インタビュー
辻本監督なら「ゾンビの渦」を表現してくれる――フルCG映画「バイオハザード:ヴェンデッタ」のキーマンにインタビュー
「ヴェンデッタ」ではシリーズを象徴する主人公であるクリス・レッドフィールドとレオン・S・ケネディが「バイオハザード6」以来の共演を果たし,さらに初代「バイオハザード」や「バイオハザード0」で活躍したレベッカ・チェンバースも登場。ファンにとっては注目せざるを得ない作品だ。
今回,「ヴェンデッタ」の監督を務めた辻本貴則氏,同じく脚本を手がけた深見 真氏にインタビューを実施し,フルCG映画ならではのこだわりやアクションについて聞いてみた。
「バイオハザード:ヴェンデッタ」公式サイト
「ゾンビの渦に飲み込まれる」格闘シーンとは
辻本監督が語るアクションへのこだわり
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,お二人が「ヴェンデッタ」に関わることになった経緯を教えてください。
深見 真氏(以下,深見氏):
制作を手がけるマーザさん(マーザ・アニメーションプラネット)に誘われたのですが,なんとこれがTwitter経由だったんですよ。マーザさんが僕の連絡先を知らなかったみたいで(笑)。
4Gamer:
Twitterというのが現代的ですね。
深見氏:
そうなんです(笑)。マーザさんのスタッフとお会いしたら,その段階では清水 崇さんが製作総指揮を執ることは決まっていたんですが,監督が不在でした。そこで僕が辻本さんを推薦して,トントン拍子に話が進んでいった形ですね。
辻本貴則氏(以下,辻本氏):
以前から深見さんとは知り合いだったんです。ずっと一緒に仕事がしたいと思っていたので,やっとそれが叶いました。
深見氏:
僕もずっと辻本作品のファンだったので,ぜひ辻本監督と仕事したいと思っていたんです。監督は格闘の演出に定評がある方ですが,「ヴェンデッタ」ではクリスやレオンがゾンビと格闘するシーンがたくさん登場します。
辻本氏:
脚本の段階で「ゾンビとの接近戦」はすでに入っていて,「ゾンビの渦に飲み込まれる」と書いてありましたね。最初は「これ,実現できるかな……」と悩みましたけど,大量のゾンビに飲み込まれながらの格闘戦は十分に表現できたと思います。
深見氏:
「ゾンビとの接近戦」「ゾンビの渦に飲み込まれる」と書いておけば,「辻本監督ならスゴいシーンに仕上げてくれる」と期待していたら,そのとおりになりました。終盤のシーンに至っては,関節技や銃撃を含む多彩な格闘のパターンが見られますよ。
辻本氏:
メインキャラクターの1人であるグレン・アリアスは接近戦を得意としています。台本には「相手の銃を掴んでマガジンを抜き,さらに初弾を抜く」というところまで書いてありました(笑)。
監督の立場としては「書いてあるんだったら,やってやるよ!」って気持ちになりますからね。「台本に勝ったか負けたか」みたいなものがあって,やはり「負けたくない」という気持ちが強いんです。
レオンとクリスの関係は
「バイオハザード6」と対になっている
4Gamer:
「ヴェンデッタ」では「バイオハザード6」以来となるクリスとレオンの共演も大きな見どころとなります。2人の関係性において意識した部分を教えてください。
深見氏:
「ヴェンデッタ」のストーリーは,「6」と対になるものにしたいと思っていました。ゲームをプレイした方なら分かると思いますが,「6」ではクリスが落ち込んで酒に溺れていますよね。「ヴェンデッタ」では冒頭,レオンが落ち込んでいるんですけど,ちょうど対になっているんです。「6」をプレイをした人にとって,ちょっとしたファンサービスになればいいなと。
4Gamer:
クリスとレオンではアクションのタイプが違います。どのように差別化を図っていますか。
深見氏:
アクションについては,辻本監督が相当こだわって作っています。レオンのかかと落としなんて,派手でカッコいいですよ。バイクアクションも登場しますし,レオンらしさを楽しんでもらえると思います。
辻本氏:
まあ,銃の効かない敵に対して,「かかと落としなんか効きやしないよ」って意見もありそうだけどね(笑)。
ただ,「バイオハザード」のCG映画はこれまでに2作品(「ディジェネレーション」「ダムネーション」)ありましたけど,それと同じ方向性で撮っても負けちゃうから,どうせなら「ヴェンデッタ」ならではの良さを追求したいと考えたんです。
つまり,僕が監督をすることによって生まれるアクションのカッコよさですね。バイクやジープに乗りつつ,それらをどう動かして,ラストに持っていくか。この部分はかなりこだわりました。
深見氏:
劇中ではクリスがジープ,レオンがバイクに乗っているんですけど,キャラクターと乗り物がマッチしていますよね。グリーンのジープは,いかにもクリスが乗りそうで。
そこは,やはりカプコンさんのキャラクターのすばらしさだと思います。キャラクターそれぞれのカラーがはっきりしているので,僕らがキャラクターを動かしてるというより,キャラクターが勝手に走っていく感じさえありますよ。
深見氏:
ちなみに,レオンのバイクアクションは「バイオハザード4」のラストシーンに対するオマージュのようでもあります。ゲームをプレイした方が「このシーンはもしや!」と思ってくれたら嬉しいですね。
「洋館」はバイオハザードにおける恐怖の象徴
4Gamer:
オマージュと言えば,「ヴェンデッタ」の冒頭には洋館が登場しますね。しかもレベッカが久々にカムバックするということで,初代「バイオハザード」に通じるものを感じました。
辻本氏:
初代や「2」の雰囲気に戻すという原点回帰も,「ヴェンデッタ」のコンセプトの1つでした。これはカプコンさんの要望でもあったので,恐怖の演出にも相当こだわっています。
清水さんが参加しているということでお気づきの方もいると思いますが,ホラー要素を入れるという案は最初からありました。バイオハザードにおいて「恐怖の象徴」と言えば,「洋館」は外せないところです。後半はアクションが多くなるので,ホラー要素を強めるなら序盤。それならば,洋館を舞台にしようじゃないかと。
辻本氏:
どうせ洋館を舞台にするなら,建物や内部のレイアウトもできる限り,初代に似せようということで,昔の資料を参考にして細部まで作り込みました。
そうなるとドンドンこだわりたくなって,あの印象的な「ゾンビが振り返るシーン」のオマージュも入れました。さらにハリウッド版「バイオハザード」の要素として,レーザートラップのシーンもありますよ。
4Gamer:
ハリウッド版のオマージュまであるとは(笑)。キャラクターのコスチュームがゲーム版のデザインに近いのも,ファンには嬉しいポイントですね。
辻本氏:
そうですよね。ただ,「ヴェンデッタ」の時代設定だとレベッカですら30歳位になっているので,あまり若々しいのも違う気がする。とはいえ,初代に近い部分も残したいということで,結構,試行錯誤を繰り返しています。
レベッカの衣装では「30歳でチョーカーはないだろう」と赤シャツに変更しました。ちなみに舞台版(「BIOHAZARD THE STAGE」)では白衣を着ていたので,それにも合わせています。
4Gamer:
初登場のシーンでは,レベッカがメガネを掛けていました。
辻本氏:
「レベッカがメガネを掛けたらどうなるんだろう」と気になったんですよ(笑)。もちろん老眼ではないので,単純に視力が悪くなっちゃったと。僕のフェチが出ちゃいました(笑)。
新キャラクター「アリアス」を通して
描きたかったもの
4Gamer:
「ヴェンデッタ」には,カプコンの小林裕幸さんが原作監修として関わられていますが,どのようなやり取りがありましたか。
深見氏:
主にキャラクター設定に関する部分ですね。レオンは「てめぇ」という言葉使いをしないとか(笑)。「B.O.W.」(Bio Organic Weapon,生体兵器のこと)の使い方にも指摘がありました。
そう言えば,清水さんが「レオンの子供時代のエピソードを描きたい」という案を出していたのですが,それはNGでしたね。
辻本氏:
既存のキャラクターに関しては,その設定にチェックが入りましたが,アリアスやマリアといった新キャラクターはかなり自由にやらせてもらいました。
4Gamer:
アリアスは新登場のキャラクターですね。既存のキャラクターとイメージが重ならない敵役になっていると思います。
深見氏:
例えば,「ヴェンデッタ」にウェスカーが登場することになっても,勝手に殺すわけにはいかない。ゲームのキャラクターを我々が勝手に扱うことはできません。
その意味で,アリアスは非常に扱いやすいキャラクターでした。アクション映画をキレイに終わらせるためには,倒す目標となるキャラクターを1人立てないとストーリーが散漫になってしまいます。
「ヴェンデッタ」はアリアスを倒すことが目標の1つであり,彼の存在がアクセントになったと思います。企画段階では,もう少し俗っぽい部分もあったりしたんですけど。
辻本氏:
作品に出したものには,きちんと決着をつけないといけないと思っています。それは人間に限った話ではなく,乗り物にしてもそう。バイクを出したはいいけど,ただ乗っているだけではつまらない。映画を最後まで見てもらえれば分かりますが,バイクがいい仕事をしていますよ(笑)。
アリアスに関しては,立場が違えば主人公として立てるくらいに真っ当な人間だと思います。劇中,指輪が印象的なアイテムとして登場しますが,これが後半に重要な意味を持ちますので,ぜひ期待してほしいですね。
4Gamer:
「ヴェンデッタ」は実写でもアニメでもない,CGアニメという立ち位置です。CGアニメならではの苦労やこだわりを教えてください。
辻本氏:
おっしゃるとおり,「ヴェンデッタ」はCGアニメですが,カメラワークは実写作品を意識しています。CG作品は実写だと不可能な画も撮れることが利点ですが,使い方を間違えると不自然に見えてしまいます。
CGらしいカメラを効かせているのは,「いざ」というときのみです。だからこそ,CGらしいカメラが生きてくる。そういう部分にも注意してご覧になると,より面白くなるかもしれませんよ。
4Gamer:
分かりました。最後にバイオハザードファンに読者に向けて,一言お願いできますか。
深見氏:
この仕事のおかげで「ゲームするのも仕事だ」と胸を張って言えるようになりました(笑)。皆さん,バイオハザードを遊びましょう!
辻本氏:
CGアニメのバイオハザードシリーズは,ゲームの世界を色濃く反映させた映画作品です。とくに今回はそれを意識して,それぞれのキャラクターを大事に描きました。ゲームをプレイしている感覚で楽しめる映画になりましたので,ぜひ劇場に足を運んでください。
4Gamer:
どうもありがとうございました。
「バイオハザード:ヴェンデッタ」公式サイト
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