インタビュー
スマホ向けRPG「OVERHIT」開発者インタビュー。日本向けを重視してカルチャライズを超える“再構築”を実現
本稿では,OVERHIT日本版のプロデューサーを務める,ユン・インソン氏へのインタビューをお届けする。もし新たに興味を持ったら,4Gamerに掲載済み先行プレイレポートや初心者向けプレイガイドなども合わせて参考にしてほしい。
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多様性を持った100体以上の“英雄”を正式サービス開始時に実装
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
ユンさんは,今回の「OVERHIT」でどういったお仕事をされているのでしょうか。
NAT Games ユン・インソン氏(以下,ユン氏):
OVERHIT日本版のプロデューサーと,カルチャライズを行うチームのリーダーを兼任しています。ちなみに現職に就く前は,同じくNAT Gamesが開発した「HIT」で,企画チームのサブリーダーを務めていました。
4Gamer:
日本でもいよいよOVERHITの正式サービスが始まります(※インタビューは配信前に実施)。2017年11月に先行配信された,韓国版の反響はいかがですか?
ユン氏:
App Store/Google Playの各ストアで,売上ランキングでそれぞれ1位,2位を達成しています。配信から約半年が経過しており,当初の勢いはやや落ちていますが,実際に遊んでいるプレイヤーからの評価や満足度は,とても高いですよ。
4Gamer:
それは具体的には,“英雄”のキャラクター性にあたる部分でしょうか。
ユン氏:
ええ。それだけに,正式サービス開始時に100体以上の英雄を揃えるのは,本作の開発を通じてもっとも大変でした。
4Gamer:
英雄を開発するときは,どういった部分にこだわりましたか?
ユン氏:
最もこだわったのは,キャラクターとして多様性を持たせる部分です。
最初は社内のデザイナーに対し,とくに制限を設けずにアイデアを募集したところ,むさ苦しい男性やセクシーな女性に,思いっきり偏ってしまったんです(笑)。これではダメだということで,さまざまなバリエーションを模索したのですが,これが想像していた以上に大変で。
4Gamer:
なにせ100人以上ですからね。
ユン氏:
韓国と日本でキャラに対する好みは微妙に違っているのですが,これは開発するデザイナーにとっても同様です。たとえばコレットのような少女風のキャラは,日本では人気がありますが,韓国ではそれほどでもないんですよ。日本のプレイヤーに受け入れられるように彼女の魅力をどうやって引き出すか,とても苦労しました。
4Gamer:
そのコレットですが,外見に反して149歳という設定です。ゲームを進めていくと,意外な一面が見えるキャラも見受けられますね。
ユン氏:
日本の漫画やアニメなどを見ていると,キャラに関連した小さなエピソードが積み重なることで個性が形成され,読者や視聴者にとって愛着がわくものになると思うんです。そこでOVERHITでは,メインシナリオ以外の登場人物も掘り下げるべく,それぞれに「英雄シナリオ」を用意しました。日本のシナリオライターさんも起用しているので,ここはぜひ注目してほしいですね。
日本版のメインシナリオは“再構築”レベルのカルチャライズを実施
4Gamer:
OVERHIT日本版では,カルチャライズ(ゲーム仕様の現地化)にもかなり力を入れられています。
ユン氏:
ええ,日本で受け入れられることを大きな目標にしていますからね。韓国版の正式サービス開始前の段階で,カルチャライズの専門チームを設立して,徹底的に行ってきました。
4Gamer:
さきほどコレットの例を挙げられましたが,カルチャライズの必要性,すなわち日本と韓国のゲーマーの違いを,どう認識していますか。
ユン氏:
たくさんありますね。たとえばキャラのモーションに関してですが,韓国のプレイヤーは,バトル中に格好良く見える演出を求める傾向があります。しかし物語への関心は薄く,カットインムービーなどはスキップしてしまう人が多いんですよ。
4Gamer:
なるほど。
ユン氏:
一方で日本のプレイヤーは,韓国に比べれば物語をじっくりと楽しむ人が多いと思います。そのためキャラの感情表現をより細かく行うべく,カットインムービーにおけるモーションを大幅に追加しています。
ただ,それでもキャラの繊細な感情を伝えきれないと思ったので,追加モーションとは別に,会話中に表示される2Dイラストを多数描き下ろしました。
4Gamer:
しかも物語に関しては,メインストーリーを日本版で丸ごと作り直してしまったとのことで。
ユン氏:
たとえ英雄が魅力的でも,柱となるストーリーがしっかりしていないと,プレイヤーを感動させられません。韓国版のメインストーリーをベースにカルチャライズを行っても,日本では通用しないと思ったので作り直した次第です。
4Gamer:
ここまで大胆に変えてしまうと,韓国版と日本版との間で,ストーリーや世界観などの整合性を保つのが大変そうです。
ユン氏:
実は,整合性を取るつもりはないんですよ(苦笑)。
4Gamer:
えっ,そうなんですか?
ユン氏:
メインストーリーに関しては,カルチャライズというより,キャラなどの素材データを全部集めたうえで,新たな物語をイチから練り直した感じで作っています。
極端な例ですが,韓国版では敵勢力“コンクレイヴ”の一員だったキャラが,日本版では味方になっています。そもそも私自身,韓国版のストーリーをあまり把握していないんですよ。
4Gamer:
大型のタイトルでは,普通のローカライズ(翻訳)作業でも,韓国版のリリースから半年くらいはかかることも多そうです。でも今回のOVERHIT日本版では,カルチャライズやメインストーリーの作り直しを含めて,約半年で実現しているわけですか。
ユン氏:
そうですね。ただ,韓国版がリリースされる前の,ストーリーやゲーム仕様が固まる前からカルチャライズを進めてきましたから。昨年の4月に日本版の開発チームを立ち上げているので,実際の開発期間は約1年ということになります。
4Gamer:
なるほど。
ユン氏:
ですので便宜上カルチャライズとお伝えしていますが,NAT Gamesのスタンスとしては,最初から「日本版独自のOVERHITを作る」という心構えです。
4Gamer:
お話を聞く限り,“再構築”と言い表すほうが適切かもしれません。
ユン氏:
ああ,まさにそのイメージです。
日本版のキャッチコピーで使いたいですね(笑)。
4Gamer:
社内では2つのバージョンが並行して作られているわけですが,社内の両チームはどういった関係なのでしょうか。
ユン氏:
お互いに良い意味で刺激を与え合っています。
日本版のカルチャライズは多岐にわたっており,たとえば育成システム「アビリティ」「グレード」なども新たに追加しています。物語にはそれほど関心が高くない韓国版のチームも,これらの成長システムは気になるみたいですね(笑)。
4Gamer:
それにしても,常識的な範囲でのカルチャライズを行ったうえで,リリース日を早めるのが一般的だと思うのですが,一体どうしてそこまで注力されるのでしょうか。
ユン氏:
OVERHITが日本で受け入れられるために,できる限りのことをやりたかったからです。
NAT Gamesにとって前作にあたる「HIT」では,日本向けのカルチャライズを注力したことで,高い評価を得られました。弊社のスタッフは,日本のゲームに強い影響を受けて育った人が多く,自分たちが作ったゲームが受け入れられたことがとても嬉しかったんですよ。
4Gamer:
HITのカルチャライズに関しては,NDCの講演などでも紹介されていますが,徹底的に行っていますよね。
ユン氏:
でも,あらためて振り返ると,ちょっとやりすぎちゃったかな,という気はしています(笑)。
日本版配信後の展開について
4Gamer:
日本版の配信後におけるアップデート予定に関しては,どのようになっていますか。
ユン氏:
まず,仲間と強力してボスモンスターに立ち向かうレイドバトル系のPvEコンテンツ“討伐戦”を,早いタイミングで実装します。また,メインストーリーの追加チャプターも,夏が終わるまでには実装することが決まっています。
育成システムに関しては,配信開始時に実装されるものだけでも相当なボリュームがあるので,当面心配はしていません。
4Gamer:
準備は万端のようですね。
ユン氏:
そのほかの追加システムやコンテンツは,実際のプレイ状況を見ながら判断します。たとえばギルドバトルやギルド間PvPのシステムは,ギルドに参加してくれる人が多いほうが盛り上がりますよね。そのため,配信後にギルドへの加入を促すキャンペーンも実施する予定です。
4Gamer:
日本以外のグローバル展開に関してはいかがでしょうか。
ユン氏:
現在は日本版のカルチャライズに全力を注いでおり,まだ本格的には検討していませんね。
4Gamer:
今後のグローバル展開を行うとき,韓国版と日本版のどちらがベースになるのか気になります。
ユン氏:
そこは,社内でも議論を交わしている部分ですね(苦笑)。
4Gamer:
日本版で追加された各種システムやコンテンツが,韓国版へ逆輸入される展開はいかがでしょうか。
ユン氏:
そこも難しい問題ですね。NAT Gamesとしては,韓国版は韓国のプレイヤーに向けて,日本版は日本のプレイヤーに向けて,それぞれ最適なゲームにしているので。
ただ,韓国版のメインストーリーを今から変えるわけにはいきませんが,たとえば先に申し上げた「アビリティ」「グレード」などの育成システムは,韓国のゲーマーにとっても興味深いと思います。
4Gamer:
新たな英雄の追加はどれくらいの頻度で予定されていますか。
ユン氏:
SSRランクの英雄は,月に2体以上の実装を目指しています。また,韓国版のカルチャライズだけでなく,日本版オリジナルの英雄もその中に含まれます。
4Gamer:
おお,それは楽しみですね。
ユン氏:
また,モデリングやゲームバランス調整,モーション・2Dイラストの追加などの作業を個別に行っており,韓国版の追加キャラを持ってくるのも思いのほか大変です。
4Gamer:
OVERHITの「飛空挺でさまざまな世界を冒険する」というコンセプトは,他作品とのコラボの相性が良いのではと思いましたが,この方面はいかがでしょうか。
ユン氏:
そうなんですよね。最初から意識して設定しているわけではないのですが,チャンスがあれば,ぜひ実施したいです。
4Gamer:
現在,HITとOVERHITのコラボキャラとして「飛燕」が登場しています。これは,ソフィアたちがHITの世界を訪れる伏線なのかな,と思えますが。
ユン氏:
実は,そこまで深く考えて行ったコラボじゃないんですよ。飛燕というキャラ自体,例によってOVERHIT日本版では大きく手を加えているので,別物だと思っていただければ。期待させてしまったらすみません。
4Gamer:
それでは逆に,アニカやキキなどの「HIT」のキャラのゲスト参戦はいかがでしょうか。
ユン氏:
HITもOVERHITも,同じUneal Engine 4で作られており,技術的には難しくありません。ただ,HITのキャラは世界を救ったヒーローという設定なので,安易にOVERHITに登場させてしまうと,ソフィアたちのポジションを食ってしまうんですよね……。このあたりの落としどころをどうするか悩んでいます。
4Gamer:
HITシリーズはネクソンを代表するタイトルになりつつあります。「アラド戦記」や「メイプルストーリー」など,ネクソンのタイトルを全部ひっくるめた展開はいかがでしょうか。
ユン氏:
そこまでOVERHITが大きくなってくれると,個人的にも嬉しいですね(笑)。
NAT Gamesが見据えるスマホ向けRPGの未来
4Gamer:
今回,OVERHITを開発した経緯についても聞かせてください。
HITが好評を博したのなら,次のタイトルも同じジャンルで作るという選択肢はなかったのでしょうか。
ユン氏:
HITは本格的なハック&スラッシュをスマホ向けアプリとして実現したアクションRPGとして,おかげさまで好評を博しました。しかし,このジャンルは長期運営を行うと,キャラの性能がインフレを起こし,それに合わせてコンテンツを随時追加せねばなりません。
現在もHITは,想像を遙かに超える多くの人達が長く遊んでくれています。しかしその一方で,長期運営に伴う縦方向の展開に対する課題も感じていました。
4Gamer:
スマホ向けアプリでは,手軽に遊べることを重視してオートバトルを採用するケースが多いですが,それだけにコンテンツの消費速度も高そうです。
ユン氏:
そこで次のタイトルでは,長期運営に耐えられるゲームにするべく,縦方向ではなく横方向の展開を模索しました。そこで,英雄の収集や育成をメインテーマに据えたわけです。
4Gamer:
韓国では新作のアクションRPGも現在進行形で登場していますが,NAT Gamesは別の道を選ばれたわけですね。
ユン氏:
HITなどのハクスラ系アクションRPGのタイトルが一段落したいま,韓国の業界内が次のブレイクスルーを待ち望んでいると思います。社内にもアクションRPGやハクスラ好きが多く,新たに開発したいという声が根強くあり,長期運営に対する明確な回答が見いだせれば,一気に再燃する可能性は十分あるでしょう。
4Gamer:
そのときは「HIT2」の登場にも期待できそうですね。
ユン氏:
ええ。自分もアクションRPGやハクスラは大好きなので楽しみにしています。ですが,それは今ではないという判断になります。
4Gamer:
現在の韓国ではスマホ向けMMORPGの人気が高いです。Unreal Engine 4に精通したNAT Gamesが手がけるMMORPGというのも個人的に見てみたいです。
ユン氏:
スマホのスペックも高くなり,アクション性のあるMMORPGも登場していますね。仰るとおり,現在の韓国ではMMORPGが非常に強く,この流れはまだまだ続くと見ています。これを受けてNAT Gamesでも,次回作はMMORPGを検討しています。
4Gamer:
おお,それも楽しみですね。
そろそろお時間のようなので締めに入らせていただきますが,スマホ向けRPGが数多くあるなか,OVERHITならではの魅力を,あらためてお聞かせください。
ユン氏:
OVERHITにおける1体の英雄を開発するときは,少なく見積もって2〜3か月はかかっています。それだけに,正式サービス開始時にこれだけの数とクオリティを揃えられたのは,OVERHITにとって大きな強みでしょう。
4Gamer:
そのあたりも,来年のNDCなどで詳しくお聞きしたいですね。
それでは最後に,OVERHITに注目している読者に向けて,ひとこと願いします。
ユン氏:
OVERHITのタイトル名には,「HITのクオリティを超えるゲーム」ともう一つ,長く遊んでもらえるゲームという想いを込めています。そして長く遊んでもらうために,魅力的な英雄を丹精込めて作りました。ぜひ,愛着を持てるキャラを見つけて,手塩にかけて育ててください。よろしくお願いします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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