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[NDC19]Supercellはどんな文化を持つ会社で,「ブロスタ」はどういったプロセスを経て制作された?
Nexon Developers Conference公式サイト(韓国語/英語)
講演の冒頭では,そもそもキム氏がどういう人物であり,どういった経緯でSupercellに入社したのかが説明された。
キム氏は転職の多い人間で,4年間における1社あたりの平均勤続期間は8.3か月だという。韓国では転職が多いという理由で,あまり良い評価をもらえないことが多かったそうだ。また,キム氏は複数の会社を見てきたことで,“良いゲームを作る要因”という点で世間の認識とはズレがあった。良いゲームを作る要因は一般的に「グラフィックス」「IPのパワー」「流行」などを思い浮かべるというが,キム氏は「文化」だと考えていると語った。
韓国におけるゲームメーカーの組織図は,ピラミッド型なのが一般的なのだそうだ。強力なリーダーがすべてを決める構図だが,キム氏は面白いゲームはリーダーの考えだけで作れるわけではないだろうと,この構造に疑問を抱いているとした。
あるとき,キム氏はSupercellについて耳にする機会があった。あの会社はボトムアップだという話だ。しかし耳にした当初は,あまり信じていなかったとキム氏は続けた。北米の会社にいた頃,一見はオープンな社風だが,上下関係は明確に存在した。Supercellもその手の会社だろうと考えたそうだ。
また,当時のSupercellのスタッフに詳しく話を聞いてみると,「クラッシュ・オブ・クラン」(iOS / Android)のアーティストは2人で,「クラッシュ・ロワイヤル」(iOS / Android)のアーティストは3人だと言う話も耳にした。これを聞いたキム氏は,とてつもない修羅場が広がっている開発現場の光景を想像したという。
しかし,Supercellに入社後のキム氏が見たのは「本当に自由な会社」だったそうだ。まず有給休暇が取りやすかった。「体調が悪い」「ペットの具合が悪そう」など,スタッフが簡単な理由で取得していたそうである。体調不良を理由にした場合,病院に行ったことを証明する必要もない。
「友人の体調が悪い」という理由で取得が認められていたことには,さすがにキム氏も冗談だろうと思ったそうだが,基本「WFH」(Work From Home)とだけ書けば何も問題はないという。
また,キム氏はSupercellを真の平等な会社だとした。役職に応じて通勤時間,飛行機の席,ホテルの部屋が変わることもなく,役員に専用の部屋が与えられることもない。印象的なエピソードとして,ただのスタッフがボーナスの不満をCEO(イルッカ・パーナネン氏)に直接伝えに行ったことを紹介した。CEOはこの直訴を受け,すぐに会議を開いて,次の週には新しい支給方法を発表したそうだ。当時のキム氏は,社員のボーナスに社員の声が反映されるとは考えもしなかったとのこと。
ただし,自由だということは,何においても優れているわけではないとキム氏は続けた。スタッフの誰もが独立して動いている会社なので,とくに入社したばかりの人は大変だという。企画書が用意されているわけでもなく,1つのファイルの場所すら誰が把握しているかも分からない。すべてを独自に構築していって仕事にしなければならないのだ。明確な指示が出る会社とはまったく違うので,それが合わないという理由で辞める人もいたという。
しかしキム氏は,そんな各個人の独立性がSupercellの何よりの強みだとした。各スタッフが自由にアイデアを出せて,管理コストも減らせるというメリットがある。
Supercellでプロジェクトがどのように進んでいくかも紹介された。まず1人か2人が企画を立ち上げて,CEOに直接ピッチングする。CEOから承認が出れば,そのあとは一切関与されないという。中間チェックのようなものもない。
ゲームの開発がスタートし,しばらく経つと社内向けにプレイアブルテストが行われる。ある程度完成すると,ベータテストが始まって,30か国以上のプレイヤーからフィードバックを得られるようになる。そこで肯定的な指標が結果として出れば,グローバルローンチとなる。
そしてプロジェクトを閉じるかどうかもCEOではなく,メンバーの手に委ねられている。その会議の様子を紹介するキム氏いわく,フィンランドではそんな重要な会議でも,サウナでビールを飲みながらやるそうだ。CEOが参加することもない。
なお,クラクラとクラロワが成功したあと,モラルに対するハードル(社内基準)が非常に高くなったとキム氏が補足した。それによって14タイトルがボツになったという。かつてサービスされていた「Smash Land」もその1つだ。
Supercellにおけるプロジェクトの進め方がざっくりと解説されたあと,「ブロスタ」(Brawl Stars)がどのように作られていったのかが紹介された。
ブロスタはそもそもSF風の見た目のゲームだった。Supercellのメンバーはなんとなく自社作品のイメージはディズニー系のテイストという認識を持っていたが,ブロスタはカートゥーン ネットワーク風だったため,これはSupercellのゲームではないと否定的な立場をとったスタッフもいたそうだ。
これまで制作したことがないジャンルのゲームだったこともあり,ノウハウも足りない状況だった。当初は高い評価が得られず,何度も改修を試みるも,開発メンバーは疲れ果ててしまい,次に作りたいゲームの話をしているという雰囲気となったという。
プロジェクトを終えるかどうかの瀬戸際まで行き,実際開発メンバーの間では話し合いがもたれた。しかし,そこで出した結論は「もう一度だけがんばろう」というものだったそうだ。そしてこの判断は功を奏し,Android版をリリースしたことで,新たな市場の開拓に成功する。現在のように大きな成果を挙げることにつながったのだ。
ちなみに,プロジェクトが失敗すると,Supercellではシャンパンパーティが開かれる。企画が頓挫してしまっても,その経験から得られるものがあればよいというのが,この会社の考え方だそうだ。
また,成果を挙げたチームが高い給料をもらうという仕組みもない。各チームが同じ成果給を受け取れるため,社内のほかのチームを嫉妬したり,牽制したりすることがなく,社員全員が一丸となって,売上目標をどうやって達成するかを考えているそうだ。
講演の最後にキム氏は,韓国のゲーム業界はどのように変わっていくべきかも論じた。このような自由かつ平等な文化を,こちらでも受け入れるべきかどうか。キム氏の答えは否だった。
Supercellでは,定期的にミーティングを行うが,机に足を投げ出して座る仲間もいる。誰も気にしないが,そんな光景が韓国のゲーム会社で広がったらどうなるだろうか。あちらの文化をこちらにそのまま持ち込んでしまっては,強い副作用を引き起こすだろうとキム氏は述べる。
キム氏は続けて,お互いを尊重しているからこそ生まれる自由であったり,スタッフを道具ではなく仲間であるという敬意を払って平等に扱ったり,個人として責任を持つ独立性だったりといった,良いところは吸収すべきだとし,講演を締めくくった。
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(C)2017 Supercell Oy
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