インタビュー
「『聖剣伝説』25th Anniversary Concert」開催記念インタビュー第2弾。「聖剣伝説」シリーズのキーマンに聞く,歴代開発陣が受け継いできたその精神とは
昨年末に掲載した,伊藤賢治氏,菊田裕樹氏,下村陽子氏ら,「聖剣伝説」シリーズの作曲家陣へのインタビューに続き,今回は歴代クリエイターへのインタビューだ。ご登場いただくのは,シリーズの生みの親的な存在である石井浩一氏,「聖剣伝説2」ではプロデュースとシナリオ,ゲームデザインを,「聖剣伝説3」ではディレクションを担当した田中弘道氏,そして現在このシリーズをプロデュースしている小山田 将氏だ。
「ファイナルファンタジー外伝」としてシリーズが誕生した経緯や,代替わりする開発陣に25年間受け継がれる,聖剣伝説への想いについても聞いてきた。
「Music 4Gamer」
「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」公式サイト
「ファイナルファンタジー外伝」のサブタイトルが,
「聖剣伝説」を形作る契機となった
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
「聖剣伝説」の25周年を記念したコンサートを開催するということで,歴代クリエイターの皆さんにもぜひ当時を振り返っていただきたいと思い,お時間を頂戴しました。
石井浩一氏(以下,石井氏):
25周年……。
自分としては正直,「そんなに経ってたっけ?」という印象ですけどね(笑)。
小山田将氏(以下,小山田氏):
正式には2016年の6月28日が,ゲームボーイで発売された「聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜」から25周年でした。それに先駈ける形で昨年は,PlayStation Vitaとスマートフォンで,リメイク版を発売させていただいて。
4Gamer:
ではまず,コンサートにちなんで音楽面についてのお話を聞かせてください。
各タイトルを開発する段階で,音楽に関しては田中さんと石井さんは,コンポーザーの皆さんにどのようなオーダーをされていたんでしょうか。
田中弘道氏(以下,田中氏):
基本的にはお任せでしたね。
当時のスクウェアのコンポーザーは自分から提案をしてくるタイプが多かったので,ノリ的なところだけを簡単に伝えて,あとは彼らのイメージで膨らませてもらっていました。みんなセンスが良かったので,こちらはでき上がってくるものを楽しみにしていることが多かったです。
石井氏:
「聖剣伝説2」のときに,どんな曲にするかを菊ちゃん(菊田裕樹氏)に聞かれて,「ガムラン風にして」とか「ケチャっぽいのがいい」とか,そんなやりとりを田中さんとしていた記憶がありますね。
田中氏:
そうだったね。僕は当時,下村さん(下村陽子氏)とは組んだことがなくて,イトケン(伊藤賢治氏)とは「Sa・Ga2 秘宝伝説」を河津(河津秋敏氏)と作っていたときに一緒になったのが初めてで。
ちょうどその頃に,石井君が聖剣の前身となる「ファイナルファンタジー外伝」を作っていたんだよね。
石井氏:
とってつけたようなタイトルで(笑)。
田中氏:
実は,「ファイナルファンタジー」よりも前,ファミコンのディスクシステムの頃に「聖剣伝説」というタイトルを開発していたんです。
最初は3DダンジョンタイプのRPGで,「ウィザードリィ」がリアルタイムで動くようなゲームだったんですが,それが一度立ち消えになって,時田さん(時田貴司氏)や青木さん(青木和彦氏)があらためて聖剣伝説というタイトルの3部作を作ろうとしていたけど,結局それも世に出なくて。
紆余曲折の末,自分のところに聖剣伝説というタイトルが来たのは不思議な気がしていましたが,今では必然だったと思っています。
自分がFFを作っていた頃は,モンスターが天野さん(天野喜孝氏)のデザインなのに,キャラクターは自分のデザインで,背景なんかも含めて全体的にイメージを統一できていなかったんです。自分のイメージする世界観,キャラクター,モンスターを統一した作品にしたかったので,いい機会になりました。
それに,FFのドットキャラを通すとFFが好きなプレイヤーさんにとっては,「FF外伝」がつくことで“FFのアクションRPG”みたいなイメージがしやすかったのかなと思います。
4Gamer:
そんないきさつがあったんですね。
石井氏:
でも正直なところは,タイトルとは関係なく,純粋にアクションRPGを作りたかっただけなんですけど(笑)。
4Gamer:
アクションRPGというジャンルは,その後のシリーズ作品にもずっと受け継がれていますね。
石井氏:
でも実は「聖剣伝説2」の最初は,聖剣のシリーズとは別のプロジェクトで進めていたものなんですよ。
田中氏:
「クロノ・トリガー」の前身になる,鳥山 明先生を起用した通称「マルトリ」という,坂口さん(坂口博信氏)と鳥嶋さん(鳥嶋和彦氏)のプロジェクトがあったんです。
当時,任天堂とソニーがスーパーファミコン用に「プレイステーション」という名前のCD-ROMを共同開発していて,それの第1弾として開発されていた作品でした。結局,そのプレイステーションが出なかったので,CD-ROMからROMカセットに変更して作り直したものが,聖剣伝説2になったんです。
4Gamer:
CD-ROMからROMカセットになったときに,何か大きく変えなければならなかった部分などはありましたか?
石井氏:
CD-ROMでも容量自体はそれほど多くなかったと記憶してます。データは結局本体メモリに読み込めないといけないし,ROMカセットもすでにかなりの大容量になっていましたからね。
4Gamer:
当時は容量に合わせて価格もぐんぐん上がっていったのが,プレイヤーとしては印象的でした。
田中氏:
当時はスクウェアとエニックスが別の会社で,お互いに「いくらで出すんだろう?」なんて話をしていた記憶があります。
小山田氏:
「聖剣伝説3」も1万円超えでしたからね。当時は学生だったので,親には僕が聖剣伝説3を買ってもらって,兄が「ドラゴンクエストVI」を買ってもらうみたいな感じでした(笑)。
新しいものを作りたいという精神が,
「聖剣伝説」の新作になる
4Gamer:
ところで,小山田さんと聖剣伝説シリーズの出会いはどんな形だったんでしょう?
小学校3年生のときに,聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜 をゲームボーイで遊びました。自分にとっては,初めて自力でクリアしたゲームだったんですよ。クリアしたのは,ちょうど僕が地元の静岡から宮城に転校する日だったので,余計に印象に残っているんです。そこからずっとシリーズは追いかけていましたね。
4Gamer:
それがいつの間にか作る側に回っていて。
小山田氏:
憧れはあったんですけど,まさか作る側に回るとは思っていませんでした。入社してからも石井さんが作っているのを横で見ながら,「これが発売されたら,きっと自分も遊ぶんだろうな」なんて思っていましたし。
4Gamer:
シリーズ25年の歴史を感じるエピソードですね。
シリーズを遊んでいた人が作り手になって,世代が変わっていくという。
石井氏:
シリーズタイトルのゲーム開発というのは,そうやって継承されていくべきなんじゃないでしょうか。
とくにFFチームはそうあるべきだと昔から自分は考えていて,開発メンバーが2作ぐらい経験したら卒業して,その経験を生かして新しい遊びを作ろうとする熱情が,新しいタイトルを生み出し,会社の柱のタイトルが増えていく。自分達もそういう意識でやっていました。
そして結果的に,色の違う作品が増えることにつながり,スクウェアを大きくしていったと思うんです。とくに聖剣は新作ごとに遊びを変えていくので,必ず新しい血が必要です。
そういう意味でも,今,小山田君のように聖剣を愛している人が引き継いでいるのは自然な流れだという気はしています。
小山田氏:
恐縮です。
田中氏:
DQのように堀井さん(堀井雄二氏)という原作者としての存在が関わり続けている作品がある一方で,FFはチームで作っているので,人材の入れ替わりはあっていいと思います。
FFにしても聖剣にしてもサガにしても,かつて石井君が考えたそれぞれの作品の法則が中核にあって,それを確実に継承することで,シリーズが現在まで続いているんですよね。
石井氏:
聖剣でちょっと変わっているのは,2と3を田中さんと一緒に作っていたときは,マルトリが原点にあったということで,最初は聖剣伝説を作ろうとしていなかったんですよね。
今思えばそれが凄く良かったことで,聖剣とは違う新しい遊びを作ろうという方向性だったことが,パーティメンバーを増やすというデザインにもつながりました。田中さんが考案してくれた「リングコマンド」も,ウィンドウをいちいち開くとプレイ画面がウィンドウで隠されて見にくくなり,さらにゲームのテンポが悪くなるというところから導入されたもので,そういうものを考える姿勢として,第1作とは違うところを目指したことが凄くいい方向に働きましたよね。
聖剣2の画面構成やキャラクターの頭身などは,マルトリより前の,「ファイナルファンタジーIV」向けに作っていたものですし。
小山田氏:
聖剣2の,ごく初期の企画書を見たときに,「ファイナルファンタジーIV」って書いてあって,石井さんが描いた戦士のドットキャラが並んでいて驚いたことがあります。
田中氏:
まだ赤坂にスクウェアの開発部署があったときに,鳥山先生がいらっしゃって,そこでお見せした企画書ですね。懐かしいね。
石井氏:
当時はちょうどハードの変わり目だったので,開発としていろんなことを模索していましたね。とにかく変化が激しくて,何か新しい面白さを出すことに明け暮れていて,そこに後からタイトルが付いてきたような手応えで。
4Gamer:
せっかくなので,聖剣伝説に「ファイナルファンタジー外伝」と付けられたいきさつも,詳しく教えてください。
石井氏:
最初は,少しでも多く売りたい会社の意向が大きかったんだと思います。それはそれで会社としては間違っていないと思います。完全に新規のタイトルだと,問屋さんの買い控えなんかもありますし,本数が少なければ,遊びに気付いてくれる方も少なくなる。ましてやFFがコマンドRPGなのに,聖剣はアクションRPGですからね。プレイヤーさんも限定されるので,なかなか気にかけてももらえない,と。
坂口さんも当時「アクションRPGは売れないぞ」と言っていたんですが,自分は作りたいもの作って,ダメだったら辞めるぐらいの覚悟でした(笑)。
小山田氏:
そこまで考えてたんですか!?
石井氏:
そのぐらいの気持ちでしたね。
4Gamer:
ではFF外伝というサブタイトルが付くことにも,それほど抵抗はなかったんですか?
石井氏:
強い抵抗はありませんでした。先ほど話したように,自分の中でイメージしていたFFの世界観やドット絵なんかがゲームから強く出ていましたからね。
当時の自分の中には,「マナの樹」というものが世界の中心にあって,その種が結晶化して散らばったものが「クリスタル」というイメージがあったんです。アストラル界に近い精霊の森みたいな領域を描いているのが聖剣伝説で,もっと物質的で現象界に近いのがFFという棲み分けで,自分の中で構成していました。
なので違和感もなく,むしろ自分自身が納得できた感じです。
小山田氏:
タイトル由来の話だと,「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」も元々は聖剣シリーズではなかったという話もありますよね。
石井氏:
聖剣を作るという名目でプロジェクトを立てましたけど……(笑)。
LEGEND OF MANAはシステムをあまりに大きく変えてしまったので,聖剣伝説のナンバリングシリーズとして出すことに,若干のためらいがあったんです。
昔のファンタジー絵本のような画や,それに出てきた特殊なキャラクターが生きているような世界を確立してみたくて,3D全盛の頃にあえて2D風のイラストチックに表現したんですよね。
テクスチャをキャンバスのような質感にして,そこに水彩画や色鉛筆で描いたようなグラフィックスを乗せてみようとか,画の表現もそれまでとはまったく変わっていましたからね。
4Gamer:
ほかにない独特のテイストに仕上がっていました。
石井氏:
システム部分でも,遊びをプロデュースする楽しみを味わってもらおうということを考えていて,特許を取得している「ランドメイクシステム」にしても,プレイヤーが自分で考えながら遊び場を作って遊んで,そのカスタマイズにも意味を持たせて。そしてすべてのデータがリンクしているというところにチャレンジしました。……デバッグが大変でしたが(笑)。
これもまた聖剣伝説を作ろうというのではなく,新しい遊びを作りたい気持ちのほうが強かったんですよね。
田中氏:
LEGEND OF MANAってどのハードで出したんだっけ?
石井氏:
PlayStationです。今考えると,ハードの性能的なところでは,PlayStation向けではなかった気もしています。でも,いつもそうですよね,毎回ハードの限界を超えちゃうような仕様にしてしまって,あとから苦労するんですよ。
田中氏:
前作と同じシステムの続編のほうが当然作りやすいんですが,足かせなく自由な発想で作れるのが聖剣伝説シリーズなんだと思いますね。しかもそれをハードの移り変わりのタイミングでやっていて。
石井氏:
聖剣伝説の生まれた経緯とかからして,FFやサガとは違った“新しい遊びを提案する”のが,自分のなかでの聖剣伝説だったと思います。
毎回新規タイトルのつもりで作るという気持ちは大きかったです。
4Gamer:
小山田さんの世代でも,その気持ちは変わりませんか?
小山田氏:
そうですね。僕もどちらかといえばその気持ちは強いと思います。僕自身をエニックス時代に育ててくださった先輩方も,大作より新しいものを作っている方のほうが多かったですし。
- 関連タイトル:
聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-
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- Music 4Gamer
- カメラマン:増田雄介
- ライター:稲元徹也
- Music 4Gamer #1 「聖剣伝説」25th Anniversary Concert supported by SQUARE ENIX
- 制作
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