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[GDC 2023]ソニーはPS5ゲームのPC版移植に本気!? PC版「Marvel's Spider-Man」のウルトラワイド対応について振り返る
SIEは,2021年に品質の高いPC版移植の実績があるNixxes SoftwareとBluepoint Gamesを立て続けに買収(関連サイト)。実際に「Marvel's Spider-Man」を移植したNixxes Softwareはもとより,買収のタイミングからBluepoint Gamesも含めてファーストパーティタイトルのPC移植に従事させることがその目的ではないかと推測された。
たしかに,2020年前後から現在にかけて,プレイステーション系しか出ていなかった大作シリーズ(例えば「Horizon」「Marvel's Spider-Man」「アンチャーテッド」「The Last of Us」など)が,数年遅れではあるものの,PC向けに,ハイペースでリリースされるようになった。
今後も,この傾向は強まるとされ,今回のGDC 2023でも,件(くだん)のNixess Softwareに所属するRebecca Fernandez O'Shea氏とMichiel Roza氏の2人のエンジニアが「Marvel's Spider-Man」のPC版を移植した際の四方山話を「'Marvel's Spider-Man' Remastered: A PC Postmortem」と題して語るセッションが行われている。
このセッションでは,PS5とPC版の違いについて,かなりの数のテーマで興味深い話が展開されたが,本稿では,そのなかでも「PC版ならではの要素」として人気の高い「ウルトラワイドゲーミングディスプレイ製品への対応」についてのパートをお届けしたいと思う。
PCゲーミングファンを満足させるべく挑んだ本作のウルトラワイド対応
「テレビに接続してゲームをプレイする機械」としての家庭用ゲーム機であるPS5では,ゲーム映像の画面アスペクト比が16:9に固定されている。Nixxes Softでは,PC版の開発に際して,可能な限り多くの画面モードで,本作を動かせるようにしたかったため,力を入れてこの部分の開発に取り組んだと振り返っている。
具体的には,(ウルトラワイドとして)もっとも一般的な21:9だけでなく,アメリカではとくに人気の高い32:9にも対応させるし,ノートPCに多い16:10や9:16のような縦画面モード,複数画面にゲーム映像を展開させるマルチディスプレイにまで対応することを決めたと述べていた。
実際のところ,ゲーム映像自体をウルトラワイドで描画すること自体は難しいことではない。というのも,ほとんどの3Dグラフィックスエンジン(あるいはゲームエンジン)は,視点が決定され,さらに描画画角が定まれば,基本的にその範囲の3Dオブジェクトの配置や最終的なポーズの決定(アニメーション処理など)を行えるようにできているからだ。なので,言い変えるなら「視点と画角等の描画パラメータの設定」さえこなせれば半自動でウルトラワイドアスペクトのゲーム映像は描画できてしまうのである。
「ただし,うまくいかないのがシネマティック(イベント)シーンだ」とO'Shea氏。
もともと,シネマティックシーンは16:9アスペクト固定でドラマが仕込まれているので,16:9アスペクトの外の領域には,背景などは自動で出せても,演者が「正しい状態」でいるとは限らないのだ。
よくあるのは,両腕を水平に広げた「Tの字」姿勢で突っ立っている状態で,画面外にピクリとも動かぬ冷凍状態で配置されているパターン。あるいは,台詞のタイミングで16:9アスペクト内に瞬間移動のように突然,出現してくるパターンもある。
O'Shea氏は,本作におけるシネマティックシーンで,ウルトラワイド化した初期バージョンでの「おもしろシネマティックシーン」を動画で披露した。
下のシーンは,スパイダーマンから離れて走り去る女性NPCキャラが,16:9アスペクト領域の外に出た途端に,路面に上下逆さに突き刺さって停止してしまう場面。このイベントシーンの途中と最後を撮影したものになる。
ここまでの“笑劇”場面はなんとかして隠さなければならないため,本作をウルトラワイド画面で動作させた際,ゲーム内シーンからシームレスに始まるシネマティックシーンでは,キャラクター達の演技が始まった瞬間から,16:9アスペクト領域外をピンボケにして見えにくくする工夫を導入した。
しかし,一部の特殊な演出場面や,マルチ画面でのプレイ時には,ピンボケを適用しても不自然さを隠しきれなかったため,強制ブラックアウトさせる(いわゆる黒帯で隠す)方法を採択している。
本作では,突発的にゲーム内シーンから幾分か逸脱したイベント演出もある |
そうした場合,メインのイベントシーン画面外はブラックアウトさせる調整を行った |
開発側からすると,ちょっと面倒な「UIの調整」
ウルトラワイド対応にあたっては,ゲーム内メニューやゲーム画面の端に表示されるインジケーター類,ゲージ類やミニマップなども,個別対応が必要だったとO'Shea氏は言及する。16:9アスペクト比固定で作っていたUI画面を,可変アスペクトに表示できるように改良したりして,理にかなった,正しい場所に表示できるよう調整したとしている。
また,ゲーム内マップを開いた際に問題となったのは,地形マップと,その上に乗っているランドマーク・アイコンが,地形マップのスクロールや拡大縮小でずれてきてしまう問題だ。これも16:9アスペクト比前提と,固定解像度で作っていたために起きた不具合である。
本作では,リモートコントロール可能な,スパイガジェット的なアイテムの「スパイダーボット」が登場するが,その触手(牙?)的な部位が,16:9アスペクトの範囲でしか描かれておらず,開発の最初期では,その触手が空中浮遊しているように見えてしまっていた。
これは描画境界を適切に設定し直すことで,長い触手が,ウルトラワイドの画面の両端から伸びているような描写となるように調整したとのこと。
開発最初期におけるウルトラワイドでは,スパイダーボットの触手が16:9アスペクト領域外で消失してしまっていた |
製品版では,どんなアスペクトモードにおいても,スパイダーボットの触手が表示されるように調整 |
PS5自体のウルトラワイド対応は?
メインのゲーム画面は,前述したように,3Dグラフィックスであるがゆえに,簡単にウルトラワイドへ対応できるが,描き割りというか,2D画像的なUI部分やマップなどは,あらかじめ「16:9アスペクト以外での利用を想定した設計」になっていないと,本作の移植のように面倒なことになってしまう。言われてみれば当たり前のことではあるが,今回の講演で,数々の開発最初期画面を見せられると,16:9アスペクト固定前提で開発されているPS5対応タイトルの移植は,少々面倒そうだということが伝わってきた。
ただ,家庭用ゲーム機のみならず,PC版へのリリースを最初から想定しているサードパーティ作品では,そうした2D要素も柔軟な設計でできているものが多いのも事実。
SIEが,プレイステーションプラットフォーム向けゲーム作品のPCへの展開に今後も力を入れて行くというのであれば,サードパーティ作品のように最初からウルトラワイドも想定したグラフィックス設計を意識していく必要が出てくるかもしれない。
ところで,家庭用ゲーム機としてのPS5が,最近のアップデートで,16:9アスペクトではあるが,PCディスプレイにしかない2560×1440ピクセル解像度に対応したことが一部のゲーミングファンの間で話題になった。せっかくなので,この勢いのまま,そろそろPS5もウルトラワイドに対応しないものだろうか。そうすれば,PC版への移植展開も,しやすくなるだろうし。
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