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【ドロッセルマイヤーズ渡辺】ゲームの主人公は何者なのか
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印刷2019/05/24 10:00

連載

【ドロッセルマイヤーズ渡辺】ゲームの主人公は何者なのか

渡辺範明 / 遊びと創作ボードゲームの店「ドロッセルマイヤーズ」代表

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ドロッセルマイヤーズ渡辺の ゲームボーズ

Twitter:@Drosselmeyers_


スーパーマリオブラザーズ
画像集 No.009のサムネイル画像 / 【ドロッセルマイヤーズ渡辺】ゲームの主人公は何者なのか
 ゲームを遊んでいて,ふと「この主人公は何者なんだろう?」と思ったことはないだろうか。もちろん,マリオはヒゲの配管工でキノコ王国のピーチ姫の恋人で……と設定を説明することはできるが,そうではなく,彼はいったいプレイヤーにとってどういう存在なのか? という疑問だ。

 映画でも,アニメでも,小説でも,マンガでも,ほとんどの物語には主人公というものが存在する。主人公の定義はさまざまだが,ここでは「登場人物の中で観客がとくに感情移入するべく用意されたキャラクター」くらいの意味と考えよう。だけど,一つの物語に主人公が複数存在することもあるし,物語の進行と共に主人公が別のキャラクターへ入れ替わっていくケースもある。はっきり主人公が決まっていない群像劇なんかもよく見る形式だし,場合によっては個々の観客の見方(感情移入の仕方)によって,「誰が主人公なのか」が変わってしまうことだってありえるだろう。つまり一般的な物語メディアにおける主人公とは,比較的“ゆるい”存在と捉えることができる。

 しかし,ことゲームにおいて主人公という語が指し示すのは,往々にして「プレイヤーキャラクター」である。つまり,プレイヤーが直接操作するなにかしら――ここでは便宜上トークンと呼ぶ――こそが主人公であり,これはほかのメディアに比べて大きな強制力を持つことになる。ゆえに「スーパーマリオブラザーズ」における主人公は,見ようによってはノコノコかもしれない……ということは,まずあり得ない。実際,ノコノコなどの敵キャラとマリオはプログラム上もまったく別のロジックで制御された存在であり,そこにも混同の余地はない。

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 一方で,マリオとルイージはどちらもプレイヤーキャラなので,「主人公が2人」と言えなくもない。それもあながち間違いでもないが,初期の「スーパーマリオブラザーズ」において,両者は1Pと2Pを分けるだけの存在であり,トークンとしてまったく同じモノを指している……というかプログラム上もほぼ同一の存在なので,あまり意味のない指摘だろう。
 とはいえ,じゃあ「グラディウス」のオプションは? 「ドラゴンクエストII」のサマルトリアの王子は? あるいは「レミングス」はどうなんだ? などなど,境界があやふやになっていくケースも多々あるはずだ。そこで今回は,そんな「ゲームの主人公」について改めて考えてみたい。
 ゲームの進化の歴史の中で,主人公というものがどのように変遷し,プレイヤーとどんな関係を築いてきたのか。ときにプレイヤーの分身であり,ときに独立した人格をもつ第三者であり,そしてときにはその両方である,この不思議な存在について整理してみよう。


トークンからキャラクターへ


スペースインベーダー
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 黎明期のデジタルゲームには,そもそもキャラクターと呼んでいいのかすら微妙なトークンが多かった。1962年「スペースウォー!」の宇宙船,1972年「ポン」のラケット,1978年「スペースインベーダー」の移動ビーム砲台……これらは抽象性が高く,ゆえにトークンそのものに紐付いた個性(雑な言い方をすれば主人公らしさ)と呼べるものはほとんどなく,ゆえに主人公ではなく「自機」と呼ばれることが多かった。強いて言えば,宇宙船や移動砲台に乗り込んでいたり,ラケットを握っていたりする「誰か」が主人公で,もちろんそれはプレイヤー自身である。
 つまり,この時代のトークンはモニターの外にいるプレイヤーがゲーム世界で行動するための「道具」としての側面が強かったと言える。プレイヤーが宇宙空間を移動するための宇宙船,球を打ち返す道具としてのラケット,宇宙人と戦うための移動ビーム砲台,というわけだ。

 1980年代に入り「パックマン」以降の時代になると,トークンはいよいよ「キャラクター」としての個性を帯びてくる。パックマンの特徴はその大きな口……というか,ほぼ口だけで構成されたキャラクターだが,「進行方向のドットを食べる」「パワーアップすると敵すら食べる」というゲームシステム上のアクティビティをそのまま体現しているのが,アニメやマンガなどほかの先行メディアのキャラクターとは根本的に異なるところだ。
 抽象度のレベルは異なるが,「マリオブラザーズ」のマリオも地下空間でパイプから出現する小動物達と戦うというゲームの世界観を補強するために,配管工として設定された。つまりこの時代のトークンには,あくまでゲーム側からの要請ありきで,その機能説明としてキャラクター付けがなされている。その意味で,まだ「道具」の時代の残り香を強くまとった状態だったと言える。

パックマン
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 1980年代後半,「ドラゴンクエスト」の登場によりコンピューターRPGがメジャー化すると,プレイヤーとトークンの関係は,とたんに複雑さを増してくる。トークン自体にプレイヤーとは別の意志が宿り始めるのだ。
 これは原型であるテーブルトークRPGが「プレイヤー自身がゲームのキャラクターを演じる」遊びだったことに由来するわけだが,それでも最初期は「主人公=プレイヤー自身」という枠からはみ出ないような仕組みがいろいろと組み込まれていた。ドラゴンクエストの主人公が,今に至るまでセリフを持たず,選択肢も「はい」と「いいえ」しか出てこないのは,この最たる例と言えるだろう。
 しかし,こうしたプレイヤーと主人公が乖離していく傾向は,1990年代後半,家庭用ゲームハードのグラフィックス表現力の向上とともに,より顕著になっていく。あらかじめ用意された物語を,まるで映画やアニメのように「鑑賞する」タイプのRPGが一世を風靡し,その乖離を誰も多くの人が気にしなくなっていったのだ。その代表例が「ファイナルファンタジー」シリーズで,こうした作品群が作り出した流れが,後に「JRPG」と呼ばれる日本独自のRPG文化を形成していくことになる。

 多くのJRPGの主人公達は,プレイヤーとは異なる人格と名前を持ち,饒舌にセリフを話し出した。つまり,彼らにはフィクションの世界に生きるキャラクターとしての自我があり,主人公でありながら,むしろ明確にプレイヤー自身ではなくなっていった。小説で言うなら,言わば三人称単一視点(場合によっては三人称多視点)の語り口,といったところだろうか。

ファイナルファンタジーVIIより。主人公が饒舌なゲームは,それまでもPCプラットフォームを中心としたアドベンチャーゲームの文脈では少なくなかったが,家庭用ゲーム機の表現力の向上とともに,より一般化していった印象がある
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 そして2000年代,日本ではJRPGの時代が続いている一方で,世界市場ではゲームのメジャージャンルがFPS(ファーストパーソン・シューター)へと推移していく。FPSもまた,日本におけるRPGと同様に,ゲームにおける物語を多く育んだジャンルではあるのだが,そのあり方はまったく異なっていた。なにせFPSは,その名のとおり主観(ファーストパーソン)視点で進んでいくゲームなのだ。主人公のあり方もカメラワークの影響を強く受け,当然ながらJRPGのように三人称にはなりえない。
 では,そうした画面に映ることすらない主人公達が無個性だったかというと,そういうわけでもなかったりする。「Half-Life」ゴードン・フリーマン「Halo」マスターチーフといった主人公達は,決して言葉数が多いわけでなく(というかほぼしゃべらない),プレイヤー自身からもかけ離れた存在ではあるものの,強烈な印象を持ってプレイヤーに受け入れられていった。こうした主人公達は意志を持つキャラクターではありながら,同時にプレイヤー自身でもある。
 こうして海外におけるゲームの物語は,一人称単一視点の語り口を基本として進化を遂げていくことになる。このストーリーテリングの方向性は,後にレベルデザインナラティブといった技術に発展していくわけだが……その話はまた別の機会に譲ることにしよう。

「Half-Life」
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ゲームにおける3つの主人公像


 時系列を辿ってきた話が概ね現在へ到達したところで,ちょっと視点を変えてアナログテームに目を向けてみたい。
 最古のボードゲームがなんであったかは諸説あるものの,基本的に今で言うところの双六に近いものだったと言われている。例えば「バックギャモン」がその一つで,これは“盤上のすべての駒を,先にゴールに導いた方が勝ち”という対戦型のマルチプレイゲームである。そもそもゲームというのは,コンピューターが登場するまでマルチプレイが基本だったのでそれも当然だが,この段階でのボードゲームのコマ――つまりトークンには個性がない。バックギャモンについても,使用するコマは同一のモノが複数で,かつ世界観も希薄なので,盤上に主人公と呼べるものは見当たらない。
 しかし,これがチェスや将棋になるとだんだん世界観が分かりやすくなり,15世紀くらいの「絵双六」でプレイヤーがそれぞれ1つの駒を操作して順位を競うようになる頃には,かなりキャラクター味を帯びるようになる。この場合のトークンは自己の代理,つまりアバターに近い主人公と言えそうだ。実際,江戸時代の道中双六などは,自分の駒を通して旅を疑似体験する遊びでもあり,「プレイヤーを代理する存在」としての主人公が,デジタルゲームの誕生以前から存在していたことになる。

バックギャモン(リンクはAmazonアソシエイト)
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 なぜ突然アナログゲームの話を挟んだかというと,近年のもう一つの大きな流れとしてオンラインゲームがあるからだ。インターネットの普及が進んだ2000年代以降,ゲームはネットを介すことで,再びマルチプレイに注目が集まる時代を迎えた。MO/MMOなど,複数のプレイヤーがそれぞれのキャラクターで参加するオンラインゲームの場合,主人公はプレイヤーの数だけいることになる。この場合の主人公がそのままプレイヤーを代理するトークンであることに,ほぼ異論の余地はないだろう。
 つまり他者と自分を区別する,アバターとしての主人公だ。そして,この場合のトークンに求められるのは,なにより「多様性」にほかならない。ゲームデザイン的にも,プレイヤーは見た目であれ性能であれ,希少かつ個性的なものを求める傾向になり,それに応えうる多様性が開発側にも求められるようになってきた。自分以外のプレイヤーが存在するマルチプレイゲームで求められるこうしたアバターとしての主人公像は,シングルゲームにおけるその世界における特権性を根拠とした「主人公らしさ」とはまったく異なるものと言えそうだ。

 というわけで,ざっくりと「ゲームにおける主人公」の潮流を筆者なりに整理すると,以下の3パターンに大別できることになる。

  1. 特権的トークンに世界観を被せることで,機能や能力,役割を表象するようになったもの
  2. →古典的なビデオゲーム,アーケードゲームなど
  3. 特権的トークンに世界観を被せた結果,物語に軸を移して意志を獲得したもの
  4. →JRPG,FPSのストーリーモードなど
  5. マルチプレイゲームの代理型トークンに,アバター要素が加わったもの
  6. →オンラインゲーム,多人数で遊ぶアナログゲームなど

 もちろん例外はいくらでもあるだろうが,自分としてはこう整理することで見通しが良くなり,ゲームについての思考をまとやすいと考えている。
 例えば僕は,ゲームにおける主人公像が進化していくうえで,非常に重要な役割を担ったジャンルに対戦格闘ゲームがあると思っている。1990年代に巻き起こった「ストリートファイターII」「バーチャファイター」のブームによって,対戦格闘ゲームのキャラクター達は,この3つの要素をすべて兼ね備えるに至ったのだ。

 例えば「ストリートファイターII」のリュウというキャラクターには,「飛び道具と対空技を備えた,同作における標準的なトークンである」という1.の要素が表象されている。と同時に,その豊富なアニメーションパターンからは,「空手をベースにした格闘技を用いる」ことや「強者を求め続けるストイックな性格」といった2.の要素が読み取れる。そしてゲームセンターというプレイヤーコミュニティからは,「リュウ使い」とか「新宿ジャッキー」といった“通り名”が生まれ,ゲーム内での設定を超えた3.の要素まで生じてきた。

ストリートファイターII
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 3つの要素をすべてを同時に,しかも飛躍的に進化させたわけだから,そりゃあブームになるのも頷けるというもの。ゲームジャンルが進化すれば,ゲームの主人公キャラも進化する。こんな風に,ジャンルの特性と密接に関わった新しいキャラクター像が出現するときというのは,それはもう刺激的で,とてもワクワクするものなのだ。

 ……というわけで,アナログゲームデザイナーの筆者としては,強い個性を持った主人公が成立しづらいこのジャンルにおいて,いかに魅力的なキャラクターを生み出すかを,ここ最近のテーマだと思って取り組んでいる。2019年5月25〜26日に開催されるアナログゲームイベント「ゲームマーケット2019春」の初日には,そんな新プロジェクトの発表を行う予定だ。ぜひ,ご注目いただきたい。

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■■渡辺範明■■
ドロッセルマイヤー商會代表取締役。創作ボードゲームと雑貨を扱うネットショップ「ドロッセルマイヤーズ」を経営するかたわら,アナログゲームを中心にさまざまなタイトルを手がけるゲームデザイナー&プロデューサー。代表作に「巨竜の歯みがき」「アダムとイヴ」「未来逆算思考」など。最新作「ドロッセルマイヤーさんの法廷気分」はオマケゲーム「ドロッセルマイヤーさんのなぞなぞ気分」付きで大好評発売中。もちろんドロッセルマイヤーズでご購入いただけます(そろそろ品切れしそうですが)。
  • 関連タイトル:

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