業界動向
Access Accepted第805回:“戦国時代”に突入する2025年。延期が決まった「アサシンクリード シャドウズ」の奮闘やいかに
Ubisoft Entertainmentが,東京ゲームショウ2024でのストリーミングイベントの配信中止をアナウンスした直後,「アサシンクリード シャドウズ」の発売日が,3か月延期されることが明らかとなった。キャラクター表現やアートワークなどにおいて,ゲーマーコミュニティから問題点を指摘され続けている本作だが,日本モノやビッグタイトルが数多く控える2025年という“戦国時代”を生き残れるだろうか。
問題が続出するアサシンクリード シャドウズ
当連載第「799回:『アサシンクリード シャドウズ』から始まった“弥助問題”を考える」でもまとめたが,「アサシンクリード シャドウズ」(PC / PS5 / Xbox Series X|S)は,2024年5月に正式発表されて以降,キャラクター表現やアートワークなどの観点で,ゲーマーコミュニティから問題点を指摘され続けている。
ここ数か月のUbisoft Entertainmentは,まさに八方塞がりといった状況だ。例えばアートブックで無断使用していたことが明らかになったボランティア事業の旗についても,謝罪はしたものの配送手続きが進行しているために,アジア圏以外での修正や回収は不可能となることが関係者により明らかにされている。
そのほかにも,ソーシャルメディアでのポジティブなコメントをボットで増やしていることが疑われ,さらにストリーミング配信中止の数日前に,長崎での原爆被害のシンボルの1つである“一本足鳥居”を使った公式フィギュアをアナウンスするなど,あらためてゲーマーコミュニティから指摘を受けている。
また,8月30日に発売されたばかりの「スター・ウォーズ 無法者たち」は,Ubisoft EntertainmentのAAAタイトルとして期待されていたが,残念ながら初動売上は期待外れなものになってしまい,次項でも解説するが,今後の販売戦略を練り直さざるを得ない状況に陥っているようだ。
「アサシンクリード シャドウズ」の炎上がUbisoft Entertainment全体の評価を落とすことにつながっているようだが,2025年2月15日への発売延期によって,ファンだけでなく開発者自身も切望したと言われる,Steamでのデイワンリリースをするという,起死回生の一手を放つ格好となっている。
なお,これら一連の流れを受けて,Ubisoft Entertainmentをバックアップしてきた投資家の中には堪忍袋の緒が切れてしまったグループもいるようで,創業以来の経営者であるギルモ一族の解任を求める声を上げ,全株式10%ほどのグループを揃えてサードパーティへの売却を推し進めようという動きもあることがReutersなどで報じられている。
3か月の延期のなかでUbisoft Entertainmentはどのような対応をするのだろうか
「アサシンクリード シャドウズ」の炎上が止まらず,Ubisoft EntertainmentのCEOであるイブ・ギルモ氏は,同作の発売延期をアナウンスした9月25日(フランス時間)に発行された経営報告書(PDFファイル)において,以下のコメントを出している。
――私たちはエンターテインメントを第一に考える企業であり,可能な限り幅広い層に向けてゲームを作り上げるという理念を再確認しておきます。私たちの目標は,特定の(政治的)アジェンダを押し付けることではありません。これからも,ファンのプレイヤーのために誰もが楽しめるゲームを作成することに全力で取り込んでいきます。
3か月というかなり短めの発売延期で「アサシンクリード シャドウズ」の内容がどれだけ変わるかは分からないが,上記の報告書によると,「ゲームのフィーチャーはすべて実装されていますが,『スター・ウォーズ 無法者たち』で学んだことを反映し,さらに磨きをかけるために追加の開発期間を設けました。これにより,奈緒江と弥助という2人のまったく異なるゲームプレイスタイルを持つ“デュアル主人公アドベンチャー”を達成するという,我々からの約束は果たされ,このシリーズ過去最大の作品に昇華されるでしょう」としている。
“ゲームのフィーチャーはすべて実装されている”という内容から,バグフィックスがメインの作業になると予想できるが,確かに過去には「アサシンクリード ユニティ」「アサシンクリード オリジン」といったタイトルで,バグの多さにより評価が落ちてしまうことがあった。
「アサシンクリード シャドウズ」のトレイラーでも,弥助の刀がしっかりと鞘に収まっていないといったバグが見られるので,そういった細かいバグをできるだけ取り除いておきたいというのが,Ubisoft Entertainmentの狙いなのだろう。
ただし,たった3か月という期間では,現在噴出しているストーリー設定やゲームプレイにおけるゲーマーコミュニティからの指摘に対しては,ほとんど解決しないと考えるのが妥当だ。弥助の存在そのものをなかったことにすべき,といった厳しい指摘も出ているが,本作は2人を同時にプレイしていくようなゲームシステムであるため,今から根本部分で変更を加えるというのは現実的ではない。
また余談となるが,開発現場では,自分の意見が通らず以前から不満を持っている中堅メンバーや,開発に関わることがマイナスと捉えるデベロッパもいるようで,Insider GamingやThe Park Place,YouTubeの「ENDYMIONtv」といった独立系メディアのもとに,内部からのリーク情報が寄せられているようだ。
あくまでもリーク情報なので真偽は不明であるが,情報を総合すると,開発メンバーもここまで自分たちの「悪意なき悪意」が大ごとになるとは思っていなかったようで,内部は今のところはパニック状態で具体的な話題を避けているような状態であるという。そして,2025年2月のリリースもあくまでも暫定的なものだそうで,現状としてはゲーマーの怒りが収まらないことにはリリースしづらいという状況が続いているようだ。
2025年のゲーム業界は“戦国時代”に突入!!
「アサシンクリード シャドウズ」が2025年2月14日にリリースされるのか,それともさらなる改良が重ねられて別の時期にずれ込むのかは分からないが,確かなことは2025年の欧米のゲーム業界は“戦国時代”に突入するということだ。
2025年初頭に正式ローンチを迎えそうなタイトルである格闘アクション「Two Strikes」は,手描き風アニメーションによる2Dグラフィックスが印象的な作品で,タイトルどおり,二撃で相手を仕留めるという手に汗握る猛者たちの決闘が楽しめる。宝蔵院や五右衛門といった名前のキャラクターに混じり,弥助も戦いに参加する。
また,日本モノで最近とくに話題となったのが,「Ghost of Tsushima」に続くシリーズ2作目の「Ghost of Yōtei」だ。「Ghost of Tsushima」の300年後の蝦夷地(北海道)を舞台にしたタイトルで,冥人の面頬を被った新たな主人公“アツ”(Atsu)という女侍が新たな物語を紡いていく。
日本(江戸幕府)の支配下にはなかった未開拓の地において,大草原や雪山で溢れる大自然の中を,ギターと二丁拳銃ならぬ,“三味線と二本の刀”を抱えて闊歩する姿は,さながら西部劇のオマージュのようだ。まだアナウンストレイラーが公開されただけだが,2025年の発売が予定されている。
ポーランドのFalse Prophetによる「BANSHEE: Demon Girl」も,2025年9月にアーリーアクセスの開始はアナウンスされている戦国時代をテーマにした作品だ。そのストーリーは,16世紀末期にヨーロッパに送られた遣欧使節団のメンバーだったくノ一の主人公が,現地で何者かによって行われた黒魔術の儀式により,命を奪われたうえに死なないグールのような肉体になってしまうというもの。
PS2ソフトの「紅忍 血河の舞」に多大な影響を受けたという作品で,ステルスを駆使しながら,何度キルされても自分の殺人者を見つけるまで戦い抜いていくというローグライクなアクションが楽しめるそうだ。
こうした海外生まれの「日本モノ」が量産されそうな気配が漂う2025年だが,2月には「歴史に忠実」をウリにしているDeep SilverとWarhorse Studiosによる「Kingdom Come: Deliverance II」,大ヒット確実とも言える「モンスターハンターワイルズ」,4Xゲーム決定版の久々の新作となる「シドマイヤーズ シヴィライゼーション VII」といった期待作で溢れてしまっている。
現状のゲーマーコミュニティの反応を見る限りでは,「アサシンクリード シャドウズ」の3か月の延期は英断とも取れるが,リリース時期が遅れるほど,ビッグタイトルの陰に埋もれてしまうという懸念もある。3か月というロスタイムでどこまで改良し,コミュニティの信頼を回復できるか。開発陣の奮闘に期待したいところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- 関連タイトル:
アサシン クリード シャドウズ
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