インタビュー
本日発売の「スーパー野田ゲーPARTY」開発者インタビュー。野田クリスタルさんと出資者の共創をテーマに“野田ゲー”の裾野を広げるタイトルが完成
本作は,2020年の「R-1ぐらんぷり」と「M-1グランプリ」の両方を制覇したお笑いコンビ「マヂカルラブリー」の野田クリスタルさんが,お笑い芸人として活躍するかたわらに,ゲーム好きが高じて始めたプログラミングで開発した作品群――いわゆる「野田ゲー」を集めたパーティゲーム集だ。「Nintendo Switch用ユーザー共創型ゲーム」としてクラウドファンディングをスタートし,のべ2000人近くの出資者から総額1357万3000円の資金を調達に成功。出資のリターンとして,写真やイラスト,音楽,音声,セリフ,名前などがゲームに採用されるなど,ファンと共に開発が進められてきた経緯がある。
本稿では,野田クリスタルさんと共に本作の開発に取り組んできた面白法人カヤックのディレクター・後藤裕之氏へのインタビューをお届けする。かつてはバンダイナムコエンターテインメントに在籍し,「ことばのパズル もじぴったん」を手がけた後藤氏だが,いかなる経緯で本作に関わることになったのか。開発秘話などを聞いてみた。
また今回,野田クリスタルさんは多忙につきインタビューに参加いただくことは叶わなかったが,コメントを届けてくれたので,そちらも記事の後半に掲載している。ファンは合わせてチェックしてほしい。
「スーパー野田ゲーPARTY」公式サイト
コロナ禍の沈んだ空気を明るくするために,野田さんとファンとの「共創」をテーマに企画がスタート
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは後藤さんが,野田クリスタルさんと一緒にこの「スーパー野田ゲーPARTY」を開発することになった経緯からお聞かせください。
私は元々お笑い番組を見るのが好きで,「R-1ぐらんぷり」や「M-1グランプリ」なども毎年見ていました。野田さんが優勝したR-1などは,ゲームをネタに面白いことをやっているなと思って見ていたんです。
あるとき本作のプロデューサーを務める弊社の香田(香田遼平氏)が,吉本興業さんとお話をする機会がありまして,そのときに野田さんを起用して一緒に何か面白いことができないかと軽い気持ちで相談をしたところ,先方も乗ってくれたようで。
私自身,王道のゲーム作りとは違う,他業種の方とゲームを作りたいという思いがずっとあって,お笑いとゲームの組み合わせはかつて「たけしの挑戦状」や「さんまの名探偵」で僕も楽しませてもらったので,私自身この企画はかなり前のめりだったんですよね。さらにコロナ禍でお互いに仕事がかなり減っていて,世間の雰囲気も暗く沈んでいた時期でした。その中で少しでも楽しさを伝え,明るくなるようなことをしたいという気持ちが強くて,この企画が実現しました。
4Gamer:
ある意味,コロナ禍が企画を動かすモチベーションにつながったわけですね。
後藤氏:
確かにそうかもしれません。その最初の打合せでいくつかアイデアが出たなかで,野田さんがご自身で「野田ゲー」を作っていたという経緯もあって,Nintendo Switchでその「野田ゲー」のパーティーゲームを作ったらどうだろうという話が出たんですよね。
4Gamer:
最初の段階でもう企画案が出たと。
後藤氏:
ええ。打合せに参加した全員が乗り気だったんですよ。とはいえSwitchで作るとなると当然ながらそれなりの資金が必要でして,コロナ禍でお互いに懐事情がちょっと厳しい状況だったので,クラウドファンディングで集めてみようということになったんです。
その頃は野田さんがR-1で優勝された直後でしたが,本当にゲームを作れるぐらいお金が集まるのかという懸念がありました。Switchで作るとなると最低でも1000万円はかかるでしょうし。それでもまずはダメ元でもいいからやってみようということで,とにかく出資していただきたくなるような魅力的で面白いリターン品のアイデア出しを,2か月ほどかけて固めていきました。
4Gamer:
出資者へのリターンがたくさんありました。同じ額でも,内容が違っていたりして。
まだどんなゲームを作るかも決まっていない段階でしたからね。ゲームに出演できる権利や,描いた絵が採用される権利,作った音楽がゲームで流れる権利などといった,とにかくみんなで一緒に作って楽しむ「共創」を目的としたリターン品をたくさん用意したんです。
本当に出資いただいた分のすべてを採用できるのかという不安も抱えつつ,まずはプロジェクトをスタートできるボーダーラインの400万円を目標にクラウドファンディングをスタートしました。蓋を開けてみると,目標額の400万円は2日で達成してしまって,さらに伸びる勢いがあったので,当初の目標の1000万円を目指すべく,随時リターンを追加していきました。
4Gamer:
最終的に,1357万3000円が集まりました。
後藤氏:
おかげさまで。当初の3倍以上の額を出資していただく結果となり,これならゲームが作れるということで,スタートラインに立てたというわけです。
4Gamer:
そこでいよいよ企画がスタートしたと。そこからは,どんな流れで進んだのでしょうか。
後藤氏:
開発費が決まったので,次は当然,ゲームの内容を決める必要があります。パーティーゲームなので,予算内で一体何種類のミニゲームを入れられるのかを考えるのですが,この予算では10個作るのも難しいんじゃないか,という予測もありました。
でもクラウドファンディングのリターンの中に,「ゲーム内の主人公になれる権」と「野田ゲーをいっしょにつくれる権」を用意していたので,その人数分は用意しなくてはならない。それを満たしたうえで,予算内で満足いただける数のゲームを何本用意できるか,知恵を絞りました。出資者にいただいたアイデアの中にも凝ったものがあって,それをそのまま作ると予算オーバーしてしまうので,一番大事で面白いところは残しつつ,こういう形で作らせてくださいってやりとりをしたりとか。そうした土台作りが最重要で,仕様を決めるまでに1か月半ぐらいかかりました。
4Gamer:
結局,収録本数はいくつになったのでしょうか。
後藤氏:
最終的には16本です。アイデアを出していただいた出資者と,野田さんをリモートで繋いで話し合ったりして,お互いに納得できる形にまとめていったんです。
4Gamer:
出資者は,やはり野田さんのファンの方が多かったですか。
後藤氏:
いえ。もちろん熱心なファンの方は居ましたが,それ以外の人達にも予想以上に広まっていった印象です。
あえてクオリティが低そうな見た目で「野田ゲー」をアピール
4Gamer:
ゲーム内容ですが,具体的にどんなものがあるのでしょうか。
後藤氏:
ジャンルがパーティーゲームですので,1人から複数人で楽しめるものを用意しました。例えば「将棋II」は,駒を動かして王様を取るという将棋のルールに則っているんですが,駒がランダムに並べられて,絵柄によって動き方が全部違う。絵柄は出資者に描いていただいたもので,全部で250種類ぐらいあるんですが,それがランダムに配置されるので,毎回まったく違う勝負になります。しかも駒を選ぶとキャンセルができないので,どの絵柄がどう動くかを覚えておかないといけない(笑)。
4Gamer:
250種類も! 凄いルールですね(笑)。
後藤氏:
王様がどれなのかも自分で分からないという(笑)。毎回緊張感のある対戦になりますよ。ほかには,出資者の音や声で遊ぶ神経衰弱ならぬ「音声衰弱」とか,出資者のペットの写真を新しい干支に見立てた「新・干支レース」とか,提供いただいた素材を生かすデザインを施したゲームも入っています。
4Gamer:
その一方で,野田さんが過去に作られた「野田ゲー」も入っているんですね。
後藤氏:
はい。「ブロックくずして」や「太ももが鉄のように硬い男てつじ」なども,パーティーゲームとして楽しめるようにアレンジを加えて収録しています。
4Gamer:
グラフィックスやフォント,インタフェースなど,見た目的な部分をかなりチープに見せているのはやはり意図的ですか。
後藤氏:
ええ。エンジニアからも「本当にこれでいいのか」と何度か言われたんですが,弊社のデザイナーがあえて低いクオリティで今の形にしています。「キリヌキが雑」とか「フォントが潰れている」とか,最初に「野田ゲー」らしいデザインとはどういうものかを言語化して方向性を決めたので,適当に見えて実は確固たるポリシーのもとにやっているんです。
4Gamer:
解像度の関係で画像がボケているものとかもありました。
後藤氏:
支援者からいただいた画像をそのまま使っているからですね。絵にせよ音楽にせよ,アマチュアからプロまでさまざまな支援者がいましたので,そのギャップがいい味になっていると思います。
4Gamer:
これがニンテンドーeショップに並んでいたら,逆に目立ちますね(笑)。
後藤氏:
「なにこれ!」って思いますよね(笑)。そこが狙いなんです。「野田ゲー」の魅力って,ゲームをあまり遊んだことがない人にも楽しめる,ハードルの低さだと思うんです。色々飾られて小難しく見えるよりは,シンプルで目を惹いて遊びたくなるという。それをもっと世に広めたいですね。
4Gamer:
4月29日の発売ですが,クラウドファンディングの終了から逆算すると開発期間は半年程度ですよね。かなり短期間の開発だったのでは?
後藤氏:
ええ,大変でした。ゲーム業界で20年以上働いていますけど,ダントツでキツかったです。新型コロナの影響でほとんどがリモート作業でしたが,週数回のリモート会議ではどうしても漏れてしまう要素があるんです。
それとパーティーゲームって,本来はみんなで一緒に遊ぶことで完成度を高めていくものなんですが,今回はそれができない。1人で作ってると,「これは本当にみんなでやって面白いのかな」と自信が持てなくなるんですね。ようやっと顔を合わせてのテストプレイができたのが2月だったんですが,やっぱりみんなでプレイするのが大事だって改めて感じました。
4Gamer:
開発チームは何人ぐらいいらっしゃったのですか?
後藤氏:
メインの開発は4〜5人ですね。プログラムなどは外部のパートナーさんにも発注しています。予算が限られている以上スタッフを増やすこともできず,少人数なので作業量が通常の3倍ぐらいあったと思います。
4Gamer:
ゲームの作り方自体が従来とは違いそうです。
後藤氏:
明確に違いましたね。普通は仕様を9割方イメージできてから作り始めますが,今回は試行錯誤しながら作っていく感じでした。調整が大変でしたが,そういうハチャメチャなところも含めた「野田ゲー」を楽しんでもらえたらと思っています。
お笑いもゲーム作りも妥協しない,野田クリスタルさんの姿勢
4Gamer:
野田さんもただ監修するのみならず,ゲームのための絵を描いたり声を入れたりという作業があったと思うのですが,そこは順調だったのでしょうか。
後藤氏:
おっしゃるとおり,分刻みのスケジュールのわずかな隙間を狙って,1時間でも30分でもネジ込んで必要な作業をこなしていただきました。吉本の劇場でライブがあるときに,ネタが終わったあとの舞台裏でチェックしてもらい,また舞台に上がるというような。
4Gamer:
野田さんとのやりとりで,なにか面白いエピソードはありますか?
後藤氏:
面白いというよりスゴいと思ったことなんですが, 去年のM-1前に結構長めの打合せをしたとき,「もうすぐM-1ですけど,ゲーム開発に携わっていてもいいんですか?」と尋ねたことがあったんです。そうしたら「ゲームもM-1もちゃんとがんばるので,どちらも手を抜かない」とおっしゃっていて。準決勝の直前とかにも打合せに来てくれたので,本当にM-1大丈夫なのかな……と思ったんですが,優勝してしまいましたからね。
4Gamer:
M-1の最中に作業をしていたというのは驚きですね。
後藤氏:
私達は野田さんが忙しい中,可能な限りゲーム開発にも携わっていただいたことを身をもって知っているので,有言実行を成し遂げたのは本当に凄いと思いました。
それとゲーム制作においても,常に笑いを詰め込んでいく貪欲な姿勢に驚かされました。ご本人もゲーム好きなので,ゲームとして成立させつつ,笑いも盛り込んだアイデアが瞬時に出てくるんですよ。そこは本当に天才的だと感じました。
4Gamer:
野田さんと出資者のやりとりは,具体的にどのようにされたのでしょうか。
後藤氏:
直接のやりとりは吉本さん側のハンドリングでしたが,一般の方から提供してもらう素材ですので,著作権に抵触しないか,あるいは倫理的に大丈夫なのかなど,そこの確認が大変でした。人によっては遠慮なく下ネタを入れてくることもあって,その対応も個別にしなくてはなりません。
また先の話とも被りますが,出資者の素材をどうゲームに収めるかを考えるのも苦労しましたね。皆さんそれぞれに思いが込められているわけで,少なくともがっかりさせない使い方をしなくちゃならい。そこにも気を使いました。
4Gamer:
どういう使われ方をしているかは,出資者には伝えているのでしょうか。
後藤氏:
いえ。直接相談して作ることをお約束したリターンでない限り,お知らせはしていません。どこで使われているのか確認するのも,発売後のお楽しみです。
4Gamer:
リターンの中には,ゲームそのものに関するもの以外もありましたが,そちらはいかがですか。
後藤氏:
本作を使ったeスポーツ大会の参加権については,具体的な日程などはまだ決まっていませんが準備を進めています。開催に向け,アップデートで大会モードなども入れられたらいいなと構想もしています。それとデジタル特典の攻略本も,これから制作に入ります。こうしたリターン特典に限らず,本作の発売をきっかけとしたさまざまな展開を考えていますので,野田ゲーファンはご期待ください。
4Gamer:
最後に読者に向けたメッセージをいただけますか。
後藤氏:
今のご時世,大勢で集まるのは難しいかもしれませんが,家族など複数のプレイヤーで本作を遊んでみてほしいです。とくに今までゲームをあまりやっていない人や,ゲームから離れていた人にも,きっと楽しんでいただけるはずです。どうしても暗い気持ちになってしまいがちな昨今ですが,少しでも本作で笑っていただけたら嬉しいですね。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
■野田クリスタルさんからのコメント
――カヤックからオファーされたときのお気持ちはいかがでしたか。
軽い気持ちで始まったので,事が大きくなるにつれてカヤックさん後は頼みますという気持ちになっていきました。
――後藤氏やほかの開発者の皆さんと仕事をした感想はありますか。
僕に丸投げするわけでもなく,かといって無視するわけでもなく,凄いバランス感覚で僕に付き合ってくれてなんだか申し訳なかったです。
――開発においてとくにこだわった点はありますか。
全部3回やればルールが分かるような単純なゲームにしました。
――今回のプロジェクトでやり残したことはありますか。
予算の都合で入れられなかったゲームやシステムがめちゃくちゃあります。いつかこのゲームをeスポーツに参戦させたいです。
――本作を買ってくれた人に向けたメッセージをお願いします。
一見クソゲーですがやりこむと実は奥が深いゲームばかりです。ぜひやりこんでいただいて,バグを見つけ次第報告してください!
「スーパー野田ゲーPARTY」公式サイト
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