インタビュー
リメイク版「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」のサウンドはこうして作られた。伊藤賢治氏と小山田プロデューサー,サウンド制作チームに聞くこだわりの理由
そこで今回,3月30日に予定されているオリジナル・サウンドトラックCDの発売に先駆け,サウンド面から聖剣伝説の魅力を引き出していく対談を企画してみた。伊藤賢治氏とリメイク版のプロデューサーである小山田 将氏へのインタビューを第1部,リメイク版のサウンドアレンジを手がけたチームの対談を第2部として,聖剣伝説のサウンドがいかにして生まれ,そして生まれ変わったかに迫ってみる。
伊藤氏が初めて一人でサウンド制作を手がけ「作曲家として独り立ちさせてくれたタイトル」と語る聖剣伝説だけに,記事中のさまざまな言葉から“ゲーム作曲家・伊藤賢治”の成り立ちが見えてくるはずだ。取材は合計2時間を超え,なかなかのボリュームとなっているが,じっくりと読んでいただきたい。
なお,記事中の聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-は,ゲームボーイ版,リメイク版と表記する。
「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」公式サイト
「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」オリジナル・サウンドトラック公式サイト
【第1部】伊藤氏と聖剣伝説プロデューサー小山田氏に聞く
原典への思いとリメイク版への熱いこだわり
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは先日開催された聖剣伝説ライブ「SQUARE ENIX Presents 聖剣伝説LIVE 〜Echoes of Mana〜 Produced by Kenji Ito」(関連記事)を振り返っての感想をお願いします。
小山田氏:
はい。イトケンさん,(深々とお辞儀をしながら)まずはありがとうございました。
お疲れ様でした。
小山田氏:
開発・運営スタッフ一同もそうだし,ファンの方々の反応を見ていても,すごく感動的なライブだったのが印象に強く残っていますね。ゲームの物語を追った曲構成で,聞いているだけで自然と涙が出てくるという。
「ファイナルファンタジー」や「サガ」ともまた違った,独特な空気のライブでした。当時のプレイヤーさんはもちろん,これからプレイする方にも「聖剣伝説ってこういうタイトルなんだよ」というのを伝えるのに最高の舞台だったと思います。
4Gamer:
プレイした人は追体験を,知らない人は雰囲気を感じられる構成でしたね。
伊藤氏:
自分が音楽を担当したという思い入れだけでなく,作品全体がこれだけ“エバーグリーン”な感じになるとは思っていませんでした。それが25年間という時間を経ても,音楽や映像にみんなが感動してくれるというのは,制作者冥利に尽きます。
しかもその思いを今後も語り継いでくれるでしょうから,完全に我々の手を離れて,受け取った人達それぞれが育ててくれるという,理想的な作品になったんだなとあらためて思いました。
だって,ストーリー自体はシンプルですし,「ファイナルファンタジー」シリーズみたいな大ボリュームでもありませんしね。
4Gamer:
10時間程度でエンディングまでたどり着けますし。
小山田氏:
だからこそ,曲目でゲームの展開をなぞることができたとも言えますからね。とくにレスターのシーンの演出がよかった!
伊藤氏:
少しこぼれ話をすると,当日のゲネプロ(最終リハーサル)のときは,レスターのシーンの映像タイミングが違っていたんです。本来なら,直前の中ボス,デビアスを倒したあとの会話で,「僕が奏でるハープのメロディが,暗黒の霧をも晴らすのさ」のセリフ直後に「想いは調べにのせて」が流れるんですけど,リハーサルではその後の「はやく愛する人に会えるといいね」というセリフのあとの映像が流れていたので,大慌てでストップして,急遽タイミングを直してくれと依頼をしました。
4Gamer:
ゲーム中のシーンやセリフを今でも覚えていたわけですね。
伊藤氏:
ええ。ただ,相手が外部の協力スタッフだったこともあって,僕は普通に説明していたつもりだったんですけど,あとから当日キーボードとギターを担当してくれた上倉(紀行)君に,「イトケンさん,本気でダメ出ししてましたね」と言われてしまって(笑)。
4Gamer:
ゲーム中ではBGMがない街にレスターの奏でるハープの音色が流れてくるという,音楽が印象的に使われるシーンですからね。思わず本気になってしまう気持ちも分かります。
伊藤氏:
なので,そこから急きょ曲の間やムービーを調整したんですけど,本番で小山田さんや来場者の皆さんがそう感じてくださったのなら,こだわって良かったなと(ニッコリ)。
4Gamer:
意外という点では,まさかゲームボーイ版のエンディング映像まで流れるとは思っていませんでした。25年前のタイトルということもあるのしょうが,「The End」の画面まで見られて,ゲームをもう一度プレイしたような気持ちになりました。
さて,せっかく小山田さんもいらっしゃるので,ゲームの話も聞かせてください。聖剣伝説をリメイクしようと思われた理由は,どこにあったんでしょうか?
小山田氏:
ちょっと説明が難しいですが(笑)。25周年というタイミングを鑑みたときに,原典であるゲームボーイ版をすっとばして何かをするのはどうなんだろうと個人的には思っていました。
もちろん「新約 聖剣伝説」(以下,新約)は新約で完成された一つのタイトルだと思っていますが,それをまたリメイクするのではなく,25周年という機会だからこそ原典に回帰すべきだろう,と。それに,現行ハードで聖剣伝説シリーズのタイトルを遊べるようにしたいと思っているんです。なので今回のリメイクをきっかけに,2,3と展開できる道筋を作っていけないかなとは考えています。
4Gamer:
基本はオリジナルに忠実にということですが,変えた部分,変えなかった部分を具体的に教えてください。
小山田氏:
シナリオであったり世界観は当時のままですし,フィールドの構成は3D化によって矛盾が生じない限り変えていません。ただ,ゲームとして,昨今の遊びやすさであったり3Dモデルにするうえでの表現の拡張性を意識しています。
リメイクで追加した部分としては,ゲームボーイ版では容量の都合などで諦めざるをえなかった演出を“復刻”しています。そのうちの一つが,シャドウナイトの仮面。カートリッジのデータ内には仮面のないドット絵があるんですけど,ゲーム中では使われていませんでした。それには追加演出を入れています。
グラフィックスやサウンド,遊びやすさを一新したリメイク版。敵の攻撃パターンが増え,アクションRPGとしての手応えが増している。武器やアイテムのセットが楽になるなど,遊びやすさもアップしてる |
シャドウナイトとの戦いに勝利すると仮面が外れるなど,ゲームボーイ版ではデータとしては存在したが,実装されなかった要素が“復活”。オリジナルを大事しつつ,思い出を壊さない形での新要素となっている |
4Gamer:
基本的にはゲームの根幹を変えず,遊びやすさに手を入れたということですね。確かにゲームボーイ版を今プレイすると,アイテムや武器の切り替えなどに煩わしさを感じるかもしれませんし。
伊藤氏:
でも逆に言えば,「カギが足りない!」「マトックしか効かない!」といった状況を乗り越えてクリアしたという部分も,記憶に刻み込まれていて,そこで感動する部分もあるかもしれませんね。
4Gamer:
グランス城や奇岩山ですね(笑)。
小山田氏:
実はそこはけっこう悩んだところで,今のプレイヤーはカギを持っているだけじゃダメで,装備しないと扉を開けられないというのは分かりづらいのではないかと。
実際,デバッグチームから「持っているけど扉が開かないです」という指摘があったんです。とはいえ,原作から極力変えないというのがコンセプトなので,ショートカットにセットしておけば自動で使ってくれるようにしました。マトックも同様です。
4Gamer:
プラットフォームをiOS,Android,PlayStation Vitaの3機種としたのは?
「聖剣伝説 RISE of MANA」(PlayStation Vita / iOS / Android)を展開していたハードという形で選びました。具体的なことはまだ言えないのですが,今後はPlayStation 4やPCなど,より多くのハードで遊べるようにする必要があると思って,準備を進めています。
伊藤氏:
失礼な言い方だけど,RISE of MANAって人気のあるタイトルでしたしね。それだけに(サービス終了は)惜しかったなというところはあります。
小山田氏:
プレイヤーさんに対してあまりにもアコギな商売はしたくないんですよ……。これは開発者の意識なんで会社に対して言えないんですけど(苦笑)。
ゲームボーイ版の当時と違って,ソーシャルゲームって終わりがないものじゃないですか。ですから同じバランスとはいかないですが,開発チームとしては,ゲームとしての感動は味わってもらいつつ,とはいっても商売もしなきゃいけないので適度にお金をもらいつつ……というバランスでやっていました。
4Gamer:
そこのバランスは本当に難しいですよね。
小山田氏:
ええ。結果,ちょっと“ほのぼの運営”といわれるほどに,昨今のソーシャルゲームの中ではゆる〜い感じの運営になりました。ですが,収益面のバランスも考えて次に向かって動かないと,開発・運営チームが疲弊してしまうんです。
プレイヤーの皆さんにはとても申し訳なかったのですが,苦渋の決断をさせていただきました。
伊藤氏:
ライブのアンコールでRISE of MANAの曲を演奏したのは,実は小山田君からのリクエストだったんです。正直どれくらいの反応があるのかは分からなかったんですが,こちらが思っていた以上にファンの方が喜んでくれたみたいで嬉しかったですね。
4Gamer:
“コンシューマ版とソーシャル版は別物”みたいに,互いのプレイヤー層がかぶっていない可能性もあったけど,そんなことはなかったと。
小山田氏:
おそらく,RISE of MANAを始めた当初はその認識で間違っていなかったと思うんです。ただ,RISE of MANAを展開する過程でいろんな世代の方に届くよう,聖剣伝説2,3,LEGEND OF MANAとのコラボといった活動をしていったので,次第にさまざまな世代が混ざってきたのかなと。
実際,そういったコラボで,これまで遊んでいなかったシリーズ作に興味を持ってくださったという反応もいただきました。
ゲームに寄り添うことにこだわりぬいた
楽曲のアレンジテイスト
4Gamer:
楽曲についてはどのようにアレンジの発注をされたんでしょう?
小山田氏:
話すとちょっと長くなるんですが,リメイク版の試作を行ってるときに,仮音としてオーケストラアレンジの楽曲をBGMに使っていたんです。
伊藤氏:
服部隆之さんがアレンジしてくださったサウンドトラックCD(※「聖剣伝説 ファイナルファンタジー外伝 想いは調べにのせて」)に収録されているバージョンね。
小山田氏:
ええ。最初はゲームボーイ版の音をあてていたんですが,やはりポリゴンにピコピコ音は違和感があって,そこでCDの音源に差し替えてみたんです。すると,今度はどうにも“曲が勝ちすぎて”しまったんですね。
なのでイトケンさんに相談するときはその試作品を見せながら「曲のリッチさをちょっと抑えてください」と,申し訳ないお願いをすることになってしまって。
伊藤氏:
「ここはトランペットの華やかさよりも,木管での“静かさの中に見える熱さ”を出したい」みたいに突っ込んだ指定もありましたから,オリジナルのゲームボーイ版に準じたアレンジなんだなと理解できましたね。
一度完成したと思っていた曲でも「もっと抑えてください」というリテイクがありましたし。
小山田氏:
矢面に立ったのが「果てしなき戦場」でしたね。最初のテイク(「果てしなき戦場 -More Rock! ver.-」)は楽曲単体としてはテンションの上がる素晴らしい完成度だったんですが,ゲームに実装するとなぜか乖離してしまうという感覚があって。
伊藤氏:
果てしなき戦場は上倉君のアレンジなんですけど,小学生時代に夢中になって遊んだ思い入れのあるタイトルということもあって,彼なりに力を入れていたんです。
そういう意思を汲んでのことではあったんですが,申し訳ないのだけど修正をしてくれと。思い入れは大事だけど,そればかりではゲームとして成り立たないということをあらためて噛み締めることになりましたね。
小山田氏:
繰り返しますけど,修正前もめちゃくちゃいいアレンジなんですよ。
(一同爆笑)
伊藤氏:
そのことがあったので,僕が担当した曲でも過度なアレンジは踏みとどまりました。例えばラストバトル曲「最後の決戦」はすごく短いので,フレーズを追加しようかと思っていたんですが,オリジナルを踏襲するという方向性となったのであえて作らず。
小山田氏:
石井(浩一)さんが「新約」で新たに答えを出したので,原典に必要以上の手を入れるのは違うのではないかという話もしましたね。
伊藤氏:
そうそう。さっき小山田君からシャドウナイトの仮面の話が出たけど,実はBGMにもROMには入っていたけど使われていなかった「街」があって,それも今回のリメイク版で復活していますね。
4Gamer:
そのあたりも注目ポイントというわけですね。
それでは,もうまとめの質問になってしまうのですが……。まずは,伊藤さんが当時と今を振り返ってみて,また今回新たにアレンジ曲を作ってみての,率直な感想をお聞かせください。
最初にリメイクのお話をうかがった時に、原作を踏襲して、ほぼいじらずにあの世界観を100%再現することを予定していますと聞いたのですが,新しい要素も入れないで大丈夫かな? と思ってしまいました(笑)。でも、制作に携わっていく中で,「全然問題ないんだな」と思ったりして。作ってみないと分からない部分が多いとあらためて思いましたね。
そういった意味で,懐かしさ含め,この曲を作っていた時はああだったなとか,スクウェアも30人前後しかいなかったよなとか。当時の作品を作った者しか味わえない,幸せな時間を過ごせました。
4Gamer:
そういった伊藤さんの想いや,石井さんの想いを受けて,新たな作品として生まれ変わらせたわけですが,昔遊んでいた方,新しく遊ばれる方へ小山田さんからも一言お願いします。
小山田氏:
昔,原作を遊んだ人に対しては,当時の感動を再現出来たか不安ではあるのですが,頑張りましたので,ぜひ遊んでいただきたいです。また,これから遊ぶ人に関しましては,今まで手に取ったゲームとはまた少し違う感じがあるとは思うのですが,こういった面白いゲームがあるんだよ,と知っていただくきっかけになってもらえればと思いますし,これを機に聖剣伝説シリーズに興味を持ってもらえればと思います。
伊藤氏:
小山田君は世代的にプレイヤー側に一番近い立場だと思うんですよ。きっと彼自身が面白いと思ったなら,それが成功だと思うんです。小山田君が感じたように,「これは自分にとって面白いから絶対に出す」みたいな熱意があれば,そのタイトルは成功するのだと思います。
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- ライター:馬波レイ
- カメラマン:増田雄介
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