プレイレポート
プレイヤーの数だけ生まれるドラマと因縁。ランダム生成がプレイを深める「シャドウ・オブ・ウォー」プレイレポート
ファンタジー小説の金字塔をアクションRPGに
ファンタジー小説の金字塔「指輪物語」を映画化した「ロード・オブ・ザ・リング」。これをベースとしたアクションRPGが,2014年の「シャドウ・オブ・モルドール」であり,その続編となるのが2017年10月12日に発売された「シャドウ・オブ・ウォー」だ。
映画IPかつ続編ものと聞くとハードルが高そうに思えるが,物語はゲームオリジナルなうえ,基本的な設定に関しては説明が行われるので,本作からプレイしても問題ない。もちろん,「指輪物語」や「ロード・オブ・ザ・リング」のファンならニヤリとできるワードが各所に散りばめられているため,原作を知っているとより楽しめるのは言うまでもない。逆に,本作をきっかけに小説や映画に触れてみるのもいいだろう。
本作の舞台となるのは,強大なパワーを持つ「力の指輪」を巡って戦いが繰り広げられる「中つ国」。レンジャーのタリオンは,冥王サウロンが率いるオーク(ウルク)の軍勢に殺されてしまうが,エルフの幽鬼・ケレブリンボールと融合して現世に舞い戻る。殺されても蘇る不死の身体とオルクを洗脳する能力を得たタリオンは,レンジャーとしての戦闘力とステルス技術を駆使し,冥王サウロンに立ち向かっていくのだ。
スリリングなステルスと,豪快な剣戟バトルの融合
本作のバトルは,スリリングなステルスと,多数の敵を相手取るパワフルな剣戟が絶妙のバランスで融合している。
敵の駐屯地には多数のオークがたむろしているが,恐れる必要はない。ステルスを活用すれば戦いを有利に運べるからだ。物陰や草むらに隠れた状態からおびき寄せたり,後方から忍び寄ったり,建物の上から飛びかかったり,弓矢で頭を射貫いたりすれば,タフなオークも一撃で倒せる。影に潜んで次々にステルスキルを決めていく様は,まるで忍者のようだ。
駐屯地の施設をうまく利用するのも1つの手である。獰猛なカラゴルが捕らえられている檻を破壊すれば,オークと同士討ちを始める。混乱している隙に逃げ出してもいいし,ボロボロになった生き残りを始末してもいい。
駐屯地のあちこちにある酒樽(グロッグの樽)も飾りではない。酒に薬を混ぜておけば,これを飲んだオークを毒殺できる。タリオンのスキルの中には薬の効果を変えるものもあり,オークが凶暴化して互いに殺し合いを始めたり,爆発して毒をまき散らしたりするようになる。駐屯地じゅうの酒樽に薬を混ぜ,オークどもが苦しむ様をこっそり観察するのも面白いだろう。
これらのギミックは,雑魚はもちろんのこと,中ボスの小隊長にも通用する。偉そうにしている小隊長が毒酒でコロリと死んだり,カラゴルにかみ殺されたりといった光景はちょっと滑稽。労せずしてアイテムや経験値を得ることが可能なので,うまく活用していきたいところだ。
ステルス要素と聞くと,ちょっとしたミスで敵兵が殺到してくるようなものを連想してしまう人も多いだろう。しかしオークどもは賢くないので,そこまでシビアにはならない。
例え敵に見つかっても,タリオンの運動能力を使えば簡単に逃げ切れる。垂直の壁をよじ登ったり,建物の間に張られた綱を渡ったりするくらいは朝飯前だし,どんなに高いところから落ちてもダメージを受けることはない。オークどもが右往左往するなか,あちらこちらと逃げ回り,タリオンを見失ったところで逆襲するようなこともできる。あくまでタリオンとしての活躍を堪能するゲームなのだ。
もちろん,真っ向から戦いを挑むこともできる。本作のバトルシステムはRocksteady Studiosの「バットマン アーカム」シリーズから強い影響を受けており,シンプルな操作で映画さながらの立ち回りが楽しめるのだ。
攻撃体制に入った敵はアイコンで表示されるので分かりやすく,背後から攻撃されても反撃で返り討ちにできる。複数の敵に囲まれたとしても,ボタン連打で周囲を斬りまくりつつ,アイコンを注視して反撃を決めればいい。
とはいえ,単に連打と反撃だけで押し切れるほど単調なゲームではない。警報を鳴らされるといくらでも増援が駆けつけてくるし,連打で出る技だけではなかなか体力を減らせない。
ここで役に立つのがスキルだ。小隊長を倒したり,クエストを完遂すると経験値が手に入り,一定値でタリオンがレベルアップする。そこで得られたスキルポイントを割り振ることで,「武勇」ゲージを消費して敵を一撃で倒す「エグゼキューション」や,反撃を決めると敵が転倒する「パーフェクトカウンター」といったスキルが覚えられるのだ。これらを駆使すれば,集団戦を制することも難しくはない。
スキルの揃ったタリオンは,鬼神さながらの戦いぶりを見せる。流れるようなモーションで周囲の敵をさばいていき,背後からの攻撃もものともしない。なかでも印象的なのが,エグゼキューションをはじめとする処刑スキルだ。首や手足を斬り飛ばすとこれを見た敵が怯え,一瞬攻撃が止むのである。
この隙に逃げ出してもいいし,拘束して体力を吸い取る「ドレイン」を決めてもいい。まさに操作できる映画であり,自分に酔えること請け合い。それでいて,ちょっとした油断が死につながるのだから,絶妙のバランスといえるだろう。
ネメシスシステムがプレイヤーごとに異なる因縁とドラマを生み出す
アクション部分だけでも充分に面白い「シャドウ・オブ・ウォー」だが,ゲームのコンセプトとしては第2部からが本番となる。指輪を取り戻したタリオンがオークを「支配」できるようになり,「ネメシスシステム」が本格的に稼働。そして新要素の「攻城戦」も登場するからだ。
支配が解禁されるまでの時間が少し長いのは前作と同様。筆者のような前作経験者からすると「待ちきれないよ!早く指輪を使わせてくれ!」となるし,何も知らない人なら第1部だけを遊んで「ああ,単なるステルス系ゲームなのね」と誤解しかねないところがある。「いきなり多数の要素を出してプレイヤーを混乱させるより,ゆっくりとシステムを理解して遊んでほしい」という配慮だとは思うのだが,もう少し早く解禁されてもいいのではないかと感じられた。
支配は,オークを洗脳して味方につける能力だ。敵に見つかっていないステルス状態ならば一瞬で,戦っている最中でも少しの時間があれば完了する。その後は味方としてタリオンとともに戦ってくれるし,同時にタリオンの体力も回復するのだから活用しない手はない。
砦を攻略するときも「まずはこっそりと忍び込み,高所にいる弓兵を支配してから戦端を開く」というような戦法も可能で,なかなか奥深い。支配したオークは無抵抗になるため,掴んで盾のように扱ってもいいし,体力回復アイテム代わりにドレインしてもいい。雑魚オークどもは所詮使い捨てだ。
雑魚を統べるのが小隊長で,本作における中ボス的な存在。もちろんこちらも支配できるが,充分に体力を減らしておかないといけないし,彼らの能力はランダムで決められるので一筋縄ではいかない。
普通のゲームなら,ボスの能力は予め決められており,攻略本を読めば完璧に対策できる。しかし,本作ではそうはいかない。名前,クラス(職業),出身部族,特質,弱点の組み合わせがランダムなうえ,オープンワールドを自由に徘徊しているからだ。
考え方としては「ディアブロ」や「Titan Quest」「Grim Dawn」といったハックアンドスラッシュ作品における,ランダム生成アイテムに近い。アイテムに付与される特殊能力が,小隊長の場合だとバトルに影響する特質や弱点になると考えれば,イメージしやすいだろう。
小隊長には特質などの特殊能力が設定されている。カラゴルの攻撃を無効化したり,毒が効かなかったり,仲間がダメージを受けると逆上してパワーアップしたりと様々だ。
また,プレイヤーがつけ込めるのが弱点にもなりうる。戦場にクモやグールがいると怯えたり,特定の属性攻撃で大ダメージを受けたりと,こちらもいろいろな種類が存在する。また,小隊長の出身部族によって異なる特殊攻撃が付与されたりもするので,ランダム生成の結果は実に多種多彩だ。
同じクラスの小隊長であっても,ある者には遠距離攻撃を無効にするため接近戦を挑まねばならず,またある者は地雷を使ってくるので地面に注意する必要がある……と,求められる立ち回り自体が大きく変化する。ランダム生成自体は前作にも存在していたが,そのバリエーションは大きく増しており,前作をプレイした人であればその多彩さに驚くことだろう。
雑兵オークが使い捨てなのに対し,小隊長にはさまざまな命令を出せる。護衛にして一緒に戦ったり,能力をアップさせたりできる一方で,ほかの小隊長を襲わせたり,敵軍に潜入させていざという時に裏切らせるような使い方も可能だ。
こうした小隊長たちとプレイヤーの因縁を演出するのがネメシスシステム。プレイヤーの行動に応じて,小隊長とプレイヤーの関係性が変化するのだ。
例えばある小隊長から逃げ出した場合,次の遭遇時には「あの時はいい逃げっぷりだったな!」と嘲笑してくる。これだけでも悔しいのだが,プレイヤーを倒した小隊長はレベルが上がり,敵軍の中で出世していくのがまた腹立たしい。
もちろん,レベルアップに伴って能力も強化されるのだから厄介だ(誤解のないように申し添えておくと,ネメシスシステムはプレイヤーの感情を揺さぶることを意図したものであり,ここでいう「悔しい」とか「腹立たしい」は,優れたシステムや演出への賛辞にほかならない)。
また,一度倒したはずの小隊長がパワーアップして復活し,こちらに恨み言を吐いてきたりもするのでなかなか恐ろしい。雑兵オークにやられた時などはもっと悔しいことになる。名も無き雑兵だったのが小隊長に出世し,ドヤ顔でこちらに自慢してくるのだから,いろいろな意味でたまらない。
前作よりも小隊長が配置されている密度は高く,普通にプレイしているだけでもさまざまな因縁が生まれるようになっているのもポイントだ。
ある時,支配した小隊長に裏切られたことがあった。裏切るだけならまだしも,そいつは筆者が育てていた小隊長を殺害して逃げ出していったのだ。放っておいても何の問題もないのだが,この時ばかりは執拗に追跡し,わざわざ弱点であるステルス攻撃で倒して恨みを晴らした。ディスプレイの前で思わず快哉をあげるほど,ネメシスシステムによって感情を揺さぶられていたのだ。
もちろん,良い思い出も増えていく。敵の小隊長に敗れてトドメを刺される寸前に,突如として味方が乱入して助けてくれたこともあった。こいつはゲームの序盤からすったもんだした挙げ句に何とか支配に成功し,ずっと付き従っていた古参の家臣だったので,なかなかに感動した。
後に砦を手に入れた時は首領に取り立てて報いてやった(気分は三国志の曹操だ)。もちろん,こいつが裏切らないという保証はない。しばらくするとあっさり寝返られてしまい,泣きじゃくりながら追跡することになるかも知れないが,それもまたネメシスシステムということなのだろう。
支配した小隊長を率い,敵の砦を攻めるのが,本作の新要素である攻城戦だ。勝つためにはタリオンだけでなく小隊長の戦力をアップさせるのが重要となる。強力な小隊長を支配したうえで,「闘技場」に送り込んでレベルを上げたり,ミリアン(ゲーム内通貨)を支払って攻城部隊を買い与えるなど,事前に準備をしておくのだ。
手塩に掛けた小隊長たちとともに敵の砦に攻め込むのは心躍る体験だ。もちろん,ここでもタリオンは存分に活躍できる。城壁を登って弓兵を倒し,敵の小隊長を葬って防御を切り崩し,仲間の小隊長が倒されればこれを助ける。前作をプレイした人が夢見たシチュエーションが現実のものとなっている。
砦の首領との一騎打ちに勝てば,砦は自分のものになる。自軍の小隊長を首領に昇格させて砦を任せ,防御施設をアップグレードして敵の襲撃に備えるのだ。
本作には非同期型のオンライン要素が存在する。ほかのプレイヤーの砦を攻めることもできれば,こちらが攻められることもある。また,誰かを殺した小隊長に復讐してやることも可能だ。オンラインの攻城戦と聞くと,取った取られたという恨みの連鎖が生まれそうだが,本作では「自分の砦が攻め落とされても何も起こらない」ため,安心してネットにつないでおくことができる。
なお,本作には「ルートチェスト」と呼ばれる要素がある。ゲーム内通貨のミリアンか,リアルマネーで買う通貨「ゴールド」で宝箱を購入し,ここから支配済みの小隊長やアイテムを手に入れるという仕組みだ。
海外ではルートチェストの是非もあってレビューが大荒れに荒れているが,日本版には課金要素が存在しない(宝箱自体は買えるが,あくまでゲーム内通貨のみでの決済)。また,チェストの中身も高価なものではなく,普通に小隊長狩りをしていても良いモノは手に入るので,Pay to Winにはほど遠いという印象。ある意味日本語版は理想のバージョンと言えるかも知れない。
指輪物語のゲームとして優れているうえ,単体のゲームとしても面白いのが「シャドウ・オブ・ウォー」だ。原作を知らなくても,アクションゲームやRPGが好きな人であればプレイして損のない作品と言えるだろう。
また,ネメシスシステムも深みを増しており,攻城戦と合わせて歴史物に応用することで大きな可能性が生まれそうな予感がある(個人的にはネメシスシステムを搭載した三国志や戦国系のアクションRPGを遊んでみたい)。
アクションとしての手ざわりと爽快さ,自分を成長させていくRPGとしての楽しさ,ネメシスシステムがもたらすドラマなど,さまざな面白さを凝縮した「シャドウ・オブ・ウォー」。指輪物語を知っている,いないに関わらず,ゲーマーならば一度は体験しておくべきゲームだと感じた。
「シャドウ・オブ・ウォー」公式サイト
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MIDDLE-EARTH: SHADOW OF WAR (C) 2017 Warner Bros. Entertainment Inc. Developed by Monolith. (C) 2017 New Line Productions, Inc. (C) The Saul Zaentz Company. MIDDLE-EARTH: SHADOW OF WAR, THE LORD OF THE RINGS, and the names of the characters, items, events and places therein are trademarks of The Saul Zaentz Company d/b/a Middle-earth Enterprises under license to Warner Bros. Interactive Entertainment. MONOLITH LOGO, WB GAMES LOGO, WB SHIELD: TM & (C) Warner Bros. Entertainment Inc. (s17)
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