レビュー
Zen 3アーキテクチャ採用の新世代CPUはゲームにおける性能が大きく向上した
Ryzen 9 5900X
Ryzen 7 5800X
Zen 3アーキテクチャを採用するAMDのデスクトップ向けCPU「Ryzen Desktop 5000」(以下,Ryzen 5000)シリーズが11月6日に発売となる。価格や製品構成はすでに発表されたとおりで,まずは4製品が発売される予定だ。
発売に先立ち,4Gamerでは,12コア24スレッド対応の「Ryzen 9 5900X」と8コア16スレッド対応の「Ryzen 7 5800X」をテストする機会を得たので,定番のテストで気になるゲーム性能などをチェックしていきたい。
CPUコアアーキテクチャに大胆な改良を加えたRyzen 5000シリーズ
PCゲーマーにとって見逃せないのは,AMDがRyzen 5000シリーズを「最強のゲーマー向けCPUである」と謳っている点だろう。
AMDが主要な40タイトルのゲームについて,Ryzen 9 5900Xの性能を解像度1920×1080ドットでテストしたところ,Intelの「Core i9-10900K」と比べて,30タイトルで同等以上の性能を示したそうで,下回ったのはわずか10タイトルであったという。つまり,Intelが「ゲームキング」と称して市場に送り出したCore i9-10900Kに対して,75%のタイトルでRyzen 9 5900Xが勝利を収めたというわけだ。
これまで4Gamerでは,Ryzen 3000シリーズことRyzen Desktop 3000(以下,Ryzen 3000)シリーズに対しては,ゲーム性能はIntelのCoreプロセッサに一歩及ばないが,非ゲーム性能が高いので総合的に見ると価格対性能比に優れるという評価をしてきた(関連記事)。だが,AMDが主張するように,Ryzen 5000シリーズでゲーム性能も競合を上回ったとすれば,「Ryzenに死角なし」ということになる。
従来のRyzen 3000シリーズでゲーム性能が伸びにくかった原因の1つとして,「CCX」(CPU Complex)の構成が問題となった可能性がある。初代ZenアーキテクチャからZen 2アーキテクチャまでは,4基のCPUコアと16MBの共有L3キャッシュを1つにまとめてCCXを構成し,2基のCCXを1つのシリコンダイ(CPU Complex Die,以下 CCD)に集積していた。
2基のCCXは,高速なインターコネクトで接続されるが,それでもここでどうしても遅延が発生するので,その遅延の影響を受けやすいゲーム性能が伸びにくかったわけだ。
4基のCPUコアを基本単位にしたのは,初代Zenアーキテクチャが登場した当時のデスクトップ向けCPUの主流が4コアだったからだろう。4コアを基本単位にして最大16コアまで拡張できるようにしたわけだ。しかし現在では,4コアのデスクトップPC向けCPUは,エントリーモデルの一部に限られている。4コアを基本単位にする理由は薄れていると言えよう。
Zen 3におけるもう1つのポイントは,CPUコアの改良だ。大量の改良が行われているのだが,ざっくりまとめると,命令実行ユニットおよび分岐予測の改良と,命令デコードの拡大,浮動小数点演算ユニットの拡張,ロードストアユニットのスループット向上などが盛り込まれている。
AMDによると,CPUコアに加えられた多数の改良によって,Zen 3のIPC(Instructions Per Clock,クロックあたりの命令実行数)は,Zen 2と比べて最大19%も向上したという。
というわけで,Ryzen 5000シリーズが採用するZen 3アーキテクチャでは,CCXの構成が大きく変わったうえ,CPUコアにも多数の改良が加えられたことで,Zen 2と比べてかなりの性能向上を果たした,と理解しておけばいいだろう。
当初のチップセットの対応はAMD 500シリーズのみ
Ryzen 5000シリーズは,これまでのZenシリーズと同じく「Socket AM4」に対応するCPUだが,ユーザーとして気になるのは,既存のマザーボードで利用できるかどうかだろう。
Ryzen 5000シリーズは,最新のAMD 500シリーズチップセットと,1世代前のAMD 400シリーズチップセットで利用できるが,AMDによると,Ryzen 5000シリーズの発売時点で対応できるチップセットはAMD 500シリーズのみになるそうだ。
AMD 400シリーズに関しては,現在,マザーボードメーカーとAMDが共同で対応BIOSを開発しているところで,β版のリリース予定時期が2021年1月になるとのこと。そのため,AMD 400シリーズ搭載マザーボードのユーザーは,2021年まで待つか,AMD 500シリーズ搭載マザーボードへ買い換える必要がある。
なお,AMD 500シリーズ搭載マザーボードでは,すでにAMDがリリース済みのAGESA※1 1.0.8.0か以降のAGESAが組み込まれたBIOSであれば,Ryzen 5000シリーズで「起動が可能」だそうだ。ただ,Ryzen 5000シリーズの性能をフルに発揮するには,AGESA 1.1.0.0以降が必要であるという。
※1 AMD Generic Encapsulated System Architectureの略で,BIOSに組み込まれているファームウェアのこと
既存のマザーボードを流用しながらRyzen 5000シリーズへの買い換えを検討しているユーザーは,まずは今あるマザーボードに対して,AGESA 1.1.0.0以降が組み込まれたRyzen 5000対応BIOSがリリースされているかどうかを調べて,先にBIOSアップデートを行ってからCPUを交換する必要がある。
また,これからAMD 500シリーズ搭載マザーボードを購入するのなら,少なくともRyzen 5000対応を謳うBIOSにアップデート済みの製品でないと,起動すらできないという羽目に陥る。マザーボードメーカーが,「Ryzen 5000 Ready」といったシールなどでRyzen 5000シリーズへの対応を示すだろうから,ユーザーはそれを確認して購入したほうがいいだろう。
ところで,Ryzen 5000シリーズがSocket AM4に対応できる理由の1つに,外部I/Oやメモリコントローラを集積した「I/O Die」が,Ryzen 3000シリーズのI/O Dieとまったく変わっていないから,という理由もある。
覚えている人もいると思うが,Ryzen 3000シリーズでは,メモリコントローラとメモリクロック,そしてCCXとI/O Dieを接続する「Infinity Fabric」の動作クロックが連動している。DDR4-3600設定までは,メモリクロックとメモリコントローラ,Infinity Fabricの動作クロックが1800MHzの1:1:1で同期するが,DDR4-3600設定を超えると1:1:2に,つまりInfinity Fabricの動作クロックがメモリクロックの半分になる――DDR4-4000設定だとInfinity Fabricの動作クロックは1000MHzに下がる――仕様だった。
ただ,Ryzen 5000シリーズでは,Infinity Fabricのオーバークロック耐性が上がったそうで,DDR4-4000設定まで1:1:1の設定が可能な個体が多いそうだ。もちろん,1:1:1設定を公式にサポートするのはDDR4-3600までであり,「動作を保証するものではない」とAMDは断りを入れている。だが,Ryzen 5000シリーズであれば,DDR4-4000でも1:1:1設定にすることで,Infinity Fabricの動作クロックを2000MHzに引き上げることが可能かもしれない程度に覚えておくといいかもしれない。
Ryzen 3000シリーズまでは,AMDのチップセットドライバにRyzen専用の電源プラン「AMD Ryzen Balanced」と「AMD Ryzen High Performance」が含まれており,それを利用することが推奨されていた。だが,Ryzen 5000シリーズではRyzen専用の電源プランはなくなり,代わりとしてチップセットドライバに,Windows 10用の電源設定プロファイルが組み込まれているそうだ。
そのため,Ryzen 5000シリーズでは電源プランとしてWindows 10標準の「バランス」を使うことを,AMDは推奨している。なお,「高性能」の電源プランは,省電力ステートを利用しなくなる結果として「Precision Boost 2」が動作する機会が失われて,「性能を低くするため使ってはならない」(AMD)そうなので注意してほしい。
Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xを既存CPUと比較
前置きがずいぶん長くなったが,本題の性能比較に移ろう。冒頭で述べたとおり,今回テストするのはRyzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xの2製品だ。
今回は比較対象として,Ryzen 3000シリーズから,12コア24スレッド対応の「Ryzen 9 3900X」と,8コア16スレッド対応の「Ryzen 7 3800X」を用意した。いずれも,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xの直接的な前世代モデルになる。
「Ryzen 9 3900XT」と「Ryzen 7 3800XT」というわずかにクロックを上げたCPUもあるのだが,Ryzen 9 3900XやRyzen 7 3800Xとの性能差はほとんどないので問題ないだろう。
また,競合製品としては,まずIntelの第10世代Coreプロセッサから10コア20スレッド対応のCore i9-10900Kを用意した。Intelがゲームキングと謳って売り出した現行最上位モデルなので,Ryzen 9 5900Xの比較対象としては最適だろう。
残念ながら,第10世代Coreプロセッサの8コア製品は用意できなかったので,代わりに第9世代Coreプロセッサから「Core i9-9900KS」を用意した。世代としては1世代前とはいえ,CPUコアのアーキテクチャは変わっておらず,しかも全コア5GHzの動作が可能な高いゲーム性能を持つCPUでもある。Ryzen 7 5800Xの比較対象として遜色はないだろう。
用意した6製品の主なスペックを表1に示す。
テストに使用した機材は表2のとおりだ。今回は,AMDからDDR4-3600対応メモリモジュールのXMP設定を使うよう指定されたので,比較対象を含めてそれで統一した。結果的にオーバークロックの設定になるが,やむをえない。
また,CPUクーラーに用いたCorsair製の簡易液冷クーラー「Hydro Series H150i PRO RGB」(以下,H150i PRO)は,ポンプおよびファンの回転数を最大にして使用している。H150i PROはラジエータ長360mmの大型液冷システムなので,Ryzen 5000シリーズも余裕を持って冷却できるだろう。
実行するテストは4Gamerベンチマークレギュレーション23.2に準拠する。実ゲームの解像度は2560×1440ドット,1920×1080ドット,1600×900ドットの3パターンだ。
ただ,今回はRyzen 5000の最上位モデルである「Ryzen 9 5950X」が間に合わなかったこともあり,「OBS Studio」を用いたマルチコアCPU向けゲーム録画のテストは省略した。
もうひとつ,すでに触れたとおり,Windowsの電源プランは全プラットフォームでバランスを使ったことも付記しておきたい。4Gamerではこれまで,高パフォーマンスの電源プランを使うことが多かったが,Windowsの電源プラン自体が,どうやら廃止となる方向のようなので,しばらくはバランスがメインになりそうな気はする。
3DMarkではFire StrikeでRyzen 5000が他を圧倒
ベンチマークグラフ内では,各CPUをそれぞれ,
- Ryzen 9 5900X→Ryzen 9 5900X
- Ryzen 7 5800X→Ryzen 7 5800X
- Ryzen 9 3900X→R9 3900X
- Ryzen 7 3800X→R7 3800X
- Core i9-10900K→i9-10900K
- Core i9-9900KS→i9-9900KS
と略表記することを断ったうえで,まずは3DMark(version 2.14.7042)の結果から見ていこう。
DirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものがグラフ1だ。
Fire Strikeの3パターンいずれも,トップをとったのはRyzen 9 5900Xで,2番手がRyzen 7 5800Xだった。前世代と比べたところ,Fire Strike Ultraでは約1%の差しかないが,Fire Strike Extremeになると,Ryzen 9 5900XはRyzen 9 3900Xより約6%高く,Ryzen 7 5800XもRyzen 7 3800Xより約4%高いスコアを残している。フルHD解像度相当のFire Strikeでは,さらに差が大きくなり,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xのどちらも,前世代より約13%も高いスコアを残した。
描画負荷が軽いほどCPUの差が出やすいという定石どおりだが,Ryzen 5000シリーズの高性能ぶりをうかがわせる結果と言っていいだろう。
グラフ2は,Fire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものだ。
Fire Strikeで,Core i9-9900KSがほかよりもわずかに高いスコアを残したことと,Core i9-10900Kが3つのテストでわずかに低いことを除くと,おおむね横並びと言っていいだろう。GPUの性能を評価するテストなので,差が出ないのは当然でもある。
Fire StrikeにおけるCPUベンチマークとなる「Physics test」のスコアがグラフ3だ。
意外にテストごとの差がない結果が出ていて,3つのテストでともにRyzen 9 5900Xがトップ,Ryzen 7 5800Xが2番手になった。驚かされるのは,8コアのRyzen 7 5800Xが前世代の12コアCPUであるRyzen 9 3900Xや,10コアのCore i9-10900Kを上回るスコアを叩き出している点だろう。コア数のハンデをものともしないというあたりに,Ryzen 5000における性能の一端が垣間見えるのではなかろうか。
前世代との差を見ていくと,Ryzen 9 5900XがRyzen 9 3900Xより23〜26%程度高いスコアを残した。Ryzen 7 5800Xは,Ryzen 7 3800Xよりも24〜25%程度高い。AMDが主張する,IPCにして19%の向上よりも上昇幅が大きいのは,わずかに高いブーストクロックと,8コアで共有する32MBのL3キャッシュなどが効いているからだろう。
グラフ4は,Fire StrikeでGPUとCPU両方に負荷をかけたときの性能を見る「Combined test」の結果だ。
これまでのテストに比べると若干バラけたスコアで,Fire Strike UltraではCore i9-10900Kがやや低いことを除けば7000前後で横並びだ。Fire Strike ExtremeだとRyzen 9 5900Xがトップ,ついでRyzen 7 5800X,Ryzen 7 3800Xといった並びになっている。ところがFire Strikeになると,Ryzen 7 5800Xがトップとなって,次点がRyzen 9 5900X,それにRyzen 7 3800Xが続くという順序に変わる。
一見するとスコアの計測ミスに見えるかもしれないが,低解像度のCombined testでは,8コアのほうがスコアが出やすい傾向は過去のレビューでも確認している現象だ。そのため,今回のテストでもRyzen 9 3900XよりRyzen 7 3800Xのほうが,Core i9-9900KSのほうがCore i9-10900Kよりもスコアが高い。
Fire Strike Ultraを除く前世代との差を見ると,Ryzen 9 5900XがRyzen 9 3900X比で24〜35%程度高く,Ryzen 7 5800XはRyzen 7 3800Xより10〜40%程度高いスコアを記録している。Fire StrikeでRyzen 7 5800Xが高スコアを残したのは,Ryzen 3000シリーズから単純に性能が伸びたためだと解釈できるわけだ。
続いては,3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」の結果を見ていこう。グラフ5は,Time Spyの総合スコアをまとめたものだ。
かなり僅差ではあるが,Time Spy Extreme,Time Spyともに,Ryzen
Time SpyのGPUテストである「Graphics test」のスコアをまとめたのがグラフ6だ。2つのテストととも,Ryzen 7 5800XとCore i9-10900Kがやや低いスコアを記録したのが目立つ程度で,おおむね横並びとまとめていいだろう。
少々解釈が難しいのは,Time Spyにおける「CPU test」のスコアをまとめたグラフ7だ。
描画負荷が高いTime Spy Extremeは,トップがRyzen 9 5900Xで,続いてRyzen 9 3900X,Core i9-10900Kという順で,Ryzen 7 5800XとCore i9-9900KSが入れ替わることを除けば,総合スコアに近い並びになっている。
ところが,描画負荷が低いTime Spyでは初めてCore i9-10900KがトップになりRyzen 9 5900Xが2番めとなった。Fire StrikeのPhysics testとはだいぶ様相が変わるが,その理由は定かではない。
前世代と比べた場合,Ryzen 9 5900XはTime Spy ExtremeでRyzen 9 3900Xより約13%高いスコアを残したが,Time Spyでは約6%しか差を付けていない。Ryzen 7 5800Xも同様で,Time Spy Extremeでは前世代より約22%高いスコアを残せたが,Time Spyでは約16%の向上にとどまった。
描画負荷が低いTime SpyにおけるRyzen 5000シリーズのスコアの伸びが低いことが,CPU testで見てとれる特徴ということになろうか。
以上をまとめると,DirectX 11のテストであるFire Strikeにおいては,Ryzen 5000シリーズ2製品が良好なスコアを残し,中でもRyzen 7 5800Xは,Physics testで10コアのCore i9-10900Kをも上回るスコアを叩き出すなど,高性能ぶりを見せつける結果を残した。
一方,DirectX 12のテストであるTime Spyにおいては,Ryzen 5000の2製品はFire Strikeほど高いスコアを記録できず,低解像度のCPU testでは競合に届かない例も見られた。DirectX 12が少し苦手なのだろうかということを押さえたうえで,実ゲームの性能を見ていこう。
DirectX 11対応タイトルでRyzen 5000シリーズが強い
実ゲームのテストはFar Cry New Dawnから見ていく。グラフ8〜10がグラフィックス品質「最高」設定の結果である。
平均フレームレートを見ると,2560×1440ドットではCore i9-10900Kがトップとなり,Ryzen 9 5900X,Core i9-9900KSが続いている。他方で,1920×1080ドットと1600×900ドットではRyzen 9 5900Xがトップとなり,ついでCore i9-10900K,Core i9-9900KSの順だ。ただ上位4製品の差は小さく,どの解像度でもIntel勢に対して平均10fps以上の差をつけられたRyzen 3000シリーズに比べると,Ryzen 5000はIntel勢と完全に並んだと言っていいだろう。
ただ,少し気になるのは,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xの最小フレームレートがIntel勢に比べてやや低めな点だ。つまりRyzen 5000シリーズは,Intel勢に対してフレームレートのブレが大きいと言える。これがIntel製CPUに対する最適化によるものか,あるいは,Ryzen 5000シリーズの電力管理といった特性によるものかはなんとも言えないが,Intel勢とはフレームレートのブレ方に差があるのは確かなようだ。
続いては,バイオハザード RE:3の高負荷設定のフレームレートがグラフ11〜13となる。
バイオハザード RE:3では,2560×1440ドットと1920×1080ドットでIntelの2製品が上位を占めた。Ryzen 5000シリーズは,Ryzen 3000シリーズより平均フレームレートを上げているもののIntel勢には届いていない。
だが,1600×900ドットになると,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xがほぼ同じフレームレートとなり,2番手のCore i9-9900KSに有意な差をつけてトップとなった(※Core i9-10900Kの最小フレームレートが低いのは,手動操作によるブレである)。低い解像度ほどCPUの性能差が出やすいわけだから,1600×900ドットでトップになったRyzen 5000シリーズの性能は,基本的に高いと見ることができる。ただ,フルHD以上の解像度でフレームレートが伸びない理由は判然としない。
グラフ14〜16はCall of Duty: Warzone(以下,CoD Warzone)の高負荷設定のフレームレートをまとめたものだ。
CoD Warzoneでは,Ryzen 5000シリーズいずれの解像度でも,Intelの2製品を平均フレームレートで上回れなかった。しかし,Ryzen 3000シリーズよりは平均フレームレートが高いので,傾向としてはバイオハザード RE:3のフルHD解像度以上に近い傾向だろう。
バイオハザード RE:3とCoD Warzoneはゲームエンジンがまったく異なるが,DirectX 12を利用する点は共通する。3DMarkのTime SpyでRyzen 5000シリーズが振るわなかったことと合わせると,やはりDirectX 12だと性能が出づらいのかもしれない,という推測も成り立つ。ただ,断言するにはサンプル数が少なすぎるのも確かだ。
続いて,Fortniteのグラフィックス設定「最高」の結果がグラフ17〜19となる。
Fortniteの平均フレームレートは,2560×1440ドットだとIntelの2製品がほぼ横並びトップ,Ryzen 5000の2製品はほぼ横並びで2番手となっている。ただ,2560×1440ドットにおける上位4製品の差は4fps以内なので,GPU性能で頭打ちとなって,ほとんど横並びと言っていい程度だ。
フルHD解像度になると,Ryzen 9 5900XとCore i9-10900Kが約1fpsの差で横並びのトップで,続いてRyzen 7 5800XとCore i9-9900KSがほぼ横並びの2番手となった。つまり,Ryzen 5000シリーズはIntel勢とほぼ同等という理解でいいだろう。
1600×900ドットではCore i9-10900Kがトップとなったが,僅差でRyzen 9 5900X,Ryzen 7 5800Xが続き,3番手のCore i9-9900KS以下とは有意な差をつけている。Core i9-10900KとRyzen 9 5900X,Ryzen 7 5800Xの差は小さいので,Ryzen 5000シリーズ2製品とCore i9-10900Kは,ほぼ並んでいると見てよさそうだ。8コアのRyzen 7 5800Xが,Core i9-9900KSを有意に上回る平均フレームレートを記録したのが目立つところで,Ryzen 5000シリーズのFortniteにおける性能の高さがうかがえる。
続いてBorderlands 3の「ウルトラ」設定の結果(グラフ20〜22)を見ていこう。
平均フレームレートを見ると,2560×1440ドットではRyzen 9 5900Xがトップで,Ryzen 7 5800XとCore i9-10900K,Core i9-9900KSはおおむね横並びだ。Ryzen 5000シリーズはRyzen 3000シリーズより有意にフレームレートを上げ,Coreプロセッサに並んでいるわけだ。
1920×1080ドットと1600×1900ドットは同傾向で,Ryzen 9 5900Xがトップ,ついでRyzen 7 5800Xとなっている。Intel勢に対して有意に高い平均フレームレートを残していることから,Borderlands 3に関しては,Ryzen 5000シリーズが有利だと結論していいだろう。Borderlands 3はRyzenに対して最適化しているタイトルなので,それがしっかりと機能した結果かもしれない。
次は「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(以下,FF XIV 漆黒のヴィランズ ベンチマーク)を見ていこう。グラフ23が総合スコアをまとめたものだ。
グラフを見ても分かるとおり,トップのRyzen 9 5900Xと次点のRyzen 7 5800Xが3つの解像度で有意に高いスコアを叩き出した。前世代Ryzenに対する伸び率は,Ryzen 9 5900Xが2560×1440ドットで約33%,1920×1080ドットで約34%,1600×900ドットでは約42%に達する。Ryzen 7 5800Xは解像度が高い順に約28%,約33%,約41%と,やはり低解像度ほど伸び率が高い。
驚くのは,8コアのRyzen 7 5800Xが,ゲームキングとIntelが称するCore i9-10900Kを有意に上回るスコアを出したことだろう。FFXIV 漆黒のヴィランズ ベンチマークは,複数の描画スレッドを起動するタイプのゲームエンジンを使っており,通例どおりならCPUコア数の多いほうが有利になる。それにも関わらず,10コアのCore i9-10900Kを8コアのRyzen 7 5800Xが上回ったのはすごいことだ。
4Gamerでは,FF XIVのベンチマークをレギュレーションに採用して長いが,これまで「このテストはIntel有利」と繰り返してきた。しかし,とうとうというか,ついにというか,AMDのRyzenがIntel勢を上回っただけでなく,圧倒してみせるに至ったわけで,なかなか感慨深いものがある。
グラフ24〜26はFFXIV漆黒のヴィランズ ベンチマークにおける平均および最小フレームレートをまとめものだ。おおむね,総合スコアどおりの傾向と言えよう。最小フレームレートの動きにも,とくに不自然な点はないようだ。
実ゲームの最後はPROJECT CARS 2だ。平均および最小フレームレートをグラフ27〜29にまとめた。
傾向としてはBorderlands 3に近く,2560×1440ドットではRyzen 9 5900XとRyzen 7 5800X,Intel勢がほぼ互角だ。1920×1440ドットと1600×900ドットではトップのRyzen 9 5900Xと次点のRyzen 7 5800Xが,そのほかよりも有意に高い平均フレームレートを記録した。
Ryzen 5000シリーズは低解像度ほど前世代の伸び率が高いのも,ほかのタイトルと同様でCPU性能の高さが現れていると言える。
以上のように,ベンチマークレギュレーションの実ゲームタイトルを見てきた。ざっくりまとめるなら,Ryzen 5000シリーズのゲーム性能は,競合となるIntelのCoreプロセッサと同等か,それ以上だと言い切ってしまっていいだろう。
Ryzen 5000シリーズで性能が伸びにくいのが,DirectX 12を採用する2タイトルと3DMarkのDirectX 12テストであるTime Spyというのが,単なる偶然なのか,あるいはDirectX 12とRyzen 5000シリーズの組み合わせになにかあるのかは,サンプル数が少ないためになんとも言えないところだ。
AMDが出している資料を見るとDirectX 12でもRyzen 5000シリーズが高い性能を見せるタイトルが散見されるので,DirectX 12が苦手と言い切ることはできない。
単なる推測として続けると,ゲームエンジンが異なる3つのベンチマークでRyzen 5000シリーズの性能が伸びにくいことから,ドライバソフトやDirectX 12スタックに,足を引っ張るなにかがある可能性はある。ドライバソフトが原因なら,Radeonシリーズでベンチマークを取ることで異なる傾向が出るはずだ。一方,DirectX 12スタックに原因があるとすれば,今後のAMDによるゲームスタジオに向けた働きかけ次第で,変わってくることになると思われる。
非ゲーム性能はRyzen 5000シリーズが比較対象を圧倒
ゲームのテストに続いては,レギュレーション23.2に準拠した非ゲーム用途の性能を比較していこう。まずは「PCMark 10」(version 2.1.2506)からだ。
なお,PCMark 10は,本稿執筆時点で最新のバージョンでも,GPUアクセラレーションを無効化するとベンチマークが完走しないという不具合が見られる。そのため今回は,GPUアクセラレーションを無効化せずに「PCMark 10 Extended」テストを実行した。
結果をまとめたのがグラフ30だ。
見てのとおり,トップのRyzen 9 5900Xと次点のRyzen 7 5800Xは,ほかのCPUよりも有意に高いスコアを出した。総合スコアを見ると,前世代比でRyzen 9 5900Xの伸び率は約11%,Ryzen 7 5800Xは同18%となり,Ryzen 7 5800Xのほうが伸び率が大きくなっている。
いずれにしても,総合ベンチマークであるPCMark 10のスコアで,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xが他を引き離したわけだから,Ryzen 5000シリーズの総合性能は競合や前世代よりも高いと理解するべきだろう。
PCMark 10 Extendedで実行されるテストから,3DMarkのFire Strike相当を実行するGamingを除いたEssen
とくに注目すべきは,Windowsの快適さを見るEssentialsで,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xのスコアが有意に高い点だろう。Essentialsにはアプリの起動終了などCPUの瞬発力が物を言うテストが含まれている。そのため,これまでどおりであれば,ブーストクロック5.3GHzを誇るCore i9-10900Kが有利になるのだが,ブーストクロックで劣るRyzen 9 5900X,Ryzen 7 5800XがCore i9-10900Kより有意に高いスコアを叩き出したわけで,これには感心せざるをえない。
続いて,ffmpeg(Nightly Build Version 20181007-0a41a8b)を用いた動画のトランスコード時間を比較しよう(グラフ31)。
H.264でもっとも短時間でトランスコードを終えたのはRyzen 9 5900X,ついでRyzen 9 3900X,3番手がRyzen 7 5800Xとなった。一方,H.265ではトップがRyzen 9 5900Xで,次点がRyzen 7 5800Xだ。コア数がものを言うトランスコードにおいて,8コアのRyzen 7 5800Xが10コアのCore i9-10900Kはもちろん12コアのRyzen 9 3900Xよりも短時間にトランスコードを終えてしまったのには,驚くほかない。
前世代との差を見ると,いずれの条件でもRyzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xはおおむね8割程度の時間でエンコードを終えており,伸び率に顕著な違いはないことも分かる。つまり,前世代から順当に性能を上げた結果として,Ryzen 7 5800XはRyzen 9 3900Xよりも早くトランスコードを終えたわけだ。
次にDxO PhotoLabシリーズの最新版「DxO PhotoLab 4」(Version 4.0.1 Build 4425)を用いたRAW現像時間を比較していこう(グラフ32)。
おおむねffmpegによるH.265のトランスコードと同傾向で,Ryzen 9 5900Xがトップ,Ryzen 7 5800Xが次点となった。DxO PhotoLabシリーズは,CPUが対応するスレッド数分の写真を同時にRAW現像する仕様であるため純粋にコア数の多寡が効いてくる。しかし,それにもかかわらずRyzen 7 5800Xが,12コアのRyzen 9 3900Xや10コアのCore i9-10900Kより短時間にRAW現像を終えてしまうのには感心せざるをえない。Ryzen 5000シリーズにおけるCPUコア性能の高さが,ここでもうかがえる結果だ。
続いてマルチコア性能がスコアに反映される3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R20」の結果を見ていきたい(グラフ33)。AMDはRyzen 5000シリーズについて,シングルコア性能の高さをアピールしているので,今回はマルチスレッドだけでなくシングルスレッドでもテストしている。
AMDが誇るだけあって,シングルスレッドではほかのCPUがどんぐりの背比べなのに対して,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xは,頭ひとつ抜けたスコアを叩き出した。マルチスレッドも,もちろんRyzen 9 5900Xがトップで,コア数の差をものともせずにRyzen 7 5800Xが次点となっている。
前世代からの伸び率は,Ryzen 9 5900Xがシングルスレッドで約23%,マルチスレッドで約19%。一方,Ryzen 7 5800Xはシングルスレッドが約28%で,マルチスレッドが約24%となり,Ryzen 7 5800Xのほうが前世代からの伸びが大きいことが分かる。
非ゲームテストの最後として7-Zip(Version 19.00)の結果を見てみよう(グラフ34)。
7-ZipではトップがRyzen 9 5900Xで,続いてRyzen 9 3900X,Ryzen 7 5800X,Core i9-10900Kの順となった。Ryzen 7 5800Xのスコアが,10コアのCore i9-10900Kを上回っているのが,ここでの見どころだろう。7-Zipは,Intelの開発ツールを使ってIntel製CPUで性能が出るように作られているはずだが,それでもRyzen 5000シリーズが上回る性能を見せつけたわけだ。
ゲーム以外での性能を見てきたが,Ryzen 5000シリーズ2製品が,比較対象を圧倒したとまとめられよう。とくにRyzen 7 5800Xの性能は驚きで,テストによっては10コアのCore i9-10900Kや12コアのRyzen 9 3900Xでさえも上回る性能を見せることがある。純粋にコア数が効くような処理でさえ,Ryzen 7 5800Xが良好な性能を見せたことには,正直,恐れ入った。
性能なりに消費電力も高いRyzen 5000シリーズ
最後に消費電力も見ていこう。ここではベンチマークレギュレーション23.2に準拠した方法で,CPU単体の消費電力と,システム全体の最大消費電力を計測した結果をまとめていく。
まず,各テストにおけるEPS12Vの最大値と,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)の計測結果を,ゲーム系テストの結果はグラフ35に,ゲーム以外のテスト結果はグラフ36にまとめた。
最大値は最大風速のようなものなので,ゲーム,ゲーム以外ともに5.3GHzという飛び抜けたブーストクロックを誇るCore i9-10900Kと,高負荷時に短時間だが全コア5GHzで動作するCore i9-9900KSの最大値が悪目立ちしてしまう。それに比べれば,Ryzen 5000シリーズ2製品の最大値はマシに見えるが,よく見るとRyzen 7 5800Xの最大値が,前世代よりもだいぶ上がっていることが分かるだろう。
Ryzen 9 5900Xは,ゲームとゲーム以外のどちらも,ピーク時で147W程度であり,Ryzen 9 3900Xと大差はない。だが,Ryzen 7 5800Xはゲーム以外の高負荷の処理を行うときに140Wの最大値を記録しているのに対して,Ryzen 7 3800Xはせいぜい108Wに収まっているのだ。
ここまで見てきたように,Ryzen 7 5800Xは,ときとしてRyzen 9 3900XやCore i9-10900Kを超える性能を見せるので,その分だけ消費電力も上がっていることが表われていると言えようか。
なお,アイドル時もRyzen 9 5900XとRyzen 7 3800Xの消費電力は,かなり高めだった。おそらく原因はPCI Express(以下,PCIe 4.0)だろうと思う。Ryzen 3000シリーズでは,チップセットにAMD B550とPCIe 3.0対応のグラフィックスカードを使用すると,アイドル時の消費電力が10Wを切ることを筆者は確認しているからだ。それに対して,今回のテスト環境は,AMD X570チップセットとPCIe 4.0対応グラフィックスカードの組み合わせだ。
先述したように,Ryzen 5000シリーズのI/O DieはRyzen 3000シリーズと同じであるとAMDは説明しているので,PCIe 4.0を使用するとアイドル時の消費電力が跳ね上がるという特性も同じだろうと推測できる。よって,Ryzen 5000でもAMD B550チップセットとPCIe 3.0のグラフィックスカードを使用すれば,かなりアイドル時の消費電力を削減できるのではなかろうか。
続いては,アプリ実行時の典型的な消費電力を示すものとして,CPU単体の消費電力における中央値をグラフ37,38にまとめた。
Ryzen 9 5900Xで中央値が最も高かったのは,DxO PhotoLab 4実行時の約145Wだった。前世代のRyzen 9 3900Xは,同じアプリケーションの実行時で約133Wであるから,約12Wの上昇だ。
Ryzen 7 5800Xで中央値が最も高かったのは,ffmpeg実行時の約130Wで,Ryzen 7 3800Xは同約95Wなので,35Wも中央値が上昇したことになる。Ryzen 7 5800Xは前世代の12コアより高性能を発揮することもあるが,CPU負荷を上げると,消費電力も前世代の12コア並になるようだ。
もうひとつ気になるのは,Ryzen 9 5900Xがゲーム実行時の中央値で100W前後を記録している点だ。一般的に,ゲームのCPU負荷はそれほど高くはないものだが,それでも100W前後で推移するのはかなり厳しい。Ryzen 9 5900Xは既存の「電力モンスター」であるCore i9-10900K並みか,それを上回る程度の消費電力を持つのは確かなようだ。その点では,Ryzen 9 3900Xに比べてかなり扱いにくくなった印象を受ける。
一方,Ryzen 7 5800Xは,ゲーム中における消費電力の中央値でも穏やかなレベルといっていいかと思う。
最後に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点におけるシステムの最大消費電力をグラフ39,40にまとめている。
システムの消費電力はGPUが支配的になるのだが,細かく見ると,やはりRyzen 9 5900Xは,ほかよりも頭ひとつ高い消費電力を記録していることが分かるだろう。
性能だけを見れば文句なく最高性能だが
ただ,もちろん欠点もなくはない。ひとつは消費電力だ。Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xのどちらも,前世代に比べてかなり消費電力が上がっている。そのため電源ユニットの選択やPCケースの排熱には,より気を使う必要があるだろう。
もうひとつ,気になる点を挙げるなら導入コストだろうか。メーカー想定売価だけを見ると,Ryzen 5000シリーズは前世代の発売時点と比べて大きな価格差があるわけではない。ただ,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800XにはCPUクーラーが付属していないのだ。Ryzen 5000シリーズでも使えるCPUクーラーを所有していない場合,ユーザーが別途購入する必要があるので,その分だけ実質的に値上げされた格好になっている。
とはいえ,AMDがRyzen 5000シリーズで性能を大きく上げることに成功し,中でもゲーム性能を競合に匹敵するかそれ以上に引き上げたことは大いに評価したい。
Intelは次世代のデスクトップPC向けCPUとして,開発コードネーム「Rocket Lake-S」を2021年第1四半期に投入する計画だが,2020年末の時点で圧倒的な高性能を見せつけるRyzen 5000シリーズに,Intelがどこまで迫れるかも気になるところだ。
AMDのRyzen Desktopプロセッサ製品情報ページ
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