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Intel,デスクトップPC向け第11世代Coreプロセッサ「Rocket Lake-S」を発表。14nmプロセスを使いながら6年ぶりにCPUコアを一新
Intelは,ここ数年のデスクトップ向けプロセッサで,2015年に登場した「Skylake」(第6世代Coreプロセッサ)系のCPUコアに改良を加えて使い続けてきた。それが今回のRocket Lake-Sでは,新しい「Cypress Cove」(サイプレスコーブ,開発コードネーム)アーキテクチャのCPUコアを採用することで,クロックあたりの処理性能を大幅に引き上げたというのが特徴だ。
さらに,CPUパッケージ内に組み込まれたI/Oインタフェースなどを含む「アンコア」部も強化しており,ユーザーが利用できるPCI Express(以下,PCIe)が,これまでのPCIe 3.0×16レーンから,PCIe 4.0×20レーンとなった。この改良は,とくに単体GPUが必須のゲーマーにとって大きい意味をもつといえるだろう。
本稿では,Intelの発表の概要をまとめてみたい。
10nm版Ice Lakeのコアを14nm世代に逆移植した第11世代Core
第10世代Coreプロセッサは,最上位モデルであるCore i9-10900系が10コア20スレッド対応なのに対して,第11世代Coreプロセッサの最上位モデルであるCore i9-11900系は,すべて8コア16スレッドであり,CPUコアが2基少ないのだ。
その理由だが,デスクトップPC第11世代Coreプロセッサは,デスクトップPC向け第10世代Coreプロセッサと同じ14nmプロセスで製造されるのがポイントだ。Intelは,第10世代Coreプロセッサではプロセスの名称を「14nm++」としていたが,第11世代Coreプロセッサになると,14nm+++なのか14nm+++++なのか,もはやわからない。Intelも14nmプロセスの改良に関する世代をはっきりさせなくなっているのだが,いずれにしてもプロセス技術は14nm世代のままだ。
ただ,プロセス技術は変わらないとはいえ,第11世代Coreプロセッサは,まったく新しいCypress CoveというCPUコアを採用してきた。これは,ノートPC向けとして2019年に登場した第10世代Coreプロセッサの「Ice Lake」(開発コードネーム)が採用したCPUコア「Sunny Cove」を,14nmプロセス向けに設計し直して,若干の改良を加えたものなのだ。
Intelによると,第11世代Coreプロセッサで8コアを超えるCPUがなくなった理由を「物理的な限界によるもの」と説明していたが,つまり10nmルールをもとに設計されたSunny Coveを14nmプロセス向けに作り変えたために,ダイサイズや消費電力の制限から8コアが上限となったというわけである。
そもそもIntelが,なぜデスクトップPC向けの第11世代Coreプロセッサで10nmプロセスを採用しなかったのかといえば,ノートPC向けで使っている10nmプロセス技術は,トランジスタの性能による制限からクロックが上げられないと言われている点が理由のようだ。実際にIntelは,プロセス技術として14nmを採用する利点として,高クロック動作が可能なことを挙げていた。
Cypress Coveは,第10世代と比べてクロックあたりの処理性能が19%も向上しているとIntelはアピールしているものの,動作クロックが低ければデスクトップ向けCPUとしては性能面でインパクトに欠けるものになる。そのため,高クロック動作では実績がある14nmプロセスを採用したわけだ。
3種類の最大クロックがあるCore i9-11900シリーズ
それでは,第11世代Coreプロセッサのラインナップを最上位のCore i9シリーズから見ていこう。
表1は,最上位モデルとなるCore i9シリーズ5製品のラインナップと主なスペックをまとめたものだ。スペック表には,最大クロックがいくつもあって少々ややこしい。
Core i9シリーズは,TDP(Thermal Design Power,
- Turbo Boost Technology 2.0(以下,TB2)
- Turbo Boost Max Technology 3.0(以下,TBM3)
- Thermal Velocity Boost(以下,TVB)
まずTB2は,Intelの歴代CPUが採用してきた自動クロックアップ技術だ。TBM3は,クロックを上げやすいCPUコアだけを,TB2の上限以上にクロックを上げる技術である。3つめのTVBは,CPUに熱や消費電力に余裕があるときに限って,TBM3の上限以上にクロックを上げるという技術となる。
倍率ロックフリーの「Core i9-11900K」,および「Core i9-11900KF」では,TBV時で最大5.3GHz,倍率固定版の「Core i9-11900」,「Core i9-11900F」では同5.2GHzと,いずれも5GHz超の動作クロックを実現しているのは見どころと言えよう。
一方,低消費電力モデルのCore i9-11900Tは,TVBをサポートしておらず,TBM3時の最大クロックも5GHzには届かないが,代わりに35Wと扱いやすいTDPに収まっている。
第11世代Coreプロセッサにおけるもう1つの特徴は,統合型グラフィックス機能(以下,統合GPU)が,ノートPC向け第11世代Coreプロセッサと同じ「Intel Xe Graphics」(以下,Xe)アーキテクチャに刷新されたことだ。ただし,統合GPUの名称はXeではなく,「Intel UHD Graphics 750」となっている。
なお,第10世代Coreプロセッサと同様に,モデルナンバー末尾に「F」があるものは,統合GPUを無効化した製品なので,別途グラフィックスカードを搭載する前提のゲーマーは,価格差次第で末尾FのCPUを選ぶのも悪くないだろう。
メモリコントローラにも,触れておくべきポイントがある。第11世代Coreプロセッサは,新たにDDR4-3200をサポートしているが,DDR4-3200設定時はメモリコントローラがメモリクロックの半分となる1.6GHzで動作する「Gear 2」というモードに切り替わるそうだ。一方,DDR4-2933やそれ以下の設定であれば,メモリコントローラとメモリクロックが等しい動作モード「Gear 1」で動く。
理屈のうえでは,メモリコントローラによるレイテンシが低くなるGear 1のほうが有利であるが,後述するように,メモリのオーバークロック設定が可能なので,実際には設定次第でどうにでもできそうだ。いずれにしても,DDR4-3200設定時はGear 2になることは,覚えておいたほうがいいだろう。
なお,Core i9-11900シリーズのTDPは,倍率ロックフリーのモデルナンバー末尾「K」が125Wで,標準モデルは65W,低消費電力版のモデルナンバー末尾Tが35Wとなっている。
Core i7,Core i5,Core i3,Pentium Gold
続いては,ハイエンド向けのCore i7シリーズを見ていこう。ラインナップと主な仕様は表2のとおり。
Core i7シリーズの5製品は,いずれもコア/スレッド数こそCore i9と同じ8コア16スレッドだが,TVBをサポートしておらず,動作クロックがやや低めになっているのが分かると思う。
ミドルクラス市場向けの6コア12スレッドモデルとなるCore i5シリーズは,計10製品がラインアップされているので,表を2つに分けた(表3a,表3b)。
Core i5シリーズでは,TVBだけでなくTBM3にも対応しておらず,自動クロックアップ技術はベーシックなTB2のみとなる。
表3aにまとめたラインナップ上位には,末尾Kの倍率ロックフリー番があるものの,表3bにまとめた下位製品には倍率ロックフリー版がない。また下位製品の統合GPUは,実行ユニット(EU)数を減らした「UHD Graphics 730」を搭載するのも違いだ。下位モデルの「Core i5-11400」系に,統合GPUを無効化した末尾Fモデルをラインアップしているのは興味深いところだ。
なお,最後に示すCore i3シリーズ(表4)とPentium Goldシリーズ(表5)は,すべて第10世代Coreプロセッサである。したがって,PCIeの世代やレーン数,メモリコントローラもこれまでと変わらず,Rocket Lake-Sの特徴は備えていない。それゆえに,Core i3の型番は「103xx」と,第10世代Coreプロセッサであることを示している。
第11世代と同時に発表なので勘違いしやすいが,第10世代Coreプロセッサのマイナーモデルチェンジと理解していい。本稿でも説明は割愛する。
IPCの向上で高いゲーム性能を謳う第11世代Coreプロセッサ
第11世代Coreプロセッサの特徴をまとめていこう。
まず,第11世代Coreプロセッサが対応するCPUソケットは,第10世代Coreプロセッサと同じ「LGA1200」だ。ただ,LGA1200対応チップセットである「Intel 400」シリーズは,20レーンのPCIe 4.0に対応していないので,第11世代Coreプロセッサに対応するチップセットは「Intel 500」シリーズとなる。
次のスライドは,第11世代Coreプロセッサの新機能をまとめたものである。
採用するCPUコアであるCypress Coveが,前世代比でクロックあたりの19%も処理性能を向上させたことは前述したとおりだ。
また,Xeベースの統合GPUは,演算ユニットである「EU」の数がUHD Graphics 750の場合で96基と第10世代Coreプロセッサから倍増しており,性能は50%向上したという。UHD Graphics 750は,エントリークラスの単体GPUを上回る性能を有するそうで,カジュアルなゲームタイトルなら十分にプレイできるとのことだ。
統合GPUは,メディア処理性能も向上している。第11世代Coreプロセッサでは,「Image Processing Unit 6.0」(IPU6)と呼ばれるアクセラレータを搭載しており,最大4k解像度90fpsのリアルタイムエンコードや,最大4200万画素までの写真加工のアクセラレーションが可能になるという。
さらに,ディスプレイ出力機能も強化しており,HDMI 2.0出力に加えて,Display Port 1.4の規格に含まれる「HBR(High Band Rate)3.0」にも対応したそうだ。これにより,原理的には最大8k解像度のディスプレイ出力が可能になる。
CPUからPCIe 4.0×20レーンが出ているのは先述したとおり。これにより,単体GPUに16レーン分を使用して,残りの4レーンにPCI Express対応のSSDを接続する使い方が一般的になるだろう。マザーボードによっては,有線LANコントローラとの接続にCPU直結のPCIe 4.0を利用する製品もあるようだ(関連記事)。
さらに,Intel製CPUとしては初めて,正式に「Resizable BAR」をサポートするのも,第11世代Coreプロセッサの特徴である。Resizable BARは,AMDの技術である「Smart Access Memory」のNVIDIA版で,PCIeのベースアドレスレジスタ(BAR)に64bitの設定を可能にすることでGPUに割り当てるI/Oアドレス領域を拡大させる機能だ(関連記事)。
そのほか,ノートPC向け第11世代Coreプロセッサと同様に,「Intel GNA 2.0」(Intel Gaussian & Neural Accelerator 2.0,以下 GNA 2.0)というAI処理向けアクセラレーションユニットを装備するのもポイントだ。GNA 2.0は,AIの推論演算や,ガウシアン合成を用いた写真や音声のノイズ除去をCPUから独立して実行できるもので,これによりAIを使った音声や画像の処理を高速化できるという。
第11世代Coreプロセッサにおいて,Intelがとくにアピールしているのはゲーム性能の高さだ。次のスライドは,4つのゲームタイトルにおけるフルHD解像度のフレームレートをCore i9-10900KとCore i9-11900Kで比較したものだ。Core i9-10900Kを100としたとき,「Total War:THREE KINGDOMS」のダイナスティモード(敵がワラワラと3方向から攻めてくるモード)で13%,「Microsoft Flight Simulator」で14%など,10%前後のフレームレート向上が得られているそうだ。
Ryzen 9 5900Xに対しても,Core i9-11900Kはフレームレートで8〜14%上回るという。
極めて高いゲーム性能を実現しているRyzen 9 5900Xよりも高いフレームレートが得られるというのは,ゲーマーとして見逃せない。Intel CPUが,またしてもゲーム性能でトップを奪還する可能性があるわけだ。
ミドルクラス向けのチップセットでもメモリのオーバークロックが可能に
対応チップセットのIntel 500シリーズも,第11世代Coreプロセッサに合わせてアップデートされる点について説明しておこう。
次のスライドは,Intel 500シリーズの主な仕様を示したものだ。
特徴的なところを拾ってみると,まずCPUとチップセットを接続する専用インタフェースの「DMI」(Direct Media Interface)が8レーンと,第10世代Coreプロセッサと組み合わせた場合よりも倍増する点が目に留まる。1レーンあたりの帯域幅は従来と同じPCIe 3.0相当だが,レーン数が2倍になるわけだ。これにより,最大20Gbpsの転送を可能にするマルチレーンの「USB 3.2 Gen 2x2」拡張に対応するほか,プラットフォーム全体で使用できるPCIeレーン数が最大で44になり,より多くのデバイスが利用可能になる。
インタフェース関連では,「Thunderbolt 4」や,高速無線LAN規格の最新版である「Wi-Fi 6E」に対応するのもトピックだ。
ただ,Intel 500シリーズチップセットは,Wi-Fi 6E準拠の「Intel Wi-Fi6E AX210」に対応するものの,日本では「6E」の特徴である周波数6GHz帯の利用が解禁されていないため,当面は6GHz帯を無効化した状態で提供するそうだ。将来的に6GHz帯の利用が可能になったら,ファームウェアとドライバの更新によってサポートを追加するとのことだった。
そのほかにオーバークロック関連では,最上位チップセットの「Intel Z590」だけでなく,「Intel H570」および「Intel B560」でもメモリのオーバークロックが可能になるという。
もともとメモリコントローラはCPU側にあるので,チップセットによる制限は物理的な制約ではない。ミドルハイ〜ミドルクラス市場向けのチップセットにも,メモリのオーバークロックが開放されたという理解が正しいだろう。
ちなみに,第11世代Coreプロセッサでは,Intel製のオーバークロックツール「Intel
オーバークロックに関してはCPU側にも新機能がある。オーバークロック時足枷となりやすい「AVX」および「AVX-512」ユニットの電圧を他とは別に調整したり,AVXユニットをリアルタイムに――再起動なしで――無効化できる機能が加わるそうだ。
もっとも,いきなりAVXを無効化してしまうとOSにまで害がおよびかねないので,現時点ではAVX無効化がどのように機能するのか,詳しいことはよくわからない。実物で確認するしかなさそうだ。
なお,第11世代Coreプロセッサでは,オーバークロックとなるヒートスプレッダとシリコンダイの間を埋める素材(Thermal Interface Material:TIM)に,第10世代Coreと同じく熱伝導性の高いハンダを採用しているとのこと。オーバークロッカーにとっては気になる点だと思うが,放熱性能が落ちるという心配はなさそうだ。
第11世代Coreプロセッサに関しては,これまでもIntelが折に触れて公開してきているので新しい情報はあまりない。しかし,Intelがアピールするように,ゲーム性能でAMDのRyzen 5000シリーズを上回れるのなら,ゲーマーにとって期待できる新製品になりそうだ。
Intelの第11世代Coreプロセッサ情報ページ
- 関連タイトル:
第11世代Core(Rocket Lake,Tiger Lake)
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