企画記事
子どものころ大好きだった「カエルの為に鐘は鳴る」がSwitchにやってきた。子をもつ親になってさらに「このゲームを勧めたい!」と思った話
Nintendo Switchのサービス「ファミリーコンピュータ&スーパーファミコン&ゲームボーイ Nintendo Switch Online」で,「カエルの為に鐘は鳴る」配信という一報が――
「わわわっ。やっ,やっと,待ちに待ったこの日がきたのかっ」と,震える手でSwitchを起動する筆者。「Nintendo Direct 2023.2.9」で流れたSwitch Onlineのゲームボーイタイトル配信発表の動画で,今後配信予定のタイトルとしてのチラ見せがあってからおよそ1年3か月前。あああっ,長かった……。
「カエルの為に鐘は鳴る」は,1992年9月14日に任天堂から発売されたゲームボーイ用ソフト。謎の軍団に占領されたミルフィーユ王国を救うため,サブレ王国からやってきた王子が活躍する物語が描かれるアクションアドベンチャーゲームです。
当時小学生だった筆者は,いったいなぜかは覚えていないけれどこの作品を手にし,そしていまも大好きな“大人になっても読み返したくなる,子どものころに好きだった童話のようなゲーム”になりました。
そんな本作のSwitchでの配信が発表され,SNSでは大きな話題になりましたが,「なんでェ?」と思ったゲームファンは少なくないのではないでしょうか。
というのも,2012年にニンテンドー3DS向けのバーチャルコンソールで配信されたものの,ゲームボーイで発売されて以降なかなか遊べないゲームだったので,広い層にはあまり知られていないんじゃないのかと,そう思うのです。
そんな「カエルの為に鐘は鳴る」が,Switchという遊びやすいハードにやってきた……。
ゲームボーイの名作として多くの人に知ってほしい。そして,当時小学生でいま子どもを育てる親となった身として,当時の自分くらいの子どもたちとその保護者の皆さんにぜひ遊んでほしい。そう思ったので,ゲームの魅力を紹介します。
「Nintendo Switch Online」公式サイト
アッハと笑ってやがてしんみり。人にやさしい人でありたいと思えるすてきな物語
簡単にお話のはじまりをまとめると,主人公はサブレ王国という国の王子さま(名前は自由に入力できますが,ここではサブレ王子と呼びます)。単細胞で熱血漢,情にはもろいが,しかしなんでも金で解決しようとしがちというお金持ちのお坊ちゃん気質と,ゲームの主人公としては「……えっ?」みたいなところがある若者です。
そんなサブレ王子には,カスタード王国のリチャード王子という,よき友人でありよきライバルがいます。おシャレでクール,そしてちょっとキザなリチャード王子とは同い年で,ルックスやスタイル,おつむのていどもほとんど同じ。しかしサブレ王子は,なぜか剣術の試合だけはリチャード王子に勝てません。
ある日,カスタード王国での練習試合にて,1勝もできないままサブレ王子が56敗目を喫したそのとき。ミルフィーユ王国が謎の軍団デラーリンに占領されたという一報が届きます。
さあたいへん。友好国のピンチであることはもちろん,ミルフィーユ王国は2人の王子が憧れるティラミス姫が治める国。「姫! 必ず助けに行きますよ!」といった調子でミルフィーユ王国に旅立つ2人なのでした。
と,こう書き連ねるとけっこう王道な始まりですが,出だしからもう子どもの心をわしづかみなゲームでした。
まず,ゲームが始まってすぐの2人の剣術試合のシーンで飛び込んでくる「ハッハッハッハ」というデカ文字。「もうぜったい,世代を超えて子どもは好きだよね?」というギャグマンガ的表現! それでいうと剣術の試合自体のポカポカ! 煙モクモクー! な表現もそうで,つまりつかみは完ぺきです。
そしてテンポのよさ。リチャードの船に一緒に乗り込もうとすると,「キミはキミの手段できたまえ」といった感じでぽいっと追い出されるサブレ王子。しかし「愛しの姫のためなら金に糸目はつけぬ!」と,すぐに近くに泊まっていた船を大金で買い取りミルフィーユ王国に向かう……その後もいろいろな出来事が起こるわけですが,とにかくテンポよくおもしろが押し寄せてくるのです。
2人の王子だけではなく,かなり個性強めなキャラクターがたくさん登場する本作ですが,セリフのテキスト自体はもちろんだけど,リズムや間の取り方なども独特です。
妙にクセになるというか,自分の話をするときの言葉の選び方や書き言葉にその影響が出ちゃってますって人,けっこう多いんじゃないかと思います。って言っている筆者ももうすっかりという感じで。
こういうのずるい。大好き。自己紹介するときこういう言いかたしたい。って,そのまま大人になりました |
妙に時代劇めいた言い回しになるのも好っき |
そのおもしろの大きな要素となっているのが,あちこちにちりばめられたパロディネタです。まず,船に乗って辿り着いた,ミルフィーユ王国の最初の町が港町シーミズ。そうです,清水港です。
回復アイテムがワイン一番搾りとなんだかちがうお酒の名前みたいで,温泉地に行ってみればその名はゲロベップ温泉。ちょっとくせアリな博士の名前はアレヲ・シタインで,なんか舌をペロッとしそう。そんなものやひと,地名がワッハと出てきます。
ほかにもファミコンネタや時代性のあるネタもたくさんあり,今の子ども(世代的には保護者の人たちも)はキョトンとなるかもしれません。
しかし,シンプルに語感やそのシーンのノリで笑えるものがあるので,なんか分からないけど,なんとなくウフフとなるかと思います。発売当時の小学生もそんな感じだったので,今の子どもが分からなくてもしょうがない。
そんな,なんとなくウフフとしていたものが実はパロディで,のちのち「アレってコレだったんだ!」という“元ネタ”との遭遇があるのも,こういったパロディネタのよいところ。当時小学生だった人も,大人になった今になって分かるものもあるかもしれません。
そもそも,子どもだったら「どういうゲームかわからない,なんだかへんななまえだぞ」と思うであろうゲームのタイトル名自体,アーネスト・ヘミングウェイの小説「誰がために鐘は鳴る」を想起させるものです。
……って,当時小学生の筆者は,あとでヘミングウェイの小説を知って「あっ!」となったわけですが。つまり勉強にもなるということです。たぶん。
と,ここまでの説明だと「ワッハ」「ウフフ」と笑って楽しいゲームのようですが,ただただ「おもしろが押し寄せてくる。泣いてる場合じゃない」という作品ではありません。
へんなひと,もの,事件がたくさんで,そのテキストとそのノリとテンポも,なんだかオフビートというか脱力感あるものだけど,実は話の運びかたがものすごく丁寧です。
出てくる人はなまけてたり,自分勝手だったりで,主人公はいろいろ理不尽な目にあうのだけど,それら一つひとつに意味があるというか,「わわっ,そういうことだったのか!」という展開を見せます。
そして,そんな物語を進めてくうちに,「いろいろなひとやものにやさしくできる人間になりたいな」と思えるはずです。
ちょっとマッドなサイエンティストなんかも出てきますが,特定のひとやものを傷つけたり,なにかしらの圧力を感じたりする笑いのとりかたはほぼしていないと言っていいでしょう。なにせ,任天堂が自分自身をおもしろがっている“パロディネタ”があるわけですから。
大人になってからもふと思い出すような,印象的な言葉やシーンもたっぷり。これから遊ぶ人へのネタバレや先入観になるので詳しくは話せないですが,それらが最後に集約される感じも素晴らしいのです。
なんとも変で不思議,でも考えさせられるようなお話で,それは優しさと厳しさと心強さのある雰囲気に包まれています。
お話も絵も素晴らしい本作ですが,それらをさらに彩る音楽とサウンドにも注目で,このあたりも最初からガシッと心を掴まれます。
愉快なシーンから一転シリアスに,そしてサブレ王子が勇敢に立ち上がり……みたいに目まぐるしい展開を見せる物語。音楽やSEは,その「おっ,空気が変わったぞ」みたいな変化,おもしろとシリアスの緊張と緩和をバシッと感じさせてくれます。
その最たるものが,町からフィールドに出たときのSE。シーミズを出たとき初めてそれを体験するわけですが,これが実に粋な計らいがあり「自分の冒険が始まったのだ!」と勇ましい気持ちにしてくれます。お楽しみに。
そして,ベルの音色。タイトル名はパロディ的なだけではなく,ちゃんとカエルも鐘も大事な要素として出てくるのですが,それもあってかベルのような音がいろいろな楽曲で印象的に使用されています。
これが切なげでとてもよく,本作の特徴である,おもしろのなかにあるメランコリィみたいなのをすごく感じさせてくれるので,ちょっと気にして聴いてみてください。
そんな「カエルの為に鐘は鳴る」。あらためて言いたいのが,小さな子どもとその保護者の皆さんにぜひプレイしてほしいゲームだということです。
これまたネタバレ,先入観を与えることなど考慮すると詳しく話せないですが,その物語は未就学児や小学生の育児や教育として,自己肯定感と社会性を育むうえでもきっと良いものになると思います。
ああっ,なぜかは言えないっ。言えないが最後まで……最後まで遊んだらきっと! 分かる……っ。
「カエルの為に鐘は鳴る」と「夢をみる島」はセットでコレ。ゲームの名作としてだけではなく,古今東西の有名な絵本や童話と並べていい作品だと個人的に感じています。
Switch版「ゼルダの伝説 夢をみる島」プレイレポート。初めてでも久しぶりでも楽しめる,新鮮さと懐かしさの両方が詰まった作品の魅力を紹介
任天堂から本日発売となる「ゼルダの伝説 夢をみる島」は,1993年に発売された同名ゲームボーイ作品のSwitch版だ。初めての人に「夢をみる島」で楽しんでほしい点を紹介しつつ,かつてGB版をプレイした人には“あのころの気持ちが蘇る”本作の魅力をお伝えしよう。
「でも遊びやすさってどうなの? 30年も前のゲームでしょう?」と思った人に,ちゃんとゲームメディア的に説明します。
まず,もともと難しい操作はないゲームで,しっかりお話を追いながら,人の話を聞いたりモノを探したりすれば,詰まることなく5〜6時間でクリアできます。
大事なのが,フィールドやアクションステージのあちこちにある,サブレ王子のパワーアップアイテムの取り逃しがないよう頑張ろうということ。バトルはオートで,節目となるバトルはしっかりHPと攻撃力と速さを育てられているかで決まります。なので,取り逃しさえなければ,人間の姿でかつ体力満タンで挑めば基本的に負けることはないのです。
あと,サブレ王子はひょんなことからカエルとヘビになれる体質になり,それらの特徴を生かしながらパズル要素のあるステージをクリアしていくことになります。なので,変身用のアイテムは多めに持っておくと気がラクです。
難しい操作はないゲームと言いましたが,「ギリギリでジャンプ!」みたいなアクションがあれば,「まずヘビになって,ここで人間に戻って……」みたいなダンドリや思考が大事になる場面があるので,そのあたりで未就学児や小学校低学年は苦戦するかも。
しかしオリジナルと違ってSwitch Online ゲームボーイ版ではいつでも気軽にセーブや巻き戻しができるので,だいじょうぶ! 自分のペースでできる! きっと乗り越えられる!
おもしろのつまったテキストには漢字が入っているので,このあたりで未就学児や小学校低学年の子どもは詰まってしまうかも。オリジナルより大きい画面で遊べるけど,そのまま拡大されたピクセルフォントがちょっと読みにくいみたいなこともありそうです。
といったわけで,小さな子どもの保護者は,ときどきサポートできるように見ていてあげるといいでしょう。あんまりべったりくっついてるといやがられるかもしれないので,ほどよい距離で。これ大事ですきっと。
それで「アハハ」なんて笑い声がしたらそうっとのぞき込み,「おお,ここでツボったか。ウフフ」なんてホクホク気分でプレイするさまを楽しむなんていうのもよろしいかと思います。
「ネタバレは避けたい」「先入観を与えちゃあだめだ」と言いながら,ついつい話過ぎちゃいました。それほどまでに語りたい,多くの人に知ってほしいとなるのが「カエルの為に鐘は鳴る」というゲームなのですが,最後にさらに締めとしてひとことを。
これから遊ぶ人は,薄目でそうっと見るか,ゲームをクリアしてから読んでください。それでは次の画像の下に……
ちょっと変な人やモノがたくさん出てきて,あははと笑ってほろりと泣ける。優しいけれど厳しさもあって,それは子どものころに背伸びをして体験した,ワサビを効かせたお寿司のよう。そして,最後のいちげきは切なくて,“人にやさしい人になりたい”という気持ちになれる。
そんな物語が描かれる「カエルの為に鐘は鳴る」は,大人はもちろん今の子どもたちにこそ体験してほしいゲームです。
Switchを持っていて「ファミリーコンピュータ&スーパーファミコン&ゲームボーイ Nintendo Switch Online」のサービスを利用できる皆さん,ぜひプレイを!
「Nintendo Switch Online」公式サイト
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