レビュー
「シェンムーIII」発売直前企画(後編):海を渡り,香港の地へ――「シェンムーII」の物語と足跡を振り返る
4Gamerでは「シェンムーIII」の発売に先がけて,初代「シェンムー」をじっくりと振り返ってみたが,今回は「シェンムーII」に焦点を当ててみよう。
「シェンムーIII」発売直前企画(前編):1999年に現れた伝説のタイトル,初代「シェンムー」の物語と足跡を振り返る
2019年11月19日,Deep Silverから「シェンムーIII」(PC / PlayStation 4)が発売となる。これを記念して,1999年に登場した第1作「シェンムー 一章 横須賀」をじっくりと振り返ってみたい。かつて散策した横須賀の日々を思い出してもらえれば幸いだ。
初代「シェンムー」のラスト,ついに香港へと渡ることになった主人公・芭月 涼(はづき りょう)。「シェンムーII」では香港を舞台に新しい旅が始まる。
なお,「シェンムー」というゲームの重要なポイントである“寄り道”(アルバイトやガチャガチャ収集など)の楽しさやシリーズの概要は,初代「シェンムー」の記事に触れているので,本稿では割愛する。「シェンムーII」のストーリーとキャラクターを中心に追っていくため,その性質上,ネタバレを含んでいる。その点はご了承を。
「シェンムーIII」公式サイト
「シェンムー I&II」公式サイト
ニーハオ,香港!
いきなり海外の洗礼を受ける涼
長い船旅を終え,香港に降り立った涼は,出発前に陳大人から受け取った紹介状を確認して,桃李少老師のもとへと向かう。ここは頼る者が誰もいない異郷の地。一刻も早く,桃李少老師に会わなくては……。
まず,多くの人が驚くと思うのが,普通に日本語が通じている……というか,現地の人も日本語を話していることだろう。「涼さん,中国語ペラペラ説」を唱えたいところだが,前作では朱元達の手紙が読めなかったことから,それは考えにくい。
とはいえ,言葉が通じないとゲームにならないし,あまり深く考えないようにしたい。
チャイナドレスに見とれていると,海外旅行者目当ての商売をしている現地の人間が押し寄せてくる。せっかく癒やされていたのに!
プンプンしながら進んでいくと,占いをやっている女性に遭遇する。またしてもチャイナドレスだ。フラフラと引き寄せられて占ってもらうと,「お金が離れていく暗示が」と不吉なことを言われてしまう。
ハッとして周囲を見渡すと,ガチャガチャがあった。ああ,そういうことか!
ちなみに前作のクリアデータを保存していると,「シェンムーII」に所持金や所持アイテム,修得した技を引き継げる。もちろん,ガチャガチャで入手したフィギュアも含まれている。
占いどおりに所持金を使い切ってもいいが,ここはクールにストーリーを進めよう。まだ慌てる時間じゃない……。
前作はヒロインの原崎 望を除くと男臭さに溢れていたが,「シェンムーII」は序盤から印象的な女性キャラクターが続々登場する。唐突にバイクで現れる謎の女・ジョイも,その1人だ。
ジョイは涼を気に入った様子だったが,「ひったくりに気をつけな」と助言を残して去っていく。うん,それ,占いでも言われた……。
しかし,それから間もなく,涼はまんまとバックパックをひったくられてしまう。ガチャガチャ,関係なかった。そしてフラグ回収が早すぎる。
所持金が全額奪われたのも痛いが,最大の問題はバックパックに鳳凰鏡を入れていたことだった。涼さんの危機管理能力が問われる……。
なんとかしてひったくりを捕まえるものの,お金は博打で使い切っていた。ナンテコッタイ。そんなときに再びジョイが現れ,方来旅社というホテルを紹介してくれる。
疑い深い筆者は当初,「この女,ひったくりの仲間なのかも……」と疑心暗鬼になったものだが,涼が無一文になったことを知るとアルバイトまで紹介してくれて,終盤まで何かと気にかけてくれる,とても親切な女性だった。疑ったりしてゴメン!
こうなれば何はなくとも,まずはバイトをしなくては。ホテルに泊まれるようになったが,無一文なのでツケになっている状態なのだ。
バイトで宿泊代を稼ぎつつ,ホテルを拠点にして周囲を探索していく。陳大人に教えてもらった住所を訪ねてみると,あいにく桃李少老師は引っ越した後だった。
文武廟という場所にいるらしいという情報を得たので行ってみるが,お参りをしている女性に聞いても「知らない」という。すると,道士らしき人物に「君は,武徳を知っているかね? 武徳とは,武術家に必要な4つの心得。それがわかったとき,老師はお会いくださるだろう」と伝えられる。ここから,桃李少老師に会うために4つの武徳探しが始まる。
桃李少老師はどこに?
香港観光と4つの武徳
武徳とは,武術家であれば誰でも心得ているもの……というアドバイスを受け,近辺の武術家を訪ねていく涼。武術家から出された課題を成し遂げるための修行をしたり,人助けをしたりして,1つずつ武徳を会得していく。
武術家の居所を探す過程で香港の街を走り回ることになるが,ここでは香港観光も堪能できる。
基本的にドブ板商店街と新横須賀港が舞台だった前作とは異なり,「シェンムーII」の“香港の街”はかなり広い。ドブ板商店街と同規模のエリアがいくつも連なっていて,前作と同じ感覚で「よーし,隅々まで調べて,みんなに話しかけちゃうぞー」と意気込むと,ビックリするほどストーリーが進まない。ちなみに,攻略本によるとモブの数は668人らしい。前作の2倍以上である……。
「シェンムーII」では新たに「ギャンブル」も登場する。バイトで元手を稼いだら,(少々ズルい気もするが)セーブ&ロードを駆使してギャンブルに挑戦だ。
冒頭で触れたとおり,序盤からガチャガチャが登場するが,さらにダブッたフィギュアを買い取ってくれる質屋やゲーセンも存在する。「シェンムー」の本領である“寄り道”を,さっそく全力で楽しめるようになっているのだ。
4つの武徳を会得した後に文武廟を訪れると,以前にお参りをしていた女性が実は桃李少老師だったことが判明する。
だが,桃李少は涼の焦る復讐心を見抜いており,彼への協力を拒む。そして,涼を試す算段か,「かかってきなさい」と言い放つ。女性との戦いを望まない涼に対し,桃李少は目にも止まらぬ動きで涼の背後を取り,本気にさせる。しかし,いざ戦ってみると,涼の攻撃は一発たりと当たらなかった。
己の未熟さを痛感する涼。「どうせ,行くあてもないのでしょう?」と,桃李少は部屋へ案内してくれる,そこは彼女の部屋だった。
桃李少老師は本名を紅秀瑛(こう しゅうえい)といい,「秀瑛でいいわ」と言ってくる。自分の部屋に誘い,名前で呼ぶことを許してくれる。こ,これはまさか……。
しかし,期待に反して「ソファーで寝ろ」と言う桃李少。ですよねー。涼は異性に対して,あまり興味がなさそうな雰囲気を出しているが,さすがにこのときばかりは「いいのかな……」という感じだ。
翌朝は女の子の声で目が覚める。桃李少の元でお手伝いをしている薫芳梅(くん ふぁんめい)だ。前作と違って,女性キャラクターがどんどん出てくる。いいよ,いいよ。どんどんちょうだい。
復讐を焦る涼を落ち着かせるためか,桃李少は書庫の本の虫干しを命じる。虫干しはQTEのミニゲームになっていて,毎日続けることになるのだが,ある日,朱元達が書いた「武林書」の存在を知り,その本に挟まれていた紙を見つける。
なんと紙に記されていたのは,テーブルの上に4つの茶碗を特定の形にして待つことで暗号を送る手段だった。そして,涼は朱元達の側近・張と接触することに成功する。
朱元達は黄天会の斗牛という男に狙われているようだ。藍帝の蚩尤門はその上位に位置する組織で,斗牛は藍帝の部下になることを目指している。
そんな斗牛と対立している“ヘヴンズ”という組織があるという。涼は朱元達の手がかりを求めて,ヘブンズのリーダー・レンの元に向かうが……。
レンの一派は香港版マッドエンジェルスといった趣があり,案の定,涼は殺されかけたり,だまされたりする。しかし,涼は何度もしつこく食い下がり,「金の匂い」を感じとったレンの協力をとりつけることに成功した。
レンが知る唯一の情報。それは「朱元達は九龍城にいる」というものだった。涼はお世話になった人に別れの挨拶をして,九龍城に向かう決意をする。
そして,桃李少は涼の意志が揺るがないことを察すると,「せめて,この技は覚えていけ」と“外門頂肘”を伝授してくれる。
桃李少が幾度となく,涼の復讐を止めようとするのは理由があった。彼女は幼いときに両親を何者かに殺され,兄と共に孤児院に入っていた。しかし,兄は復讐に燃え,両親を殺した者の情報を持つと思われる蚩尤門を目指し,桃李少の元を去ったのだ。
桃李少は「拳法は人を活かすためにある」と考えており,復讐に走った兄を「邪道におちた」と評している。涼に自分の兄と同じ道を辿らせたくなかったのだろう。
黄天会・斗牛との戦い
魔宮 九龍城で朱元達を見つけ出せ
九龍城はいくつかの区画に分かれていて,ちょっとした街になっている。香港の街ほどではないものの,新たな地理を把握するにはそれなりの時間はかかるだろう。
九龍城のスゴさは,その部屋数にある。それぞれの区画には「○○楼」という名称の高層ビルがいくつもあり,建物内のすべての部屋に入れるのだ。なかには住人がゲーマーだったのか,「ハングオン」の筐体が置かれている部屋も……。
九龍城では,身を隠していた朱元達をようやく発見できる。しかし,斗牛にあとを尾けられていたため,朱元達がさらわれるという展開に。
朱元達を奪還するべく,黄天楼に潜入を試みる涼とレン。九龍城のラストダンジョンとも言える黄天楼の攻略は,すさまじい長丁場となる。階段を使って17階のフロアを目指し,その途中には斗牛の部下とのバトルが待っている。おまけに大穴が空いていて,細い板を渡してあるだけというフロアも登場。板を渡るときにはQTEが発生し,失敗すると1階へ落とされてしまう。
17階にたどり着くと,あとはエレベーターで40階の屋上へ。ついに斗牛との決闘だ。この戦いではレンやジョイ達が応援してくれるのだが,「君ら,本当に応援してる?」と言いたくなるワードが飛んでくる。
斗牛はさすがに黄天会を率いるだけあって強く,苦戦を強いられる涼。しかし,桃李少老師の教えである「明鏡止水」,そして伝授された外門頂肘で見事に勝利を収める。そして,2人の死闘をヘリから眺めていた藍帝はそのまま飛び去ってしまう。
ようやく救い出した朱元達に,巌の死を伝えると深い悲しみを見せる。朱元達によると,藍帝は巌を父・趙孫明の仇と考えており,その復讐を果たしたという。ただ,本当に巌が趙孫明を殺したのかは朱元達も把握しておらず,「少なくとも藍帝はそう思っている」ようだ。
また,龍鏡と鳳凰鏡は「清王朝復興のために隠された財宝の手がかり」であることも明かされる。鏡は元々,趙孫明が持っていた物で,その後に巌が手に入れて日本に持ち込んだらしい。「財宝」と聞いて,レンは涼に感じていた「金の匂い」が当たって大喜び。
鏡が作られたのは,香港から遠く離れた桂林の山奥にある白鹿村。そこでしか採れない特殊な鉱石「とうが緑石」が用いられているらしい。藍帝が桂林へ向かったことを知ると,涼は単身,桂林に旅立つことを決意する。
夢で見た少女との邂逅。
そして,その姿を現す“莎木”
白鹿村へ向かう涼。その道中,空模様が怪しくなり,やがて大雨が降り注ぐ。そして氾濫する川の濁流に,白い鹿の姿を見つける。
白い鹿を助けようとして,1人の少女が川に飛び込む。あまりにも危険な行動を目にした涼も川に飛び込んだが,2人は濁流に飲まれて気を失ってしまう。やがて気が付くと雨は上がり,涼と少女,白い鹿も無事だった。
少女の名は莎花(しぇんふぁ)。白い鹿は村の守り神だから助けずにはいられなかったという。涼は気づいていないが,莎花は前作において涼の夢に現れていた。プレイヤーだけが,2人の不思議なつながりを知っているというわけだ。
莎花は白鹿村に住んでいるというので,一緒に向かうことになる。そして白鹿村の場所を尋ねると,「ここから山を2つ越えたところ」と軽く言い放つ。この発言をプレイヤーは,あまり重く受け止めないに違いない。ゲームの「山を越える」なんて,たかが知れている。
しかし,ここから白鹿村までの道のりはQTEの連続,かつメチャクチャ長い。山育ちらしいタフネスを見せつける莎花に対し,涼はついていくのがやっと……といった雰囲気だ。
山中の洞窟で一泊して,もうお腹いっぱいです……というくらいに歩くと,ようやく莎花の家に到着した。この道のりを実際に歩いたら,筋肉痛で1週間は苦しむことになりそうだ……。
莎花の家の庭には,1本の大きな木が生えていた。これこそが“莎木”(シェンムー)。タイトルになっている木がようやく登場したのだ。荘厳なBGMが流れるこのシーンは,「ついにここまで来た……」という感慨が湧いてくる。莎木に咲く桃色の花は桜に似ていて,その名前が莎花。彼女の名前は,ここからつけられたものだ。
莎花の父親は石工で,今も石切場で泊まり込みの作業をしているらしい。そんな話を聞いていると,寝室から龍鏡と鳳凰鏡を描いたと思われる図面が見つかる。
莎花の父は鏡について何かを知っている。そこで翌日,石切場へと向かうが父親の姿はなく,莎花によると「いつもと様子が違う」。
父を探して洞窟に入ると,莎花が「入らせてもらえなかった」という扉が開いている。2人がおそるおそる足を踏み入れると,一通の書き置きと“七星剣”が置かれていた。
莎花の家に伝わる七星剣を台座の口に挿し込むと,仕掛けが作動して壁一面に掲げられた巨大な龍鏡と鳳凰鏡が姿を現した。
ここで,村に古くからあるという言い伝えを莎花がつぶやく。
…その者,東の遠つ国より,
海を渡りてあらわれり。
若者,秘めし力,いまだ知らず…
彼の身,滅ぼすことも,
彼の願い,かなえしことも…
その者,勇み立つ時,我を求めん。
ともに荒れ野の道を行かん。
待ちて願え,邂逅は我のいにしえよりのさだめなり…
地より現れし龍が黒雲をいざない,天を覆うも…
舞い降りし鳳凰,その翼によりて
紫風を生むが如く,
漆黒の夜はひろがりしも…
明星はひとつ…燦然と輝く。
その言葉の意味を噛みしめるように2人が見つめ合うと,なんと「シェンムーII」はエンディングに突入するのだ。ドリームキャスト版の発売当時,大勢のファンが「え? ここで? おォォィィ!」と悶絶したことだろう。もちろん,筆者もそうだ。
白鹿村の言い伝え。ドリームキャスト版をクリアした当時の筆者は,日本から海を渡ってきた涼が白鹿村に現れることを暗示したものだと思っていた。さらに「彼の身,滅ぼすことも,彼の願い,かなえしことも…」という部分から,涼は藍帝を倒して父の仇討ちに成功するが,その代償として命を落とすのでは……といった想像をしたものだ。
あれから十数年。筆者はリマスター版のクリア後,これは巌のことを指しているのかもしれない,と考えるようになった。「彼の身,滅ぼすこと」は巌が藍帝に殺されることを意味し,「彼の願い,かなえしこと」とは巌が願っていた何かを,父に代わって涼が成し遂げるという意味ではないか。若きの日の巌も海を渡って白鹿村にたどり着き,莎花の父も七星剣を手に,巌と共に何かに立ち向かったのではないか,と。
未完のゲームであるがゆえに,こうした想像を膨らませるのも楽しい。
しかし,言い伝えにある「待ちて願え,邂逅は我のいにしえよりのさだめなり…」という部分には,今だからこそ別の意味でグッとくるものがある。
かつて「シェンムー」という作品に触れて何かを感じた人の前に,十数年の時を経て「シェンムーIII」が現れようとしている。そう,まさに“待ちて願った”結果,“邂逅”を果たそうとしているのだ。そして,これは「いにしえよりのさだめ」だとしたら,まったく予言にもほどがある。
──さあ,準備はできた。初代「シェンムー」と「シェンムーII」を振り返ったのならば,心置きなく「シェンムーIII」の冒険に挑もう。涼と莎花が,藍帝との因縁が,ガチャガチャが,そしてフォークリフトが,あなたを待っている。
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