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[gamescom]世界唯一のヤギシム「Goat Simulator」はなぜ生まれてしまったのか? を教えてくれるセッションがGDC Europe 2014で実施
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印刷2014/08/13 13:05

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[gamescom]世界唯一のヤギシム「Goat Simulator」はなぜ生まれてしまったのか? を教えてくれるセッションがGDC Europe 2014で実施

 スウェーデンのCoffee Stain Studiosは,“タワーディフェンスFPS”という個性的なゲームシステムを持つ「Sanctum」シリーズで知られるデベロッパだ。いや,“だった”というべきかもしれない。今や,Coffee Stain Studiosという社名を聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは,おそらく「Goat Simulator」(邦題:ヤギシミュレーター)だからだ。

画像集#002のサムネイル/[gamescom]世界唯一のヤギシム「Goat Simulator」はなぜ生まれてしまったのか? を教えてくれるセッションがGDC Europe 2014で実施
 2014年4月1日にSteamでリリースされたGoat Simulatorは,おそらく世界初となる,ヤギをシミュレートしたゲームだ。もっとも,タイトルに“シミュレーション”とあるものの,実際の内容は三人称視点のアクションゲームになっており,プレイヤーは一匹のヤギとして人間達にイタズラをしたり,マップを探索したりすることになる。そんなGoat Simulatorの開発経緯を語るセッション「How Goat Simulator Really Did Become Our Next Game」が,ドイツのケルンで開催されている「Game Developers Conference Europe 2014」(以下,GDC Europe 2014)で行われたので,その模様を簡単にお伝えしよう。

Armin Ibrisagic氏
画像集#004のサムネイル/[gamescom]世界唯一のヤギシム「Goat Simulator」はなぜ生まれてしまったのか? を教えてくれるセッションがGDC Europe 2014で実施
 同セッションのスピーカーは,Coffee Stain StudiosでゲームデザイナーおよびPRマネージャーを務めるArmin Ibrisagic氏。所帯の小さい同社において,PRマネージャーを兼務しているとはいえIbrisagic氏もれっきとした開発者であり,開発チームとは密接にコミュニケーションをとっているという。

 まずIbrisagic氏は「Goat Simulatorのアイデアはどこから来たか」という点について,YouTubeにアップされた動画がヒントになったことを明らかにした。
 動画には,人がヤギに追いかけられたり,ツバを吐きかけられたりしているユーモラスなシーンが収められており,おとなしいと思われがちなヤギが意外に獰猛ということが分かる。イヌやネコのゲームはあった,サルのゲームもあった,そこで「次はヤギじゃないか」とIbrisagic氏はそのとき思ったのだそうだ。

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 開発のきっかけは,2013年の12月頃に「Sanctum 2」(邦題:サンクタム2)をリリースしたあと,次はどうするかということについてブレインストーミングを繰り返していたときに生まれたという。当時の彼らは「Sanctum」シリーズに代わる新たなIPを求めており,それがほぼ固まりつつあった,という段階だったらしい。当該IPのことをIbrisagic氏は(あくまでも仮称として)「ニュースーパーシークレットIP」と呼んでいたが,そんな“本物”のプロジェクトを開発する前に,さまざまなツールに慣れるため,リラックスして作れるプリプロダクションとしてGoat Simulatorが選ばれたわけだ。
 それまでにIbrisagic氏は,Goat Simulatorのプロトタイプ……の,そのまたプロトタイプのようなものを作っていたらしいが,キー操作が煩雑だったり,ヤギが地面を滑るように歩いたりするなど,なかなかうまくいかなかったという(その名残りは製品版にもあるような気がするが)。

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 そんな状態だったので,Goat Simulatorにおけるグラフィックス関連のアセットは自分達で作らず,基本的にはネットで購入することとなった(だいたい20ドルぐらいとのこと)。さらに,これも練習の一つということで,適当な企画書も書かれたという。

写真右:適当な企画書
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 転機はいうまでもなく,Goat Simulatorのムービーが公開され,それが思いもかけないような閲覧数を記録したことだ。ムービーの段階では「作るか作らないか分からない」と説明していたものの,動画投稿サイトにアップされたGoat Simulatorを視聴した信じられないほど多くの人から,ぜひ作ってほしいという要望が寄せられたのである。

画像集#015のサムネイル/[gamescom]世界唯一のヤギシム「Goat Simulator」はなぜ生まれてしまったのか? を教えてくれるセッションがGDC Europe 2014で実施
 そんなこんなでGoat Simulatorを本格的に制作することになったCoffee Stain Studios。しかし,そもそもどういうタイプのゲームにすればいいのかさえ分からなかったし,まして,どのようなプレイヤーを想定していいのか見当もつかなかったという。「ヤギを主人公にしたGrand Theft Autoだと思われたら困る」ということで,公式サイトにその旨が記載されたりもした。そしてとりわけ心配したのが,ゲーム配信プラットフォーム「Steam」を運営しているValveが,そんなゲームを発売してくれるかどうかだった。
 しかしValveにメールを送ったところ「担当者はベルビュー(※)のオフィスでヤギの衣装を着始めた。このゲームに非常に興奮している」という返事をもらったそうだ。

※Valveは,米ワシントン州のベルビューの本拠を構えている

 これを受け,彼らは全社員をGoat Simulatorのプロジェクトに投入することにした。(本物のプロジェクトではないだけに)早いとこ片付けてしまいたかったということもあり,完成したと思しきコンテンツを手当たり次第に投入していった。プランはまったくなかったという。
 Goat Simulatorのカスタムモードでは,ヤギだけでなくキリンやクジラ,ロボットヤギなどが選べるが,そんなものが存在するのは無計画に開発を進めたせいである。ついでにいうと,「ヤギといえば黒魔術」という感じで,魔法陣に生贄を捧げることで使えるデビルゴートや,サンクタムゴートなども作られている。

 米サンフランシスコで開催されたGame Developers Conference 2014では,カメラクルーがやってきて,Goat Simulatorを開発する彼らのドキュメンタリを撮影したり,毎日100通以上のメールが届いたり,Twitterで「Goat Simulator」が世界的なトレンドワードになったりした。このように期待感の異常なほどの高まりを感じることが続き,それに応えるため,発売日が近付いた段階では,1日に12〜14時間も働いたのだそうだ。

 そして発売日。その後のことは読者のみなさんもよくご存じだと思うが,開発資金はリリースとほぼ同時に回収してしまい,現時点で「Sanctum」Sanctum 2」を合わせたよりも大きな収益を得ているという。
 Ibrisagic氏によれば,販売本数は累計で100万本に迫るらしい。Goat Simulatorが4か月で生んだ収益は,Coffee Stain Studiosの過去4年間のそれよりも大きいという。そしてそのおかげで,ようやく「ニュースーパーシークレットIP」の開発に資金を充当することができたとのことだ。

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 ゲームの評価については,たとえば大手ゲームサイト IGNが10点満点中8点,The Guardianが同2点と,メディアによってまちまち。このへんは,まあそうだよねという雰囲気もあるが,肝心のプレイヤーの評判はまずまずといったところだ。Goat Simulatorの成功はすべて購入してくれたプレイヤーのおかげということで,「Sanctum」シリーズの有料DLCを無料配信することも決定したという。

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 現在同社は,マイナーバージョンアップ版となる「Goat Simulator 1.2」の開発を行っているほか,iOSおよびAndroidへの移植も進めているとのこと(※)

※gamescom 2014に合わせて開催されたMicrosoftのプレスカンファレンスでは,Xbox 360版およびXbox One版も発表されている

 最後に「ニュースーパーシークレットIP」のことなのか,あるいはそれ以外の話なのかはともかく「数日中に大きな発表がある」とIbrisagic氏は述べ,セッションを締めくくった。

 「Goat Simulator」は人の心の深奥になにかを訴えかけたり,人生観を変えてくれたりするようなゲームではなく,むしろその対極にある。
 しかしそんなゲームであっても,作るとなれば,ユーザーの期待に応えるためにハードワークを重ね,真剣に取り組み,それが最終的には予想外の成功を収めることにつながった。間違いなく特殊な事例であり,それを真似て無計画にゲーム開発に取り組むことが成功の近道だとは思えないが,ゲームの持つ無限の可能性を感じるセッションだった……ような気がする。

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「Goat Simulator」公式サイト

「Goat Simulator」(Steam)

「ヤギシミュレーター」(Magino Drive)


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