連載
結のほえほえゲーム演説:第14回「私が美少女ゲームをプレイする理由。」
7月,季節はすっかり夏ですね。
陽炎でゆらゆらと揺れるアスファルト。
暑そうに袖をまくるサラリーマン。
もうすぐ7月17日がやってきます。
この日から物語が始まるゲームを,
まるで何かの儀式のように,
夏がやって来る度にプレイしてしまうのです。
Key「AIR」(2000年)
●秋葉原メッセサンオーで流れる国歌
私と「AIR」の出会いは,16年前にさかのぼります。
美少女ゲーム情報誌を愛読していた私は,誌面に掲載されていたAIRのスクリーンショットや断片的なセリフを見て,物語への想像が止まらなくなりました。
「なぜ,彼女達こんなに物憂げな表情をしているんだ!?」
「制服を着た美少女達がヒロインなのに,学校内のシーンは全然なさそうだけど!?」
「え,これもしかしてファンタジーなの……?」
AIRが持つセンチメンタルでミステリアスなイメージが,18禁美少女ゲーム特有の即物的なエロティズムのイメージと相反するもののように感じられ,その正体がとても気になったのです。
けれど,当時の私は中学生。プレイをすることは叶いませんでした。
それから約1年後,待ちに待った全年齢対象版(PC版)の発売日。秋葉原メッセサンオー店頭で流れるOPを初めて見たときの感動は忘れません。
「鳥の詩」のドラマティックなメロディに,プレイ前にも関わらず「私の勘は間違っていなかった」と確信するほど静かに興奮していました。
「飛べない翼に,意味はあるんでしょうか」
「魔法が使えたらって,思ったことないかなぁ?」
「ただ…もうひとりのわたしが,そこにいる。そんな気がして」
楽曲に合わせたヒロイン達の登場に,意味深でアンニュイなセリフが重なります。
登場人物それぞれの事情や感情が交差する,想像力を掻き立てるOPは,エヴァンゲリオン世代の心をくすぐりました。
●が、がお……。
主人公は国崎往人。
念を込めたものを自由に動かす力「法術」を使い,人形を動かす芸をして,さすらいの一人旅をしている青年です。少年時代に亡き母から聞かされた,「この空のどこかにいる翼の生えた少女」に出会うことを目的としながら,海辺の田舎町にたどり着き,神尾観鈴という女の子に出会います。
観鈴は登場するなり独特な口癖を連発してきます。
「が、がお…」「にはは」「観鈴ちん、ぴーんち!」
第一印象の電波少女っぷりに,彼女とのコミュニケーションへの不安に駆られながらも,あれよあれよと田舎町での生活が始まります。
謎の生物(犬?)と会話する美少女,霧島佳乃。
そっとお米券を差し出す物静かな美少女,遠野美凪。
いかんせん,ほかのヒロインもなかなかに浮世離れしていました。
霧島佳乃 |
遠野美凪 |
ヒロインは観鈴,佳乃,美凪の三人のみ。
私がそれまでプレイしてきた美少女ゲーム(「ときめきメモリアル」や「シスタープリンセス」など)より圧倒的に少ないです。同じ学校の生徒にも関わらず,ヒロイン同士の関わりが薄いことも印象的でした。それゆえに,それぞれのルートが独立しているのですが,物語の大きなテーマとして「母娘」を描いている点は共通しています。
●母と娘という共同体の葛藤
母と娘の関係において生じる悩みは,何が原因であるにせよ,切ないものです。
お腹を痛めて産んでくれた分身であり,家族内で同性という立ち場,お互いが誰よりも近い存在です。
最も近い存在だからこそ,何かのキッカケで相手に対する想いが心の中でつっかえてしまうと,母娘という距離に対して,臆病になってしまいます。
そこに他人である主人公(男性)が介入しようにも,そもそもの蚊帳の外っぷりが半端なものではありません。主人公はヒロイン達が抱える母娘の問題に対峙するたび,己の無力さを思い知らされます。
ヒロイン達だけではなく,登場する女性キャラクター達は,主人公に甘えている面も多々ありますが,意思を持ち,強くあろうとします。
AIRというゲームは,選択肢がそう多くはなく,自由度が高いとは言い難いです。
「独りで強くあろうと立ち上がる女性」
「他人が介入できない家族」
「母娘という共同体における葛藤」
物語を進め,これらを目の前にすればするほど,この受動的であるゲームを受け入れなければいけないという事実が,重くのしかかってくるのです。
ゲーム序盤,永遠にも続きそうな,ささやかな夏の日常のページをめくっていたはずだったのに,いつの間にかページをめくることを受け入れるしかない物語へと変わっていく。それが寂しくて仕方ありません。
AIRをアニメで知った人も多いと思いますが,アニメだけではなく,ゲームでのこういった体験をぜひ味わってほしいと願います。
●少女漫画のような君と僕
私は当時,感情がソースである物語を,少女漫画しか知りませんでした。
少年漫画をあまり好んで読まなかった理由は,理屈や論理があるからです。例えば,バトルモノの戦闘力,誰が誰より強い,こんな修業を積んだのだから強いという理由。SF,ファンタジーモノの,こういう仕組みでロボットが動いているのだという理由。そういったものを説明されてしまうと,どこか冷めてしまう感覚がありました。
同じバトルモノやSF,ファンタジーモノでも,人間の感情を主軸に,細かい理屈や設定を説明しない少女漫画のほうが好きでした。極論,細かい理由や裏付けはなくても,「愛の力です!」で説明してしまうような強引さにひかれるのです。
AIRは,美少女ゲームというジャンルであり,男性向けの作品であるにも関わらず,キャラクターの感情を軸に物語が展開していくことに衝撃を受けました。
そして同時に,なぜ,自分が女性であるにも関わらず美少女ゲームに興味を持ち,プレイし,感銘を受けたのかを理解できました。
「君(ヒロイン)と僕(主人公)」の関係を,ドラマを,描き切ること。ただひたすらにそれが軸であること。これが見たかったのです。
当時,「美少女ゲームが好きだ」と言うと「女の子が好きなの?」「いかがわしいことを考えるの?」などと,トンチンカンな質問をされました。
(ちゃんと18歳を迎えてから)18禁美少女ゲームもたくさんプレイしましたが,ありとあらゆる映画,ドラマ,漫画,アニメ,ゲームで起こる“朝チュン”展開に,「なんで大事なところをカットするんだよ!! そこでどんな会話があってどんなコミュニケーションがあっての朝なんだよ!!」と憤慨してきた身としては,ひたすらに“君と僕”の関係性を描き切る物語こそ,安心して見守ることができるのです。
●川上とも子さんの神尾観鈴
この夏にはPlayStation Vita版「AIR」が発売されるということで……楽しみに待っています。今回は全年齢対象版(PC版)について語ってきましたが,ドリームキャスト版からキャラクターにボイスが付きます。
私は,声優さんの中で一番,川上とも子さんが好きなのですが,観鈴役のお芝居は本当に素晴らしいです。
非現実的でアニメチックな口癖を持つ観鈴を,現実に居るかのような「一人の女の子」として,愛おしく思えるから不思議です。
●夏とAIR
もう二度と戻れないあの夏に,とても大事なことを忘れてしまったんじゃないか……なんて。
そんな漠然とした,退廃的な喪失感とAIRという物語の相性は抜群です。
AIRを一度プレイすれば,鳥の詩のイントロが聴こえると,じりじりと照る夏の日差し,草むした線路,海風,ほこりっぽくて古びた商店,ヒグラシの鳴き声……。
自分自身の持つ夏の記憶すべてが鮮明に蘇り,愛おしく感じることでしょう。
●あした家族
主演映画「あした家族」が,本日7月9日(土)〜7月15日(金)の毎晩19:00から,大阪のシネ・ヌーヴォXという映画館で上映されます。血のつながっていない3人の姉弟が,家族を作るお話。私は妹の「やよいちゃん」という女の子を演じています。
大切な代表作です。お近くの方はぜひご覧いただけたらと思います。ゲームファンはBit Summit帰りにいかがでしょうか。
最近プレイしているゲーム(2016/7/9)
PlayStation 4:「GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-」
PlayStation 4:「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」
PlayStation Vita:「喧嘩番長 乙女」
ニンテンドー3DS:「逆転裁判6」
ニンテンドー3DS:「カルドセプト リボルト」
iOS:「ドラゴンプロジェクト」
iOS:「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」
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