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エストニアからやってきた,北方十字軍がテーマの協力型ボードゲーム「Lembitu」。勝ち目の薄い戦争を,どう戦うか
今回はそうした小さなブースで見つけたタイトルの中から,エストニアのパブリッシャである2D6.EE Gamesが発表した協力型ボードゲーム「Lembitu」を紹介してみたい。完全に筆者の趣味によるチョイスだが,エストニアにおける歴史的な国土防衛戦争を扱ったこの作品は,まさにエストニアならではと呼ぶに相応しい。総人口134万人の国からやってきたボードゲームとは,いったいどんなゲームなのだろうか。
「Lembitu」製品ページ(英語)
北方十字軍を協力型ボードゲームに!(ただし防衛側)
Lembituは,1193年から正式に始まった北方十字軍の侵攻に対する,エストニアの抵抗をテーマとしたゲームだ。タイトルにもなっているLembituは,この抵抗戦争における英雄の名前だそうだ。
……うむ,いきなりマニアックというか,この手の話が好きな筆者も「北方十字軍でエストニア現地勢力がいかに戦ったか」なんてまるで知らなかった。ちなみにざっくりと調べてみたところ,Lembituはエストニア抵抗のシンボル的存在だったが,1217年9月に戦死している。エストニアは十字軍(という名前の侵略軍)を何度も撃退するが,複数の勢力から攻撃を受け続け,1227年には十字軍側の勢力によって征服されている。
とまあ分かっていたことだが,Lembituが扱うのは,偉大なる負け戦である。ゲームとしては,一定期間にわたって首都を防衛すれば勝利ということになっているが,プレイしてみたところ「達成は大変に難しい」という印象だった。むべなるかな。ともあれ,こういった戦力が不均衡な戦いを扱うにあたって「対戦型」ではなく「協力型」を選んだというのは,実に妥当な選択と言えるだろう。
テーマはさておき,ゲームシステムを見てみると,Lembituはそれほど尖ったところを持たない,比較的一般的な協力型ゲームである。
本作において,プレイヤーが対処しなくてはならない敵は3種類で,それぞれ3方向から首都に向かって攻め上がってくる。3種類の敵はそれぞれ赤・緑・青で色分けされており,歴史的知識がなくても「赤軍・緑軍・青軍」と割りきってプレイしてしまえばいい。無論,緑の駒を見て「にっくきロシア軍め!」と感情移入できるバックボーンをプレイヤーが持っていれば,なお良いのは間違いない。
敵の行動は,ダイスで決定される。敵は基本的に首都に向かって直進する(侵攻ルートはマップ上に太線で描かれている)ことになっており,それぞれの勢力がどれくらい前進するかをダイスで決める。各勢力に対応した色のサイコロが用意されているので,この辺りの処理はとても分かりやすい。
手番が来たプレイヤーは,複数のアクションを消費して,自分の駒を移動させたり,敵のキューブを排除したり,村を焼いて一種の焦土戦術を展開したりできる(アクションを組み合わせての実行も可能)。
戦闘ルールはシンプルで,「敵軍を除去する」アクションを行えば敵のキューブを除去できるし,一方で敵が前進してきたマスに自分の駒があったら即死だ。オール・オア・ナッシングである。
しかるに,ここでLembituにおける常套戦術となるのが,ゲリラ戦である。
敵軍は,マップ上の太線を伝ってしか侵攻してこない。これは12世紀頃の兵站や地理知識を鑑みれば,いたって当然の行動である。そもそも軍隊が進軍できる規模の道など,限られているのだ。
一方でジモティたるプレイヤー達は,地の利を活かして枝道(細い線で書かれた道)に入ることができる。枝道には敵軍が入ってこないので,「移動して接敵し,敵軍を除去した後,枝道に避難する」というムーブが,安全に敵の侵攻を食い止める手段となる――もちろん,これだけで敵の侵攻を完全に撃退できるわけではないのだが。
総じて言えば,Lembituにおいてプレイヤー側は相当に不利な立場にある。史実がそうだったんだから仕方ない。この困難を,協力していかに乗り切るか――あるいは史実のように乗りきれずに終わるのか。Lembituは,そういった歴史の追体験ゲームとしても成立していると言えるだろう。
指揮官問題は残っているが
さて,興味深いテーマをうまく処理したLembituだが,問題がないわけでもない。
最大の問題は,協力ゲームにつきものの「指揮官問題」だろう。例えば4人で協力プレイをするとして,そのうち1人がボードを吟味し最適なムーブを導き出し,残る3人はそれに従ってプレイするという状況に陥った場合,果たして「3人」側は本当にプレイに参加する必要があるのか,極めて疑問である。ぶっちゃけ「1人」がソロプレイするのだって,同じ体験は成立するはずだ。
この指揮官問題については,さまざまな協力型ゲームが色々な解決を提示しているが,Lembituでは潔いくらいに何の対策も為されていない。
まあ,半端な「対策」によってゲームが面倒くさくなるよりは,「指揮官になりたいヤツがいればやらせりゃいいし,その指示に従わないヤツが出て負けたら,それはそういうもんだろう」という態度のほうが,ゲームの見通しが良くなるのも事実だ。
とくに本作は,「北方十字軍におけるエストニアの抵抗」(ないし,最低限でも「歴史」)にまるで興味のないプレイヤーが集まるという状況が,あまり考えにくい作品と言える。そういう気心が知れたプレイヤーが集まってプレイするならば,指揮官問題が「問題」としてわだかまりを残す可能性は,極めて低い。指揮官問題は,見ず知らずのプレイヤーが集まって協力型ゲームをプレイするときに「問題」として浮上するのだ,という理解は必要だろう。
Lembituは,どちらかと言えば,ウォーゲームテイストが強めのボードゲームと言える。筆者の感覚で言うと,「Victory Point Gamesのソロプレイ用ウォーゲームを多人数プレイに対応させたらLembituになった」というのが,正直な感想だ(この説明で理解してもらえる人はごく少数かもしれないが)。
ただ,ルールはいたって簡単だ。ボードゲーム慣れしている人ならば,ルールの把握に5分とかからないだろう。プレイ時間も1時間程度で,よほど長考するプレイヤーがいない限りは,テンポよくゲームが進む。またしばしば……いや,わりと頻繁に「これはもう考えてもどうにもなりませんね」的な状況にも追い込まれる。
個人的には,Lembituという作品は,ゲームとしての完成度もさることながら,SPIELに訪れた人に「北方十字軍におけるエストニアの戦いと,英雄Lembituの存在」をアピールできていることに,大きな意味があるように感じた。実際筆者も,このゲームをプレイしたことが,北方十字軍について調べ直す契機となっている。
歴史的に見てマイナーなテーマのゲームはハードルが高くなりがちだし,それを受け入れてくれるマーケットだって狭いものだ。だがそういったゲームを世界に向けてアピールすることには,売れる売れないとはまた別次元の意義がある。Lembituは,その好例ではないだろうか。
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