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[GDC 2017]VRMarkに新テスト「Cyan Room」が追加。GDC 2017 EXPOのFuturemarkブースをレポート
今年のEXPO出展状況について,来場者の間で話題になっているのは経済事情が不安視されていた,大手ゲームエンジン開発スタジオのCrytekがついにブース出展を取りやめたことだ。技術系セッションにおいても,Crytekからの登壇者はいない。
昨年,Crytekは大がかりなレイオフを行い,12月に韓国,中国,トルコ,ハンガリー,ブルガリアの支社を閉鎖。現在はドイツ本国とウクライナ支社の2スタジオ体制で再生を図っている。EXPOのCrytekブース跡地にはAmazonが出展しており,同社はゲームエンジン「Lumberyard」中心の展示を展開している。
奇しくも,このLumberyardは,CRYENGINEのソースコードをAmazonがCrytekから買い取って,独自に改良/拡張をしているものであり,なんとも不思議な縁を感じる。
ともあれ,最初のGDC 2017 EXPOレポートは,ベンチマークソフトの老舗「Futuremark」のブースからお届けする。
VRMarkにフルDirectX12版テストモード「Cyan Room」が追加に
Futuremarkといえば2016年11月に,VR(Virtual Reality,仮想現実)対応システムのためのベンチマークソフト「VRMark」を発表したばかり。
11月の初期リリースから,VRMarkには,テスト対象のシステムがVR HMD(VRヘッドマウントディスプレイ)を接続して,VRアプリケーションを楽しむのに適しているかどうかを判定する「Orange Room」テストと,VRアプリケーションで利用される典型的なグラフィックス処理を過剰なほどのクオリティで実践し,テスト対象システムを高負荷にさらして性能を評価する「Blue Room」テストの2つが実装されていた。今回,GDC 2017のブースでは,新たなテストモード「Cyan Room」のβ版(開発進捗度90%)が公開された。
Cyan Roomは,前出のOrange RoomとBlue Roomの中間的な負荷度のテストモードだそうで,最大の特徴はフルDirectX 12ベースで開発されているという点だ。テスト対象システムがDirectX 12でどの程度のVRパフォーマンスを発揮できるか……というのが表向きの開発意図なのだが,FuturemarkのDirector of EngineeringのJani Joki氏によれば,「DirectX 12ベースでVRアプリケーションを構築していく上での,サンプル的な存在として示していきたいという意図もある」のだとか。
実際にCyan Roomの映像シーケンスを見せてもらったが,空中投影された近未来的な謎めいたコンソール画面を見てまわる探索系の内容で,例えるならばアドベンチャーゲームの「MYST」的な雰囲気を感じるものになっていた。
リリース時期は2017年第2四半期を予定。VRMarkの既存有償ユーザーに対しては無償アップグレード版として提供される予定だ。
スマホVRゴーグル向けのVRベンチ「VRMark Mobile」を公開
Futuremarkは,前出のWindows PC環境向けのVRMarkとは別に,AndroidベースのVR環境を評価する「VRMark Mobile」を開発中であることを発表し,実動デモを展示していた。
テスト対象システムは,Androidベースのスマートフォンをはめ込んでVR HMD化して使う「スマホVRゴーグル」と呼ばれるデバイスで,この代表格と言えるのはサムスンのGearVRということになる。このほか,Google自身が開発した「Daydream」「Cardboard」などもVRMarkの対応プラットフォームとなっている。
テストモードは2つ搭載予定。
1つはテスト対象システムのVR対応度を検証するもので,コンセプトとしては前出の「Orange Room」に近いものになる。
2つ目は,スマホ特有の発熱に起因するパフォーマンス低下やバッテリー消費度を検証するテストになり,比較的長めにテストを実行して検証するものだそうだ。
実際にこちらのテストモードの映像も見てみたが,まさにこちらもアドベンチャーゲームの「MYST」シリーズのような雰囲気。骨董品がならんだ,美しい赤柄の絨毯が敷き詰められた無人の客間を探索していく内容だ。
こちらはまだ最適化の途中とのことで,遅延がそこそこにあり,完成度的にはα版といった印象。ただし,開発は急ピッチに進められており,2017年第2四半期中にはリリースを予定しているとのこと。
VRの遅延計測を行うテストシステム「VR Multimeter HMD」
VRにおいては表示遅延の大小が,VR体験そのものの評価の善し悪しに大きく影響することから「その遅延の少なさ」がとても重要視されている。
しかし,これを定量的に計測するのは難しい。計測するには,ユーザーの動きを検出してから,この動きを反映させて新しい映像を描画し,ユーザーにその映像を提示するまでの所要時間が計測できなければならない。
これはいわゆる「Motion to Photon」(動きから表示完了までの総時間)というやつで,意訳すれば「システム総遅延」といったところだ。
これを計測するには「VRアプリ側でストップウォッチをスタートさせて」「映像が表示された段階でこのストップウォッチをストップさせる」といった処理を行わなければならない。
となると,これは,ソフトウェアだけで実現できるものではない。
昨年のGDC 2016では,こうした課題に取り組んだシステムとしてBasemarkの「VRScore」を紹介(関連記事)したが,より本格的なシステムをFuturemarkとOptoFidelityが協力体勢を結んで開発に乗り出している。なお,OptoFidelityはディスプレイ機器や光学機器の品質評価システムの開発に従事している企業になる。
最終目標としているシステムでは,VR HMDを被せたダミーヘッド(人形の頭)をメカ駆動し,これに伴って表示される映像がどのくらい遅れているかを計測する。ダミーヘッド側の人間でいう眼球部分には受光センサー(実質的なカメラ)が搭載されており,描画した映像が実際にこの受光センサーに届くまでの時間が計測される。
仮称ながら名称は「VR Multimeter HMD」。「Multi」とあるくらいなので,いろいろな測定ができるように開発が進められているようだ。
実装予定測定項目としては,GamesIndustry.bizの記事でも紹介しているが,下記のような要素が評価できるように開発が進められている。
・Motion-to-photonレイテンシ
・ピクセルの残像
・フレームのジャーキネス(カクつき)やジッタ
・ドロップフレームや2重フレーム
・左右の目の時間差
・音と映像の同期
・発音遅延
・フレーム落ち時のパイプラインイベントの特定
・遅延フレームとタイムワープ処理の学習
・さまざまな負荷条件下でのレイテンシ評価
VR HMDの映像表示品質について,より踏み込んだ評価測定は行わないのか,と質問したところ,Joki氏によれば「現状は,Motion to Photon時間の測定を主体として,表示映像の安定性までを測定対象としているが,将来的には,表示映像の解像感評価,色収差などの光学特性といった高度な画質評価にも取り組んでいきたい」とのことだった。
リリース時期は2017年を予定しており,システム価格は約5000ドルを予定。価格が価格なのでターゲットはVR HMD開発企業などが中心となるはずだが,大手メディアには有償や無償の貸し出しをすることも検討中とのことだ。
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