インタビュー
今甦る真月譚,新生「月姫R」クリエイターインタビュー。奈須きのこ&BLACK両氏が語る世界の裏側,そしてこれから
Fateシリーズをはじめ,TYPE-MOON作品に魅せられた多くのファンが待ち望んだリメイク作「月姫 -A piece of blue glass moon-」(PS4 / Switch,以下,月姫R)が,2021年8月26日に発売された。
伝説の同人ソフトとして名を馳せ,数多くのフォロワーを生み出した伝奇ノベルゲーム「月姫」。20余年の時を経て,その物語を現代に甦らせた本作は,ファンの期待に応えるクオリティだと反響を呼んでいる。
本稿ではその作品世界にさらに深く踏み込むべく,シナリオを手がけた奈須きのこ氏へのインタビューをお届けする。またインタビューの後半では,スクリプトを担当したBLACK氏にも同席いただき,演出面についての話も聞いている。
各シーンのコンセプトや開発秘話,さらには作品世界の根幹に関わる内容まで。ネタバレを含んだ幅広い内容について答えてもらったので,まだ未プレイの人はくれぐれもご注意を。本編を最後まで堪能した後に,ゆっくり読んでもらえたら幸いだ。
※インタビュー中には,本編についてのネタバレが含まれます。あらかじめご了承ください
奈須きのこ氏(シナリオ担当) |
BLACK氏(演出・スクリプト担当) |
「月姫 -A piece of blue glass moon-」公式サイト
甘えを廃し,現代に通じる「月姫」を目指して
4Gamer:
約20年ぶりの「月姫」,楽しませていただきました。発売から2週間が経過したタイミング※ですが,まずは現時点での手応えを聞かせてください。
※本インタビューは2021年9月8日に収録している
奈須きのこ氏(以下,奈須氏):
ネタバレ禁止のお願いを出したこともあって,「ここがよかった」といった具体的な話はまだ聞けていないんですが,全体としては「楽しかった」「かわいかった」「満足した」といった感想がほとんどで,嬉しい限りです。
自分達としても出来映えに自信はありましたが,プレイヤーと波長が合っていることを確認できて安心しました。スタッフ一同,がんばって良かったです。
4Gamer:
セールス的にも好調とうかがっています。なんでも,パッケージ出荷およびダウンロード販売で20万本※を達成したとのこと。
※2021年9月24日時点では,24万本を突破している(関連記事)。
奈須氏:
予想以上に売れてくれたみたいで,僕らも驚いています。1年くらいかけて10万本に届いてくれれば……,くらいに思っていましたから。
4Gamer:
作品の力はもちろんですが,やはり「Fate」シリーズで培われたブランド力――とくに「Fate/Grand Order」(iOS / Android,以下,FGO)の影響が大きいのかもしれません。
奈須氏:
そうですね。常に話題を提供していかないと興味を持ってもらうことすら難しい現状ですから,そうした意味で「FGO」の貢献は大きいと思います。コンシューマゲームがどんどんリッチになっていく中で,ノベルゲームなんて10人に1人くらいが興味をもってくれるかどうかだと思っていましたが,思いのほか届いてくれたみたいです。
4Gamer:
それだけ新規のTYPE-MOONファンが増えたということでもありますね。
奈須氏:
fusetter(ふせったー)などで感想を書いてくれている人を見ていたら,若いユーザーさんの書き込みに驚かされました。「これが20年前のゲーム!?」とか「一つのゲームのヒロインにこんなに入れ込むのは初めて」とか。僕らの世代って,もともとヒロインに入れ込むためにゲームをプレイしていたようなところがあるじゃないですか。
4Gamer:
当時のビジュアルノベルの文脈だとそうですね。ヒロインごとにルートがあるフォーマットも,その名残りでしょうし。
奈須氏:
そうした文脈を知らない世代の方が,今「月姫R」をプレイしてくれた。本当に若い世代のプレイヤーが入ってきてくれたんだというのを実感しています。とはいえ,比率で言うと6:4で古くからのユーザーさんのほうが多くて,嬉しくも安心しています。みんな,帰ってきたよー! と。でも仕事や家庭もあるだろうから,ゆっくりね!
4Gamer:
まだ発売から2週間ですし,ボリューム的にも読み切るのはけっこう大変ですよね。じっくり楽しみたいという人も多いでしょうし。
一方で,これは聞いておかなければならないと思うのですが……本作はかなり“難産”なタイトルでもありました。最初の発表から数えると13年越しのリリースとなりましたが,その間になにがあったのでしょうか。
奈須氏:
「月姫R」の企画がスタートしたのは2008年のことでした。同人作品としてリリースした「月姫」には,もともと忸怩(じくじ)たる思いがありましたから,それになんとかケリをつけたい。そう思って始めたプロジェクトです。
4Gamer:
忸怩たる思い……というと?
奈須氏:
「月姫」の制作当時は人員も限られていましたし,同人クオリティの作品ではあった。なので,そこには甘えがありました。「趣味のゲームなので趣味を優先しよう」「絵素材に関しては質より量で勝負しよう」「同人ソフトならゲームとしての構成素材数はこれが限度だろう」というような。なので,そうした甘えをすべて廃した「月姫」が見てみたかった。「Fate/stay night」がそうであったように,商業作品として通用するクオリティのものを。それが「月姫R」の出発点なんです。
4Gamer:
「Fate/stay night」も,初期は同人作品としてリリースする予定だったんですよね。では2008年の「月姫R」発表時点では,まだ何もない状態だった?
奈須氏:
あの時点だと,武内(キャラクターデザインおよび現・TYPE-MOON代表の武内 崇氏)によるキャラクターデザインのリファインが完了した段階ですね。自分のプロット作業も概ね終わっていて,2009年になった頃,「魔法使いの夜」(以下,まほよ)の制作に入っていなかった武内が先行して立ち絵の準備に入っていきました。
「まほよ」の開発が一段落した2011年頃から社内での制作が本格化して,2012年にはシエルルートまでのテキストが完成し,全立ち絵の6割程度が揃った状態だったと思います。自分はそれと並行してほかタイトルの制作もあったので,フルに「月姫」に集中できたのは1年くらいでしたが,ここからは「月姫」だけに集中できる……体制になったのが2013年。
当時は2014年末の発売を目指していましたから,残り1年半みんなで走れきればなんとかなるはず……というところで,アニプレックスさんから「スマホゲーム,やってみないか」と言われてしまい(苦笑)。
4Gamer:
ああ,「FGO」の企画が動き出すわけですね。
奈須氏:
当初の想定では,「FGO」の作業は2年くらいで終わる予定だったんです。ノベルゲームの開発において,一番時間をかけるのは絵の部分なんですが,「月姫R」の場合この準備に3年かかる――途中でクオリティを引き上げることになったので,実際は4年でしたが――計算でした。だから素材が揃うのを待つ間に「FGO」が作れる……はずだったんですが。
4Gamer:
そうはならなかった,と。
奈須氏:
……そこからFGO地獄が始まり,「月姫R」は2013年末から2017年末まで実質凍結状態になっていました。と言っても,完全に動けなかったのは自分と武内くらいで,スクリプトや絵素材の準備は静かに進んではいたんです。
4Gamer:
ああ,そうだったんですね。てっきりTYPE-MOON総出で「FGO」なのかと思っていました。
奈須氏:
息抜きとして,グラフィックスのスタッフに「FGO」に参加してもらう,ということはありました。スクリプトやイラストでも,ずっと同じもの(月姫)と向き合っていると気が変になっちゃいますから。みんなクリエイターなので,たまには違うこともやりたくなる。一年に一度くらい,「自分の仕事」が外に出るとリフレッシュになるんですよ。そういった武内の方針で,「FGO」でのキャラクターデザインに取り組んでもらいました。
4Gamer:
では,「月姫R」が再始動したのは,2018年から?
奈須氏:
「このままじゃ月姫が出せない!」と焦りを感じたのが2017年末で,自分の「FGO」の作業を整理していったのが2018年。それから少しずつ「月姫R」の制作に戻りつつ,本格的に“最後の詰め”に入れたのが2020年の夏。ここから半年は「月姫R」に回そうと決めた2020年でした。
4Gamer:
となると実質的な作業期間は……。
奈須氏:
ライターとしての実働では2年くらいですが,ゲーム制作としては,ほかにCG・音楽・スクリプト・ボイス収録・移植などがありますので……実質的には5年ほどでしょうか。
4Gamer:
なるほど……。今作は舞台が現代――具体的には2014年に置き換えられているようですが,これは開発時期に合わせたものなんでしょうか。
奈須氏:
はい。作中の表記から計算できますが,はっきり2014年が舞台です。携帯電話の普及率が80%ぐらいで,社会のインフラとして定着しきった時代。まあ志貴はああいう人間なんで,まったく依存はしてませんけど。
4Gamer:
ああ,そうでした。携帯を取り上げられた志貴の反応が淡白で,今の感覚とのズレを感じましたのを覚えています。では,舞台を同人版「月姫」の三咲町から総耶(そうや)市に置き換えた理由は?
奈須氏:
三咲町は地方都市だったんですが,それはもう「Fate/stay night」でやりましたし,それなら今回は都心を舞台にしてみようと思ったのが大きな理由です。それに「個人」の事件よりも「社会」の事件を描いたほうが,今の時代にもマッチするだろうとも思って。なので,舞台は都心をモチーフになっています。
4Gamer:
ところで「月姫」世界と「まほよ」世界は地続きと考えていいんですよね。「まほよ」が1980年代後半の話ですから,そうなると今作の青子先生は……。
奈須氏:
よく言われますけど,青子は20から歳を取らないですから(笑)。
新たな敵を迎え,ヒロイン力を増した姫君
4Gamer:
ここからは,いよいよシナリオの内容に踏み込んでいこうと思うのですが,まずはオリジナルの「月姫」を知る人なら誰もが驚いたであろう,ネロ・カオス戦の差し替えについて聞かせてください。ネロと言えば,月姫を象徴するキャラクターの1人だと思うのですが……。
奈須氏:
ネロという吸血鬼は,当時の“ステレオタイプな吸血鬼のイメージ”に対するカウンターとして登場させたキャラクターでした。まったく吸血鬼らしくない吸血鬼。でもそれから20年が経って,さまざまなエンターテイメントにいろんな吸血鬼が登場した結果,そういった“らしい”吸血鬼のほうが少なくなってしまった。それならもう一度,王道のゴシックでホラーな吸血鬼を出すべきだと,そう思ったんです。
4Gamer:
それがヴローヴだと。確かに,かなり“らしい”登場シーンでした。
奈須氏:
貴族然としたルックスで耽美な雰囲気をまとった,血を吸う怖い存在。それがブラム・ストーカーの「ドラキュラ」で生まれ,定着したイメージでした。恥ずかしがらず,これをちゃんとやろうと。あと月姫世界の設定をつきつめると,ネロは非常に強力な存在でもあるんです。だから一番最初に倒してしまうのはちょっとマズいなと(笑)。
4Gamer:
ああ,なるほど。
奈須氏:
なのでネロより格は落ちるけど,一般人ではまず太刀打ちできない超常の存在として登場したのが,今回のヴローヴでした。彼がまき散らしてしまうさまざまな災害も,「人間ってこんなに死にやすいんだよ」というのを示すためにも必要だったのです。
4Gamer:
ヴローヴ戦は,ネロ戦とはまた違った驚きを与えてくれました。まさかあんな大事件にまで発展するとは。
奈須氏:
あの戦闘は,ネロ戦とは違ってエンタメに振りきるのが当初の狙いでした。結果としてイメージどおりにまとまったと思っています。やっぱり演出力が上がったのが大きいですね。音楽も「まほよ」から引き続き深澤さん(深澤秀行氏)が入ってくれて,ゴシックホラー全開の楽曲に仕上がっています。
4Gamer:
街の被害も甚大で,「今回の月姫は何か違うぞ」と感じた人も多かったのではないでしょうか。
奈須氏:
同人版のような「人知れず,どこかで起きているかもしれない暗闘」は,もう時代じゃないと思ったんです。現代はいたるところで直視するのが困難な悲劇が起こっていて,ニュースなどで触れる機会も多い。悲惨な事件は「どこかで起きているかも」ではないんです。「今現在,起きていること」なんです。それにはもちろん自然災害も含まれます。だからフィクションであっても,事件を小さくまとめる必要はないだろうと。
4Gamer:
先ほどの個でなく社会の事件という話につながる部分ですね。そういうことが起こり得ると,肌感として我々はもう理解している。
奈須氏:
そうだと信じています。そして舞台を都心に移したことで,その後始末をする人達の活躍も描けるようになりました。災害に立ち向かい,事態を収拾しようと頑張る人達の姿を。そうして形になったのが,あのヴローヴ戦なんです。
4Gamer:
今作で登場した教会側の人間達の活躍ですね。その辺りは後ほど詳しくお聞きするとして,ヴローヴ戦で印象深いのは,アルクェイドルートに登場した即死三択なんじゃないかと思います。あれを初見でクリアできた人は,かなり少なかったのではないでしょうか。
奈須氏:
あれは「このあたりで一度は死を体験してほしい」ということで用意した,最後の関門でした。極限状態の選択で「なにいってんだか分からないけどやるしかない!」みたいな。また,人によってはあそこまでノーデスで進めてしまうので,ここらで「おしえて!シエル先生」に誘導しておかないと,後半まで見る機会がなくなってしまうから……というのもありました(笑)。
4Gamer:
確かにそうですね。後半になって初めてあのノリに触れることになったら,戸惑うかもしれません。
奈須氏:
本当は選択時にタイム制限を入れようかとも思ったんですが,さすがにそれはボツになりました。「Fate/stay night」でもそうでしたが,「紙一重で勝てたんだ」というのを分かってもらいたいというのもありますね。
4Gamer:
アルクェイドの耐熱ドレスもここが初出でした。登場したときは,思わず「やりやがった!」と叫んでしまいましたが(笑)。
奈須氏:
あれは武内と「アルクェイドルートはシエルルートに比べて地味だよね」って話をしていたときに出たアイデアです。アルクェイドは相手によって対応を変えるものなので,それなら「耐熱仕様」で何かできないかと。デザインの案も8パターンくらいあったんですが,半端に変えるよりは,やり過ぎなくらいがいいだろうということで,あの形になっています。
4Gamer:
今作のアルクェイドはデート服なんかもあって衣装が豊富でしたね。
奈須氏:
この手の話では「奈須の無茶振りに武内が応える」パターンが定着している感がありますが,デート服については逆ですから! シナリオ作業が終わってるのに,ヤツが「デート用の普段着描いちゃったから,なんとかして使って」と言い出したんだから(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。せっかくですので,このままアルクェイドルートについてお聞きしたいのですが,ほぼ新規シナリオといって過言ではないシエルルートに比べると,こちらはほぼそのまま,同人版をなぞった展開でした。
奈須氏:
アルクェイドルートは皆さんが大好きなルートですし,あまり変えるとテーマそのものが変わりかねない。だから手を加えるなら先ほどお話ししたネロの部分と,あとはシナリオの細かなところ――とくに当時未熟だったところを補強するのがいいだろうと,当初からそう考えていました。
だけど,そこへ武内からアルクェイドの立ち絵があがってきて……これがもう,めちゃめちゃ可愛いわけです(苦笑)。
4Gamer:
ああ,分かります(笑)。
奈須氏:
なのでこのアルクェイドをいかに可愛らしく,そして理想的に書くかが自分のミッションだと思いを新たにしました。それだけでアルクェイドルートは成立するはずだと。
4Gamer:
いや,改めてアルクェイドのヒロイン力を思い知らされた思いです。本当に表情が豊かで……あれは志貴がおかしくなっちゃうのも致し方なしでしょう。
奈須氏:
天真爛漫で,ちょっと年上系のお姉さん。それがもともとのアルクェイドでしたが,今作では武内のリファインによって,同年代なんだけど手の届かない存在,という方向にシフトしています。
志貴は厭世的でアウトローだと言われますが,本質は虚無的なものです。そういう人間がアルクェイドと出会うことで,初めて自分の幸福を追い求めるようになる。志貴が「自分のため」なんて当たり前の事を許可してやれるのはアルクェイドだけにしたい。月姫をリメイクする際,そういう思いがずっと自分の中にはありました。
今作のアルクェイドはそんな方針に加えて,とにかく武内の立ち絵が魅力的で……プロットを組んでいた時より,どんどん可愛くなってきました。もっと可愛らしく,もっと色々な側面を見せたいと欲張っていった結果が,今回のアルクェイドだと思っています。
4Gamer:
夜のホテルで志貴が,死の線がないアルクを目撃する場面。あのシーンがとくに鮮烈でした。
奈須氏:
あそこは重要な場面だから,どうしてもイベント絵――いわゆるスチルが欲しいとお願いして生まれたシーンです。「月姫R」はスチルが豊富な作品と思われているかもしれませんが,あれでもコンテから半分くらい削っているんです。このシーンも「立ち絵で表現できるので」とスチル候補から落ちたのですが,2度目の会議でシーンの重要性を説明したところ「それは必要ですね」とOKが入り,CG班のみんなが美しく仕上げてくれました。
4Gamer:
TYPE-MOON作品としては珍しく,最初からボイス付きの今作ですが,声の演技も素晴らしかったです。
奈須氏:
そうですね。これまで「MELTY BLOOD」や「カーニバル・ファンタズム」などで素晴らしい声をあててくれたキャストの皆さんに恥じる事のない,迫真の演技だと思います。自分もシナリオ制作時,「向こう10年,夢中になれる理想の嫁を作る」という気概で臨んでいたのですが,実際に声が入ったら「やりすぎでは?」と目を疑ったくらいに。今回のキャスト陣もみんな素晴らしいのですが,その中でも長谷川さん(アルクェイド役・長谷川育美さん)が凄かった。百点満点だった柚木涼香さんのアルクを引き継ぐ,素晴らしいものでした。
4Gamer:
志貴の話が出たので,彼についても少し聞かせてください。まず月姫の象徴とも言える「十七分割」シーンですが,かなり容赦のない描写になっていました。
奈須氏:
あれは志貴が罪と向き合うために絶対に必要なので,妥協したくないシーンでした。恐ろしいけど美しい,あの光景がなければ志貴の懺悔や後悔にプレイヤーが同意できなくなって,作品として死んでしまいかねない。だから例えセールス面で不利になったとしても,表現を和らげないで済むのなら,やはりそちら(Z区分)を選ぶべきだろうと。
4Gamer:
志貴の性格も,同人版とはちょっと違っているように感じましたが,そこはどうなんでしょうか。なんというか,こんなに明るい少年だったけ? みたいな。
奈須氏:
同人版とは根底にある“核の部分”が少し違っています。実のところ,明るさは逆に減っているんです。意識的に「明るい人間」モーフをしているので,そういったデフォルメされた部分が印象につきやすいのだと思います。
志貴は寝てしまったら二度と目を覚ませないかもしれない,という恐怖を抱えて生きています。壊れかけのPCの電源を切るようなもので,次はもう起動しないかもしれないと思っている。同人版でも「月姫R」でもそれは同じです。眠るときのモノローグが常にネガティブなのはその証です。
4Gamer:
志貴の本質は“虚無的”という,先のお話につながる部分ですね。
奈須氏:
なので志貴は「自分の死」に対しては他人事で,執着しない。してしまったら,それこそ人生が立ち行かないからです。セリフ回しは一緒でも,根底にあるものが同人版とは違っている。志貴がさつきのことを「尊敬する」って話しているシーンがあったでしょう?
4Gamer:
ああ,有彦との会話ですね。同人版にはなかったシーンのように思います。
奈須氏:
あそこはとても分かりやすいシーンだと思います。今の条件を踏まえて読み返すと,何か感じられるものがあるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
ロア戦についてはいかがでしょうか。オリジナルに忠実とはいえ,新生アルクェイドルートの締めとしては,やや大人しめに感じたのですが。
奈須氏:
あっさりですよね。これは後により派手な展開が控えているからというのが一つ。それから,「月姫」がそもそも持っていた“出会ったら終わり”系の恐怖――いわゆるジャパニーズ・ホラーの要素を残したくて,あえて手を加えなかったシーンです。ただ伏線も多く仕込んであって……あのシーンの本当の意味が分かるのは,少し先になるかもしれません。
4Gamer:
あの渡り廊下のシーンは,プレイしていて考え込まされたシーンの一つでした。ちなみに志貴が廊下ごとロアの足を殺していましたが,あれにも意味が?
奈須氏:
意味はちゃんとあります。あと皆さん,アルクェイドのルートが一つしかないことに疑問を持っていると思いますが……それもまた,いずれということで。
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月姫 -A piece of blue glass moon-
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