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[GDC 2017]「C#ベースのオールインワンエンジン」や「組み込むだけでHDR出力対応できるYEBIS」が出展されたシリコンスタジオブース
ライバルはUnity! C#ベースのオールインワン型ゲームエンジン「Xenko」
シリコンスタジオが5年以上にわたって開発を続けてきたオールインワン型C#ベースのゲームエンジン「Xenko」が,2017年4月に正式リリースされることとなった。
開発最初期にはシリコンスタジオのネーミング規則に従って「HOTEI」という七福神シリーズの名前が付けられていたが,後に「PARADOX ENGINE」と変更され,最終的に「善行」という熟語からとった「Xenko」になっての登場だ。
不思議なネーミングセンスだと感じた人は鋭い。実はXenkoの開発主要メンバーはフランス人なのである。この名前には,おそらく西洋人の考える「東洋の神秘」のようなイメージが込められているのだろう。
さて,Xenkoはオールインワン型のエンジンなので,メインエディタの活用により基本的なゲームメカニクスを構築できるようになっている。リアルタイムストラテジーや3Dシューティングといった,典型的なゲームジャンルのテンプレートを用意してあるため,敵を配置して,それをスイッチベースで駆動するゲームフィールドを作るだけであれば,短時間での開発も可能とのこと。もちろん,複雑なゲームロジックはC#で記述できる。
Xenkoのもう1つのウリは,強力なグラフィックスエンジンだ。シリコンスタジオ製だけに,同社が手がけるグラフィックスミドルウェアの遺伝子を色濃く受け継いだ設計になっている。
レンダリングエンジンは物理ベースレンダリングを採用し,マテリアルシステムは「Mizuchi」のものを継承。複数レイヤーの組み合わせで複雑な材質表現が可能だ。リアルタイムローカルリフレクションや被写界深度表現,疑似スキンシェーダといった最新の画面座標系エフェクトは「YEBIS」譲りのものを搭載しているとのことである。
このほか,UI設計ツールやパーティクルデザインツールといったゲーム開発に必要なツールを一体化しており,その多機能さは,シリコンスタジオが提供する「OROCHI」と拮抗するほど。ちなみにOROCHIは大作ゲーム開発を想定したものだが,Xenkoは小規模開発を想定している点で,コンセプトが異なっている。
また,Xenkoはこのタイミングでリリースされるだけあって,HTCの「Vive」やOculus VRの「Rift」といったVR対応ヘッドマウントディスプレイに対応している。ブースでは,迫り来る敵をローラーコースターに乗ったプレイヤーが撃退していく,射的タイプのVRデモが展示されており,筆者も体験してみた。巨大なボスとの対峙は大迫力で,内容はシンプルながらもグラフィックスは確かにシリコンスタジオ品質だ。
Xenkoの対応プラットフォームは,Windows PC(UWP含む)とXbox One,iOS,Android,Linuxなど。グラフィックスAPIはDirectX 12とVulkanに対応する。
4月のリリースまでは個人用,商用を問わず無償で利用できるとのことで,リリース後は商用ライセンスを有償化していく方針だそうだ。
オールインワン型のC#系ゲームエンジンでは,先行する存在としてUnityがある。後発のXenkoとしては,ビジネスモデルがどうこう以前に,まずは広く活用してほしいようだ。
また,シリコンスタジオは今後もオープンソースプロジェクトとしてXenkoの開発を進めていくとのこと。今後の展開が楽しみである。
Yuriさんが消息不明に? 原因はMizuchi採用プロジェクトの大量同時進行にあった
実写レベルのフォトリアルCGレンダリングを目的として開発された,リアルタイム物理ベースレンダリングエンジン「Mizuchi」。2014年の発表に合わせて公開された技術デモ「Museum」は,「実写にしか見えない」と,日本だけでなく海外でも話題となった。
ただ,この時点では人間などのキャラクター表現が弱点として指摘されていた。そこを改善してきたのが2016年バージョンで,その技術デモとしてアラサー和服OL美人(婚活中という公式設定あり)が登場する「Yuri」が公開になったのは記憶に新しい(関連記事)。
となれば,今年はどんなアップデートが……! と気になるわけだが,担当者によれば「新作デモはありません」とのこと。
その一番の理由は,Mizuchiが実際のプロジェクトへ採用されていることにあるのだという。詳しくは話せないとのことだったが,自動車業界,住宅業界,そして映像制作業界などで活用が始まっており,その技術的サポートで主要開発スタッフが駆り出されているためらしい。
映像制作業界の案件は,映像制作パイプラインそのものをMizuchiで実現し,スピーディな制作スタイルを実現させるものらしく,かなり興味深い。
近年,Epic GamesのUnreal Engine 4が,ドラマ「デスノート」のCGパートや,映画「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」に利用されるなど,ゲームエンジン技術の映像制作応用が増加中だが,Mizuchi採用案件も,もしかするとこれらに匹敵する巨大プロジェクトなのかもしれない。時が来れば公になるはずだ。
HDR出力対応版YEBISがついにリリース。組み込むだけで既存のゲームグラフィックスがHDRに対応
世界的に見ても珍しい存在のポストエフェクトミドルウェアのYEBISは,昨年からHDR出力に取り組んでいたが(関連記事),今年はその機能が製品版に組み入れられることとなった。
HDR対応テレビの標準フォーマットは,4K Blu-rayこと「Ultra HD Blu-ray」が採用する「HDR10」形式(YUV色差10bit HDR,最大1万nit)だが,YEBISはネットストリーミングビデオでの採用事例が多く,HDR10よりも細かい制御が可能な「Dolby Vision」形式(YUV色差12bit,最大1万nit)にも対応する。
また,HDR対応以前のSDR(Standard Dynamic Range)との互換性が高い「Hybrid Log Gamma」への対応も完了したとのことで,そのHDR対応度は業界トップクラス。
YEBISは既存のゲームエンジン(≒グラフィックスエンジン)に組み込むだけで,さまざまなポストエフェクト処理が可能になるのだが,今回,YEBISがHDRに対応したということは,既存のゲームエンジンのレンダリングパイプラインをそのままにした状態で,映像出力をHDR対応にしてしまえることになる。
自前でのHDR出力機能の実装は,HDR対応映像信号に関する深い知見が必要になってくるので,低コストでHDR対応を図りたいのであれば,YEBISは心強い味方となる。今年以降,コンシューマゲームやPCゲームにおいてHDRがブームになると予想されているので,YEBISの引き合いは非常に強くなることだろう。
なお,MMORPG「黒い砂漠」の開発元で知られるPearlAbyssがYEBISを採用したことは,最近のホットトピックだが,今後控えているビッグニュースとしては,「YEBISのUnity向けプラグイン」の提供がある。2016年にβ版が公開されたが,ついに製品版がリリースとなるそうなので,こちらにも期待したい。