業界動向
真の主役はエージェントサービス「Google Assistant」。新型スマホ「Pixel」やVR HMDが披露されたGoogleのイベントが示したものとは?
ゲーマーに関わりの深い製品以外にも,家電との連携機能を持ったスピーカー「Google Home」や,4K解像度の映像出力に対応したワイヤレスデバイス「Chromecast Ultra」といった製品も,同時に発表されている。
「ベストのソフトウェアとベストのハードウェアの組み合わせ」とGoogleはアピールするが,実のところイベント自体は,どちらかというとソフトウェア(とサービス)に重点が置かれていた印象だった。そんなイベントの概要を簡単にレポートしたい。
イベントの主役は音声操作のエージェントサービス
Google Assistant
イベントで,紹介に時間が多く割かれていたのは「Google Assistant」だ。Google Assistantとは,Googleの音声認識や音声合成,自然言語解析,ナレッジグラフ,AI(人工知能),機械学習といった分野の研究成果を集めて開発された個人向けエージェントサービスである。
これまでもGoogleは,Androidデバイス用のパーソナルアシスタント機能「Google Now」で,音声による検索や,連絡先を指定しての通話,天気の表示やスケジュールの確認といったさまざまな機能を,音声で操作するソフトウェアを提供してきた。
これを拡張したのがGoogle Assistantという理解でいい。そしてスマートフォンのPixelシリーズが,世界初のGoogle Assistant搭載端末というわけだ。
使い方はGoogle Nowと同じで,ホームボタンを長押しして起動を呼び出し,
あとは自然な言葉でやりたいことを話しかけると,Google Assistantが適切な機能を実行するという仕組みである。
現在,Googleのスマートフォンアプリ「Allo」で,Google Assistantのプレビュー版が提供されており,テキスト入力によるチャット形式でWeb検索をしたり,明日の予定をチェックしたり,写真を検索したりといった機能を利用可能だ。
これを音声で利用できるようにしたのが,Pixelに搭載されたGoogle Assistantである。できることだけで考えれば,これまでのGoogle Nowと大差はないが,自然言語での会話を可能にしたことで,より「パーソナルアシスタント」としての位置づけを強めたのが特徴だろう。
残念なことに,Google Assistantが現時点で対応する言語は英語のみ。だが,Pichai氏のメッセージや,これまでのGoogleの歩みを考えれば,今後は日本語版の提供も期待していいだろう。
「1人1人のGoogle」実現を目指す
Pichai氏は,「1人1人の『パーソナルGoogle』を提供するのがゴール」と述べており,Google Assistantをより個人に紐付いたサービスに近づけていく考えだ。とくに機械学習とAIに関してPichai氏は,「モバイルファーストからAIファーストの世界に進化している」と強調。「コンピューティングは,すべての人がいつでもどこでも,自然に,シームレスに利用できるようになる」(Pichai氏)という目標のもとに,その実現に向けてGoogle Assistantを開発したという。Pichai氏によれば,「Google設立以来の18年で最もハードに開発をしている」プロジェクトであるそうだ。
Googleが機械学習のシステムを発表したのは,2014年のことだったが,当時の精度は89.6%だったという。これが,現在では93.9%まで向上しているそうだ。人間レベルの正確さを目指して開発しているため,この4%の向上だけでも多大な努力が必要だったそうだ。
たとえば画像認識技術の場合,2年前は写真を見せも「ホームに止まっている電車」としか認識できなかったが,現在では「青と黄色の電車が下りのホームに侵入している」まで認識できるようになった。こうした機能は,Googleフォトの検索で活用されているという。
また,翻訳機能では,従来は単語単位で翻訳していたが,それを文脈を解析できるようになった。中国語から英語の翻訳では,6点満点の単語翻訳のスコアは「3.694」,人間による翻訳が「4.636」だったのに対し,「4.263」のスコアを得るまで精度が向上したそうだ。
人間のように自然な話し方で文章を読み上げる「Text to Speech」機能も機械学習の成果により進歩している。英語の場合,5点満点で人間の話し方が「4.55」だったのに対し,Googleの開発した「WaveNet」技術では「4.21」のスコアを記録するようになり,より自然に聞こえる音声合成を実現できているという。
一言で話し方といっても,人種の違いや感情による変化などを反映することも,「1人1人のGoogle」実現には必要だということだった。
Google Assistant対応デバイスとしてPixelやGoogle Homeを発表
このような「パーソナルGoogle」を2つのシーンで利用できるようにしたのが,今回発表された新製品だ。身につけて常に持ち歩くデバイスがスマートフォンのPixelであり,家庭で利用するための据え置き型デバイスがGoogle Homeだ。
まずPixelのほうだが,速報記事でも報じたとおり,スマートフォンとしては,それほど奇をてらったものではない。写真機能が強化され,Google Photosに写真や動画を縮小せずに無制限でアップロードできる点や,VRプラットフォームである「Daydream」に対応するといった点が特徴に挙げられたが,それら以上に大きなポイントは,Google Assistantをプリインストールしていることにある。
一方のGoogle Homeは,音声でGoogle Assistantを利用するための家庭向けクライアントデバイスで,「ワイングラスやキャンドルのような」という形をしている。
Google Homeに向かって「OK, Google」と呼びかけるとGoogle Assistantが応答するので,音声で検索や命令を行うと,それに対して音声で応えるというものだ。照明やテレビなど,対応する電化製品であれば,Google Assistant経由で操作することも可能である。
テレビに関連したデバイスであるChromecast Ultraは,4K解像度やHDR出力に対応したのがトピックで,今後増えてくるであろう,4K+HDRのストリーミングビデオに対応できるようになったのが特徴だ。もちろん,Google Assistant経由の操作にも対応する。
そのほかに,「家庭内の無線LAN環境を改善する」という無線LANルーター「Google Wifi」も発表された。これは,1台の無線LANルーターだけでは電波が弱い場合,複数台を設置することで家屋全体をカバーできるように,インテリジェントに連携するのが特徴であるという。そのため,3台セットでの販売も行う予定だ。
Chromecast Ultra |
Google Wifi |
サードパーティーにもGoogle Assistantの機能を提供
Google Assistantは,単にGoogle検索やGoogleアプリの操作だけでなく,サードパーティーにも広げたオープンなエコシステムを構築することが狙いである。まず,2016年12月初旬には,Google Assistantを利用するソフトウェア開発が,サードパーティーも可能になるという。
Google Assistantには「Direct Actions」と「Conversation Actions」という利用方法がある。たとえばDirect Actionsは,直接なんらかの機能にアクセスするもので,「居間の照明をつけて」とか「Spotifyでディナーパーティー用のプレイリストをかけて」といった操作が行える。これは,現在のAndroidでも利用できる音声操作機能を拡張したものといえよう。
一方のConversation Actionsは,ユーザーと会話をしながら目的を達成しようというものだ。イベントで行われた例を挙げてみよう。
- ユーザー「Uberを呼んで」
- デバイス「どこに行きますか?」
- ユーザー「どこそこへ」
- デバイス「またUberXでいいですか?」(※過去の履歴を参照するようだ)
- ユーザー「いや,今回はUberXLで」
- デバイス「分かりました。3分で到着します」
こうした機能を使うGoogle Assistant対応アプリは,Googleが9月19日に買収した自然言語による対話用API「API.AI」を利用することで開発できる。今後は,API.AI以外の開発ツールからも利用可能になる予定だ。
米国では,すでに多くのパートナー企業がGoogle Assistant対応アプリやサービスの開発をすることになっている。その詳細はActionsに関するWebサイト(関連リンク)に掲載されるそうだ。さらに,組み込み機器向けのGoogle Assistant SDKも開発中で,2017年に提供開始の予定である。
こうした取り組みが軌道に乗れば,Google以外のさまざまな製品からでも,Google Assistantにアクセスして,音声による操作やサービスの提供が可能になるだろう。そうした世界を実現することで,Googleのサービスは,Androidスマートフォンにとどまらない,より広範で新しいプラットフォームとなり,より深く個人に近づいた,「1人1人のGoogle」を提供できるようになるはずだ。
今回のイベントは,将来に向けたGoogleの大きなチャレンジが,具体的な形で見えてきたものだったといえるのではないだろうか。