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フィンランド生まれの北極探検ゲーム「Race to the North Pole」を紹介。カオスなゲーム展開を生み出す,ゲームボードの工夫に注目
単にコンポーネントが奇抜で面白いだけでなく,それに意味を持たせたゲームデザインのタイトルが増えてきているのだ。
フィンランドのゲームデベロッパ,Playmore Gamesが発表した「Race to the North Pole」は,ゲームボード自体が回転するギミックを持つ,そうしたタイトルの一つといえる。本稿では,その工夫が実際のゲームにどんな影響を及ぼしているのかを紹介すると共に,フィンランドのボードゲーム事情についてもお伝えしていこう。
Playmore Games公式サイト
手札によって回転するボードがもたらすカオス
「Race to the North Pole」(以下,RtNP)は,ボード中央に配置された北極点への到達を目指すゲームだ。プレイヤーは探検家となって,4人(4コマ)で構成されたチームで極点到達に挑み,もっとも早く4人全員をゴールに導いたプレイヤーが勝利となる。ゲームボード上のマップは,正方形のマスによって区切られており,その上を探検家コマが踏破しながら,進んでいく。
探検家コマを動かすためには手札を使う。手札に書かれた方向に探検家を移動させることができるという,実にシンプルなルールである。だが本作が面白くなるのはここからだ。
RtNPにおいて,手札は常にフルオープンの状態でプレイが進行していく。のみならず,手札は手に持つのではなく,“自分の目の前のボードの上に置いて”おかなければならない。そうやってプレイが進んで行くと,やがて嵐が起きる。嵐が起きたら,カードの指示に従ってゲームボードを90度回転させねばならない。
この嵐によって,2つの大きな変化が発生する。
1つはボードが回転することで,マップの様相が変化してしまうこと。
ボードは上下2パーツに分かれており,回転するのは上部だけなのだが,その上側のボードにはところどころ穴が開けられている。その穴から下のボードが見えるようになっていて,これにより地形の変化が発生する仕組みだ。
もう1つは,自分がプレイする手札が変化するということ。
先に説明したとおり,RtNPにおいての手札は公開情報であるだけでなく,自分の目の前のボード上に置いておかなければならない。従って嵐が起きてボードが90度回転すると,自分の手札は隣のプレイヤーに移ってしまう。そして,逆隣のプレイヤーのものだった手札を使って,次の手番に臨むことになる。
なお,嵐の発生はランダムではない。各プレイヤーが使った手札は捨て札置き場に置かれるが,そこに溜まったカードに示された「嵐アイコン」の数が一定数を超えると,嵐が発生する。
このため,「自分の移動としてはそこまで良い移動ではないけれど,ここで嵐を起こせば,ほかのプレイヤーを妨害できる」といったシチュエーションが起こりえる。
また,より直接的には,妨害アクション(雪球をぶつけて,探検家をスタートに戻すなど)が手札として用意されているので,足の引っ張り合いが度々発生する。が,もちろんこの手札も嵐に隣のプレイヤーのところに行ってしまう可能性があるわけだ。そういうわけで,探検家達の極点レースは,かなりカオスな様相を示すことになる。
スマートフォンアプリによる「拡張セット」
シンプルなルールで,ままならない探検と,多人数での競争をうまく表現した本作だが,拡張セットもすでに用意されている。この拡張セットでは,現状を一変させる効果のカードが含まれており,レースはより混沌を極める。
面白いのは,この拡張セットがスマートフォン用のアプリとして提供されているということだ。なるほど,ボードゲームの拡張セットは,そのゲームを長く遊ぶためには欠かせないものだ。しかし当たり前のことだが,ゲーム本体よりも拡張セットが多く売れるということはありえない。パブリッシャにとってはここが悩みどころで,採算が取れずに発売を断念するケースもしばしばだ。
この問題に対し,アプリで拡張セットを提供すれば,製造コストや在庫管理のコストを大幅に削減できる。もちろん,アプリ開発となればそれはそれでコストはかかるものだが,リアルなコンポーネントを印刷して箱で売るのに比べれば,リスクは少ないだろう。
本作の拡張用スマホアプリは,実際にゲームで使うことを考えて作りこまれた,なかなかに実用的な逸品となっていた。中でも感心したのは,拡張ルールとして提供されているルールを,ゲームの途中で使わないことにしたとしても,それでゲームが進行不可能になったり,バランスがおかしくなったりしないという点だ。
よく考えてみると,これは重要なことなのだ。というのも,プレイの最中にスマートフォンの電池が切れたら,そこでプレイが中断せざるを得ないのでは,やはり興ざめというもの。こうした「そういう状況に陥って初めて気付く」ような問題について,この拡張セットアプリは驚くほどよく考えられている。
小さい市場から生まれたゲームだが……
SPIEL’15会場でかなり人気を集め,試遊の予約を入れるのも大変なほどだった本作。しかしゲームデザイナーのTomi Vainikka氏によれば,フィンランドのボードゲーム事情は,あまり芳しい状況ではないのだという。
Tomi氏によれば「フィンランドには,ボードゲーム市場があるけれど,ない」とのことで,その意味を詳しく聞いてみた。フィンランドは冬が長く厳しいお国柄だけに,ボードゲームが人気のある遊びであることは間違いない。しかし,そこで選ばれるボードゲームは,「モノポリー」のような有名なタイトルがほとんど。いわゆるドイツゲームのようなゲーマー向けゲームは,あまり大きな市場として育っていないそうだ。
国内市場がそういった状況なので,ボードゲームデザイナーを職業として成り立たせるのも,なかなか困難とのこと。フィンランドにはボードゲームメーカーが10社前後存在するが,いずれも規模としては小さく,大掛かりなゲームを作るのは難しいのだとか。
つまり話を聞く限り,フィンランドのボードゲーム事情は日本のそれとあまり変わらないようにも感じられた。確かに近年,日本におけるボードゲームの市場は拡大しつつあるが,市場規模で見ると,まだまだ大きい市場だとは言い難い。そして多くの日本人にとって,ボードゲームといえば「モノポリー」や「オセロ」であるのも間違いないだろう。
だがボードゲームファンは,どういう地域で生まれたゲームであれ,それが面白いタイトルであれば競って買い求め,プレイしようとするもの。今のところ日本語版の発売予定はないようだが,その面白さは筆者が保証する。機会があれば,ぜひプレイしてみてほしいタイトルだ。
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