プレイレポート
メトロイドヴァニアの原点を楽しめ。アプリ版「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」のプレイレポート
本作はそのクオリティは元より,インディーゲーム界の一翼を担うゲームジャンル“メトロイドヴァニア”の原点のひとつという意味でも,歴史的意義の大きい作品である。
「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」公式サイト
「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」ダウンロードページ
「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」ダウンロードページ
本作は元々,1997年にPlayStation向けに発売されたアクションRPGだ。これ以前の「悪魔城ドラキュラ」シリーズがアーケードを出自とするステージクリア型の遊びであったのに対し,本作では“広大なマップを自由に探索”できるようになり,一方通行ではない遊びが提供された。
ドラキュラの血を引く美青年・アルカード(※)が足を踏み入れる悪魔城は,非常に広い。複雑怪奇なフロア,行く手を阻むボス,通常では突破できない仕掛けも待ち受けている。そこでカギとなるのが,城内のあちこちに隠されている「変身」や「2段ジャンプ」など,特殊能力の獲得だ。つまりはしっかりと探索することで,アクション性が増していき,攻略できる場所も広がっていく,といったゲームデザインになっている。
加えて,敵を倒して入手した経験値でレベルアップしたり,武器や防具を探してパワーアップしたりとRPG的な要素も盛り込まれている。剣やナックルなどの挙動が異なる武器種や,まるで格闘ゲームのようなコマンド入力によって発動する必殺技,これらを駆使して強敵を打ち倒し,そこでドロップしたアイテムでさらに強くなっていく。最初から最後まで,この一連の流れでモチベーションを上げ続けてくれるところが,20数年と経った今でも「月下の夜想曲」が支持されている理由なのだろう。
※アルカードについては初出作品「悪魔城伝説」から後続の作品まで,タイトルごとに人物像の設定が異なる。作品によって雰囲気もガラリと変わるので,その変遷を調べてみるのも面白いはずだ。ちなみに「Alucard(アルカード)」の綴りを逆から読むと「Dracula(ドラキュラ)」になる。これは「悪魔城ドラキュラ」シリーズの必須知識である。
オリジナル版は日本のみならず,国外でも大成功を収めた。その結果,海外のゲーマーたちは本作と同じ魅力を備えたゲームである,任天堂の「メトロイド」シリーズとあわせて,両作の魅力を再解釈し,「横視点の2Dアクション」「エリア分割型のマップ」「行動半径を広げる特殊能力」といった要素を抽出する。
やがて「Metroid(メトロイド)」と,悪魔城ドラキュラの英題「Castlevania(キャッスルヴァニア)」をかけ合わせた造語から,新たなゲームジャンル“Metroidvania(メトロイドヴァニア)”が生まれ,インディーゲームを中心に定番ジャンルとして親しまれてきた。「洞窟物語」「Bloodstained: Ritual of the Night」「Shantae」など,同ジャンルを標榜する人気作品も数多い。本稿の読者ならご存じのことだろう。
なおオリジナル版は1998年にセガサターンに,2007年にXbox LiveアーケードとPlayStation Portable,2010年にPlayStation 3,2018年にPlayStation 4向けにと移植されてきた。それぞれ細かな仕様が異なるが,アプリ版では本作以前の「悪魔城ドラキュラX」シリーズの主人公であった,「リヒター」「マリア」がゲーム開始時から使用可能だ。性能的にはPSP版となる。元々は1度クリアしないと開放されないアイテムが,最初からショップに並べられているのも嬉しい改修点である。
さてアプリ版の詳細に入るが,操作は画面左右に表示されたバーチャルパッドで行う。ただし,ゲームパッドと同等の操作性とは言えない。筆者はiPhone8(4.7インチのディスプレイ)でプレイしたが,攻撃ボタンを押したはずなのに反応しないときがあり,斜め入力がうまくいかないことも多々あり,とくに低い位置にいる敵相手に苦労した。
遊び続けていれば慣れで解決できるかもしれないが,本作は“絶妙なアクション操作”を要求されるだけに,「ジャンプボタンは小さく」「攻撃ボタンは大きく」といったUI変更も欲しいところだ。とはいえゲームパッドに対応しているので,パッドさえ接続すれば問題は解決する。
それに,コマンド必殺技や変身については一工夫されている。アルカードは格闘ゲームのようにコマンド入力をすると必殺技を放つのだが,アプリ版では「1タッチで必殺技を発動できる専用ボタン」が画面左側に追加されており,1枠だけではあるが必殺技を簡単に使用できる。もちろん通常のコマンド入力も受け付けているので,「入力が難しいものは専用ボタンに割り振り,得意なものは手動にする」のがベストと言える。
アルカードは特殊能力を獲得すると「蝙蝠」「狼」「霧」に変身できるようになるが,こちらもいずれか1つを画面右側の専用ボタンに割り振れる。オリジナル版ではそれぞれの変身が[R1][R2][L2]と個別のボタンキーに割り振られており,慣れない内は「蝙蝠になろうとしたら狼になってしまった……」なんてこともあったが,アプリ版では専用ボタンにアイコンも描かれているので,誤操作をすることはないだろう。
特筆すべきは「オートセーブ」の存在だ(公式サイトでは「コンティニュー」と表記)。悪魔城の各所にはセーブポイントがいくつも存在するが,それらの配置はそのままに,アプリ版では“部屋を移るごとにオートセーブ”されるようになった。そのため途中でアプリを終了させたり,ゲームオーバーになったりしても,直前のシーンから再開できる。
探索に熱中しすぎてセーブを忘れたままやられた,せっかくいいアイテムを手に入れたのにセーブする前にやられた,なんてことも起きがちなゲームだけに,アプリ版でのこの仕様はなかなか嬉しい。
ボスに挑むときも重宝するが,とくにありがたいのが「いつでもアプリを終了させていい」という点だ。腰を据えてゲーム機で遊んでいたかつてのプレイスタイルならともかく,スマートフォンでは遊ぶタイミングやバッテリーの問題もつきまとうため,中断と再開の機敏さが求められてくる。本作においては,アイテム収集や経験値稼ぎは隙間時間で,城攻略は電源やゲームパッドに不自由しない家でと遊び分けるといい。
もちろん,従来のセーブポイントからの再開も大切だ。オートセーブはあくまで“直前の状態を保存する”ものなので,残りHPが少なく,セーブポイントも遠いといった状態だと,進行が困難になりかねない。そんなときにセーブポイントで保存したデータの出番となるので,そこまでの進捗は失われるものの“詰み”を回避するためにも意識しておこう。
実際にプレイしてみての所感
いくつかは前述したが,操作に慣れるまでは必殺技が出しづらかったものの,やはり1タッチで必殺技を発動できる専用ボタンは使いやすかった。少量のMPで誘導弾を飛ばせる「サモンスピリット」や,周囲の敵からHPを吸い取る「ソウルスティール」などは元から便利であったが,それらのコマンド入力を省き,専用ボタンを押すだけで簡単に出せるようになったため,必殺技メインでの探索というのも手軽にできる。
その上でバランスが崩れているとも思わないところは,1997年当時から幅広いプレイスタイルに対応していた,オリジナル版の優れたコンセプトがなせる業なのだろう。2020年になってあらためて痛感する。
探索とバトルが融合した本作の攻略は,今でも完成された面白さを味わえる。歩けば歩くだけマップが埋まっていく快感もさることながら,壁の向こう側や高所に置かれたアイテムが意欲をそそってくる。
攻撃して,飛んで,避けて,また攻撃してと。直感的なアクションゲームとしての出来はもちろん言うに及ばず,覚えさえあれば誰しもが「まさに悪魔城ドラキュラだ!」と感じられることだろう。
そして悪魔城で立ちふさがる多種多様なモンスターには,それぞれ特徴がある。ただボタンを押しているだけだと消耗しがちなので,対策を立てていくのがコツである。それと,アルカードはレベルアップや武具の更新でどんどん強化できるので,アクションが苦手な人でも置いてきぼりにはされない。好みの武器が見つかったときも,できれば「より強い武器」に変えていこう。すると「もっと好みの武器」がどんどん増えていく。この絶妙なゲームバランスに裏切られることは決してないはずだ。
操作できるキャラクターはアルカードだけではない。オリジナル版ではゲームをクリアしないと使えなかったが,アプリ版ではセーブデータの名前入力を「RICHTER」とするだけで,リヒターでプレイ可能だ。
彼のメイン武器はシリーズ伝統の“ムチ”で,多彩な武器を使い分けられるアルカードとは操作感が異なる。しかしクラシックスタイルな性能ではないので,超高速でカッ飛ぶ「ドロップキック」や,無敵に移動に大活躍の「タックル」「アッパーカット」などで縦横無尽に動き回れるのだ。もちろん,クロスや聖水などアイテムクラッシュも鉄板である。
ちなみに彼のアクション中のモーションは,プレイアブルキャラクターとしての新規参戦で話題となった,任天堂の「大乱闘スマッシュブラザース SPECIAL」で再現されているものも多い。同作で初めてリヒターを目にした人には,とくに興味深いキャラクターかもしれない。
もう一方のマリアは,セガサターン版からの追加プレイアブルキャラクターである。こちらもセーブデータの名前を「MARIA」と入力すれば使用できる。なお,セガサターン版においてはモンスターを蹴り倒し,複雑なコマンドを駆使すれば強力な四聖獣で大火力を出せる,文句なしの最強キャラであったが,本作では性能控えめなPSP版のマリアとなる。
彼女の最大の特徴は移動性能だ。優れた移動速度をはじめ,連発できるダッシュや繰り返し使えるハイジャンプなどで,城内を自由に跳び回ることができる。アルカードだとゲーム進行が必須の場所でも,マリアならひと飛びで行けてしまうので,プレイ感覚もまったくの別物だ。
一応,知らない人向けに補足しておくが,アルカードには成長要素があるが,リヒターとマリアに関してはアイテム収集の要素はあれど,レベルアップはしない。ゆえに初プレイはアルカードを推奨したい。
ゲームの表現の幅は,ここ20年でも数えきれないほど更新されてきたが,本作のグラフィックスの美しさは未だ一級品である。緻密に打ちこまれた2Dドット絵が,キャラクターたちの躍動感,おどろおどろしいゴシック調を見事に形作っていて,見ているだけで楽しいものがある。
とくにキャラクターについては,主人公たちだけでない。ちょっとした雑魚モンスターたちですら迫力があり,それぞれ動きも凝っている。ボス級の造形ともなると,新旧では言い表せない美を感じさせる。
机の上に積み上げられた本,壊れたドアやハシゴの残骸,天井からつるされているニンニクや人骨など,優れた絵面であると同時に,想像力をかき立ててくる背景の数々もそうだ。インディーゲームやスマホアプリの台頭により,ドット絵の表現が見直されてきた昨今だからこそ,再見の価値がより高まったグラフィックスと評せる。
誰にでも「記憶を消してもう1度遊びたいゲーム」があると思うが,アクションRPGが好きな人にとって本作は,そうした作品に選ばれやすい1本だろう。発売当時に遊んだ人であれば,幸いにもいい感じに記憶が薄れているころかと思うので,この機会に薄れた記憶のまま悪魔城を探検してみてほしい。また,これまで本作をプレイしたことがない人であれば,わずか370円で名作を楽しめるこのチャンス,見逃すのはもったいない。
その際,スマホ画面での操作に一癖あることは否めないので,できればゲームパッドを用意するのがオススメだ。ついでにマニュアル類が用意されていないので,初プレイに戸惑いを覚えるかもしれないのもご愛嬌だ。さらに言えば,ゲームオーバー時の演出を飛ばせないのも疑問が残るが,こうした点についてはアップデートでの対応を望むとしよう。
そしてインディーゲームの開発者であれば,すでに一大ジャンルとなったメトロイドヴァニアの原点である本作から,何か制作のきっかけを学べるかもしれない。本作以降もゲームボーイアドバンスやニンテンドーDSなどで本作系列のシリーズ作品は発売されていたが,ニンテンドーDS向けの作品は移植がない上にプレミア付きとあって,気軽に遊べない状況下だ。それだけに,本作以降の希少になってしまった作品群の移植も強く期待したいところだが,それは別の話としつつ,まずは「月下の夜想曲」を手軽に低価格で遊べるこの機会に,ぜひとも遊んでみてほしい。
「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」公式サイト
「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」ダウンロードページ
「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」ダウンロードページ
- 関連タイトル:
悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲
- 関連タイトル:
悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲
- この記事のURL:
キーワード
(C)Konami Digital Entertainment
(C)Konami Digital Entertainment