本的なものを採用しているが,もう1つは別のチップを使っているとのこと。電源ICの並列化自体は,Qualcommがサポートしている技術であるが,実際にこれを実装している例は多くないそうである。
AQUOS zeroはハイエンドの高性能と圧倒的な軽さを両立に成功している
実際,約146gという重量のインパクトは圧倒的で,さまざまなスマートフォンを触り慣れた編集部員に持たせると,皆一様に驚くほど。6インチ級のハイエンド端末=重いという印象を覆すもので,常時携帯して使うスマートフォンとして魅力的だ。アラミド繊維製バックパネルによる独特のビジュアルも個性的で,実に所有欲をくすぐられる。
圧倒的な軽さを実現しながら,スペック面での妥協がないというのもゲーマーにとっては嬉しいところだ。正直,かなり欲しい。
各社が投入した2018年のハイエンドスマートフォンは,2017年の路線を継承した製品が多く,よく言えば安心感があるものの,思わず財布の紐を緩めてしまうようなパンチに欠けた面があったのは否めない。そうしたトレンドに対して,「ゼロベースであるべき姿を開拓」するという目標のもとに誕生したAQUOS zeroは,今までとは異なるハイエンドスマートフォンのあり方を提示することに成功しているのではないだろうか。
この冬にハイエンド端末を購入しようと考えている人は,ぜひ店頭でAQUOS zeroを触ってみてほしい。ほかのスマートフォンにはない魅力に引きつけられること請け合いである。
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