インタビュー
「Vainglory」アジア太平洋ゼネラルマネージャーに就任したユン・テウォン氏にインタビュ―。日本人の平均プレイ時間は世界一という意外な結果も
北米をはじめとする世界各国で配信が開始され,ゲーム性も高く評価されている本作。2015年7月13,14日には韓国で世界大会が開催され,e-Sports初のスマホゲームとして認知されてきているという。
今回4Gamerは,同社のアジア太平洋ゼネラルマネージャーに就任したユン・テウォン氏にインタビュ―する機会を得た。ユン・テウォン氏は,WargamingやBlizzard Entertainment,Electronic Artsといった,4Gamer読者であれば誰でも知っているような有名企業で要職を歴任した経歴を持つ人物だ。
そんな氏から,Vaingloryにとどまらず,世界におけるe-Sportsという文化の現状や,スマートフォンゲーム市場の今後など,さまざまな話を聞くことができたので,ぜひ一読してみてほしい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介を兼ねて,経歴についてお聞かせください。
1993年頃の話ですが,私はもともとテキストベースのゲームを制作していました。グラフィックスが存在せず,テキストの打ち込みによって進行していくという内容のゲームなので,若い人はあまり知らないかもしれませんね。
そこから約20年ほどゲーム業界で活動を続けて,いろいろなゲーム会社でキャリアを積み上げてきました。有名どころを挙げると,WargamingやBlizzard Entertainment,Electronic Artsです。
スマートフォン向けゲームの開発会社に関わるのは,今回のSEMが初になります。
4Gamer:
洋ゲー好きであれば誰でも知っているような名だたる企業ばかりですね。SEMにはどういった経緯で入社されたのでしょうか。
ユン氏:
少し長くなりますが,順を追って説明しましょう。
誰もが感じているとおり,昨今におけるゲーム業界の流れというものは,スマートフォンゲームに傾いています。あちこちで「スマホはゲームの未来だ!」と耳にするようになりましたが,私自身は,そのスマートフォンゲームへの流れに対して,少し違和感を覚えていました。
4Gamer:
違和感,といいますと?
ユン氏:
今,スマートフォンゲームといえば,パズルやカードを題材にしたカジュアルゲームが中心で,純粋に腕を競えるような,私を含めたコアゲーマーが求めているタイトルは少なすぎると思います。
4Gamer:
似たようなゲームばかりの中で,「スマホはゲームの未来だ!」というのは確かに違和感を覚えるかもしれません。
ユン氏:
そんな状況の中,スマートフォン向けに「コアゲーマーのためのゲーム」を作っている会社がありました。それがSEMだったわけです。
とはいえ我々は,カジュアルゲーム中心のスマホゲーム市場を,あまり深刻には捉えていません。Super Evil Megacorp(超邪悪巨大企業)という会社のネーミングからお察しいただけると思いますが,我々はノリでやっているのです。
4Gamer:
会社名については以前,Bo Daly氏にインタビューを行ったときにも聞きましたが,常にユーモアを忘れない姿勢を大切にされているのですね。
Vaingloryの面白いところと,問題点とは
4Gamer:
ユン・テウォン氏自身がコアゲーマーでもあるならぜひお聞きしてみたいのですが,Vaingloryの面白いポイントとは,どういったところでしょうか。
ユン氏:
なんといっても,とにかく面白いところです!
4Gamer:
私もプレイしているのでそうおっしゃりたい気持ちはよく分かりますが,もう一言お願いします(笑)。
そうですね。うまく表現しづらいのですが,タッチした瞬間に「これは面白い!」と思える感触こそ,Vaingloryの何よりの魅力だと考えています。
4Gamer:
よく理解できます。触った瞬間に,長く遊べると直感で分かるゲームというものがあって,Vaingloryもその一つです。
ユン氏:
Vaingloryは,Metalの採用によって実現した綺麗なグラフィックスや,タッチデバイス用にきちんと最適化されたユーザーインタフェースなど,ゲームとしての基本要素が高品質にまとまっています。
MOBAというジャンルとして見ても,Vaingloryは画期的です。MOBAといえば,1戦の決着がつくのに大体40〜60分ほどかかりますが,Vaingloryは約半分の20分で試合の勝敗が決まります。
試合時間が短いからといってゲーム内容が薄いということもありません。1分単位で,プレイヤーが対応すべきアクションが生まれるなど,試合中に緊張感が途切れないようなデザインを意識して作っています。
4Gamer:
では反対に,Vaingloryの現状における問題点はなんだと感じていますか?
ユン氏:
新規プレイヤーにアピールする要素や,明確なマネタイズシステムなどが不足している点です。今後のアップデートでそうした点の拡充を図りたいと考えています。
もちろん,そうした要素とともに新ヒーローも追加していきますが,ソーシャル機能やe-Sportsへの関心を高めるトーナメント機能なども必要でしょうね。Android版がリリースされましたが,これから先もすべきことは山積みです。
4Gamer:
ちなみに,Android版のグラフィックスは,Metalを使っているiOS版と比べてどんな違いがあるのでしょうか。
ユン氏:
我々が使っているエンジンは,デバイスのポテンシャルに応じてグラフィックスの品質が変化する仕組みになっています。スペックの高いAndroid端末であれば,iOS版よりも品質の良いグラフィックスが描かれます。
日本人の平均プレイ時間は世界一という意外な結果に
4Gamer:
Vaingloryの日本展開が開始されて,日本独自の傾向や特殊な反応といった面白い発見はありましたか?
ユン氏:
驚いたのが,日本人は平均プレイ時間が非常に長いことです。私は今まで「ゲームの平均プレイ時間が長い国といえば韓国」という認識でしたが,Vaingloryに関しては日本が飛び抜けています。
4Gamer:
オンラインゲーム大国と言われる韓国より上とは。実際のところ,数値としてはどのくらいになるんでしょうか。
Vaingloryの平均プレイ時間は,世界全体だとアクティブユーザー1人あたり1日で75〜85分という結果が出ています。他国と比較して長い結果になりやすい韓国は90分,しかし日本はそれを上回る110分を記録しています。
さらに,この記録は3週間前まで100分でした。「異常な伸び」も見せているのです。
4Gamer:
日本人は対人ゲームを好まないというイメージを漠然と持っていましたが,データはそれを思いっきり覆していますね。
ユン氏:
日本のプレイヤーは,グループで遊ぶ人が多い様子です。他国と比べて平均プレイ時間が長いのは,友達と話しながら長時間遊ぶという機会が多いからかもしれません。
4Gamer:
確かに。自分自身も友人と一緒に遊ぶことが多いので,その理由は納得できます。
ユン氏:
ソーシャルメディアに対する接し方が活発である点も,日本人の大きな特徴だと言えます。我々にとっては非常に喜ばしいことなので,この先はコミュニティの拡大をより支援し,居心地の良い環境作りを推進したいですね。
4Gamer:
長く遊ぶ人が多いということは,実際お金を払ってくれるプレイヤーも他国と比べて多かったりするのでしょうか。
ユン氏:
Vaingloryに限らず,日本はARPU(1人あたりの平均売上高。average revenue per userの略)が高い地域として知られています。
4Gamer:
数値としては?
ユン氏:
正直に言うと,課金率についてはあまり細かくトラッキングしていないので,具体的なデータはありません。SEMは,売上ではなく世界全体で「動画を配信しているプレイヤー」と「それを視聴しているプレイヤー」の数で,本作の成否を計ろうと考えているからです。
4Gamer:
ほう。動画を基準にされているのですか。
私がゲーム開発に携わるにあたって注意しているのは,「プレイして楽しいゲーム」であるか,「見ているだけでも楽しいゲーム」であるかというところです。Vaingloryはそういった意味で強い手応えを感じています。
これらが満たされれば,ビジネスは後からでも成立すると考えており,ビジネスモデルありきの開発を意図的に避けています。
プレイヤーさんに長い間楽しんでもらうこと。そのためにまず肝心のゲームプレイに集中したわけです。
4Gamer:
ゲーマーとしてはうれしいポリシーですが,その姿勢をつらぬきとおすことに,不安は覚えなかったのでしょうか。
ユン氏:
もちろん,ないといえばウソになります。しかし,あるプレイヤーから届いたフィードバッグが,一つの答えになりました。その内容は「Vaingloryは本当に楽しいゲームだから,もっと課金させて(お金を使わせて)ほしい」というものだったのです。それを読んだ瞬間に,我々の進んでいる道は正しいと確信しましたね。
「スマホゲームはPay-to-Winでなくとも成立する」を,証明したい
4Gamer:
スマートフォンゲーム市場の現状は,ユン・テウォン氏の目にはどのように見えているのでしょうか。スマホのゲームといえば,Free-to-Playばかりが目に付き,皮肉まじりに「Pay-to-Win」と言われているタイトルも少なくありません。むろん,そうしたビジネスモデルやゲームバランスを好む人がいるからこそ,市場として成立しているところもあるのでしょうが……。
ユン氏:
Pay-to-Winを好むゲーマーは少ないと思います。実際のところどうなのかといった細かい数字までは把握していませんが,個人的には大嫌いです(笑)。
4Gamer:
いわゆるPay-to-Winの仕組みは,ゲームというコンテンツにどんな影響を与えるとユン・テウォン氏はお考えでしょうか。
ユン氏:
お金を払って手に入れる勝利というものは,我々が求める「楽しむためにゲームを遊ぶ」という純粋な体験を破壊してしまうと考えています。それに全員が右へならえでは,そのうち業界全体が行く先を見失ってしまうばかりか,将来的なゲームプレイヤーを隔離することにつながるでしょう。
Pay-to-Winにあふれたゲーム業界に,コアゲーマーは愛想を尽かすかもしれません。そんな最悪な状況を打破するためにも,私は「スマホゲームはPay-to-Winでなくとも成立する」ということを,証明したいのです。
4Gamer:
SEMが先陣を切ることで業界全体の流れが変わるかもしれません。
ユン氏:
とはいえ,私は常に楽しくやることを大前提に,それほど深刻には考えていません。なんたって,我々は“Super Evil Megacorp”ですからねぇ(笑)。
いまいちビッグウェーブ感のないe-Sports
日本の突破口はどこにあるのか
4Gamer:
MOBAジャンルに限れば,「League of Legends」のヒットでe-Sportsが注目されてきましたが,海外の熱狂っぷりとは裏腹に,日本ではいまいちこの波に乗り切れていない感があります。これはなぜだとお考えでしょうか。
国によって好みは違いますから,日本に合うタイトルが現れていないだけではないでしょうか。突破口となるタイトルが現れれば,日本でもe-Sportsが熱を帯びる時期がくるでしょう。
またe-Sportsは,野球やサッカーといったスポーツと同じように,観戦する人も楽しめるものであるべきです。まずはプロリーグを整備して,スタープレイヤーを生む土壌を作る必要がありますね。そうしなければ,スポーツ自体が成り立ちませんから。
4Gamer:
突破口となるタイトルは,どんな作品でしょうか。
ユン氏:
もちろん,それはVaingloryであってほしいです(笑)。たとえVaingloryではなくても,突破口となるタイトルはいずれ必ず現れます。いつになるのかは分かりませんが。
4Gamer:
ではVaingloryが日本国内で成功するためには,今後何が必要だと思いますか?
ユン氏:
逆に,私がお聞きしてみたいです。このゲームはどうしたら日本で人気が出るのでしょうか。
4Gamer:
私もユン・テウォン氏と同じように考えていて,やはりスタープレイヤーの出現ではないでしょうか。「League of Legends」のFaker氏や,「StarCraft」のSlayer氏,野球であれば長嶋茂雄さんやイチローさんを指すでしょう。
自分で言っておいてなんですが,スタープレイヤーって,どうやって生まれるのでしょうね。
ユン氏:
スタープレイヤーは無から生まれる存在ではありませんから,まずは面白いゲームを作らなければいけません。面白いゲームに人が集まり,戦いと練習を重ねる中で,自然とスターは生まれてくるものです。
4Gamer:
(同席したお姉さんに突かれながら)残念ながら,もうお時間のようです。最後に一つ。ユン・テウォン氏が考えるVaingloryの理想型や完成形を教えてください。
ユン氏:
生涯をかけて楽しめる,世界中で親しまれるゲーム。それがVaingloryの最終目標です。
4Gamer:
ありがとうございました。
「Vainglory」公式サイト
「Vainglory」ダウンロードページ
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(C)2013-2014 Super Evil Mega Corp.
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