インタビュー
「オーディンスフィア レイヴスラシル」押切蓮介氏×マフィア梶田対談。本作の魅力とそのほか気になることを語る
4Gamer読者ならご存知の諸事情により,長らくメディアへの露出がなかった押切氏だが,今回その押切氏の熱烈なファンであり,そして旧知の仲であるマフィア梶田との対談が実現した。場所はアトラスの1室をお借りし,PS4版の本作とさらにはお菓子まで用意いただきながら,押切氏の近況やレポート漫画の連載,そして本作の魅力についてふたりに語ってもらった。
コントローラを握りながら,ときにお菓子をつまみつつ,あるいはお菓子を食べながら(?)友達の家気分で話してもらったので,その場の空気を感じながら読み進めてもらえると幸いだ。
「オーディンスフィア レイヴスラシル」公式サイト
「押切蓮介の実録コミック!オーディンスフィア レイヴスラシルを追え!」
いろいろあったけど,
漫画家としてダメにはならなかった
マフィア梶田:
まずは押切先生お久しぶりです。いろいろありましたが。
お久しぶりです。本当にいろいろ……いろいろありましたよ。
マフィア梶田:
久々のメディア出演ということで,本題に入る前にまず近況についてうかがいたいんですが……「ハイスコアガール」の件が和解に落ち着きましたね。
押切氏:
はい,もう落ち着いて。まるで最初からなかったかのような……。
マフィア梶田:
いやいや(笑)。俺も当時からいろいろ事情は聴いていたんですけど,先生は心穏やかではなかったですよね。
押切氏:
さまざまな経験をしました。この件は3,4年くらい続くかと思っていましたし。
マフィア梶田:
そうだったんですか。
押切氏:
起訴,不起訴がいつ決まるのかわからない状況が半年以上続きましたから。与えられた連載を前向きにこなしながらも,裁判に立たされたら「俺を殺せ!」と叫ぶ想像ばかりしてました。
マフィア梶田:
先生は前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからないですよね(笑)。
押切氏:
良い意味で後ろ向きなのかなと思います。
まずこの件については,漫画を楽しみにしてくれていた人達に申し訳なくて……そして,去年の8月のサイン会に朝から並んで応募してくれた,99人の方々にも申し訳ないです。
漫画家として軌道に乗って図に乗り始め,2014年は良い年になると思っていた矢先に事件,連載中止,自主回収,サイン会中止……そして書類送検となった“糞漫画家”の漫画は必ず描きます。お騒がせしてしまった経緯はそこで描かせてやってください。
どんな漫画になるか,いろいろ想像が膨らみますよ。絶対面白い。でも,いまだからこうやって当時の話をできているけど,あの事件直後は……。
周りにいる人間でも,どう声をかけてよいのかすら分からなかった。
押切氏:
落ち着いたころに連絡を取り合って,梶田さんと飲んで話をしたときは,本当に支えられましたよ。
梶田さん自身は「KAJIMEST」(カジメスト)(※)が絶版になってしまったわけで,この件の被害者なんですよね。そういう意味で僕は負い目を感じていたから。
※責任執筆をマフィア梶田が務めた「ハイスコアガール」初の公式ファンブック
マフィア梶田:
いちファンとして光栄でしたし,精魂込めて作った本だったので絶版はたしかに残念ですけどね……。
それよりあの大変なときに,先生の力になれたっていうのが嬉しいですよ。もちろん俺だけじゃなく,いろんな人達が先生を信じて,力になろうとしていたわけですけどね。
押切氏:
そう言ってもらえると本当にありがたいです。
マフィア梶田:
それこそ「ピコピコ少年SUPER」にもありましたが,親友の山田君がタクシー飛ばして駆けつけてくれたわけじゃないですか。そして押切先生が,一連の問題が落ち着いてからと箱を開けずにいたPS4を「いまこそ開けるんだ」と。
押切氏:
そうですね。彼にも支えられました。本当に素晴らしい友達なんです。感謝の気持ちも込めてピコピコ少年SUPERの最終話でその様子を描きましたが……ただまあ,あの時彼は僕に,ゲームで気を紛らわせろって意味でPS4を箱から出せと言ったのではなく,彼自身がやりたかったんです,おそらく。
おまけに追い討ちをかけるような,ショッキングな話をぶちかまされて凹みましたよ。裏ではいろいろとあったんですよ。
マフィア梶田:
なんならこの対談で出しちゃいましょうか,そのぶちかまされたって話を(笑)。
支えになった人といえば,それこそ事件の最中であった時期に,押切先生自身のお母さんがモデルとなった「HaHa」を描かれたじゃないですか。警察署長だった父を持つお母さんって,かなり頼もしい存在だったんじゃないですか?
押切氏:
母は「どーんと構えていなさい」と,「書類送検で不起訴だ」と言ってましたが,本当にそうなった。
「誠実に謙虚にやっていれば悪い事は起きない」と,母は昔からうるさく言っていて,一応それを今まで守ってきたつもりでしたが,今となっては目つきもますます悪くなってきて……積み重ねても積み重ねても堕ちていく自分に嫌気がさしました。
マフィア梶田:
信じていた世界が覆されたというか……良いと思ってやってきたことがうまく好転しない,むしろ悪い方に転がったりしたのだとすれば,それは気持ちがふさぎ込んじゃって当然ですよ。
押切氏:
去年のはじめのほうで青信号なのに車に2回ぶつけられました。さらに車にぶつけられて逃げられた直後,今度は知らない人達の喧嘩に巻き込まれたりと,散々な目にもあいましたよ。ただ何があっても無傷なので,運がいいのか悪いのか,自分でもわけがわかりません。
マフィア梶田:
でもこの話って,まさに「どうして俺」という“俺クオリティー”(※)な話ですね。
※食堂に行くと劣悪な席に通される,初期不良の商品をよく引き当てる……といった,なぜか自分だけ酷いめにあう不条理な出来事を,自分自身の中にある“俺”という存在によって引き起こしてしまうこと
押切氏:
それで,「家に居れば車に轢かれることも,喧嘩に巻き込まれることもないぞ」と引きこもって漫画を描いていたわけですが,「家宅捜索だ!」と刑事の皆様方が,安全のはずの我が家にお揃いでいらっしゃったんです。こんな話ってあまりないですよね。
マフィア梶田:
漫画でしかありえない展開じゃないですか! そんなことが現実にあったことが驚きですよ。しかし最強のネタを手に入れましたね。
押切氏:
もしハイスコアガールが“アーケード陵辱ラブコメディ”だったら己のわいせつぶりに罪の意識で震え上がってたでしょう。
アーケード凌辱ラブコメディってなんですか(笑)。でもそうですよね,まだキスもしていない男女の恋愛話,“アーケード純愛ラブコメディ”を描いてたわけですからね。そんな漫画家が家宅捜索受けるって,これまでない話ですよ。
押切氏:
警察は家にあった「でろでろ」の留渦のラフを見せてきて「これは大野さんか? どっちや!?」と聞いてくるのです。僕は黒髪の女の子の描き分けがとにかく下手なので,警察もその判別に戸惑ったのでしょう。
マフィア梶田:
え,それマジなんですか,冗談じゃなくて? そもそも,それを聞いてどうしようっていうんですかね。おそらく証拠のひとつにするんだろうけど。
押切氏:
そうなんでしょうね。それで,「これはなんや,『ミスミソウ』の春花か留渦か分からへん」と。家宅捜索されながら己の描き分けのなさを痛感しました。
マフィア梶田:
そんなの面白すぎるでしょう! でも,本当に解決してよかったですよ。
押切氏:
ありがとうございます。まずいまは,マイナスからゼロに戻すために頑張ります。
レポート漫画を読んだ人に,本当にゲームを買おうと思ってもらえるかは不安
マフィア梶田:
近況を軽くお聞きするつもりが長くなりました。今日はなぜ押切先生に時間をいただいたかというと「オーディンスフィア レイヴスラシル」をがっつり遊んで,その魅力をふたりで話していきましょうと。久しぶりに先生と一緒にゲームを遊べるということでね,俺は嬉しいんですよ。
押切氏:
ありがとうございます,僕も嬉しいです。
マフィア梶田:
押切先生は,本作の公式サイトで「押切蓮介の実録コミック!オーディンスフィア レイヴスラシルを追え!」というレポート漫画を執筆されてますよね。この対談が掲載される頃には第1話が掲載されているわけですが,今回の話ってそもそもどういう経緯で関わることになったんですか?
押切氏:
ゲームの宣伝をしているプランナーの方から,ちょっと話があるから来てって言われて,全然どんな依頼か知らないまま行ったんですよ。それで,PS2の「オーディンスフィア」が新しくなって出るから,それを紹介する漫画を描いてくれと。でもね,僕の作品とは世界観が違うので。
マフィア梶田:
先生はいろんなジャンルの漫画を描いているけど,たしかに本作のようなファンタジー作品を描くイメージはないですよね。
押切氏:
もちろんファンタジーは好きなんですよ。だけど,どんな漫画描いたらいいかは全然分からなくて。
マフィア梶田:
でも受けたんですよね?
押切氏:
「『ピコピコ少年』みたいなので大丈夫です」って言われたんで,「あ,ハイ」と。「朧村正」(Wii / PS Vita)も「ドラゴンズクラウン」(PS3 / PS Vita)もプレイしておりましたし。
マフィア梶田:
なるほど。じゃあ元々アトラス×ヴァニラウェア作品は好きだったんですね。
押切氏:
そうですね。ただPS2のオーディンスフィアはプレイしていなくて……。当時(2007年)は,週刊連載も月刊連載も死ぬほどあって,凄く忙しい時期だったから。
マフィア梶田:
第1話のゲラを読みましたが,まさにいま話していただいた,仕事を受けるまでのエピソードが描かれていますね。とてもピコピコ少年らしくて面白かったですよ。
うーん……でも,このゲームのコンセプト的に,果たして僕の漫画を読んで「よし,このゲームを買おう」って思ってくれる人はどれだけいるのかなって,いまだに不安になるんですよ。だって第1話が僕の話ばかりで,肝心のゲームが出てこないじゃないですか。
マフィア梶田:
(笑)。それはでも,ピコピコ少年でって依頼で描いているわけだし,読者としても馴染みある展開だから,違和感なく読めるわけですよ。不安に思うことなんてないし,影響も大きいはずですよ。
横スクロールアクション全盛期を知る世代は,この進化は凄いと感じるはず
マフィア梶田:
じゃあさっそく押切先生にゲームをプレイしていただきながら,話を進めたいと思うんですが,押切先生はこの連載のため,どれぐらいプレイしましたか?
押切氏:
プレイしたのは7月だから結構前になりますね。3時間半くらいやりました。アトラスのオフィスでプレイしたとき,何回かバグを引き起こして続行不可能になったりして,取材しながらデバッグも初体験させていただいたような気分でしたよ(※)。梶田さんはどうですか?
※押切氏がプレイしたのは開発途上のもので,操作性やシステムなど調整前の状態だった
マフィア梶田:
俺ですか? 東京ゲームショウ2015のステージ出演もあったので,全キャラクターを触ったし,けっこうプレイしましたよ。操作性もドラゴンズクラウンに近いんで,普通にすんなり遊べましたね。
それこそこういう横スクロールアクションゲームって,押切先生の過ごした時代に一番流行ってたジャンルじゃないですか。その黄金期を体験した押切先生が,プレイしてどう感じたかをぜひ聞いてみたかったんですよ。
押切氏:
この時代に横スクロールアクションを作ってくれることがかなり好感度高いです。子供のころ「源平討魔伝」とか,「スプラッターハウス」とか,「妖怪道中記」を好きだった自分にとって,この進化は素直に凄いと思います。これを作ろうって制作陣の意気込みが素晴らしいですよ。
マフィア梶田:
新規に追加された独特の成長システムやらスキル強化などに触れてみると,横スクロールアクションって,まだ面白くできるんだなって驚きますよね。
押切氏:
いままでのアトラス×ヴァニラウェア作品のプレイ経験が生かせているのかな,操作感を脳が覚えているという感じでプレイできるって思いました。
マフィア梶田:
操作性高いですよね。あと,コマンド入力で技が出たりするじゃないですか,あれが楽しくて。コンボがガリガリ繋がっていく感覚も良いですよね。ずっと続けていたくなっちゃいますね。
押切氏:
僕の好きな格闘ゲームっぽいですよ。
マフィア梶田:
これまでプレイしてみて,一番肌に合うキャラって誰でしたか?
押切氏:
実はオズワルドがけっこういいかなって。バーサクモードが気持ちよかったんですよ。
マフィア梶田:
バーサクモードを使うと鬼のような火力が出ますよね。操作性もグウェンドリンに近くて使いやすいですし。
押切氏:
動きが速くてぬるぬるしていて気持ちが良いです。……対談の企画なのにゲームをプレイしていると押し黙ってしまいますね。あと,こうやってひとつの部屋に人が集まってゲームをプレイしていると,友達の家に居る錯覚を引き起こします。なんだかお菓子が欲しくなってきますよ(笑)。
マフィア梶田:
とか言っていたら,本当にお菓子がきましたよ! コントローラをベタベタにしながらプレイしてやりましょうよ。
押切氏:
至れり尽くせりじゃないですか。ゲームしながらお菓子食べて……これ本当に仕事ですよね? こんなのバチが当たるなあ。でもいいな,会社で働くっていうのも楽しそうだな,本当に。
マフィア梶田:
いやいや,普通は会社って全然こんな感じじゃないですから(笑)。
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