インタビュー
「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」が本日公開。伊藤智彦監督が語るARMMOの魅力とは?
SAOシリーズは,VRを実現した近未来を舞台に,さまざまなオンラインゲームを取り巻く事件が描かれる。シリーズ初の劇場版となる本作は,川原氏が書き下ろしたオリジナルストーリーで,次世代AR(拡張現実)デバイス《オーグマー》と,そのキラーコンテンツとなった専用ゲーム《オーディナル・スケール》が登場。これまで,架空のゲームジャンル「VRMMO」での出来事が描かれていた本シリーズだが,この劇場版では「ARMMO」にその舞台を移すことになる。
AR型情報端末《オーグマー》とは,小型のヘッドフォンのような外見のウェアラブル・マルチデバイスで,そのコンパクト性はVRマシン《アミュスフィア》を凌駕するという。フルダイブ機能の代わりに,AR機能を最大限に拡張した《オーグマー》は,覚醒状態の人間に視覚・聴覚・触覚情報を送り込むことが可能で,フィットネスや健康管理をゲーム感覚で楽しんでいるユーザーも増えているという設定だ。
この新デバイスに関して川原氏は,「SAOではこれまでナーヴギア,アミュスフィアと機器が進化してきましたが,オーグマーはいよいよ(僕が書いている)もうひとつの作品『アクセル・ワールド』(電撃文庫刊)に登場しているニューロリンカーに近づいてきたかなと思います」とコメント。VRよりもさらに進化したものとして,このデバイスを登場させたと語っている。
ARMMOとはどんなものなのか? 監督・伊藤智彦氏に本作の見どころと合わせて聞いてみたので,じっくりと目を通してもらいたい。
「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」監督・伊藤智彦氏 |
4Gamer:
TVシリーズから2年ぶりのアニメ作品となりますが,本作の企画が立ち上がった経緯をお聞かせください。
伊藤智彦氏(以下,伊藤氏):
2014年にTVシリーズの第2期が放送されて,その終わりごろに「劇場版やりますか」という話をプロデューサー陣がし出しまして,「それじゃあやりますか」ってことになりました。その後,打ち上げのときに誰かが,「続きやります」と口走ってしまったんです。まだ何も決まってなかったのに(笑)。
4Gamer:
本作は川原 礫先生の完全オリジナル脚本となっていますが、これは企画当初から決まっていたのでしょうか? 《アリシゼーション編》や、TV版の再編集版などの案はなかったのでしょうか?
伊藤氏:
「アリシゼーション編」は最近ようやく完結したばかりですしね。そもそもどういう形態でやるのか,本当にやるのかも分かりませんでした。そういった事情から,続編をすぐにやるのではなく,「SAO」の第1期と第2期の総括といいますか,TVアニメ版とは違ったまとめをやったほうがいいのではないかということになったんです。まとめといっても,過去のエピソードをまたやり直すのではなく,新しく書き下ろしたオリジナルでやろうと。
オリジナルをやるとなって,川原先生から2,3案を出してもらって,その中から今回の《オーディナル・スケール》に決めたわけです。
4Gamer:
これまでゲームのメインギミックとなっていた“VR”ではなく“AR”を題材にしようとしたのはなぜでしょう。
伊藤氏:
川原先生が「今度はARだ!」と言い出したからです(笑)。それを聞いた周りの人は「VRより退化してませんか?」という反応だったのですが,ここはあえて“AR”をやると。
4Gamer:
伊藤さんは“AR”に対してその当時,どのようなイメージを持っていたのでしょうか?
伊藤氏:
“AR”に関しての知識はあまりありませんでした。Google Glass的なものくらいしかイメージはなかったです。シナリオ会議中にちょうど,位置情報ゲーム「Ingress」がはやってまして,これの発展系を考えればいいのだろうか,と漠然とですが思ってはいました。
4Gamer:
最近ですと「Pokémon GO」などのおかげで,“AR”に対しての世間の認知度が上がりましたしね。
伊藤氏:
はい,自分も「Pokémon GO」はやっています。スマホゲームなら「セカイカフェAR」とかもありますしね。その「Pokémon GO」が出る前から“AR”を取り上げた川原先生はすげえと思いましたね(笑)。今後“AR”が流行することをある程度予測していたのかもしれません。
4Gamer:
「Pokémon GO」は今も続けてるのでしょうか?
伊藤氏:
はい,今もやっています。「Pokémon GO」の「ゲームなんだけど,ゲームをしている感じがしない」部分を気に入ってます。主体的に「ゲームをやるぜ!」という感じではなく,なにかをしている途中でちょっと見てみると,ついでにちょっとやるか,という感覚がいいですね。据え置き型でがっちりプレイするコアゲーマーからすると,ちょっと異端の考え方と感じるかもしれませんが(笑)。
4Gamer:
手軽というのは重要なポイントですよね。
伊藤氏:
ですね。本作で使われているARデバイス《オーグマー》は,現代で言うとスマホゲームの立ち位置なんですよ。VRゲームは,PlayStationのような据え置き型ゲーム機,そういう対比で考えていました。誰でも手軽に使える《オーグマー》はスマホの発展型のようなものですしね。
4Gamer:
その《オーグマー》でプレイできる《オーディナル・スケール》とはどんなゲームなんでしょうか?
伊藤氏:
《オーグマー》を装着して,街中を歩いていると普通にモンスターが出てきてます。それこそ「Ingress」のように,どこか中継地点まで行って,アイテムが出るのを拾って,レベルではなくランキングを上げていくゲームなんです。そして,なぜか協賛スポンサーが多いので,ゲームで溜めたポイントで(現実の)ジュースが買えたり,牛丼が食べられたりします。
4Gamer:
現実世界でいろいろな特典を享受できるのですね。
伊藤氏:
それこそ「Pokémon GO」のように既に社会的に認知されていて,企業のほうもそれに乗っかって協賛しているであろうという設定ですね。
ペプシさんが以前,渋谷で期間限定オープンしていた「PEPSI STRONG BAR」で実施していた,巨大な鬼と鬼ごっこをするVRマシンを体験させてもらったことがあるんですが,これが意外と大変で(笑)。それが終わった後にペプシがちょこんと出てくるんです。これはうまいなあと思いまして,《オーディナル・スケール》のプレイ後にワンドリンクサービスを入れたんです。
4Gamer:
なるほど,伊藤さんの体験が生かされているのですね。ほかにVRゲームとはどんな部分が違うのでしょうか?
伊藤氏:
「ソードアート・オンライン」の作品の中でのVRゲームとARゲームは,リアル世界で今出ているものとは違いますよね。現行技術のVRゲームは体を動かしますが,劇中におけるVRゲームは体を動かしません。ARゲームは体を動かす。そこが最大の違いだと思っています。
あとは没入感の違いでしょうか。VRゲームはヘッドマウントディスプレイで架空の世界に入りきってプレイしますが,ARゲームは現実プラスアルファでプレイする。そこは大きく違うと思うんです。
また,戦闘における痛みに関しても,ARゲームで痛みをカットするのは不可能ですよね。だからコケないようにプレイする必要があると思います(笑)。
劇場版はミュージカルでいこう
伊藤さんはこれが初の劇場版監督作品となりますが,TVアニメとの違いを感じられたりはしたのでしょうか?
伊藤氏:
作っている最中に「映画とはなにか?」とずっと考えてました。TVシリーズですと,翌週にはすぐ作ったものが放送されて,それをみんなで見るという時間があるんですが,劇場版は完成しないとそれがない。
なので,スタッフが「これで正解なのか」という確信を持ちづらいと思うんです。予告映像などで途中にそういう機会もあるんですが,そのほかにはビジョンを共有する機会が少ないので,それが悩みでしたね。
4Gamer:
完成イメージをスタッフに伝えにくいということですね。
伊藤氏:
はい。通常,アニメのスタッフは絵コンテで内容を理解してくれるのですが,劇場版となるとほかのスタッフも増えるので,それだけでは伝わらない。自分自身,作品を俯瞰する時間を何度も繰り返し,スタッフと再確認してイメージを補強していきました。
4Gamer:
本作のゲストキャラクター・ユナ役に神田沙也加さん,エイジ役に井上芳雄さん,重村教授役に鹿賀丈史さんが起用されていますが,お三方を選んだ理由についてそれぞれお聞かせください。
伊藤氏:
神田さんに関しては,歌を歌える人をということでお願いしました。もちろん「歌う人間と芝居をする人間は一緒である必要があるのか」という考え方もあるとは思うんですが,一緒であるのがベストです。シナリオを書いている時から,神田さんの名前は念頭にありました。
いわゆるアイドルソング的なものなら,ほかの人でも良かったんですが,そうでない曲の場合,神田さん以外では対応しにくいかなと思いまして。
4Gamer:
神田さんのことは以前からご存知だったのでしょうか。
伊藤氏:
もちろん「アナと雪の女王」で知りました(笑)。それとミュージカル俳優としての神田さんを知っていたからです。
そして,神田さんからの流れで,ミュージカル界からほかの俳優さんもお願いしようということになり,重村教授役に鹿賀丈史さんをお願いしたわけです。
井上さんはミュージカル界のスターと呼ばれているので,丁度いいのかなと。実際の井上さんは謙虚な方ですが,演じるエイジは弱い部分も持ちあわせているキャラクターですので,これも井上さんの持ち味として都合がよかったということです。
4Gamer:
井上さんに演技面でお願いしたことは?
伊藤氏:
キリトとの対決シーンで,「ミュージカル的にやってください」とお願いしました。これは過剰に演じて欲しいということなんです。実写系の俳優さんの苦手な部分がこの過剰な演技ですが,ミュージカル畑の人ならばそれができると考えまして。実際にテストをお願いしたところ,やはりスムーズに演じてもらえました。
4Gamer:
本作では,音楽もかなり重要な要素となっていますが,これは当初から決まっていたことなのでしょうか?
伊藤氏:
ARと同時に川原先生がやりたかったことが,ARアイドルだったそうです。「マクロス」の先例がありますが,そこは似た感じにならないよう工夫しました。例えば,かかっている曲はゲーム中のBGM的に聞こえるように作っていて,冒頭のボスとの戦闘シーンでユナが歌っている曲なども,戦闘用のBGMとして不自然にならないように作られています。
キリトとアスナの関係がワンランクアップ
4Gamer:
今回のメインテーマなどがありましたらお聞かせください。
伊藤氏:
いくつかあるんですが……。今回のようにTVシリーズから劇場版を作るとき,劇場版の新キャラクターに成長の力点が置かれることが多いのですが,なるべくそうしたくはないなと思ったんです。この「SAO」は,主人公キリトとヒロイン・アスナの物語であって,なにかしら2人に成長ポイントを達成させないといけない。2人の関係性を強化するドラマを作りたいなと考えました。
4Gamer:
2人の関係が一段階上にステップアップするということですね。
伊藤氏:
そうです。この劇場版が終わったときに,2人が一段上のライフステージに上がれる話が作りたいなと。もちろん,ほかの登場キャラクターのドラマもちゃんと描きたいとは思っていたのですが,この2人の成長を入れないと,本作が番外編のような感じが強くなってしまいますから。
4Gamer:
キリトはもちろんですが,今回はアスナの活躍する場面が多いと聞いています。
伊藤氏:
なんか,結果的にそうなってしまって(笑)。本当はもう一回ぐらいバトルシーンを減らしたいくらいですが……。もし,ハリウッドの脚本家がこのシナリオを添削すると,このバトルは削れって言われるでしょうね(笑)。自分でも今回,アスナが活躍するシーンが多いなと感じています。
4Gamer:
アスナファンはすごく喜んでいると思います。
伊藤氏:
ファンに喜んでもらえるのは,うれしいですね。
4Gamer:
ほかの登場人物,リズベットやシリカ,クラインなどの出番はあるのでしょうか?
伊藤氏:
もちろんリズベットやシリカ,クラインも存分に活躍してます。ボス戦とかでも「こいつらこんなに強かったっけ?」と感じるぐらい頑張ってますのでご安心ください。
4Gamer:
TVシリーズとは違った劇場版ならではのこだわりはありますか?
伊藤氏:
劇場版なので重低音を使った演出ができることですね。TVシリーズでもシノンのヘカートの音は,もっとズドンと響く感じにしたかったんですが,できませんでしたから。今回はガシガシ使わせてもらってます。
音響監督は「ガールズ&パンツァー」を手掛けた岩浪美和さんにお願いしているんですが,こちらも「ガルパン」と同じ,立川シネマシティの極上爆音上映での対応が予定されているので,そちらにも期待してほしいですね。
4Gamer:
そのほかに見どころなどがありましたらお聞かせください。
伊藤氏:
一回見ただけだとわからない部分もあると思いますが,劇場の特典もいろいろ変わるようなので何回か観てほしいなと(笑)。
プロデューサー陣から,デートムービーを作りたいと言われまして。デートムービーってどういうことかというと,男の子が女の子を気軽に誘いやすい映画というこなのかなと,解釈しました。完全にアニメは苦手という人は仕方ないですが,SAOって名前は聞いたことあるよ,TVシリーズは見てないけど興味はある,そういう男女がいたら誘ってみると悪くないかなと。そういう風に作ったつもりです。
4Gamer:
劇場版「SAO」をきっかけに2人の仲が深まりますかね?
伊藤氏:
そうなると,いいなあ(笑)。デートに使ってうまくいきましたって人がひとりでもいたら,それだけで満足です。もしいたら公式Twitterにでも報告ください。
4Gamer:
映像的な部分の見どころは?
伊藤氏:
TVシリーズではいろいろ制約がありました。尺的なものとか,こんなに動かしちゃダメよ,とか。昨今のTVアニメは1話につき300カットぐらいという制限があるんですが,それを気にせず,アクションシーンはたたみかけるように,ドッカーンとやっています。だれも枚数とかは把握してないでしょうね(笑)。
枚数自慢をする作品はあんまり成功しないと言われているので触れませんが,贅沢に使ってますよ。
4Gamer:
最後に読者へのメッセージをお願いします。
伊藤氏:
普段からゲームをやっている4Gamerの読者さんだと,ゲーム部分に関して厳しい目で見られるとは思います。ここは違うんじゃないか,ここはもっとこうした方がいいと,そういう目で見てもらって,将来,こういったゲームを実際に作りたいという人が現れ,「《オーディナル・スケール》を超えるぞ!」というモチベーションのひとつに,本作がなったらいいなと思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
2014年にTVシリーズの第2期が放送されてから,まる2年。その間もゲームなどへの展開は続いていたが,アニメ作品としては久々の映像化となる。VRMMOなど,常に新しい世界を視聴者に提供し続ける「SAO」が,劇場版としてスケールアップした本作では,どんな世界を見せてくれるのか,気になる人は劇場へ足を運んでみよう。
また,本日から劇場で本作のオリジナルサウンドトラックCDが先行発売されている。価格は3500円(税抜き)で,梶浦由記氏による新規書き下ろし劇伴50曲と,ユナ(CV:神田沙也加)による挿入歌5曲を収録した2枚組アルバムとなっている。ほかにも,劇場のみの物販品も用意されているので,事前に公式サイトもチェックしておこう。
「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」公式サイト
■キャスト
キリト:松岡禎丞
アスナ:戸松 遥
リズベット:高垣彩陽
ユイ:伊藤かな恵
リーファ:竹達彩奈
シリカ:日高里菜
シノン:沢城みゆき
クライン:平田広明
エギル:安元洋貴
茅場晶彦:山寺宏一
ユナ:神田沙也加
エイジ:井上芳雄
重村:鹿賀丈史
■スタッフ
原作:川原 礫(電撃文庫刊)
キャラクターデザイン原案:abec
監督:伊藤智彦
脚本:川原 礫・伊藤智彦
キャラクターデザイン・総作画監督:足立慎吾
モンスターデザイン:柳 隆太
プロップデザイン:西口智也
UIデザイン:ワツジサトシ
美術監督:長島孝幸
美術監修:竹田悠介
美術設定:塩澤良憲
色彩設計:橋本 賢
コンセプトアート:堀 壮太郎
撮影監督:脇 顯太朗
CG監督:雲藤隆太
編集:西山 茂
音響監督:岩浪美和
音楽:梶浦由記
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
製作:SAO MOVIE Project
【劇場来場者特典】
週替り特典 全8週配布決定!
1週目 足立慎吾描き下ろしイラストポストカード
配布期間:2017/2/18(土)〜2017/2/24(金)
※お一人様1回のご鑑賞に対して1つプレゼントとなります。
※来場者特典は数量限定の為、なくなり次第終了となります
梶浦由記による劇伴とユナ(CV:神田沙也加)が歌う
挿入歌を収録したサウンドトラックが発売決定!
「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-Original Soundtrack」
発売日:2017年2月18日(土) ※劇場先行発売
2017年2月22日(水) ※一般発売
価格:¥3,500+税
品番:SVWC-70255〜70256 ※一般発売
音楽:梶浦由記による劇場版のための新規書き下ろし劇伴50曲と、ユナ(CV:神田沙也加)による挿入歌5曲を収録した2枚組アルバム。また、一般発売に先駆け、2017年2月18日(土)の公開日に合わせて、劇場での先行発売も決定!
収録曲:DISC1
劇場版新規劇伴50曲収録。
音楽:梶浦由記
DISC2:
挿入歌「Ubiquitous dB」「longing」「delete」「Break Beat Bark!」「smile for you」収録。
歌:ユナ(CV:神田沙也加)
初回仕様:
限定盤特典
・描き下ろし三方背ケース
※商品の特典および仕様は予告なく変更になる場合がございます。
第3弾前売券1/21発売開始
「オリジナル・サウンドトラック」劇場先行発売
TVシリーズダイジェスト&WEB小冊子「劇場版公式アプリ配信開始」
- 関連タイトル:
ソードアート・オンライン ―ホロウ・リアリゼーション―
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