インタビュー
みんな「恋愛」に身構えすぎなんじゃないの? 「LoveR」を手がける杉山イチロウ氏と箕星太朗氏へのインタビュー
このゲームファン注目の組み合わせはどうやって生まれ,LoveRはどんなゲームになるのか。お2人に話をうかがってきたので,じっくりと読み進めてほしい。
運命的な初対面
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「LoveR」が発表されて,まずプレイヤーのみなさんが驚かれたのが,杉山さんと箕星さんが組まれるということだと思うのですが,まずそこに至る経緯から聞かせてください。
箕星さんの存在を知ったのは,もう10年以上前です。あるタイトルのキャラクターデザインを見て,これはすごいデザイナーだと。
4Gamer:
そのときから,何か感じるものがあったんですね。
杉山氏:
すごくいいキャラクターデザインでしたし,しかもプレイヤーがカスタマイズできるようになっていたので,圧倒されました。複数のパーツを組み合わせたとき,破綻しないようにするのは大変な仕事なんです。
その後,僕が「フォトカノ」を作ってる最中だったと思うんですが,皆さんもご存じのタイトルが発表されて。キャラクターデザインがさらに美しく,さらに魅力的におなりになっていて……。
箕星氏:
褒めますね(笑)。
杉山氏:
そこからもっとファンになりましたが,言ってみればライバル関係になるわけで,一緒に仕事をする機会はありませんでした。
4Gamer:
それぞれ別の恋愛シミュレーションゲームに関わっていたわけですからね。
杉山氏:
そして,僕が角川ゲームスに移籍することになったんですが,そのとき箕星さんはフリーになられていて,「√Letter ルートレター」(PC / PS4 / PS Vita / iOS / Android)や「GOD WARS 〜時をこえて〜」(PS4 / PS Vita)といった,角川ゲームスのタイトルに参加されていました。
これなら箕星さんにお願いもできるんじゃないかと,ルートレターの打ち合わせに企画書を持って乱入させてもらったんです」
4Gamer:
いつかお願いしたいという思いがかなったんですね。箕星さんはそのときどんな印象を受けましたか。
箕星氏:
これはもう,数奇な運命,映画みたいな話ですよ。
4Gamer:
おおっ,そうなんですか! ぜひ聞かせてください。
まず,僕の中でTLSというのは特別なタイトルで,かなり影響を受けているんです。
あるとき,イシイジロウさんとの雑談中に「TLSはめちゃくちゃ良かったよね」という話になって。新作は出ないのかな? 何ならオレたちが作ったらいいんじゃないの? リブートだって言って(笑)。
それで版権はどうなっているのかと調べてみたら,アスキーからエンターブレインに移っているようだと。
なら同じグループの角川ゲームスさんに話してみれば,なんとかなるかも,今度聞いてみますよ……と向かったのが,さきほど杉山さんの話に出た打ち合わせです。
4Gamer:
ものすごいタイミングですね(笑)。
箕星氏:
最初に「杉山イチロウです」と挨拶していただいたんですけれど,実はTLSの開発スタッフまではしっかり把握していなくて,シナリオを手がけた人だとは気づかなかったんです。
杉山氏:
TLSシリーズの後に「キミキス」「フォトカノ」「レコラヴ」と作ってきましたから,そちらのイメージが強くて,TLSにはつながらなかったんでしょう。
ただ,僕としてはずっとTLS的なものを作ってきたつもりでいるので,リブートと言われてもね(笑)。
箕星氏:
キャラクターがまったく違ったので……。ゲームとしては似ているなと思っていたんですが,TLSを参考にしたんだろうな,くらいに思っていたんです。
それで,大々的に発表したわけですよ。「ボクはTLSがこんなに好きで」って。作った本人が目の前にいるとは知らずに(笑)。
杉山氏:
なかなか面白い企画が始まったなと思いました(笑)。
4Gamer:
杉山さんからしたら,「誰かが先に話をつけていて,これはサプライズ演出だな」みたいに受け取りますよね(笑)。
箕星氏:
それで,「TLSのリブートを作りたいんだ,ほかの人がやらないならオレが作る」と語っているところに,LoveRの企画書がスッと出てきたんですよ。
それを読んでいくうちに「あれ? 杉山さんって……」みたいな(笑)。
杉山氏:
僕の経歴も入れてましたから(笑)。
箕星氏:
企画書にはちゃんと僕の名前も入っていて。スケジュールとしては大変だったんですけれど,これはもう命を数年削ってもやらないといけない仕事だと思って,お受けしました。
4Gamer:
その流れで断るわけにいかないですよね。
箕星氏:
ただ,気になっているのは,イシイジロウさんがほったらかしになってしまったことで(笑)。
だって言えないじゃないですか。機密保持もありますし。今回の発表で初めて知ったかもしれないです。
杉山氏:
「箕星さんだけズルい」みたいなことを言われるかも(笑)。
箕星氏:
実は一度「TLSどうなった?」って聞かれたんですよ。「何かいろいろ大変みたいですよ」って濁しましたけど。
杉山氏:
大変なのは事実ですけどね(笑)。
箕星氏:
イシイさんが見ないことを祈ってます(笑)。
杉山氏::
いや,見てもらえないのはプロモーションとしてよろしくないということなので,ぜひ目に入るように頑張ります(笑)。
4Gamer:
箕星さんはTLSのどこに惹かれたんですか。
箕星氏:
やっぱり下校システムです。秀逸すぎて気持ちが持っていかれました。
彼女がとっとと帰ろうとするのを,ムキになってデートに誘うとか,ゲームならではの肉食系要素ですよね。普段の僕は草食なので。
杉山氏:
そうなんですか?
箕星氏:
ええ,あまりガツガツはしないんですけど,TLSはプレイヤーの気持ちを持っていくのがうまいですよね。
4Gamer:
開発側としても,やはりそこが力を入れたところだったのでしょうか。
杉山氏:
はい。一緒に帰るグラフィックスが斬新でしたし,ディレクターが下校会話のパラメータ調整に時間をかけたかいがあって,すごくウケたんです。
あれがなかったら……“ちょっと自由度の高いアドベンチャー”でしたね。女の子と一緒に帰れるということに,夢中になっていただけたんですよ。
箕星氏:
そう,それまでにないもので,TLSを象徴するシステムだと思います。LoveRにも,僕が強く復活を希望して,下校モードを入れてもらいました。
僕がTLSをプレイした頃は,ちょうど恋愛シミュレーションゲームのバブル時代で,たくさんタイトルが出ていたんですけれど,その中でもTLSはずば抜けて面白かったんですね。ゲーム的に。
4Gamer:
なぜそこまで下校システムが響いたんでしょうか。
箕星氏:
TLSはきっと恋愛の描き方が自然だったんだと思います。
僕は自分のことを“普通のお兄ちゃん”だと思っているんです。実際,ある先輩にTLSを勧められるまで,恋愛シミュレーションをプレイしたこともなかったですし,タイトルによっては,ちょっと受け付けないものがあるんですよ,とくに奇抜な設定のものとか。
そういう自分の感覚からすると,自然で,ゴリゴリじゃないところがよかったんだと思います。
すべてのキャラが一番人気を狙わなくてもいい
4Gamer:
杉山さんにとって念願だった箕星さんとの仕事ですが,どのようにオーダーを出されたんでしょうか。
杉山氏:
6人の個性ある女の子ということで,スポーツタイプであったり,大人しいタイプであったりというのをテキストでお渡しして,デザインしていただきました。あまり細かいものではなく,キャラの描き分けをご相談したような感じですね。
箕星氏:
外見よりも内面的なものが多かったです。その子のバックグラウンドとか,幼馴染みとか,水泳をしていて,こんな恋をするとか。
杉山氏:
もっと深いことも書いてあるんですけど,ちょっと今は言えないですね。
箕星氏:
あと,身長と胸のサイズは指定されてました(笑)。
杉山氏:
数値ではないですけどね。ざっくりと。大きいとか小さいとか,ないとか。あと,誕生日も書いたと思います。
4Gamer:
誕生日ですか。
杉山氏:
キャラクターの誕生日を祝うという要素は必要ですし,僕の場合は星座占いも大事にしているんです。その子のキャラクターから考えて,星座とか血液型を,これだなって置いてます。
箕星氏:
逆星座占い(笑)。
杉山氏:
そうそう。そういうところまで考えています。
4Gamer:
では箕星さんは,そういった内面の情報から外見を作り出したと。
髪型は,優美菜だけ,ポニーテールがいいみたいなことを書いたかな。
僕の作品では,恋愛対象のキャラクターにしばらくポニーテールがいなかったので,久しぶりに入れたいと。
箕星氏:
ポニーテールって,ボクがこれまで描いてきたメインヒロインに多いんですよ。もうそんなにポニーテールのバリエーションは持ち合わせておりません! みたいな感じでしたが(笑)。
4Gamer:
それは似ちゃいますよね。最終的にどのあたりで差別化したんですか。
箕星氏:
今回は後れ毛を活かして,もうちょっとリアル寄りのポニーテールにしました。実際にいそうな。
莉里愛(りりあ)に髪の指示はありませんでしたけれど,自分の中で「ヒロインは黒髪ルール」があるので(笑),そこは外せないと。
4Gamer:
それは単に箕星さんのルールだからだけではなくて,杉山さんも黒髪を考えているだろう,ということなんでしょうか。
箕星氏:
はい。自然にそうだよねって。
メインヒロイン像って変わらないですから。少なくとも僕は変わっていない。
ショートカットではないんですよね。やっぱりロングヘアーで,ちょっとおとなしい,清楚な雰囲気ですね。
箕星氏:
今回はそれにプラスアルファして,「1つ年上」というのがありました。
杉山氏:
ちょっとお姉さん的な,リードしてくれる要素を足したのが,莉里愛です。
4Gamer:
メインヒロインは同級生,というパターンが多いと思うんですが,年上にしたのには理由があるんでしょうか。
杉山氏:
メインヒロインはいつも最初の悩みどころなんですよ。今回はどういう黒髪ロングの子を作ろうか……みたいな。
4Gamer:
大枠が決まっている中でも,違いを出さなくてはいけないわけですね。
杉山氏:
ええ。そういう中で,「年上の人に甘えたい」というプレイヤーの方が増えているということもあって,主人公をリードしていく新しいメインヒロイン像にしようと,3年生にしたんです。これはうまくいっていると思います。
箕星さんが,「いかにも年上,3年生」という見かけにしなかったので,そこもまた良かったんじゃないかと。
4Gamer:
やっぱり同級生がいい,と思っている人にとっても,そんなに違和感がないというか。
杉山氏:
違和感は全然ないですよ。ただ,お姉さん的にリードしてくれるので,より身を委ねていい感じになれるんじゃないですかね。
箕星氏:
あまり怒らずに「ダメだぞ」って諭してくれる感じ(笑)。
杉山氏:
結構,許してくれる。自分がちょっとやり過ぎたかなって思っても,「もぅ」とか言いながら許してくれる子なので,いいと思いますね。
箕星氏:
「めっ!」って言ってほしいですね。
杉山氏:
最初のイベントから「めっ!」って言ってます(笑)。
4Gamer:
(笑)。箕星さんから上がってきたイラストを最初にご覧になったときは,どんな印象を受けましたか?
杉山氏:
髪型がパッと見だとロングなんだけど,2つに結わえているところが,発明だ,新しいと感じて,やっぱり凄いなと。
4Gamer:
ほかのキャラクターはいかがですか。
杉山氏:
それぞれでやり取りはしているんですが,全体的に見て,箕星さんはきちんと描き分けをされる方だなという印象を受けました。
どのキャラクターでも人気を取ろうとすると,雰囲気が似るんですよ。やっぱり,自分が一番可愛いと思う顔に近づいていっちゃう。でも箕星さんはそうでなくて,しっかり描き分けるんです。
4Gamer:
可愛ければいいというわけではないと。
杉山氏:
僕は全部のキャラクターが一番人気を狙わなくてもいいと思ってるんですよ。いい意味でね。箕星さんも,それぞれの個性を出したうえで,誰かが好きになってくれればいいっていうスタンスなのではないかと思っています。
箕星氏:
まったくそのとおりです。だから,最初に描いたときはもっとブサイクなんですよ(笑)。で,ちょっと置いて眺めたときに,「ちょっとブサイク過ぎるな」となって(笑),そこから直していくんです。
杉山氏:
ほぼ一発オーケー,直すところはごくわずか,というキャラもいれば,何回もリテイクをお願いしたキャラもいます。
もちろん,上がってくる女の子はみんな可愛いんです。可愛いんですけれど,やっぱり恋愛対象としてストーリーを作っていけるかを考えたとき,押しがもうちょっと欲しい,みたいなところがあったりするので。
4Gamer:
可愛さ以外の部分で調整があったんですね。
クリスタは「ハーフの子だから,もうちょっと外国人っぽいほうがいいのかな?」とか思ったので,今よりもう少し彫りが深かったですし,マスクをしているという設定だったので……。
杉山氏:
クリスタは体が弱いので。
箕星氏:
それを僕は勝手に「歯を矯正しているのを隠すためなんじゃないか」と思って,ブリッジを付けて「にっ!」と笑っているのを描いたんです。自分で「これはないよね?」と言いながら出したんですけど。
杉山氏:
インパクトは凄かったんですけどね。でもボツで(笑)。
箕星氏:
結構好きなんですけど。
杉山氏:
新しさがすごいんですよね。やっぱり新しいところを突いてくるなって思いました。
4Gamer:
確かに刺さる人にはものすごく刺さりそうな気がします。
箕星氏:
ストーリーの最後のほうでブリッジを取ってね。そうしないとチューできないから(笑)。
杉山氏:
(笑)。でも今のクリスタのほうが可愛いです。それは間違いないです。
4Gamer:
さきほど,キャラクターによっては何度もやりとりを繰り返したという話がありましたが,箕星さんは今までの仕事と比べて苦労したのでしょうか。
箕星氏:
いや,ほかのプロジェクトに比べたらかなり楽でした。杉山さんは,自由に泳がせて,その中でいいところを拾ってくれるタイプの方だと思うんですよ。
4Gamer:
TLSの開発者とプレイヤーということで,何となく共通点みたいなところもあったんでしょうか。
箕星氏:
そうですね。悩みどころはあまりなかったです。それがお客さんに受けるかどうかは別として……ですが。
LoveRには今流行している路線に合わないと思う部分もあるのですが,そこを合わせてしまったら,個性にならないかなと。いいところをわざわざ消さなくてもいいと思ってます。
4Gamer:
箕星さんが考える女の子の可愛さって何でしょうか。
箕星氏:
“上目遣い”です。正面の顔で見てもらうと分かるんですけど,意識してます。真正面のように見えて,実は上目遣い。
4Gamer:
あぁ,言われてみればそうですね。これにはどういう理由が……。
箕星氏:
男からの視点ですね。
4Gamer:
なるほど……。近くからちょっと見上げられるっていう,いいシチュエーションが入ってるんですね。
箕星氏:
僕が描く女性の9割近くは上目遣いになっていると思います。
3Dグラフィックスならではの表現
4Gamer:
箕星さんはゲーム内の3Dモデルになったキャラクターもご覧になっているかと思いますが。
箕星氏:
やっぱり,動かしてくれるってことに頼ってる部分がすごく多くて,動いて可愛くなってくれって思います。
4Gamer:
頼る,ですか。
箕星氏:
毎回そうですよ。どのタイトルでも。
台詞やモーション,役者さんの演技が入って,融合したときに魅力的な個性が誕生するものと考えています。自分1人の力では,キャラクターは作り出せません。
杉山氏:
そうなるように,スタッフ一同頑張っています。
箕星さんにはゲーム画面も監修いただいています。瞳や,髪の流れ方・生え際といった,細かい部分まで大切にされているので,非常に参考になっていますし,色合いといったところまで見ていただきました。
「フォトカノ」「レコラヴ」はPSPやPS Vita向けだったんですが,それだとほぼ生のポリゴンしか出せなくて,テクスチャで描いた絵になるんです。それがLoveRはPS4用になったので,シェーダーがいっぱいかけられるようになりました。
4Gamer:
表現の幅が広がったんですね。
杉山氏:
はい。ただ,その分キャラクターを表示させるグラフィッカーとプログラマーの共同作業が複雑になります。
うまく調整が進まない時期があったんですが,そのときに箕星さんから「こういう感じで」という指示がきて,基本的な方針が決まったんです。それに合わせて光の具合を調整して,今に至るという感じですね。とても助かりました。
ここ2か月くらいで画面の雰囲気は大きく変わりました。まぁ未だに調整はしていますが(笑)。
4Gamer:
これからさらにキャラクターの魅力を引き出していくと。
杉山氏:
全般的にリアリティが増しているので,それに合わせていろいろと変えるところがありますね。
例えば,プロモーション用に,キャラクターが教室にいるスクリーンショットを撮るにしても,教室のどこで撮るかを考える必要が出てくるんです。以前の作品では,教室のどこへ行っても色合いは同じだったんですが,今回は教室の隅に行くとキャラクターも暗くなってしまうので,窓際にいかなくちゃ,とか。
4Gamer:
本当のモデル撮影みたいですね。
箕星氏:
主人公が写真部の男の子なので,ゲームでも写真を撮るんですが,楽しいですよ。
杉山氏:
光やカメラの角度で雰囲気が当然変わるので,そのプレイヤーだけのシーン,それぞれの恋の思い出を撮ってほしいですね。
4Gamer:
撮影という要素が杉山さんのゲームに入ったのは「フォトカノ」が最初だったと思うんですが,これはどのようなきっかけで思いついたんですか。
杉山氏:
「キミキス」の後,3Dグラフィックスの恋愛シミュレーションが増えてきて,今始めないと出遅れるなと。
そこから写真撮影を思いついたんです。3Dなら自由なアングルで写真が撮れますし,最初はぎくしゃくしていた女の子の表情が,仲良くなるにつれて優しくなって,最後は恋する瞳が撮れるゲームを作ろうと。
4Gamer:
そのときの関係が,写真に表れる。
杉山氏:
はい。それにいいスタッフとの出会いもあって,あれが生まれたという感じですね。それから8年くらい経ちますが,続いています。
ボクが止めちゃうとノウハウが消失するし,プレイヤーのみなさんも悲しむだろうし(笑),やらないとダメだなって。撮影に代わる,匹敵するテーマはなかなかないんです。ずっとこうでしょうね。
4Gamer:
杉山さんが3Dで恋愛シミュレーションを作るのであれば,撮影という要素は入ってくる。
杉山氏:
そうですね。毎回表現力や機能をアップさせて。LoveRでは,箕星さんのキャラクターを,自由なアングルで撮れます。これは嬉しいですよ。作ってても嬉しいですからね(笑)。
最適なバランスは日常8,ときめき2
4Gamer:
さきほど,箕星さんが色合いといったところまでチェックしているという話がありましたが,LoveRに参加するにあたって,「こうしたい」というイメージがあったのでしょうか。
箕星氏:
やっぱり,杉山作品は淡い感じにしたいと思っています。
4Gamer:
それは,ずっと今までプレイされてきたからこそですか。
箕星氏:
ええ。勝手なイメージですけれど,TLSからプレイさせていただいている自分としては,淡い世界で作りたいなと。何というか,淡くて蒼い青春……。
杉山氏:
レコラヴ以外はそういう印象ですね。
箕星氏:
そうそう,レコラヴは結構ギラッとした感じでしたが。舞台も海のそばでしたし。
杉山氏:
明るくて,サービスシーンも多くて,開放的な恋を描きました。いきなり動画を撮るというゲームシステムなので,しっとりとした話だと合わないんです。明るく楽しくないと,そこに持って行けなかった。
それで,今回の箕星さんとの話では,原点に帰って,イチから2人で淡い恋をやろうとなりました。
4Gamer:
では,まさに箕星さんが最初に考えていた「トゥルーラブストーリー リブート」ですね(笑)。
箕星氏:
(笑)。僕にとって,恋のイメージってやっぱり淡いんです。
そういう意味だと,LoveRではクリスタが一番それに近いキャラかもしれません。物静かな。ちょっとポエムな感じのストーリーになっています。
でも南夏は,名前の通り真夏の太陽みたいなキャラクターですから,個性はいろいろあります。
4Gamer:
同じ恋愛シミュレーションとはいえ,20年以上も作り続けていると,その時期によって違いが出てくるんですね。
杉山氏:
結局,前作よりもよくしよう,というのが重なって,サービスが増えていくんですよ。キスになって,写真になって,動画になってって。
今回はそれを1回リセットして,という気持ちです。
箕星氏:
もうちょっと高校生らしい,爽やかな部分をちょっと強めていきたいなと。
杉山氏:
しっとりというか,静かなというか,そういった色合いの箕星さんのキャラクターを撮る感じですね。
箕星氏:
でも,LoveRはしっとりだけじゃなくて,楽しい作品になってますよね。
杉山氏:
そうですね。やっぱり,明るくて楽しい恋,女の子が笑顔になるようなものが純愛だと思っているので,もちろん楽しめる話にしています。
箕星氏:
学生生活の思い出って,8割くらいは笑っている記憶だと思うんです。だから,ニコニコ,ニヤニヤ笑いながらプレイしていただけるのが一番いいかなと思います。
で,スパイスとして,ときめき。日常が8,ときめきは2でいいと思うんですよ,僕としては。
4Gamer:
なるほど。恋愛ばっかりではないと。
箕星氏:
実際に恋愛ばっかりの学生時代を過ごした人っていないんじゃないかな。
4Gamer:
学校生活の中にちょっと恋愛がある,入ってくる感じですね。
箕星氏:
その比重だからキュンとくるわけであって。8が恋愛だったら,もう“ご馳走様”になりますよね。
杉山氏:
LoveRも,ストーリーイベント以外に,フリーイベントだったり,下校イベントだったりと,見ても見なくてもいいものがいっぱい入っているので。そんな感じの比率ですね。
箕星氏:
いや,結構あれですよ。ストーリーイベントも(笑)。ピュアはピュアなんですけど……。
杉山氏:
ピュアです。純愛です(笑)。
箕星氏:
結構,笑えるシーンも多いですよ(笑)。
ストーリーを表現するうえで3つくらいアイデアが出たとしたら,笑えるものとか,プレイヤーへのサービス的なものを選ぶので,そういうシーンが増えるんです。
ろみのストーリーに,箕星さんが大好きなシーンがあって。詳細はちょっと言えないんですけど……。
箕星氏:
「こんなことやっていいんですか? 大丈夫ですか?」って聞きましたもん。
杉山氏:
大丈夫です。ちゃんと落としどころがあります。
4Gamer:
これまでのヒロインがやらないようなことをやってるんですね。
杉山氏:
やらないですね。やってないです。
箕星氏:
提案をされるんです。ピンチを救うために。
杉山氏:
見事にピンチを救うんですけど,救い方ですね。面白い救い方。ヒロインを助けなきゃいかないという純粋な気持ちが,前代未聞のシーンにつながります。でも,いいところでオチはつくんで,大丈夫ですよ(笑)。
箕星氏:
こればかりはやってもらわないと。すぐに分かると思います。
4Gamer:
それはちょっと楽しみですね。
学校生活つながりでもう1つお聞きしたいのですが,杉山さんが恋愛シミュレーションを作り続ける中で,先ほど話にあったように,その都度変化があったわけですが,高校という舞台とか,高校生という設定を変えなかったのはなぜなんでしょうか。
杉山氏:
うーん,そうですね。学校に通って,そのクラスの中に気になる女の子がいて,みたいなシチュエーションがいいんですよね。教室に通う日々というのが大事です。
まぁ,小学5年生のキャラクターを増やしたりはしているので,登場キャラクターは高校生だけというわけでもないのですが,女子大生との話は……描かないでしょうね。
4Gamer:
やっぱり高校生くらいの学校生活の中で起こる恋愛が一番楽しい,ということなんでしょうか。
箕星氏:
個人的な考えですが,中学時代はやっぱり,“恋愛ごっこ”だと思うんですよ。恋に憧れて,恋愛ごっこっぽい恋愛をするんですけど,高校生って本当の初恋を経験して,寝れなくなるくらいの想いになったりすると思うんです。そこはやっぱり変えられないんじゃないのかなと。
杉山氏:
そうですね。大学だとちょっと……。
箕星氏:
大学はもう一歩進んじゃって,性的なほう,男と女の本能っぽくなっちゃうと思うんですよね。高校生はそこまでいかない。むしろそれ以上進むなんてけしからん!(笑)
純粋で無垢な恋をできるのが,高校生だと思うんですよね。
4Gamer:
なるほど。そのギリギリのところは動かしづらいかもしれませんね。
箕星氏:
そういう意味も含めて,恋愛シミュレーションの主人公が高校2年生という定番設定は,凄いと思うんですよ。年上も年下もいて……。
杉山氏:
昔からそうですもんね。
箕星氏:
先人達の知恵はすごい。
杉山氏:
今回,メインヒロインは高校3年生にしましたけれど,主人公を高校2年から外すことはないでしょうね。
「恋愛」に身構えすぎなんじゃないの?
4Gamer:
恋愛シミュレーションというと,一部の人から偏見を持たれたり,毛嫌いされたりしがちなところがあると感じるのですが,お2人はどのようにお考えですか。
杉山氏:
女性からですか? 男性はそうでもなくないですか?
4Gamer:
女性に比べると少ないとは思いますが,男性にもそういった傾向はあると思います。
箕星氏:
それは僕もあると感じていますが,入口はもう冗談っぽい方向で消化できればいいんじゃないかと思うんです。「お前こんなのやってんのかよ?」って来る奴が,「ちょっと俺にもやらせてみろよ」とやっている内に「なんか……可愛くね?」と胸キュンしてくれたら嬉しいですね。「お前,恋してるな?」的な(笑)。
杉山氏:
マンガとか映画,小説でも,恋は外せないテーマで,作品もたくさん出ていますよね。それを読んだり観たりするのはごく普通のことなのに,ゲームだとそういう捉え方をされることがあるとすれば,やはりゲームがインタラクティブなものだからじゃないでしょうか。
箕星氏:
自分視点になるからでしょうね。
杉山氏:
うん,それは間違いないですね。没入感が強くなるから,恥ずかしくなる。
箕星氏:
マンガや小説は,主人公,他人の恋を見てるんだけど,ゲームは自分が主人公ですからね。
4Gamer:
そういう違いって,開発のうえで意識されていますか。単にお話を作るのではなくて,プレイヤーが主人公になるからこその仕掛けというか。
杉山氏:
主人公の個性はなるべく出さないようにします。
箕星氏:
難しいですよね,出し過ぎるとね。
杉山氏:
プレイヤーが「俺はこんなことやらねーよ」みたいに思ってしまいそうなものはなるべく入れないようにして,許される範囲で織り交ぜてはいます。
ただ,ストーリーを描くうえで,主人公が頼もしかったり,優しかったりっていう要素がないと,女の子が好きになる理由が分からなくなるんですよね。そういう部分はどうしても必要で。
だから,プレイヤーが主人公に共感して,これなら彼女を助けようとか,彼女のために頑張ろう,となってくれるように,布石を置いたり,伏線を張ったりして,シナリオを作っています。
箕星氏:
それがプレイ中に出てくる選択肢ですよね。
杉山氏:
そうですね。どれを選んでも話は問題なく進みますが,積極的に考えてもらうきっかけにしています。まじめなもの,ちょっと面白いもの,エロいもの,といった感じで,オチを付けることが多いですけど(笑)。
箕星氏:
結構,そこで自分の性格が出るじゃないですか。
はい。「凜世(りんぜ)にこんなエロいこと言えないだろ」みたいなのが,たまに混じってたり。
箕星氏:
でも,試したくなる。どう返されるのかなとか。
4Gamer:
なるほど。そういうところでプレイヤーの内面がはっきり出てしまうのは,ゲームならではですね。マンガや映画,小説なら,黙っていればそこは出ない。
箕星氏:
僕はそこがすごく楽しいと思うんですけどね。みんな「恋愛」に身構えすぎなんじゃないの? と思うことはあります。
最初はネタでいいと思うんですよ。「キモ!」と思ってもらっても全然構わないし。まぁ,とにかくプレイしてみなよと。最後になんか「可愛い」ってなってくれたら,嬉しいですね。
杉山氏:
今回はVTuberとか,みんなの目に入るようなプロモーションをやる予定なので,いろいろな人に興味を持ってもらって,ぜひ恋に落ちてもらいたいと思っています。
箕星氏:
そこのハードル下げたいということもあって,LoveRはライトな感じにしたいと思っていました。
恋愛というテーマは誰もが理解できるはずですから,僕はあまり特殊なことをしたくなんです。隣の席にいてもおかしくない子をテーマにキャラクターデザインをしているので。
杉山氏:
それにしては美しいですけどね(笑)。
箕星氏:
まぁ,そこはちょっと夢がないと(笑)。
クラスにこういう子いたなーとか,実写にしたらこんな感じかなとか,現実に“変換”できるようにしています。
例えば,「うぎゅー!」とか言う子は,現実にはなかなかいないじゃないですか。そういった方向性ではないところが,杉山さんとは合うと思うんです。
杉山氏:
出会ってすぐ写真を撮るようなゲームでも,リアルだという評価をいただくんですけれど,でも現実にはそんなことあり得ないですよね。
ちゃんと純愛を描くというポリシー,気持ちで作っているので,どこかで現実に落とし込まれているっていうことかなぁ。
箕星氏:
起きないけど,起きそうではありそうですよね。シチュエーション的にも。
杉山氏:
もしかしたらあるかもしれない,と思わせる部分は頑張って作っています。
4Gamer:
そのあたりのさじ加減は難しそうですね。
箕星氏:
僕は「感覚の再現」を大事にしているんです。「あっ,俺もあの時にそう思った」とか。そういう変換ができる部分を意識して,キャラを作っていく感じはしてます。
杉山氏:
なるほど。僕はそのキャラにストーリーを乗せているわけですけれど,リアリティや純愛を意識しつつ「こんなことねーよ」みたいなことを若干入れています。
箕星氏:
そこはラブコメのコメの部分ですよね。コメがないと面白くないですよね。
杉山氏:
オチがあって。なんか楽しめるっていう。
突拍子もないことというか,驚きはゲームとして必要だと思うので,そういうのは大切にしています。
箕星氏:
今回1つだけ,すごく注文したのが,優美菜の主人公の呼び方なんです。「お兄ちゃん」って呼ばせてほしいって。
杉山氏:
特殊な呼び方,例えば「にーくん」とか,そういうのではなくて。
4Gamer:
あぁ,そういうちょっと変わった呼び方は,ゲームに限らずありますよね。
箕星氏:
ボクの記憶の中で「にーくん」って呼ぶ人はまずいなかったんですよ。ちょっと特殊じゃないですか。記憶が蘇りにくい呼び方だったので。
杉山氏:
フォトカノが「にいやん」,レコラヴが「にい君」だったので,次もそういう呼び方を付けたいなという話をしたんですけどね。
まぁ,原点に返るっていう意味で,スタンダードの「お兄ちゃん」に戻すってのは良かったと思います。一長一短なんですけどね。やっぱり「にい君」みたいに呼ばれるほうが好きな人もいるし,ライターとしても個性を付けたくなるので。
箕星氏:
そこはすごく分かります。
でも,優美菜の場合は「お兄ちゃん」で正解だなと思いました。あれがにい君って言ってたら,特殊なキャラクターに見えると思うんです。
杉山氏:
なるほど,キャラクター的にね。
4Gamer:
お2人が真剣に議論して作っているんだと分かる話ですね。
箕星氏:
僕は勝手にこう,プレイヤーサイドから勝手に言ってるだけなので。
杉山氏:
いやいやいや,いろいろ意見をいただきまして(笑)。
箕星さんから「こうしたい」という話があったのは。キャラクターの初期設定くらいで,ストーリーなどでは全然なかったですね。「面白かった」という感想しか来なかったので,それはやっぱり嬉しかったですね。
箕星氏:
そこは長年のプレイヤーですから(笑)。
小っ恥ずかしい気持ちで楽しみましょう
4Gamer:
TLSからずっと杉山さんのゲームをプレイされている人,まさに箕星さんみたいな人がたくさんいらっしゃると思うんですが,そういう人はどういうところに惹かれていると思いますか?
杉山氏:
何でしょうね……新しいことに挑戦するからじゃないですかね。
4Gamer:
先ほど話に出たような基本となる部分は同じでありつつも……。
杉山氏:
変えないところは変えないんです。やっぱり純愛でリアルっていうところが評価されているとは思うんですけども,そこにプラスして,ハードウェア的な挑戦であったりだとか。
LoveRも音声認識など,いろいろとチャレンジしています。PS4で音声認識を採用しているゲームってあまりないんですよね。
箕星氏:
僕も見たことないですね。その機能があったことを知りませんでした(笑)。
杉山氏:
僕も企画立案しているときに気付いたんです。PlayStation 4は音声認識ついてるぞって。プログラマーに相談したら,ライブラリあるからやれますよって返事があったので,やらなきゃ損だと。
箕星氏:
僕にとっては,杉山さんの恋愛シミュレーションは,もう歌舞伎みたいなものなんです。
4Gamer:
歌舞伎ですか。
杉山氏:
伝統芸能じゃないですか。
箕星氏:
そう,日本の伝統芸能!
杉山氏:
(笑)まぁ,20年もやってますからね。
箕星氏:
杉山さんはもう匠だと思っていて。自らシナリオを千近くボツにされた話をうかがって,まるで焼き上がった陶器を叩き割る陶芸家みたいだと感じて。まさに匠,師匠だと(笑)。
4Gamer:
箕星さんは,プレイヤーとしてもLoveRを楽しみにしているんですよね。
箕星氏:
ええ。ただ,メインストーリーはもう分かっちゃったんですよね。そこがつらいです(笑)。
杉山氏:
最初に誰を攻略しますか?
箕星氏:
やっぱり莉里愛かな。まず,メインヒロインから。
4Gamer:
発売日は2月14日のバレンタインデーですね。
箕星氏:
大丈夫ですか(笑)。
杉山氏:
いろいろと“前科”はあるんですが,大丈夫です(笑)。
箕星氏:
いい状態で間に合わせてほしいですね。
杉山氏:
もちろんです。
4Gamer:
では,時間が迫ってきたようですので,4Gamer読者に向けてのメッセージをお願いします。
杉山氏:
そこれまで長きにわたって恋愛シミュレーションを作ってきましたが,新たに箕星さんという素晴らしいクリエイターと出会って,新しい恋愛シミュレーションをイチから作っています。
この組み合わせに期待される方を裏切らないクオリティのものを作ってますので,楽しみにしてください。
箕星氏:
TLSをずっとリスペクトしていたので,まさか自分がその流れを汲む作品のデザインをすることになるとは夢にも思っていませんでした。
今回だけは,お客さんとしても楽しみたいなっていう部分もあって。僕が強く復活を希望した下校モードもあります(笑)。
恋愛って小っ恥ずかしいものなので,小っ恥ずかしい気持ちになって楽しみましょう。
杉山氏:
さすが箕星さん,いいまとめで(笑)。
4Gamer:
ありがとうございました。
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