レビュー
スウェーデンからやってきた左右対称形状の光学センサー搭載モデルは,割とよかった
Mionix Avior 7000
そんなMionixだが,肝心なのはその性能だ。「Avior 7000」(アヴィオラ7000)を入手したので,その実力をがっつり検証していきたいと思う。
新興メーカーによる「セカンドベスト」モデル
その形状にクセはない
レビューに先立って,MionixのCEOであるCarl Silbersky(カール シルバスキー)氏にメールで話を聞いたところ,Mionixでは,「第一に楽しいこと,第二に勝つこと」を目指した製品開発を行っているという。ゴリゴリのe-Sports寄りというわけではなく,より広い市場を狙っているというわけだ。
氏いわく,現在市場にあるゲーマー向け製品は「品質と性能,そしてエルゴノミクス(人間工学)の点で,まだ改良の余地が多く残っていると考えている」。Mionixのラボでは,改良のためのヒントをすでにいくつか得ており,合わせて,「凄腕の開発者」を迎え入れる準備もできているとのことで,まさにこれからといった感じの新興メーカーだという理解でいいだろう。
なので,Avior 7000は左右対称形状の光学センサー搭載モデルで,ミドルハイクラス市場向けということになるわけだ。主なスペックは下にまとめたとおり。センサーはPixArt Imaging(旧Avago Technologies)製の「PMW3310DH」と公表されているため,そこを頼りに,一部は筆者による推測として追記している。
●Avior 7000の主なスペック
- 基本仕様:光学センサー搭載ワイヤードタイプ
- ボタン数:9(左右メインボタン,センタークリック機能付きスクロールホイール,DPI切り替え×2,左サイド×2,右サイド×2)
- センサー:PixArt Imaging「PMW3310DH」
- トラッキング速度:最大215IPS(≒5.45m/s)
- 最大加速度:未公開(※おそらく30G)
- 画像処理能力:未公開
- フレームレート:未公開
- DPI設定:50〜7000DPI(50DPI刻み)
- USBレポートレート(ポーリングレート):125/250/500/1000Hz
- データ転送フォーマット:16bit
- 本体実測サイズ:65(W)×125.3(D)×36(H)mm
- 重量:約146g(※ケーブル含む),約100g(※ケーブル含まず)
- マウスソール:未公開
- ケーブル長:2.1m
- 製品保証:1年間
PMW3310DHは,SteelSeriesの「SteelSeries Rival」やZOWIE GEARの「FK1」(国内製品名:FK1 BLACK),Corsairの「Raptor M45 Gaming Mouse」に採用され,すでに定評のあるセンサーだ。そういうこともあり,スペックに関して言えば,いまから新しく述べるべきことはない。
スクロールホイールは幅が実測約8mmで,表面にラバーが巻かれたタイプだ。ラバーには約2.5mm間隔で約2mmの溝が彫られており,スクロール操作はとくに問題なく,快適に行える。センタークリックは押下時に適度な硬さがあって,押し返しの力も適正であるため,とても扱いやすい。
左右両側面のサイドボタンは,中央寄りもやや本体奥側(=左右メインボタン側)寄りに配置されている。全長は奥側が実測約19mm,手前側が同20mmで,幅はいずれも同7mmだ。本体側板から垂直方向に同2mmほど飛び出した格好となっており,迷わず押下できる。
ケーブルの硬さは適切で,引っ張られるような感触はない。すぐ馴染むはずだ |
センサーは本体中心よりわずかに奥側(=左右メインボタン側)に配置されている |
総じて持ちやすく
とくに「つまみ」「つかみ」との相性が良好
Mionixは,Avior 7000の形状は,どんな持ち方にも違和感なく対応できると謳っているが,実際はどうか,以下,写真とともに短評をまとめておくので,参考にしてほしい。
以上,Mionixの言い分に誇張はなく,非常に持ちやすい。とくにつかみ持ちおよびつまみ持ちとの相性は抜群で,激しい操作を行ってもまったく違和感がなく,長時間のゲームプレイ操作でもストレスを感じなかった。
ややごちゃっとしているが
設定ソフトの機能は必要十分
筆者は,テスト時点での最新版となるファームウェア2.3とソフトウェア1.21を導入した。複数のマウスに対応する統合ソフトウェアが最近の流行だが,Mionixが用意しているのはそれぞれのマウス専用ソフトウェアとなる。
さて,ファームウェアをアップデートし,設定ソフトウェアを導入すると,タスクバーにアイコンが常駐するようになる……はずなのだが,筆者の環境ではどういうわけかアイコンが表示されなかった。そのため,スタートメニューのショートカットから起動することになったことを付記しておきたい。
というわけで,下に示したのは,設定ソフトウェア起動直後のスクリーンショットだ。「MOUSE SETTINGS」「SENSOR PERFORMANCE」「COLOR SETTINGS」「MACRO SETTINGS」「SUPPORT」という5つのタブから選択して,項目ごとに細かく調整していくという,よくあるタイプのメニュー構成になっている。起動時に開くMOUSE SETTINGSタブでは,最大5つのプロファイルに対し,ボタンやスクロール,加速,ポーリングレート(USBレポートレート)の設定を行える。
そのほかの項目はスクリーンショットとキャプションでまとめてみたい。
COLOR SETTINGSではLEDの色や硬度,明滅具合を調整可能 |
MACRO SETTINGSでは,マクロの作成や保存が行える |
SUPPORTでは,ユーザー登録やダウンロード,FAQの確認などが可能だ |
全体として,見た目は多少ごちゃごちゃしており,また,少なくとも現時点では日本語に対応していないだけでなく,日本語を選択しただけで設定を“飛ばし”てしまうのは大きなマイナスポイントだが,機能的には十分だと述べていいだろう。
なお,設定内容は,マクロを除き,基本的にマウス内蔵のフラッシュメモリへ保存される。MIONIX AVIOR 7000 softwareがインストールされていないPCに差しても,設定内容はそのまま利用できた。
PMW3310DH搭載モデルらしい挙動のAvior 7000
センサー性能は端的に述べて優秀
前述のとおり,Avior 7000はPixArt ImagingのPMW3310DH光学センサーを搭載している。ただ,チューニングは当然のことながら,各社それぞれ。Mionixがどういった調整を行っているのか確認してみよう。
テストに用いたPCとテスト条件は下に示したとおりだ。
●テスト環境
- CPU:Core-i7 4770(定格クロック3.4GHz,最大クロック3.9GHz,4C8T,共有L3キャッシュ容量8MB)
- マザーボード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GA-Z87X-UD4H(Intel Z87 Express)
※マウスのレシーバーはI/Oインタフェース部のUSBポートと直結 - メインメモリ:PC3-12800 DDR3 SDRAM 8GB×2
- グラフィックスカード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GV-760OC-2GD(GeForce GTX 760,グラフィックスメモリ容量2GB)
- ストレージ:SSD(CFD販売「CSSD-S6T128NHG5Q」,Serial ATA 6Gbps,容量128GB)
- サウンド:オンボード
- OS:64bit版Windows7 Ultimate+SP1
●テスト時のマウス設定
- ファームウェアバージョン:2.34
- ソフトウェアバージョン:1.21
- DPI設定:50〜7000 DPI(※主にデフォルト設定の400 DPIを利用)
- レポートレート設定:125/500/1000Hz(※主にデフォルト設定の1000Hzを利用)
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度を高める」:無効
まずはリフトオフディスタンスからだ。専用ソフトウェアの「MOUSE SETTINGS」タブにリフトオフディスタンスの項目があるのは前段でお伝えしているとおりだが,このタブからは,32段階でリフトオフディスタンスを調整できる。そこで今回は,デフォルトである左から12番めの目盛り位置(以下,12)と,一番左の「LOW」,一番右の「HIGH」に設定のうえ,厚さの異なるステンレスプレートを重ねながら,マウスパッドごとのリフトオフディスタンスを計測することにした。その結果が表だ。
LOW | 12 | HIGH | |
---|---|---|---|
ARTISAN 隼XSOFT(布系) | 0.7mm | 1.4mm | 1.6mm |
ARTISAN 疾風SOFT(布系) | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 |
ARTISAN 飛燕MID(布系) | 0.8mm | 1.2mm | 2.1mm以上 |
Logicool G440(プラスチック系) | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 |
Logicool G240(布系) | 0.6mm | 0.9mm | 2.1mm以上 |
Razer Destructor 2(プラスチック系) | 1.6mm | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 |
Razer Goliathus Control Edition(布系) | 0.8mm | 1mm | 2.1mm以上 |
Razer Goliathus Speed Edition(布系) | 1.0mm | 1.3mm | 2.1mm以上 |
Razer Manticor(金属系) | 0.4mm | 0.6mm | 1.4mm |
Razer Sphex(プラスチック系) | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 |
SteelSeries 9HD(プラスチック系) | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 | 2.1mm以上 |
SteelSeries QcK(布系) | 0.7mm | 0.9mm | 2.1mm以上 |
ZOWIE G-TF Speed Version(布系) | 1.2mm | 1.0mm | 2.1mm以上 |
ZOWIE Swift(プラスチック系) | 0.8mm | 1.6mm | 2.1mm以上 |
テスト結果を見てみると,リフトオフディスタンスの値に大きくブレがあるのが分かる。これはPMW3310DHを搭載した他社製品にも見られる特徴なのだが,各社ともにバラつき具合が異なっているので,今回の結果は,Mionixなりのチューンの結果ということなのだろう。使用していてとくに違和感を感じるほどではないので,デフォルトの設定のままで問題はないと思うが,試してみて問題がなければ,「LOW」寄りの値を選択するのもアリではなかろうか。
一方,「HIGH」寄りの値は,よほどのことがない限り,積極的に選ぶ必要は感じなかった。
ここでは,レポートレートを最大の1000Hzに設定したうえで,DPI設定を400・800・1600・3200・7000の順に切り替えつつ,「MouseTester」を実行してマウスを一定時間左右に振り,得られたデータからセンサーの挙動を確認することにした。組み合わせたマウスパッドはARTISANの隼XSOFTだ。
テスト結果は下に5枚並べたとおり。
グラフではY軸のプラス方向が左への移動,マイナス方向が右への移動時におけるそれぞれカウント数,横軸がms(ミリ秒)をそれぞれ示す。青い点が実際のカウント,青い波線はそれを正規化したもので,簡単にいえば,波線が上に乗っていればいるほどセンサーの性能が良好な状態にあるということになるが,全体的には安定していると評していいだろう。あえていえば,400DPIと1600DPIで左右の折り返しあたりが荒れ気味になっているものの,気になるのはその程度である。
センサー周りのテスト,最後は直線補正だ。
Avior 7000の場合,設定用ソフトウェアの「SENSOR PERFORMANCE」タブを開き,右上にある「Angle snapping」から,補正の程度を調整できる。選択肢は0〜15の16段階。ここでは無効となる0と最大値である15を選択し,それぞれ,Windows標準の「ペイント」を使って線を引いてみた。
その結果は下のとおりで,0では確かに,体感レベルにおける補正はない印象で,一方,15にしても違和感はそれほど強烈でない。とはいえ,ゲーマーの選択肢が0しかないことは変わらないのだが。
0設定時のテスト結果。体感できるレベルでの直線補正はなかった | |
15設定時のテスト結果。確かに直線補正はあるが,効き方はソフトだ |
ハードウェア工作精度の
高さを感じる内部構造
最後は分解である。
Avior 7000は,マウスの手前側(=後方側)のソールを剥がし,2本のネジを外すだけで,底面と上面が分離する仕様になっている。基板は2ピース構造で,端的に述べると,内部構造は洗練されている。少なくともごちゃごちゃした雰囲気は皆無であり,エンジニアリングの精度が高い印象だ。
下に示したのはメイン基板のクローズアップだが,これまたごちゃごちゃした感がない。文字が見づらいのは申し訳ないが,搭載する光学センサーは確かにPMW3310DHだ。組み合わされるUSBマイクロコントローラは動作クロック72MHzのCortex-M3コアを採用し,フラッシュメモリを内蔵する,STMicroelectronics製のハイスペックモデル「STM32F103」だった。
デキはよく,完成度も高い
価格以外に不満はなく,「割とアリ」
世の中には俗にいう“『IntelliMouse Explorer 3.0』クローン”が多数存在しているが,そんななか,Avior 7000の場合はどちらかというと,「Razer Taipan」,そして,ゲーマー向けマウスという存在を世界的に知らしめた存在である「Razer Diamondback」系の雰囲気がある。左右対称形状のマウスを探しているゲーマーにとっては,有力な選択肢になるといえるだろう。
実勢価格は8000円前後(※2014年11月12日現在)と,日本では無名と断言していい知名度の割には高めと言わざるを得ないが,投資に見合った満足感を十分に得られるとも筆者は思う。割とアリっすよ,このマウス。
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