プレイレポート
「Kaiju on the Earth」の第1弾「ボルカルス」プレイレポート。怪獣映画のエッセンスが詰め込まれた非対称型の対戦ゲーム
Makuake「Kaiju on the Earth」クラウドファンディングページ
本プロジェクトはゲームマーケット2019 春で発表されたもので,その第1弾となる本作のゲームデザインは「ダンジョンオブマンダム」や「ペーパーテイルズ」などの人気タイトルを手掛けた“I was game”の上杉真人氏が担当している。プロジェクトの詳細に関しては,4Gamerが以前に掲載したレポート記事やニュースリリースが詳しいので,気になる人は確認してほしい。
ゲームマーケット2019春が開催。人気デザイナーが参加するプロジェクト「KAIJU ON THE EARTH」など,企業系イベントを中心にレポート
アークライトは2019年5月25日と26日に,東京ビッグサイト 青海展示棟にてゲームマーケット2019春を開催した。国内最大級のアナログゲームの祭典で,企業や一般参加者によるボードゲームの新作が多数出展されるイベントだ。本稿では,会期中に催されたステージイベントや,インタビューを中心にお届けしよう。
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- ライター:松井ムネタツ
今回はそんな一大プロジェクトの第1弾を,本作のゲームデザインを務めた上杉氏による解説のもとで先行試遊できたので,本稿では「ボルカルス」を実際に遊んでみてのプレイレポートをお届けしていく。
奔放に暴れまわる巨大怪獣ボルカルス VS 資金繰りと縦割り行政に苦しむ人類一同
本作はその名の通り,首都東京を襲う怪獣・ボルカルス(1人)と,それを迎え撃つ人間(そのほかのプレイヤー1〜3人)に分かれて戦う非対称型の対戦ゲームだ。ゲームは全6ラウンド行われ,人間側は「防衛トラック」を,怪獣側は「被害トラック」をすべて埋めるのが目的となる。
最初に行うのはもちろん,各プレイヤーが所属する陣営の決定だ。人間の視点に立って災害から人々を救うのも楽しそうだが,せっかくなので今回は怪獣側を選択。おろかな人類どもに大怪獣ボルカルスのパワーを見せつけてやることにした。
ゲーム全体の盤面を見ると情報量が多そうに見えるが,人間側と怪獣側の使用するリソースは文脈的には「分離」の方だろう。個々のプレイヤーが覚えなければいけないルール量は多くない。共有する要素はすべて,東京の各区を表現した「マップボード」にまとめられているので,とりあえず自分が所属している陣営の固有ルールさえ確認しておけば,ゲームを動かせる仕組みになっている。
マップ上の各区(マス)には市民を表すコマが置かれており,これをボルカルスが撃破すれば被害トラックが埋まっていくので,怪獣側のプレイヤーはゴジラよろしくマップを暴れ回って市民をプチプチすることを考えていればひとまず良いらしい。張り切って日本の首都を壊滅させよう。
では,いよいよゲームスタート。簡単なラウンド開始時の処理(後述)を終えたら,本作でもっとも重要な意思決定要素にして,両陣営のプレイヤーがもっとも頭を悩ませる「計画フェイズ」が訪れる。
人間・怪獣を問わず各プレイヤーは固有のデッキを持っており,手札を共有の「計画ボード」へと裏向きに配置することでアクションを実行できる。全員が所定のスロットにカードを置き終えたら,矢印で示された順番にカードをオープンし,書かれたアクションを実行していく格好だ。
計画ボードには人間側に6枠,怪獣側に3枠のスロットが用意されており,各プレイヤーの2回のアクション中に怪獣のアクションが1回挟まれるような形になる。巨大怪獣と人間のサイズと数の差を,アクション数という形で表現しているわけだ。
例えば怪獣が1つめのアクションで移動を行い,2つめのアクションで攻撃を実行していた場合を考えてみよう。人間側は最初の移動を見て,攻撃が行われるまでの間に市民コマを避難させてしまうかもしれない。すると,2つめに配置した攻撃アクションが無駄になってしまうので,攻撃するタイミングをよく考える必要がある。
パッと見はアクション数で上回っている人間側が有利にも見えるのだが,カードの配置はリアルタイムで2分以内(計測には同梱の砂時計を使用する)に行わなければならないため,人間側が理想通りに先回りするのはなかなか難しい。怪獣側は1人なので不自由はないが,人間側は6つの枠を話し合って決める必要があるため,なかなか足並みを揃えられないのだ。
そのうえで先にカードを配置するのは人間側,かつ話し合いは怪獣側にも筒抜けとあっては,裏をかくのもひと苦労だろう。人間が右往左往する様子を楽しみつつ,市民を踏み潰す算段を立てられるのも怪獣側の醍醐味だ。
そんなこんなでカードを配置したら,お次はカードを順番に公開して効果を発動する「実行フェイズ」に移る。第1ラウンドでは,人間側が悠長に拠点を建造しているのを尻目に「歩く」カードを2連続で使って3つの市民コマが置かれた六本木へ到着。そして最後のアクションで「踏みつぶす」を発動し,3万人(市民コマは1個1万人という設定)のヒルズ族をまとめてあの世に送ってやった。
被害はこれだけにとどまらない。ボルカルスが持つカードの多くには,メインの効果に加えて都市に「溶岩コマ」を配置する能力が付属している。溶岩コマが置かれている都市の市民は1ラウンドごとに1コマずつ被害を受けるほか,3つ以上の溶岩コマが置かれたマスは“炎上地域”となって被害トラックが埋まる。ボルカルスが歩き回るだけで人が倒れ,都市が燃え上がるのだ。スゴイぞー! カッコいいぞー!
被災した市民コマはすべて被害トラックに移され,そのままゲームを通しての被害者総数となる。これがまた災害時のニュースで表示されるグラフのようで妙に生々しく,爽快感と同時に微妙な背徳感を醸し出し,往年の怪獣映画に近い雰囲気を作り上げている。
続いて,人類どもの抵抗についても触れておこう。人間側のデッキ内容は基本的に同一だが,各デッキは「消防総監」「統合幕僚長」「研究総務官」「内閣官房長官」といった役職と紐付けられており,役職固有のカードを1枚ずつ保有している。
加えて,人間側チームは固有のユニットとして,市民の避難を助けられる「自衛隊コマ」や,配置した場所の周囲にある溶岩コマを除去できる「消防隊コマ」を所有しており,これらのユニットを使用することで防衛トラックを埋められるのだ。
ただし,人間側にはさまざまな制約が存在する。一部のカードは“国庫”にある予算を消費しなければ使用できず,新たな予算を得るためには「予算申請」を合計3回行わなければならない。たとえ目の前で巨大怪獣が暴れていたとしても,予算が下りなければ動けない。
互いのアクションがすべて完了したら,溶岩コマと市民の避難に関する処理を行ってラウンドが終了し,次のラウンドがスタートする。
また,ラウンド開始時には「計画フェイズ」の前に「イベントフェイズ」が挟まり,イベントカードを表にして効果を発生させる。イベント内容は怪獣に有利なものだが,効果はマップに置かれた「予兆タイル」に合わせて発揮されるため,事前に発生する事態に備えておくことも可能だ。
というわけで,簡単にゲーム全体の流れをまとめると以下のような具合になる。フェイズの数自体は多いが,意思決定要素は計画フェイズと実行フェイズに集中しているので,実際に動かしてみるとけっこうスルスルっとゲームが進む印象を受けた。今回はルール説明を受けながら遊ぶ形式だったが,1ラウンドの進行は10分ほどで済んでしまったほど。
イベントフェイズ | 事前に配置しておいたイベントカードを表向きにして,怪獣側がその効果を実行する。効果はラウンド数に応じた数字が書かれた予兆タイルで発動する。予兆タイルは取り除かれ,調査タイル(3)が配置される |
↓ | |
計画フェイズ | 人間側→怪獣側の順番で,それぞれ2分以内に手札から計画ボードにカードを裏面で配置する |
↓ | |
実行フェイズ | 計画フェイズに配置したカードを,矢印に示された順番に公開して実行していく。 |
↓ | |
溶岩フェイズ | 溶岩と同じマスに存在する市民を被害トラックに移す。炎上状態のマスが存在する場合は,その数だけ被害トラックに溶岩コマを置く。この際,溶岩コマは怪獣ボードの溶岩プールから取る |
↓ | |
拠点フェイズ | 人間の拠点コマがある区に市民コマが置かれていた場合,そのうち1つずつを防衛トラックに移す。その後,拠点の周辺の調査タイルを1つ取り除いて効果を発揮する(後述) |
人間の猛反撃が始まる後半ラウンド。進化と研究の進行でゲーム展開が加速する
人間とボルカルスは単に押し合いへし合いを繰り返すだけでなく,それぞれの陣営ごとに独自の方法で新たな能力を獲得できる。それがボルカルスに発生する「進化」と,人間による「研究」だ。
○ボルカルス「進化」
都市に配置する溶岩コマはボルカルス固有のボードにプールされており,これが6個減る(消費される)たびに「進化」が発生する。進化時には「進化タイル」を固有ボードに配置することで,カードに書かれた追加効果を1つアンロックできる。
この強化はスキルツリー形式になっており,奥にある効果をアンロックするためには前提条件となる強化を済ませなければならない。また,完全体に達したとしてもすべての強化を網羅することは不可能なので,最終的にどの能力をアンロックするかも含めて計画を立てる必要がある。
とはいえ,進化したボルカルスの猛威は凄まじく,かなりエキセントリックな動きを見せてくれる。今回のプレイでは,六本木を炎上させた後に「地中移動」を使って有明のビッグサイトを破壊し,さらに強化した「溶岩流」の効果で周辺にばらまいた溶岩コマを操って無人の六本木ヒルズを火の海にしてやった。もっと燃えるがいい!
○人間「研究」
対する人間側は,マップボードにある「調査タイル」を獲得して「研究トラック」を進めると,新たな能力を獲得できる。調査タイルは,各ラウンドの最後にある拠点フェイズや,研究総務官の固有カード「研究」の使用時などに入手可能だ。ただし,いずれの場合も取得するタイルから1マス以内に「拠点コマ」を配置する必要がある。
いささか調査に必要な手順が多いが,研究トラックを20まで進めれば,防衛トラックを一気に埋められる「特殊冷凍弾」が使用可能になるなど,リターンはかなり大きい。暴れるボルカルスが市民や都市に及ぼした被害を片付けつつ,予算や研究のマネジメントを行い,一気にボルカルスの動きを止めるのが人間側の最終目標というわけだ。
予算や研究に手番を割かなければいけない関係上,序盤は後手後手に回らざるを得ないが,研究が進んでボルカルスを攻撃できるようになると一転攻勢をかけられる。防衛トラックは被害トラックより短く設定されているため,勢いに乗ると一気に勝利まで駆け抜けられるのも人間陣営の特徴と言えるだろう。
これらの要素によって両陣営の能力が少しずつ拡張されていくため,ラウンドを重ねるごとに互いのアクションは派手になっていく。毎ラウンドごとに新しい環境で物事を考えさせてくれるため,ゲームが終わるまでダレることがない。
さて,ゲームが後半に入る頃には被害トラックも最大近くまで累積して,怪獣側の勝利が間近に迫ってきた。……と思いきや,やはり第5ラウンド以降になると人間側の研究が進んで攻撃が激化し始める。悔しいが,今度は怪獣側が自衛隊コマから逃げ回る立場に追い込まれた。
勝負が決したのは第5ラウンドの終わり際だ。地中移動を駆使してなんとか北の押上まで逃げ延びたものの,直近2ラウンドの間に2発もの特殊冷凍弾を叩き込まれたうえ,研究トラックが最大まで累積したときに発動する「人工降雪作戦」によるダメージが重なり,防衛トラックがあと2マスで満杯という段まで進行してしまう。
しかし,そこで人間側の資金が底をついて攻撃が停止。さらに移動中にばら撒いた溶岩コマが両国の市民コマを葬って,被害トラックが満杯に。文字通り冷や汗をかかされたが,ギリギリで筆者が担当する怪獣側の勝利となった。
とりあえず1回遊んでみての感想だが,本作にはランダム性が介入する要素が想像以上に少なく,ほとんどの情報が公開されたまま進行するため,ゲーム全体の見通しが極めて良い印象を受けた。
そういったタイプのゲームは長考と奉行問題(経験者がすべてを仕切ってしまう状況)を生みがちなのだが,本作では計画フェイズでのカード配置に時間制限を加えることで,作戦立案の難しさを演出すると同時にゲーム全体のテンポを向上させている。
ほかにも,防衛/被害トラックの仕様を人間側と怪獣側で統一して,処理を直感的に理解しやすく色付けしている点も好印象。そうした配慮のおかげで,日本国内で一般的に楽しまれている国産ボードゲームとしては,比較的重量のある作品ながらも,ルールの理解は容易になっている。
加えて「前半は謎の怪獣に蹂躙されるものの,後半には人間側の反撃が始まる」という,ゲーム全体の起伏が怪獣映画のそれに合っている点も見逃せないポイントだ。単にガワとして怪獣を使用しているだけでなく,しっかりとゲームプレイを通して“古き良き怪獣映画”を実体験させてくれる。ありていに言えば「シン・ゴジラ」を観てテンションが上がるタイプの人にはぶっ刺さる体験を提供してくれる。
ただ,それらの美点は「ミクロな部分での意思決定に多様性は存在するものの,ゲーム全体の流れはある程度決まっている」とも言い換えられる。この点に関しては,拡張セットなどで要素が継ぎ足されれば解決する部分ではあり,要素を追加できそうな部分は各所に存在していたので,今後の展開に期待したい。ちなみに,ドロッセルマイヤーズの渡辺範明氏によると,プロジェクトが成功すれば個別のタイトルの拡張セットを制作する可能性もあるとのこと
先述の通り,本作は現在「Makuake」でのクラウドファンディングを行っている。クラウドファンディングというと二の足を踏んでしまうゲームファンもいるとは思うが,生産時に多大なコストが掛かるボードゲームの世界では割とおなじみの受注スタイルで,いわば特典付きの先行受注受付みたいなものだ。ゲームマーケット2019秋での販売前に入手できる唯一の機会でもあるので,確実に入手したい人はチェックしておこう。
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Kaiju on the Earth(第1弾)ボルカルス
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