インタビュー
「アトリエ」シリーズ,20周年の新たなチャレンジ。新作「ネルケと伝説の錬金術士たち」&「ルルアのアトリエ」インタビュー
今回4Gamerでは,長野にあるガストブランドの開発室を訪れ,2本の新作について,エンタテインメント事業部 ガストブランド マネージャーの細井順三氏,そしてシリーズの生みの親であるエンタテインメント事業部 ガストブランド 吉池真一氏に話を聞いた。
4Gamer:
よろしくお願いします。まずはお2人の自己紹介からお願いします。
細井順三氏(以下,細井氏):
「アトリエ」シリーズは「マナケミア 〜学園の錬金術士たち〜」から広報を担当し,その後はプロジェクトマネジメントとしても開発に関わっています。「リディー&スールのアトリエ 〜不思議な絵画の錬金術士〜」からプロデューサーとなり,「ネルケ」や「ルルアのアトリエ」でもプロデューサーを務めています。「アトリエ」以外のガストタイトルだと,「BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣」のプロデューサーなどもやっています。
吉池真一氏(以下,吉池氏):
もともとは,第一作「マリーのアトリエ 〜ザールブルグの錬金術士〜」など初期作品のディレクションを務めていました。というより,私がガストに就職活動をする際に持ち込んだ企画が,「アトリエ」シリーズの基礎になっています。一度はガストを離れましたが,「エスカ&ロジーのアトリエ 〜黄昏の空の錬金術士〜」で戻ってきて,ディレクターやプランナーとして再びアトリエシリーズに関わっています。
今回は,発売の近い「ネルケ」と「ルルア」,2作品の話をお聞きしたいと思います。「ネルケ」については,9月の東京ゲームショウ2018で初めてプレイアブル出展されましたが,反響はいかがでしたか?
細井氏:
好評なところとそうでないところが2つに分かれた形です。20周年記念作品として,オールスターのお祭り感を評価していただいた一方,ユーザーインタフェースや戦闘の分かりにくさについてはご意見をいただいており,改善が必要だと考えています。
現在はそうしたご意見をもとに,ガストのコアメンバー全員でブラッシュアップを進めているところです。
4Gamer:
今回は街を発展させていくシミュレーション的な側面が強いですが,こうした変化については受け入れられたということですね。
吉池氏:
そうですね。「雰囲気は違うけどアトリエらしいね」といった評価を多くいただいています。
4Gamer:
ジャンルももちろんですが,戦闘の簡略化やオート探索など,いろいろな部分で冒険をしているという印象です。ここが賛否の分かれる部分かと思うのですが,このような形にした理由はなんでしょうか。
細井氏:
20周年記念作品について社内で企画を公募したんですが,RPGやボードゲームなどいろいろなジャンルが挙げられました。そうした中から,好きなキャラクターを中心にしてアトリエシリーズへの思い入れを表現してもらい,ユーザーさんが自分自身のものを作れるような仕組みはなんだろうと考えて,今回は街を発展させていく形としました。
オールスターでRPGというのも,なかなか難しいですしね。主人公がだいたい錬金術士なので,ゲームとしてのロールがおかしなことになってしまいます(笑)。
4Gamer:
全員でアイテムをブン投げる異色のRPGみたいなことに(笑)。
吉池氏:
「アトリエ」シリーズはもともとシミュレーションの側面が強いかたちでスタートしていますが,現在はRPGとしての側面が強いシリーズになっていますね。
細井氏:
20周年記念作品の「ネルケ」はスピンオフではなく,また新たな道になればという願いも込めて,原点であるシミュレーションの側面を核にしてみました。
4Gamer:
確かに近年のタイトルは完全にRPGです。それでもネルケが「アトリエらしい」という評価なのが面白いですね。
吉池氏:
アトリエシリーズの本質的な楽しさは「自分で発想して,試した結果が返ってくる」というところにあると思います。ただ,「アトリエらしさ」については私達も理解しきれていないところがありますね。
細井氏:
世界観にしても,「あたたかみのある世界」「牧歌的な世界」という意識で作っていますが,中には「アーシャのアトリエ 〜黄昏の大地の錬金術士〜」から始まる「黄昏」シリーズのように滅びつつある世界を題材にしたものもありますし。でも,「黄昏」シリーズもやはり「アトリエらしい」んです。キャラクターやシステムなどの組み合わせ,作品全体の雰囲気で,らしさが生まれているんじゃないかと思います。
アイテムとコレクションへの愛、やりたいことを全て詰め込んで生まれたアトリエシリーズ
4Gamer:
吉池さんはアトリエシリーズの生みの親と言えますが,20周年のオールスタータイトルを見てどう思われますか?
「ついにここまで来たか」と,感慨深いところがありますね。もともと「マリーのアトリエ」を作っている時は続編をやるつもりはなかったんです。だからやりたいことすべてを詰め込みました。開発が終わってほっと一安心していたら,上層部から「次はどうするんだ」と聞かれて驚いた覚えがあります。
4Gamer:
ここまで続いているのに,続編の構想がなかったというのは驚きです。
吉池氏:
当時のガスト的には「ウエルカムハウス」(※)がメインで,その陰で動いていたのが「マリーのアトリエ」だったんです。
※「ウエルカムハウス」
1996年発売のアクションアドベンチャーで,ポリゴンゲームにしてカートゥーン(海外アニメ)的な表現を追求した野心作。主人公のキートンは,トラップだらけの家で散々な目にあわされる。転んだところにドラム缶が降ってきたり,壁に挟まれてぺたんこになるなど,コミカルな表現が見どころな作品だったタイトル。今回の「ネルケ」でも,ガスト25周年を記念した特別なDLCとして登場することが,東京ゲームショウ2018で発表された。
4Gamer:
もともと,どういった企画から開発を進めたのでしょうか。
吉池氏:
私はものを作るのと集めるのが大好きなので,そうした部分を満足させられるゲームを作りたかったんです。作るという点では,大学の授業で錬金術について習ったことが,アトリエシリーズの原型になる企画を考えるきっかけになっています。いろいろな本を買い込んで調べてみると,錬金術師達は金属や薬品を調合していたことが分かり,これは使えるんじゃないか……ということで,調合システムのアイデアが生まれました。
4Gamer:
そこは現実の錬金術がベースなんですね。
吉池氏:
そうですね。初期の「アトリエ」シリーズって,舞台設定はファンタジーですけど,調合に使うアイテムは割と実際のものに近いように作っていました。
4Gamer:
もの集めの部分はいかがでしょう。
吉池氏:
私はもともと,RPGを遊んでいる時も消費型のアイテムを使えないタイプの人間なんです。
4Gamer:
最後まで「ラストエリクサー」を残しているみたいな。
吉池氏:
そうそう。死ぬまで,いや,死んでも使わないぞって(笑)。ですから,アイテムをコレクションすると楽しいんじゃないかと思いついたんです。ユーザーさんにはアイテムを集めてニヤニヤしてもらいたかったので,図鑑を作ってアイテムのそれぞれに番号を振って。最終目的である「賢者の石」も,あえてリストの真ん中くらいに配置したりもしていました。こうすればリストの前後に何があるのか埋めたくなるでしょう?
4Gamer:
ああ,分かります。最後にあると「これを作るとゲームクリアか」みたいな予想になりますけど,途中で抜けがあると逆に気になってしまいますね。
吉池氏:
とにかくたくさんアイテムを作りたい,作ったら図鑑に載せたい,穴があったら埋めたい,という私の性癖に注力して生まれたのが,「アトリエ」シリーズになります(笑)。
時代性を反映し,「アトリエ」シリーズは変化を続けてきた
4Gamer:
「アトリエ」シリーズは20周年となりましたが,初期とはずいぶんテイストが変わりました。転換点となった作品はどれだと考えていますか?
細井氏:
一番の転換点は「ロロナのアトリエ 〜アーランドの錬金術士〜」でしょうね。ビジュアルやプレイ感といったテイストをぐっとJRPGに寄せて,世界観もよりファンタジックになっていますから。新しい「アトリエらしさ」は,この作品からじゃないでしょうか。
吉池氏:
「アトリエ」シリーズって,毎年発売していることもあり,そのときのクリエイターが何にハマっていたか,世の中で何が流行していたかの影響が強く出るんです。
4Gamer:
と言いますと?
細井氏:
例えば「黄昏」シリーズを作ったディレクターは,当時,「Fallout: New Vegas」のような海外ゲームや,世間で注目されていた「魔法少女まどか☆マギカ」や「進撃の巨人」などの退廃的な世界観にインスピレーションを受け,「アトリエ」に落としこもうとしていました。
4Gamer:
だから「黄昏」シリーズは,錬金術が衰退した上に人類も滅びつつあるという,「アトリエ」シリーズとしては異色な世界観だったわけですね。
細井氏:
あとは,RPGに寄せたアーランドシリーズが受け入れられたことも,「黄昏」シリーズがあのテイストになった要因の1つです。よりRPG色を強めるため,シリアスなストーリーを採用することに……という流れになりました。
4Gamer:
その時のニーズに合わせたものを作っていくと。
吉池氏:
「ソフィーのアトリエ 〜不思議な本の錬金術士〜」からの「不思議」シリーズも同様で,このときは日常系のアニメやライトノベルが流行していました。そこに着想を得てNOCOさんとゆーげんさんをイラストレーターに起用し,さらに「アトリエ」シリーズがもともと持っていたミニマルな繰り返しをもう一度復活させようとしたのが「ソフィーのアトリエ」です。
あとは「フィリスのアトリエ 〜不思議な旅の錬金術士〜」でオープンワールド的な要素を採用したのも,海外ゲームを中心にオープンワールドゲームが増えていたというのがあります。
そうした意味で言えば,「マリーのアトリエ」から始まる「ザールブルグ」シリーズでは,私が児童文学や名作シリーズが好きだというところが影響しているでしょうね。ベースになっているのは「赤毛のアン」で,アンとダイアナの友情がマリーとシアの関係に反映されているんです。
4Gamer:
確かに,アンが当初は厄介者として扱われる辺りも,落ちこぼれの状態からスタートするマリーと通じるところがあります。
吉池氏:
初期作品で言うと,「ユーディーのアトリエ 〜グラムナートの錬金術士〜」などの「グラムナート」シリーズで,よりゲームシステムに特化した内容になったのは,当時のプランナーの方向性によるものです。ストーリーなどのボリュームは弱かったのですが,そのぶん「イリスのアトリエ エターナルマナ」から始まる「イリス」シリーズは,「普通のJRPGのアトリエを作りたい」というディレクターの意向が反映されています。
4Gamer:
もともと「アトリエ」シリーズの原点である「マリーのアトリエ」は,「世界を救わないRPG」をコンセプトにしていましたが,20年の間でそのあたりはけっこう変わってきたんですね。
吉池氏:
コンセプトに関しては,比較的皆が自由にやってきていますね。
細井氏:
そこはガストブランドの社風ですね。作り手が自発的にやりたいと思わない限り,プロジェクトは成功しませんから。
4Gamer:
自由にやった結果,「アトリエらしさ」みたいなところから外れてしまうことってありませんか?
吉池氏:
言語化はできないんですけど,そのあたりは明確な指針がないのに何となく分かるんですよね。
細井氏:
ずっと「アトリエ」シリーズに携わっていますからね。
「アーランド」シリーズのさらに先を描く「ルルアのアトリエ 〜アーランドの錬金術士4〜」
4Gamer:
「ルルアのアトリエ」についても教えてください。「アトリエ」シリーズで4作目が出るのは初めてですよね。「アーランド」シリーズ自体,3部作ということで一度終わっていますが,なぜ続編を作ることになったのでしょうか。
確かに3部作と言いましたけど,4作目を作らないとは言っていないので(笑)。
冗談はさておき,「アーランド」シリーズのキャラクター達は,人気投票でずっと上位なんです。これだけ応援していただいているのに,グッズの展開だけで済ませてしまって良いのかと思っていました。ガスト25周年ということで,我々も新しい試みをしてみたいとも思っていましたし,2019年は「アーランド」シリーズ10周年という節目の年でもあったというのが,企画立ち上げのきっかけです。
4Gamer:
もう10周年でしたか。3部作がPS4とNintendo Switchに「DX」版として移植されたのは,この10周年展開に向けた布石だったわけですね。
細井氏:
個人的なモチベーションとしては,「スター・ウォーズ」のようなコンテンツを作りたかったというのもあります。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を見た時に,あの世界の歴史を振り返ってみたくなったんですが,その時,アーランドシリーズも,開発者ではなく個人として3部作の先を見たくなってしまって。
4Gamer:
3部作の先ということで,やはり気になるのは主人公のルルアです。「ロロナの娘」とされていますが,ロロナがお母さんだとしたら,じゃあお父さんは誰なのかと。
細井氏:
そこはぜひゲームをプレイしてお確かめいただければと。ただ,「アトリエ」シリーズは基本的に「時が止まっている」タイトルは1つもなくて,作品を追うごとにキャラクター達は成長していきます。本作も,これまでのように3部作で終えておけばこうした側面を描く必要はないのですが,4作目ともなると逃れることができませんから。4作にわたってキャラクターの成長を描くことは,我々にとってもチャレンジです。
4Gamer:
ロロナはもちろん,トトリやメルルがどう成長しているのかも気になります。今作は,前作からどのぐらいの時間が経過しているんですか?
細井氏:
そこも秘密です。でも「みんなこうなったんだね」と思えるような展開は絶対に必要ですよね。
吉池氏:
みんないい歳ですからね。
ルルアというキャラクターをデザインする上でのコンセプトを教えてください。
細井氏:
「アーランド」シリーズは,完全にファンタジーな世界でスタートしていますが,作品を重ねるごとに近代に近くなってきているという設定で,そうした流れを踏襲したデザインをお願いしました。その上でキーとなったのは,現代的な雰囲気を表現するジャケットです。
4Gamer:
確かに,ロロナやトトリ,メルルにはなかった意匠ですね。
細井氏:
岸田メルさんに衣装をデザインしていただいた際,いくつか案があったのですが,いかにも「アトリエ」風の服や軍服っぽいものに混ざって,だぼっとしたパーカーを着ているようなものが出てきたんです。パーカーは3Dモデル班から「手を広げたときのシルエットに問題がある」という意見を受けてボツになったのですが,その後,ジャケット風になった今のデザインが提出されてきましたので,上着にこだわりがあったんでしょうね。
4Gamer:
ジャケットを羽織っているのに肩出しなあたりに,岸田さんのこだわりを感じます。ルルアはどんなキャラクターなのでしょうか?
細井氏:
ルルアは明るい子で,ちょっとおバカに見えるところがあるんですが,実は物事をよく考えています。責任感を持って自分の好きなことをきちんとやりたいタイプの子ですね。
4Gamer:
では,本作でのシステム面の見どころも教えてください。
細井氏:
4作目ということで,「アーランド」シリーズの良さと,その後のシリーズで発展してきたシステムを組み合わせたものになっています。まず進め方という点で,これまでよりも自由度が上がりました。物語を追っていくだけでも楽しめますし,たくさんのサイドミッションが用意されていて寄り道もできます。あくまで寄り道なので,遊ぶかどうかは自由ですが,新しい採取地や調合のレシピが解禁されるので,進行が楽になったりもします。
4Gamer:
メインストーリーを進めて,困ったらサイドミッションに行く人と,サイドミッションをきっちり終わらせたうえでメインストーリーをサクサク進めていく人で,遊び方が変わってきそうですね。
「アーランド」シリーズに関しては,「DX」版が出ていますが,ルルアを遊ぶ前に予習しておいた方がよいでしょうか。
細井氏:
もちろん,シリーズを通して「つづき」として遊んでいただくのも楽しめますが,毎回主人公が変わっていますから,今回のからでも大丈夫です。今回の「ルルアのアトリエ」を遊んでみて,気に入ったら「DX」版で昔の姿を見るのもアリだと思います。
4Gamer:
最後に,「アトリエ」シリーズのファンにメッセージをお願いします。
吉池氏:
「マリーのアトリエ」発売当時は,「アトリエ」シリーズが20年も続くタイトルになるとは思いもよらなかったのですが,ここまで長いシリーズになったのも,ユーザーの皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。これからも「ネルケと伝説の錬金術士たち」や「ルルアのアトリエ」はもちろん,「アトリエ」シリーズを楽しく遊んでいただければうれしいです。
細井氏:
原点としてのシミュレーション的な面白さを持った「ネルケと伝説の錬金術士たち」,そして「アトリエ」シリーズ中興の祖である「アーランド」シリーズ,その4作目である「ルルアのアトリエ」。ガストは「アトリエ」シリーズ20周年としてのチャレンジをしていますが,最終的に結果を決めるのはユーザーの皆さんです。好意的に受け止めていただければ嬉しいですし,そうでなかったとしてもユーザーさんの選択を真摯に受け止め,今後の「アトリエ」シリーズに活かしていきます。
20周年記念事業は,ユーザーの皆さんと一緒に次の20周年に向けて歩むための最初の一歩となりますので,今後ともよろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
「ネルケと伝説の錬金術士たち 〜新たな大地のアトリエ〜」公式サイト
「ルルアのアトリエ 〜アーランドの錬金術士4〜」公式サイト
※掲載されている画面写真は,PlayStation 4で開発中のものです。- 関連タイトル:
ネルケと伝説の錬金術士たち 〜新たな大地のアトリエ〜
- 関連タイトル:
ネルケと伝説の錬金術士たち 〜新たな大地のアトリエ〜
- 関連タイトル:
ネルケと伝説の錬金術士たち 〜新たな大地のアトリエ〜
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ルルアのアトリエ 〜アーランドの錬金術士4〜
- 関連タイトル:
ルルアのアトリエ 〜アーランドの錬金術士4〜
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