レビュー
「へクステックメイヘム:リーグ・オブ・レジェンド ストーリー」レビュー。爆弾野郎“ジグス”が大暴れするアクション・リズムゲーム
特にキャラクターは,それぞれが個性豊かに描かれており,外見はもちろんのこと,性能もまったく異なり,見事なまでに差別化されている。キャラクター1人1人に詳細なバックボーンが与えられ,見た目や性能だけでなく,そこから感じさせる“性格”で人気になるキャラクターも少なくない。
そんな中で今回注目したいのは,ちびっこくて毛むくじゃらな,四六時中爆弾を抱えた男“ジグス”だ。彼の持つスキル実に個性的だ。その1:爆弾を投げる。その2:爆弾を投げる。その3:爆弾をたくさん前に投げる。その4:すごい爆弾を遠くに投げる。何と爆弾を投げることしかできない,精々しいまでの爆弾魔。いや,爆弾野郎なのである。
よりによってそんな爆弾野郎のジグスが主人公に抜擢されたスピンオフ,それが「ヘクステックメイヘム:リーグ・オブ・レジェンド ストーリー」(PC / Nintendo Switch,以下,へクステックメイヘム)だ。内容も,そのバックボーンから概ね想像できる通り,ジグスが爆弾で大暴れするゲームである。そりゃ,そうなるだろうとしか言いようがない。
こんな思い付きで始まったかのようなスピンオフだが,ゲーム内容は奥深く,そしてなかなかにハードだ。具体的には強制的にスクロールする画面で,ジグスにジャンプや急降下,そして爆弾を投げるなどの指示を出すアクションゲームとなっている。と言ってもただのアクションではなく,ノリノリの音楽が流れ,それに合わせて指示すべきコマンドを表示するという,アクション・リズムゲームといった具合に仕上がっている。
ジグスが爆破するのは高度な機械文明を築いた街,ピルトーヴァー。たくさんの敵が道を遮り,当たれば一撃で死んでしまう障害物の数々が,ジグスの爆破を邪魔してくる。
それらの障害物を初見ですべて避けるのは簡単ではないが,それでも少しずつコマンドとリズムを覚え,ジグスの動きの癖を把握してくれば,あとはリズムに乗って破壊し放題だ。ジグスがうまく街を爆破するほど,音楽のテンションも上がっていき,気持ちいい効果音も流れていく。習熟する過程も楽しく,止め時が見つからない。
ただし,ジグスの永遠のライバルにして友達(?)のハイマーディンガーにだけは気をつけたほうがいい。ジグスと同じく,ちびっこくて毛むくじゃらな姿でありながら,発明家であるハイマーは,容姿こそジグスと瓜二つだが性格は(表面的には)正反対。科学技術の危険性を重々承知しているカタブツだ。爆弾で街を破壊するジグスを許すはずがない。
そんなハイマーは,ジグスを止めるべく,自前の最新兵器で立ちふさがる。いわゆる「ボス面」というもので,この時はいつも以上に難度が上がり,ハイマーの攻撃も避けなければいけないので,やりごたえのある戦いを味わえる。
かくしてプレイヤーはジグスを操り,ハイマーとの戦いを繰り広げるわけなのだが,その間に行われるジグスとハイマーのやり取りが愉快なのだ。ジグスは,ハイマーをライバルとしてリスペクトしているし,かたやハイマーもジグスのことを機にかけている。
そして,メタ的な話だが,二人とも日本語版の声優が花江夏樹さんであることも面白い。実質,ジグスとハイマーしか登場しない作品なのに,その2人を一人二役で演じる花江さん。見事に演じ分けており,さすがの一言だが,ひとりでしゃべり続けてると思うと少しニヤけてしまった。
ちなみに,ジグスが壊しまくっている街“ピルトーヴァー”と,ライバルとして登場するハイマーは,Netflixで配信されている「リーグ・オブ・レジェンド」のアニメ「Arcane」での舞台かつ主要人物である。
「Arcane」におけるハイマーは魔法(Arcane)の再来を危惧し,それを防ぐために悩み続けるという,かなりシリアスな役回りだったのだが,本作ではそんなことなどお構いなしにジグスがピルトーヴァーを破壊しまくるわけだ。あまりにも対象的な作品だが,逆にそれがジグスらしさを表現している。
ファンは「Arcane」や「リーグ・オブ・レジェンド」と世界観を比較して楽しめ,また初めて「ルーンテラ」ユニバースに触れる人には,小気味よいリズムゲームで楽しませてくれる「へクステックメイヘム」。時折,難度が突然上がったり,ノーツの判定が微妙だったりするなどの些細な不満点はあれど,全体的にはよくまとまったアクション・リズムゲームだと言えるだろう。
本作を開発したのはChoice Provisions。リズム・アクションゲーム「Bit.Trip」シリーズで人気を博するインディーズゲームスタジオだ。
実は,筆者が冒頭で「へクステックメイヘム」をリズムゲームかアクションゲームか,あえて区別しなかったのは,本作の強制スクロールするステージで,アクションを組み合わせつつリズムを刻むゲームデザインが,彼らの「Bit.Trip」から一貫したゲームデザインだったからだ。ある意味で,「Bit.Trip」シリーズの最新作とみなせるかもしれない。
ただし「へクステックメイヘム」が「2辛」ぐらいの難度だとすれば,「Bit.Trip」は(達成度にもよりけりだが)「7辛」ぐらいの難度。というのも「へクステックメイヘム」はノーツが表示され,いつ,何を入力すればいいかを教えることで,オーソドックスなリズムゲームに仕上がっているのに対し,「Bit.Trip」はそのようなヒントが基本的にない。当然,死にまくるうえに,「ヘクステックメイヘム」と違ってコンテニュー機能も乏しい。Choice Provisionsは,まさにジグスのように,職人気質なインディーズスタジオであった。
その点,「へクステックメイヘム」では,「Bit.Trip」から大幅にUIや難度を修正し,「リズムゲームでも,アクションゲームでもない」という独自路線から,「リズムゲーム」に寄せている。それはそれで,あの鬼のような難度を懐かしむ気持ちがあるものの,Riot Gamesの強力なIPにChoice Provisionsの開発力がうまくミックスされたと言える。
インディーズゲーム開発と言えば,システムから世界観まで自家製というのが基本だったが,同じくRiot Forgeのタイトル「ルインドキング」を含め,今回のように対策と世界観やファンコミュニティを融通しながら,インディーズスタジオの開発力や個性を活かすという事例が,今後増えるのかもしれない。
「ヘクステックメイヘム:リーグ・オブ・レジェンド ストーリー」公式サイト
- 関連タイトル:
ヘクステックメイヘム:リーグ・オブ・レジェンド ストーリー
- 関連タイトル:
ヘクステックメイヘム:リーグ・オブ・レジェンド ストーリー
- この記事のURL: