プレイレポート
[プレイレポ]精神・身体・魂のバランスを取りつつ生き残れ。「THE CHANT」の世界は怪物も人間のどちらも恐ろしい
※海外ではPC向け英語版が,2022年11月に発売済み。
人里離れた孤島で忍び寄る恐怖
本作の舞台となるのは,カルト教団「プリズムの科学」が所有する孤島。教団はスピリチュアルな儀式による魂の成長を謳っている。主人公のジェスは辛い過去を持っており,これを克服すべく教団に入ろうとしていた。ジェスは教団のメンバーに迎え入れられ,ついに儀式が始まるのだが,彼女の教団入りを勧めた旧友のキムが突然錯乱し,儀式は中断されてしまう。その影響か,島では次々と奇怪な出来事が発生。ジェスもこの世のものとは思えない怪物に襲われる。果たしてジェスは生き残ることができるのだろうか?
本作では怪物も恐ろしいが,それと同じ位に人間も恐ろしく描かれる。「プリズムの科学」という団体の怪しさと危うさには,ゾッとさせられるものがあるからだ。
孤島は1970年代からカルト教団の根城になっており,自然の中に施設の建物がまばらに散らばっている。本来なら魂を洗浄する心の保養地といった場所なのだろうが,建物は荒れたものも多く,教団本部というよりは廃墟に人間がしがみついているように見える。
教団に訪れたジェスを,自信満々なリーダーのタイラーと,その右腕である明るいハンナ,実業家としての顔も持つソニー,母性と包容力に溢れたマヤといったメンバーたちが出迎えてくれた。彼らは一様に快活だが,人里離れた場所で靴さえも禁じる自然主義は行き過ぎているし,真っ白なユニフォームには清潔さよりも,悪い意味で浮世離れしたものが感じられる。
そして,彼らが唱える教義は「科学的,数学的な原理を魂の成長へと適用するもの」で,「超越的な喜び」や「美の瞬間を創造して味わう」のだという。しかし,パンフレットに書かれた儀式の名前「プリズム・スピリチュアル(TM)リトリート」には登録商標を示す「TM」が付いており,金儲けの匂いがしてくる。「この人たちに身を委ねて,本当に大丈夫なのか?」「どんな裏の顔があるか,知れたものではない」という不信感が頭をよぎるのだ。
そんなカルト教団のメンバー相手の会話では,どういった返答をするかの選択肢が出現する。中には機嫌を損ねそうなものもあるが,前述した胡散臭さを感じた後のことなので「彼らを刺激しないように,無難に答えるべきか……。教義に賛同しないと怒り出したりするだろうか。とはいえ,変に気に入られても怖い」と迷うことになる。セールスや勧誘をどう断ろうか考えているあの感じで,妙にリアルだ。
彼らの儀式もまた奇妙なものである。ドームで車座になり,謎のお茶を飲んでから瞑想を行う。こうすることで,内なる闇が体外へと流れ出るので,これをゲームのタイトルともなっている詠唱(チャント)で破壊するというのだ。
実にうさんくさい儀式にプレイヤーとジェスは戸惑いながら参加するのだが,その不安は現実となる。冒頭でも紹介したように,ジェスの旧友であり,彼女を教団に誘ったキムが突如として錯乱して儀式は失敗するのだ。これをきっかけに,この世のものとは思えない怪物が姿を現すことになる。
ジェスはキムを助けるために儀式を再び執り行おうとするが,その過程で教団メンバーたちの真の顔が明らかになってくる。タイラーはリーダーとしての責任を取らず,事態の収拾をジェスに丸投げ。ソニーは父親と過去に何かあったようで,認めてもらうため教団に入れ込んでいることが分かる。精神的にしっかりしていそうなマヤも,怪物に心の傷を利用されてあっさりと陥落。親切だったキムが,儀式で凶暴化するのも怖い。そしてハンナの言動からは,タイラーの不安定さと2人の関係の危うさが見えてくるのだからゾッとする。
そうこうして,ジェスが探索を進めて行くと,教団の暗い歴史と,彼らが過去に行ってきた所業の数々が明らかになっていく。後述する怪物ならブン殴ってしまえばいいので,そっちを相手にしていたほうがよほど気楽だ……真に怖いのは人間なのだ。
儀式の失敗により,メンバーが隠していた裏の顔が露わになる |
美しかった島は魔界のようになってしまった |
「精神」「身体」「魂」,3つのゲージと限られたリソースを管理し,ハーブの束で敵と戦う
孤島には謎の怪物や,動物の仮面を被った者たちがいて,ジェスに襲いかかってくる。戦うには「精神」「身体」「魂」という独特のゲージを理解し,敵からの攻撃に対抗すると同時に,限りある資源をクラフトして有効な武器を作る必要がある。
ジェスの体調は前述の3つのゲージで表現されている。ゲージはそれぞれ役割が異なるうえ,回復するには,精神なら「ラベンダー」,身体は「ショウガ」というように対応するアイテムが必要なため,こまめな管理が必要だ。
「精神」は羽虫の襲来,闇の中での行動,怪物の精神攻撃を受けるなど,恐ろしい目に遭うと減少。ゼロになるとパニックを起こして攻撃できなくなってしまう。怪物から逃げたり,危機が去ったりすればある程度自然回復するが,戦闘の中には逃げられないものもある。アイテムでも回復できるが,手持ちがなければ死を待つばかりだ。
もう1つの対策として,「瞑想」すれば「魂」と引き換えに精神が回復していくが,戦闘中には瞑想はできないし,後述する特殊能力「プリズムアビリティ」を発動させるために魂が必要なので,こちらも放っておくわけにはいかない。普段からこまめなメンタルケアを心がけておかなければならない。
そして,怪物から直接攻撃されると「身体」が減少し,これがゼロになるとゲームオーバーになってしまうので速やかな回復が必要だ。
精神が疲弊すれば身体を守る手段がなくなり,魂で精神(心)を奮い立たせるのにも限界があるわけで……そのいずれもおろそかにすることなく,健やかに保たなければならないのだ。ジェスは図らずもプリズムの科学が目指す(表向きの)理想を体現していくことになるのが何とも皮肉なところである。
面白いのが精神,身体,魂はそれぞれに独立した経験値を持っているという点だ。経験値は「敵を倒す」「島の歴史が書かれた文書を見つける」「メンバーとの会話で選ぶ選択肢」「対応した回復アイテムの使用」といった行動で増えていくのだが,スキルツリーからアップグレードを取得するには,それぞれの経験値が一定値以上でなければならない。
アップグレードは,精神,身体,魂ゲージの上限を引き上げたり,回復アイテムの効果を高めたり,ダメージ耐性をアップさせたりといずれも魅力的だ。片っ端から取っていきたいが,そうもいかない。というのも,アップグレードには経験値に加えて貴重な「プリズムクリスタル」が必要なので,ある程度選ばなければならないからだ。
また,経験値は回復アイテムを使って上げることもできるが,それぞれ3個しか持てないため,使いすぎると本当に必要なときに手持ちがないということにもなりかねない。生き残るには,体調だけでなくアイテムもしっかり管理する必要がある。
敵との戦闘では,相手の攻撃に対応することと,相手に対して有効な武器を使うことが重要だ。敵は噛みつきや引っかきなど,身体を使った直接攻撃に加え,精神攻撃を使ってくるので,それぞれに違った手段で対抗しなければならない。
直接攻撃を食らうと身体ゲージが減るのだが,敵のモーションをしっかり把握し,予備動作を起こしたら「回避」することで身をかわせる。うまくやれば攻撃のチャンスが訪れるのだ。
しかし,ジェスは戦闘の訓練を受けているわけではない,ただの一般人なので,回避中に体勢を崩してしまうこともある。そのときは尻餅をついたり,地面を這うことになったりする。無様な動作からは,彼女の恐怖がこちらにも伝わってきて感情移入も深まるのだ。
精神攻撃は敵と間合いを取っていてもお構いなしに届くうえ,素早く[×]ボタンを押して抵抗しないと精神ゲージが減り続けていく。前述のとおり,精神ゲージがゼロになると攻撃できなくなるので非常に危険だ。精神攻撃の際は画面がモノクロになるのだが,敵の直接攻撃に集中していると対処が遅れてしまうこともあり,なかなかに緊張感がある。
前述のとおり,ジェスは一般人なので銃やナイフなどの武器は扱えない。ではどうやって立ち向かうのかというと,ハーブの束や,「塩」「エッセンシャルオイル」など,スピリチュアルなアイテムを使うのだ。
ハーブの束には「セージスティック」「ウィッチスティック」「炎のムチ」の3種類が存在。セージスティックは羽虫に効果的,ウィッチスティックは超自然的な敵に効果的で,ヒット時に魂ゲージを回復,炎のムチは実体を持つ敵を燃やして追加ダメージを与えるというように,有効な相手が違うので使い分けるのが重要となる。
いずれも耐久度があり,ある程度使うと壊れてしまう。素手で戦うようなハメに陥らないためには,普段からアイテムを収集し,予備をクラフトしておかなければならないのだ。
また,塩やエッセンシャルオイルは手榴弾のように投げ,ダメージを与えたり動きを遅くしたりできるため,こちらも切らさないようにしたい。しかし,ゲームを進めると,どうしても倒せない敵「アンジー」がマップを徘徊するようになる。できるだけ出会わないよう,周囲の音を頼りにして避けなければならないため,戦闘とは別のスリルも味わえる。
ジェスが「プリズム」を集めていくと,魂ゲージを使ってプリズムアビリティを発動できる。敵の動きを遅くする「ステイシス」,敵を吹き飛ばす「撃退」,周囲にトゲの壁を呼び出してダメージを与える「結晶化」など,いずれも戦闘時に有効だ。
それにしても,これらは明らかに超常的な力であり,「プリズムの科学」が単なる絵空事を追い続けるカルト教団でないことが分かる。果たして過去に何があったのだろうか?
精神,身体,魂という3つのゲージで表現される体調と,不気味なリアリティを持つカルト教団というテーマが特徴的な本作。儀式の失敗をきっかけにメンバーが豹変していく様は,ある意味で怪物以上に恐ろしいものがある。少し変わったホラーアドベンチャーをプレイしたい人におススメしたい一作だ。
「THE CHANT」公式サイト
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(C)2022 Koch Media GmbH, Austria. Prime Matter is a division of Koch Media. Developed by Brass Token. The Chant is a registered trademark of Brass Token. Prime Matter and their respective logos are trademarks of Koch Media. All other copyrights and trademarks are property of their respective owners. All rights reserved.
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