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そうだ アニメ,見よう:第187回は今話題の和風シンデレラ・ストーリー「わたしの幸せな結婚」。政略結婚から始まる恋物語
顎木あくみ氏の小説「わたしの幸せな結婚」(富士見L文庫/既刊7巻)は,小説投稿サイト「小説家になろう」で発表された後,2019年より商業レーベルで刊行されている作品だ。2023年3月時点でのシリーズ累計発行部数が700万部を突破(コミック・電子を含む)している人気作で,コミック化はもちろん,3月には目黒 蓮さんと今田美桜さん主演の実写映画も公開されている。
というわけで,「そうだ アニメ,見よう」第187回のタイトルは,同作をアニメ化した「わたしの幸せな結婚」(毎週水曜23:30〜TOKYO MX/サンテレビほか)。制作はキネマシトラス,シリーズ構成・脚本は佐藤亜美氏,大西雄仁氏,豊田百香氏が担当。監督は「ID:INVADED」や「いたずらぐまのグル〜ミ〜」を手掛けた久保田雄大氏が務めている。
「わたしの幸せな結婚」
斎森家の長女・美世(CV:上田麗奈)は,異母妹・香耶(CV:佐倉綾音)が父と継母に愛情深く育てられる一方で,ないがしろにされ,使用人同然の生活を送っている。やすらぎをくれるのは,心優しい辰石家の次男・幸次(CV:西山宏太朗)だけだった。
父親と母・薄刃澄美は,異能者の家系同士の政略結婚であったが,長女の美世は異能が発現せず,異能を持った異母妹の香耶が生まれたことから,美世の居場所はなくなってしまったのだ。父親からも見放され,良家の子女としての教育も受けさせてもらえないまま19歳になった美世は,すべてを諦め笑うことを忘れていた。
そんなある日,父親は香耶の夫として幸次を婿養子に迎える。そして美世には,冷酷無慈悲と噂される軍人の久堂清霞(CV:石川界人)の元へ嫁ぐよう命じる。すべてを受け入れた美世は,郊外にある清霞の住まいを訪れた。
「きれいな人…」
清霞の美貌に戸惑う美世に,「私が出て行けと言ったら出て行け。死ねと言ったら,死ね」と告げる清霞。そんな言葉にもこれまでと変わらないと,素直に従う美世だった。
翌日から,美世はどうにか役に立とうと,使用人のゆり江(CV:桑島法子)よりも早く起きて朝食を用意するも「毒を盛ったのだろう」と疑われて,はねのけられてしまう。ショックを受ける美世にその夜,清霞は不器用に詫び,2人のぎこちない夫婦生活が始まるのだった。
和風シンデレラ・ストーリー
本作は,「小説家になろう」の女性向けジャンルで人気の“不遇ヒロイン系”の作品だ。小説家になろう掲載時にかなりの人気を誇った作品で,現在は富士見L文庫から単行本が発売されているほか,「カクヨム」にて番外編が掲載されている。
舞台となる明治や大正を思わせる時代感のファンタジー世界には,古来から鬼,妖などと呼ばれる“異形のもの”が出現し,炎や雷などを操る異能の力を持った人々と戦っている。
ヒロインの美世は,異能の力を持つ良家の子女だが,力が発現していない。後妻の娘である香耶には異能が目覚めてしまい,そのせいで差別され,継母からいじめられる毎日。かつての橋田壽賀子ドラマでよく見られた“和風シンデレラ”ともいえる作品なのだ。
シンデレラなので,当然“王子さま”がいるわけだが,その役を担う久堂清霞は女性が苦手でかなり不器用なタイプ。金や地位を目当てに寄ってくる欲深い女性を拒んできたせいで,冷徹で無慈悲と噂されるが,実は情け深い人物だ。美世が斎森家で不遇な扱いを受けていたことを調べ,その生い立ちを知ることで,美世に愛情を抱くようになっていく。
本作では,2人がゆっくりと“夫婦”なっていく過程が丁寧に描かれ,見ているこちらもドキドキさせられる。育ちのせいで心を閉ざしている,美世の表情が次第に穏やかになっていくのも楽しい。明治大正風の世界観と,ファンタジックなエッセンスを散りばめながら,王道ラブストーリーが味わえるのが本作「わたしの幸せな結婚」なのだ。
キネマシトラスが作り上げる明治大正モダンの世界
“明治・大正モダン”の世界を舞台に,血の呪縛である「異能」を巡るドラマが展開される本作。この設定を繊細なアニメーションで表現しているのは,「メイドインアビス」や「盾の勇者の成り上がり」といった,海外でも高い評価を受けているスタジオ・キネマシトラスだ。
丁寧に仕上げられた背景美術に,風に舞う花びらのエフェクトなど,こだわりぬいた映像美で,重くなりがちなストーリーを軽やかな印象にしているのも,さすがだと言える。「青みがかった瞳と薄茶色の長い髪」の清霞の登場シーンは,観ている人をハッとさせるほど美しい映像だった。
今後原作通りにストーリーが進行するのならば,清霞の異能を使ったアクションシーンも見られそうだ。シネマシトラスがどんな映像を見せてくれるのか,期待したい。
OP・ED曲のノンクレジット映像が公開
そんな本作を盛り上げているのが,りりあ。さんが歌うオープニング曲「貴方の側に。」だ。TVアニメ「サマータイムレンダ」のエンディング曲で見事な歌声を披露していたりりあ。さんは,今回もその歌声で切ないラブストーリーに色を添えている。
一方,エンディングは,伊東歌詞太郎さんの「ヰタ・フィロソフィカ(いた・ふぃろそふぃか)」。「男女の愛で大切なのは何か?」を綴ったドラマチックなバラード曲だ。2つの楽曲のノンクレジット映像が公開されているので,気になる人はチェックしておこう。
美世の持つ「薄刃家」の異能とは
第5話まで放送され,美世と清霞の関係もわずかずつだが深まってきている。しかし,その一方で美世をめぐる不穏な動きも見られ,ただでは済みそうもない様子。どうやら,美世の持つ「薄刃家」の異能が問題のようだが,その力がなんなのか気になるところ。清霞の下に嫁いだ後も,なかなか“幸せな結婚”というわけにはいかないようで,今後も目が離せない。
なお,原作小説「わたしの幸せな結婚 八 アニメBlu-ray付き同梱版」の発売が,2024年3月15日に決定している。TV未放送の新作エピソード「わたしの幸せなかたち」が収録されるので,本作にハマったという人は,購入を検討してみてはいかがだろう。
「わたしの幸せな結婚」公式サイト
「わたしの幸せな結婚」公式Twitter
放映データ |
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2023年7月〜 |
毎週水曜23:30〜TOKYO MX/サンテレビほか) |
キャスト | |
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斎森美世:上田麗奈 | |
久堂清霞:石川界人 | |
斎森香耶:佐倉綾音 | |
辰石幸次:西山宏太朗 | |
ゆり江:桑島法子 | |
五道佳斗:下野紘 | |
鶴木 新:木村良平 | |
辰石一志:深町寿成 | |
堯人:石田 彰 |
スタッフ | |
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原作:顎木あくみ(富士見L文庫/KADOKAWA 刊) | |
原作イラスト:月岡月穂 | |
監督:久保田雄大 | |
設定・監修:阿保孝雄 | |
シリーズ構成・脚本:佐藤亜美 大西雄仁 豊田百香 | |
キャラクターデザイン:安田祥子 | |
色彩設計:岡松杏奈 | |
美術監督:片野坂恵美(インスパイア―ド) | |
美術アドバイザー:増山 修 | |
美術設定:菱沼由典 曽野由大 吉?正樹 | |
プロップ:高倉武史 ヒラタリョウ みき尾 | |
撮影監督:江間常高(T2 スタジオ) | |
3DCG 監督:越田祐史(スタジオポメロ) | |
着物デザイン:HALKA | |
編集:黒澤雅之 | |
音楽:Evan Call | |
音楽スーパーバイザー:池田貴博 | |
音楽制作:ミラクル・バス | |
音響監督:小泉紀介 | |
音響制作:グロービジョン | |
脚本開発協力:森本浩二 | |
アニメーション制作:キネマシトラス | |
OP曲:「貴方の側に。」りりあ。 | |
ED曲:「ヰタ・フィロソフィカ(いた・ふぃろそふぃか)」伊東歌詞太郎 | |
(C)顎木あくみ・月岡月穂/KADOKAWA/「わたしの幸せな結婚」製作委員会 |
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