インタビュー
「SINoALICE(シノアリス)」特別座談会の模様を掲載。「スマホのゲームは2Dのほうが少なくとも自分の好みに合ってるんです(ヨコオ氏)」「ポケラボ史上最高傑作に間違いなくなってます!(開発スタッフ)」
ヨコオタロウ氏といえば,2010年に発売された「ニーア レプリカント」「ニーア ゲシュタルト」の続編となるアクションRPG「NieR:Automata」(ニーア オートマタ)のヒットが記憶に新しいが(関連記事),その余韻がさめやらぬうちに氏の最新作が遊べるようになるわけだから,氏のファンであれば期待せざるを得ないだろう。
とはいうものの,シノアリスに関してはつい最近まで,世界観や登場キャラクターに関する情報が公開されているのみで,具体的にどのようなゲームなのかはほぼ不明だった。「登場人物がほとんど死んじゃうんじゃないの?」「スマホ向けRPGと見せかけて弾幕シューティングなのでは」「ラスボスとのバトルは音ゲーに違いない」などなど,ドキドキしていたヨコオチルドレンも少なくないはずである。
そんな中,ポケラボの厚意により,ヨコオタロウ氏および主要開発メンバーが一堂に会し,開発裏話や今後の展望などを語り合った「SINoALICE -シノアリス- 特別座談会」の原稿を提供してもらえたので,以下にほぼ無修正のまま掲載しよう。本日公開された最新プロモーションムービーやゲームシステム情報を合わせてチェックすれば(関連記事),シノアリスの姿がよりハッキリと見えてくるはずだ。
ヨコオタロウ氏による“最悪の物語”を“ポケラボ史上最高傑作”として完成させるために,関係者達は何を考え,どう動いてきたのか。さりげなく挿入されているゲーム画面も含めて確認してほしい。
「SINoALICE」公式サイト
「ポケラボ」公式サイト
「スクウェア・エニックス」公式サイト
※以下,ポケラボより提供された原稿をほぼそのまま掲載しています
ヨコオタロウ×開発スタッフによる特別座談会
「スマホのゲームは2Dの方が少なくとも自分の好みに合ってるんです(ヨコオ氏)」
「ポケラボ史上最高傑作に間違いなくなってます!(開発スタッフ)」
2017年春リリース予定の新作スマホ向けゲーム『SINoALICE』(シノアリス)にて、原作・クリエイティブディレクターを務めるヨコオタロウ氏と、主要開発メンバーが2017年3月初頭に都内某所で「SINoALICE -シノアリス- 特別座談会」を行いました。開発裏話や今後の展望など、盛りだくさんの内容となりましたので、是非お楽しみ下さい。
これ、何の特集でしたっけ?
前田 翔悟氏(※以下、前田氏):
開発者がシノアリスにかける想いを、こういうことやって、こういう感じで作ってます、こんなことが大変だったとかを……
ヨコオ氏:
じゃあ、お仕事で嫌だったことをみんなで話していきましょうか(笑)。
■キャラクターデザイナー決定の経緯
ヨコオ氏:
さっそく、デザインパートのトーク大会、イェ〜イ!
一同:
イェ〜イ!
前田氏:
では、まずは三浦さんからお願いします。
シノアリスのアートディレクターをやらせていただいている三浦と言います。イラスト関係とかゲーム中の素材とか、その辺を監修したり、実際に描いたりしてます。
ヨコオ氏:
なるほど。ヨコオのむちゃぶりをジノさん(※)になんとか描かせようという、一番困難なサブクエストをしてるんですね。
※ジノ氏は『シノアリス』でキャラクターデザイナーを務めているイラストレーター。
三浦氏:
そうですね。はっきりとは言えないんですけど、そんな感じですね(笑)。
前田氏:
イラスト、すごいクオリティが高いって好評じゃないですか。あれはやっぱり、ジノさんと三浦さんが作り上げたものじゃないかなって気がしますね。
三浦氏:
始める前に見せてもらったジノさんの絵の数がそんなに多くなくて、ゲームの仕事をやったことないって話をずっと聞いていたので、正直、最初は心配してました。ゲームの絵と、例えば他のラノベとかの絵って全然違うので、「どこまで描けるんだろうな」って心配してたんですけど、第一稿が上がってきたときに、「これはイケる」って思ったんですね。それがすごいビックリしましたね。
ヨコオ氏:
僕も複数のイラストレーターさんのサンプルを見せていただいた際に、玉石混交というか、候補の中にあんまり上手じゃない方もいらっしゃって。ジノさんが絵的にはダントツで上手かったので、ジノさんが良いなと。まぁ特に上手いと思ったのは落書きで描いたおっさんがちゃんとしてたんで、この絵をちゃんと描ける人は、絵が上手いんだろうっていう判断をしました。
三浦氏:
おっさん描ける人は上手いですね。
ヨコオ氏:
美少女は大体みんな上手いんですよ。
三浦氏:
テンプレートがある程度あるから。
ヨコオ氏:
ちょっとずれたものを綺麗に描ける人は絵が好きな人。
三浦氏:
そうですね、すごい思いますね。
前田氏:
ヨコオさんと一緒にやってきていて、三浦さんの中でアートディレクターとして何か得るものとかってあったんですか?
三浦氏:
一番感じたのは、今までってつくるものの一つ一つに対してのこだわりをすごく大事にしていて、「これのクオリティを良くしよう」って自分の中で思っていたんです。でも、そうじゃなくて、その画面の中に収まる要素として、すべてがちゃんと一体感を持ってることにこだわるっていう、今まで思っていても、例えば映画とかではやってても、それをゲームでやろうと思ったことはなかったなと。すごくそれが勉強になっています。
■本物のエフェクト表現を目指して
前田氏:
次は池田さんお願いします。
自分はシノアリスでエフェクトデザインの仕事をしています、池田博幸と申します。
前田氏:
池田さんはすごいんですよ。すごい真面目そうに見えるんですけど、多分ネジが一番飛んでる。よくエフェクトに関するプレゼンをするんですよ。社内でもするし、外に出てたりもしているんですけど、そこのプレゼンがすごいんですよ。アニメキャラのモノマネから、プレゼンが始まるんです。あと、エフェクトツールのオリジナルの歌を作ったりして(笑)。
池田氏:
シノアリスのリアルタイムのVFX……っていうかエフェクトデザインを、より究極のものにしたい。もう偽物は嫌だ、本物のVFXを追求したいっていう気持ちがあって。本物のエフェクトを表現したいっていうふうに思って結構ヤキモキしてたんですよ。
ヨコオ氏:
ちなみに、本物のエフェクトってなんですか?
池田氏:
僕として、観ていてものすごく悔しくなる映像演出とかエフェクトですかね。
ヨコオ氏:
なるほど、クオリティ的な意味。
池田氏:
クオリティ的な……うん、そうですね。いろいろな他社のアプリとかやってて「自分は至れていない、その技術に至れていない、悔しいな」っていう気持ちがあるんです。シノアリスでそれをちゃんと結実させたい、自分の気持ちに決着つけたいって思ってたんですよね。
ヨコオ氏:
すごい真面目ですね。
池田氏:
そう思っていたときに、藤本さんから「スパークギア(※1)っていうエフェクトツールあるんだけど、触ってみないですか」って紹介があったんですよね。しばらくテストで使ってみて「これはいけるな」と思って。これならリリース時点で世界最強のGvG(※2)をリアルタイムVFXで表現できるなって確信して、スパークギアを採用させていただいて、今鋭意制作中という感じです。
※1 SPARK GEAR(スパークギア)とは、コンソールレベルの超ハイクオリティで臨場感あふれる3Dエフェクトをスマートフォンゲームで展開することができる、リアルタイムVFXソリューション(http://sparkgear.net/)。
※2 GvGとはギルド・バーサス・ギルドの略で、多人数同士で対戦するゲームジャンルを指す。
ヨコオ氏:
なるほど。世界最強のGvGのエフェクトになるという。
池田氏:
そうですね。リリース時点で。いつか抜かれると思うんですけど(笑)。
前田氏:
で、興奮のあまり曲を作ったんですよね?
池田氏:
そう。それであんまり触ってて気持ちが良かったから、これは歌にしなきゃ駄目だなと。
ヨコオ氏:
それちなみにどんな歌ですか?サビだけちょっと。
池田氏:
ツールとフュージョン!
生み出すイリュージョン!
そのシナジー、エクスプロージョン!!?
三浦氏:
ラップなんですね(笑)。
ヨコオ氏:
相当ですよ。今、字に起こしても、相当な情報が伝わったと思います。
池田氏:
気持ちよくなってきました(笑)。
■スマホの常識に囚われないデザイン
ヨコオ氏:
この盛り上がりの流れでいきましょうか。満を持して。
UIデザインのリーダーをやっている、栗田昭と言います。
前田氏:
このプロダクトに対するこだわりとか思いとか、聞かせていただけると。
栗田氏:
今回、ヨコオさんに監修についていただいていますが、テイストを自分以外の方に委ねるという形が初めてでした。そして、過去のヨコオさんの作品に興味があったときに、本当にいいタイミングで開発に関わり始めたんですよ。それで、やっぱりそれまでの自分がやってた仕事っていうのが、なんて言ったらいいんだろうな……。ザ・ソシャゲーって言うと角が立ちそうなんですけど。
ヨコオ氏:
もうちょっとポップな感じのマスに向けたデザインってことですね?
栗田氏:
そうですね。ヨコオさんと一緒にできれば、もっと尖ったものが創れそうだと思った。自分もどっちかっていうとそういうのに憧れてデザインとか始めたほうなんで、そういうのができるなっていうのが本当に嬉しかった。今も嬉しいって状況なんですけれど。
ヨコオ氏:
『そう思っていたのは発売までで、発売後に売上があまり伸びない様子を見た栗田は、やはり尖っているデザインは駄目なのだと後悔するのであった』
栗田氏:
いやいや(笑)。逆にもっと、今回やる中でやっぱり自分がヒヨってしまうというか、もっとやっていいな、みたいなところがあるので、これは次に活かせると思いますね。
三浦氏:
良くも悪くも今のソーシャルにあるUIを全部覆してくれるような話を頂いていたりもするので。そういう意味では面白いなって。
前田氏:
UIは他のソシャゲーには確実にないなと思います。いま出来上がっているものは。
三浦氏:
こうあるべきって物じゃないものができてるんで、そこはそこで面白いなって。
ヨコオ氏:
そうですね、UIは最初お会いした時に俺、「UIはいろいろ細かく言いますよ」ってお話をした記憶があります。
前田氏:
ソシャゲーだとよく鉄板のやり方があるじゃないですか。先祖代々伝わるようなこのビカビカ光らせての、バンバン光らせてからの。
ヨコオ氏:
あれ結果的にボタン達が「俺押せ! 俺押せ!」って出てきて、全員がカルビみたいになって、結果、何も見えなくて……なんかジャングルを見てる気持ち。どこを押せばいいのかわからなくて、ただただ怯える俺、みたいな。
栗田氏:
ちょうどその話をうちのデザイナーズと昨日、過去の自分達のアプリを見ながらしてましたね。振り返りを。結局全部信号機になってて。金、赤、緑みたいな。
ヨコオ氏:
でも、それはどうなんですか? デザイナーさんとして自分の好みの色味とか好みの表現っていうのがあると思うんですけど、そういうのは「以前はキャッチーな感じがいいなと思ってたけど、今はいろんな可能性があるな、幅が広がった」って感じですかね?
栗田氏:
そうですね。やっぱりデザインやってると考え方が変わってくるから、今も正解かどうかって全然わからないんですけれど。最初は見た目のクールさとかカッコよさってとこでデザインを始めたんですけど、逆に広告であるとかソーシャルゲームのデザインを始めたら、いわゆるかっこよさを捨てたところでどうお客さんをとっていくか、みたいな。そっちに一時やっぱり興味がいってた時期もあったんですよね。
ヨコオ氏:
そこでまた、今はちょっと先祖返りみたいな、お客様を取りつつ、「デザインとしてこういうのどうですか?」っていう感じですか?
栗田氏:
そうそう。本当に、まさにそんな感覚です。
ヨコオ氏:
三浦さんとかその辺どうなんですか? キャラクターのデザインとかいろいろなアート系で自分のやりたいと思ってる事とある種、集客のためにやらなければいけないことのバランスは、今はうまく取れてる感じですか?
三浦氏:
そうですね、結構難しいところですね、バランス取るのって。今回って、今までにないような、ジノさんの絵を完全に活かした作り方をしていて。今までのソーシャルゲームで言えば、例えば人を一人ずつ、一キャラずつが商材みたいな感じで言われるじゃないですか。なので、ここまで一人ひとりを大事に作るソーシャルゲームって、なかなかないなぁと思ってて。そういった中で、いかにそれをよく作るかってすごい難しいことだなと思いましたね。
■若手ゲームプランナーの苦悩
前田氏:
では後半の企画パートかな。エンジニアの人いるけど。
ヨコオ氏:
その他! デザイナー以外その他。
名前は松尾綾樹です。やっている仕事は、ゲームの見た目周りを見ています。
ヨコオ氏:
見た目。ゲームの見た目を見てるプランナー?
松尾氏:
そうですね。いろいろデザイナーさんとか、絵を描いてくれるイラストレーターの方とかに、こんな風にしてくださいってお願いしてる感じですね。
ヨコオ氏:
とりあえず若手なんで松尾さんが常に先陣を切って、辛かったことを。
松尾氏:
辛かったことは、ヨコオさんから設定があがってきたときに、アリスの設定が3行くらいしか書いてなくて、情報量があまりにもなさすぎてデザイナーさんからめちゃめちゃ「これどうなってるんですか!?」「いや、僕もわかんないです」って言ってたときがめちゃめちゃきつかったです(笑)。
ヨコオ氏:
ちなみに今わかってるんですか?
松尾氏:
今は大体な感じでやってますね。
ヨコオ氏:
そうなんです、大体な感じでいいんです。それを気づいたら良し。大体な感じでいいです。
松尾氏:
とりあえず、もうなんか「剣を刺しておけばいいんでしょ」みたいなそんな感じでやってます。
ヨコオ氏:
それを学んでほしかった!
松尾氏:
そこに辿り着いた!
ヨコオ氏:
それが大変だった?
松尾氏:
そうですね、どうしていいのかよくわからなかったんで。
ヨコオ氏:
そういうときは、俺は仕事しないで飲んでるのが一番いいかなとそう思う。
前田氏:
逆に、何か良かったこととか、このプロダクトに対する思いみたいなものは?
ヨコオ氏:
(裏声)ナニヒトツナイ!
前田氏:
(裏声)ソンナコトナイゾ。マツオ喋レ!(笑)
松尾氏:
良かったことは結構、ヨコオさんも、前田さんも、藤本さんも、岩間さんも、覚張さんも今日インタビューしてる人みんな、僕よりだいぶ偉い人たちばかりなんですけど、みんな結構やりたいなって言ったら「じゃあそれやろっか」みたいな感じで、好きな感じでやらせてくれるのがすごい良かったなと思いますね。
■トンマナに対する強いこだわり
前田氏:
じゃあ次は、岩間さん。
はい、名前は岩間裕和と申します。やってる仕事は企画の統括で、ヨコオさんの世界観を活かせるようなゲームシステムが構築できるよう日々奮闘しています。
ヨコオ氏:
企画全体の取りまとめ?
岩間氏:
そうですね、企画とか仕様とか全体の取りまとめです。辛かったことは、プランナー業務と若干ずれちゃうんですけど、自分は外部の制作会社様と協力して素材制作をする統括もやっているのですが、今回のSINoALICEでは制作物の種類数が多く、しかも高いクオリティが求められたので、とても苦労しました。
あと、ヨコオさんも三浦さんも非常にこだわっているポイントですが、SINoALICEではトンマナ(※)を合わせることを大事にしています。今まで自分が作ってきたゲームではここまでトンマナ合わせを徹底していなかったので、その部分でも外部の制作会社様とのやり取りが大変でした。
※トンマナとは、トーン&マナーの略で、デザインやコミュニケーションに一貫性を持たせること。
■エンジニアも世界観の表現に注力
前田氏:
次は覚張さん。大変だったこと。
はい、覚張泰幸です。エンジニアの統括をしてます。そうですね、自分のほうはプランニングというよりはエンジニアの、やっぱりみんなの視点を揃えるのが結構大変だったかなと。
ヨコオ氏:
視点を揃える?
覚張氏:
そうですね。ヨコオさんの世界観を表現することに一番フォーカスを置いて、納期に間に合わせることは重要なのですが、ヨコオさんの世界観をどれだけ表現できるかを大切に取り組んでます。やっぱりエンジニアって割と見た目を弄るのが苦手な人が多いんですね。そんな中、どうすればヨコオさんの世界観を表現できるか、みたいなところは結構揉めに揉め、頑張りに頑張り。
ヨコオ氏:
大分迷惑をかけている感じですね。
覚張氏:
そんなことないですよ(笑)。我々が力至らぬばかりに、及ばずばかりに、結構ご心配おかけした面も多いかなと思うんですけど、その辺結構エンジニア一丸となって頑張っていけてると。
ヨコオ氏:
ありがたい話です。
覚張氏:
もうみんなやるしかないって気持ちで、「やるしかない、やるしかない」ってみんなに毎日言ってるんで。「できない理由を考えるんじゃなくて、やる方法を考えよう」ってのは常に思ってて、もう「できない理由考えてる暇があったら、やる手段考えたいよね」ってのは言い続けてます。
ヨコオ氏:
一緒にお仕事するにはありがたいですけど、部下にしてみればたまったもんじゃない(笑)。
覚張氏:
でもやっぱり、それを達成することがみんなの幸せに繋がってると思うので。みんなもそれをわりと理解してくれてるので、助かってます。プランナーとかデザイナーとかと結構バトルするときもあるんです、エンジニアって割と。「今更こんな仕様ですか」みたいな。でもそれが、結果、良いものを生めばそんなの関係ないなと。どうでもいいなと。もうやるしかない。
■より良いものにするために「やります」
ヨコオ氏:
えっとじゃあ、ダーマエさん。
はい。えーっと、前田前田です。今回のシノアリスのプロデューサーっていうかチームのプロジェクトマネジメントをメインにやってます。
辛かった思い出はなんなんだろうな……。チームメンバーがすごい恵まれていて、デザイナーもエンジニアも企画する人もみんな優秀っていうか、ちゃんとそのいろんなものを汲み取ってくれるっていうのがすごいありがたい。
ヨコオ氏:
ポケラボさんは結構、若い方が多いチームだなと思っていて。コンシューマーやってると、もっと上のチームもあるんですよ。このチームは若くて、すごくみんな前向きで、僕が知ってるゲーム業界とはだいぶ違うなと。大体半分くらいは、何かを言うと「できない」って言う人がいるんですけど、ポケラボの皆さんは若い人だからそういうテクニックがなくて、「やります」って言って酷い目にあうっていうそういう事ですよ。
前田氏:
それをなんか、いろいろみんな汲み取ってくれるんですよ。なんかいろいろ言われるんですよ、いろんな各所から。それを僕が「こう言ってるから、やろうよ」っていうと、みんなその意図を汲み取ってくれて。
ヨコオ氏:
なんかすいません、ご迷惑を。
松尾氏:
いや、でも前田さんが全部もらってきちゃうから、ちょっと問題になってましたよね。
岩間氏:
前田さん完全にイエスマンだからもう。まあでも、良いものになりそうなんで。
前田氏:
まあでも、基本的に僕はやったほうがいいと思ってます。開発をやっていると、意固地になることがあって、自分たちがやってるものが良いんだってなりがちなんですけど、それはちょっと違って、いろんな意見を聞いて、段々とブラッシュアップしていって、良いものになるんで。だからいろんなところで言ってもらった意見を、ちゃんとみんなが汲み取って言い直してくれるのがありがたいなと思っています。
■開発陣が感じる手ごたえ
ヨコオ氏:
僕ちょっとこのメンバーには聞きたかったことがあって、ゲームとしては僕、全くわからないんですね。これがいけるかどうかもわからないし、正直に言うとこれがお金を集めるようには、僕は全く思えなくて。もともとソーシャルゲームに一回も課金をしたことがない。その辺は成功の手触りとかはあるんですか。今、出す前に。
岩間氏:
ソーシャルゲームだったらヒットまでには関門が大きく分けて3つぐらいあると思っています。まず『お客様が集まってくれるか』、つぎに『ファーストインプレッションで離脱しないか』、最後に『長期的に継続して遊んでもらえるか』。
『お客様が集まってくれるか』という部分については、事前登録とかの反応を見る限り、成功しそうだなって思います。残りの『ファーストインプレッションで離れないか』という部分と『長期的な継続』の部分については、今必死に開発を頑張ってる部分です。ですので、最初の関門は突破できたと思ってるので、手ごたえとしてはまずまずですが、まだまだこれからの部分が大きいという感じですかね。
ヨコオ氏:
なるほどね。なんかその辺り畑が違うなって思っていて。僕は、若い人からいろいろ「こういうの入れたい」とか「こういうシーケンスがある」って言われると、「わからないけど、きっと言ってること正しいんだ」みたいに感じるんですよね。洞窟から聞こえてくる神の声みたいな。理屈はわからないけど、この行為に従っていればいいのかしら、と思っている。
前田氏:
自分としても、必要な要素をちゃんとしっかり埋めてるなって思っています。シナリオとか世界観もそうだし、ゲームとしての遊びもあるし。そこの全部の要素をバランスよく埋められたなって自分でもびっくりするくらい手ごたえがあります。
■企画のはじまりは『ヨコオタロウ×アリス』
ヨコオ氏:
じゃあここで、スペシャルゲストのスクウェア・エニックスの藤本さんいらっしゃいました。よろしくお願いします。まず、藤本さんは何故この企画を始めようと思ったんです?
いや本当に、ヨコオさんのアリスが見たいなって思ったんですよ。
ヨコオ氏:
あぁ、なるほど。最初にそうですよね。
藤本氏:
本当にそう、思いつきだけです。
ヨコオ氏:
思いつきでよくこんだけの人を巻き込んでいけるなーと思って(笑)。藤本さんよく一緒にお仕事させていただいている、いろいろとお声掛けいただいてるんですけど、僕は全然、俺の話だからいいんですけど、よくこの企画に人を巻き込むなと思いながら。ここまで来たから言いますけど、藤本さん正気なのかなと、僕はシノアリスの仕事をしながら思いました。(笑)
■「餅は餅屋で、きちっとわかっている人たちが作るべき」
ヨコオ氏:
ところで、藤本さんはゲームに関しては、ポケラボさんに全面の信頼を置いてる感はありますよね。
藤本氏:
僕は、全然ディレクションの経験もないので、やはり有能な作る人たちに自分たちの持ってる、自分が持ってるって思ってる力以上のものを出してもらえるような場を作るっていうのが、僕の仕事だと思うんですよ。
ヨコオ氏:
でもそこは僕、藤本さんとすごい意見が合ってるところがあって、ソーシャルゲームは、僕とかが考えても意味がなくて、餅は餅屋で、そこはきちっとわかってる人たちが作るべきなのかなと。藤本さん最初に言われたんですけど、「ゲームの構造はあっち側に必ず任せる」って、藤本さんが俺に言ったんですよ。
俺も「もちろんそれでいいです、だって俺もわかんないし」って話で、そこで意気投合がちゃんとしてて、それで今のこの役割分担になっている。だから今、僕は今「ゲームわかんないですよ」って言ってるのは、興味がないわけじゃなくて、職歴としても僕が触れる場所じゃなくて、やっぱりきちんとやれてる人たちがやるべきだと思うのは、すごいありますね。
藤本氏:
でね、これだけは今回僕、言いたいんだけど、僕が知っているポケラボさんの倍ぐらいの力を出してくれてると思う。みんなね、ポテンシャルはあったんですよ。あったけど何らかの理由で出てなかったんですよ。それをちゃんとストレートに出してくれて、「あ、これが自分の100%だ」ってみんな、まぁ100%じゃないね、もっともっとこれから伸びていくと思うんだけど、そんな感じがあるんじゃないかなって思うんだけど気のせい?
岩間氏:
ポケラボ史上最高なものになってるんじゃないですか?
藤本氏:
ポケラボ史上最高なものになってるんじゃない? ひょっとして。
岩間氏:
なってます、なってます! 間違いなくなってます!
藤本氏:
これがね、ポケラボさんの地力なんですよ。
ヨコオ氏:
僕のいわゆるコンシューマーの知り合いとかもシノアリスが発表されてるの知ってるんですけど、「全体のグラフィックスがすごくいい」ってみんなが言ってますね。そこはポケラボさんのパワーだと思います。
前田氏:
ありがたい話です。今回は全体の世界観を大事にしていて、ゲームだけじゃなくて、公式サイトのUIなどプロモーション部分も含めて、かなりこだわって作っていますからね。
■スマホゲームに対するヨコオタロウのこだわり
ゲームの内容についても、ヨコオさん結構こだわられている部分もありますよね。ヨコオさんの提案で、なぞり攻撃を導入したりとか。
岩間氏:
ああいうひとつひとつ細かいところが、結構面白さがあるというか。
ヨコオ氏:
最終的にやっぱりわかったらオソウジ(※)でなぞって、最終的にはGvGでボタンしか押さないっていうふうになったとしても、中間ののりしろがないと、そこで離脱じゃないですけど、違和感を感じるんです。そこのところだけは、ゲームの構造的にもちょっと強くお願いをしました。
覚張氏:
でも、ああいう指摘があってこその今の完成度かなっていうのはありますね。あれはやっぱりポケラボ社内から出てこなかったですもんね。
※オソウジとは、シノアリスのゲーム要素のひとつ。画面を指でなぞるような操作をする。
岩間氏:
自分は最初に世界観、シナリオを活かすゲームっていう話で聞いていたので、いわゆるソーシャルゲームだと紙芝居的な、キャラクターが出てきて会話ウィンドウがあってみたいなやつをイメージしてましたし、そういうのがいいんじゃないかなと思って提案もしました。でも「それだとやっぱ読まない」みたいな話をヨコオさんにもらって。「確かに僕もいつもスキップしてるわ」って思いました。
ヨコオ氏:
あれでも読まなくないですか? 読む人もいると思うんですけれど、僕は、特にキャラの両方、いわゆるノベルっぽく出てきて掛け合いでやるやつは読まないうえに、スキップする回数も多くてすげーめんどくさいなと思ってるんですよね。
松尾氏:
ヨコオさんの意見がソーシャルゲーム業界のガラスみたいなのをぶっ飛びすぎてて(笑)。僕、すごい覚えてるのがエネミー動かない問題。「こいつらは何で同じ場所をずっと一所懸命に守り続けてるのか、こいつら武士か?」っていうことをヨコオさんが言ったのをすごい覚えてて(笑)。ふつう同じ場所でずっと待機モーションしてるなんてないじゃないですか。「でもターン制アクションだからそういうもんだよね」って僕はずっと思ってたんですけど。
栗田氏:
みんな「だよね」って多分思ってたんですよね。心の中では思ってたんだけど、言われないと気づかないみたいなね。
松尾氏:
そう、言われて「あ〜」って思ったんですけど、まぁ費用対効果が合わなかったのでやらなかったんですけど(笑)。
栗田氏:
あと、社内からは「なぜ3Dにしなかったのか?」っていう話も出ていましたね。
ヨコオ氏:
僕はスマホの3D自体があんまりそこまで好きじゃなくて、「2Dのほうがきちっとまとまって、完成度が高いものでレスポンスのいいものができるから、僕は2Dのほうがいいと思います」って藤本さんに最初に言ったんですよ。スマートフォンのゲームは2Dのほうが少なくとも自分の好みに合うのと、気軽にできるところに合ってると思ったりするんですよね。
■シノアリスの魅力と今後の展望
前田氏:
じゃあそろそろ最後の締めにいきますか。
藤本氏:
今後の展望としては、世の中をあっと言わせたいですね。
ヨコオ氏:
でも思うんですけど、ちゃんとエンディング公開されたらいいですね。そこで呆然とする人が大量に出て(笑)。
前田氏:
それはそうかもしれないですね(笑)。
藤本氏:
ヨコオさんのアリスとか読んでいて、「ヨコオさんすごいものを作ってくれたな」って思うんですよ。何かって言ったら、これだけ短いセンテンスでどんどん突き刺すものをこの密度で出していくっていうのはコンソールじゃ、やってないんですよ。意識的にやっていないんだと思うんですけど。
ヨコオ氏:
まぁ、そうですね。やっぱり、コンシューマーは聞いてもらえる仕組みなので、ダラダラ書いてるんですけど、ソーシャルゲームは本当に僕自身がスマホでテキストを読めないので、1枚で伝わるっていうのは意識してます。
藤本氏:
すごく短いセンテンスの、ざくっざくっと来る言葉を、すべてのシーンに網羅してくれてるから、「ヨコオさん、最高傑作を作ってくれたな」って本当に思ってるんですよ。だからアリス2章を読んだだけでグッと来ちゃうんですから。
松尾氏:
わかります。めちゃめちゃいいと思います。
前田氏:
すいません、時間がやばいっす。これでお開きで。
一同:
本日はありがとうございました!
「SINoALICE」公式サイト
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(C) 2017, 2018 Pokelabo Inc./SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
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