プレイレポート
[プレイレポ]ゾーイの前日譚となる「Road 96: Mile 0」は,独裁国家で鬱屈した対照的な2人の青春がテーマのナラティブアドベンチャーだ
本作は,フランスのデベロッパであるDigixArtが展開するアドベンチャーゲーム「Road 96」シリーズの2作めであり,前日譚にあたる作品だ。本作をエンディングまでプレイしたうえでのレポートをお届けしよう。
「Road 96」の前日談は,重要キャラクターであるゾーイの過去が描かれる
前作の「Road 96」では,独裁国家「ペトリア」から逃げ出そうとする若者たちの群像劇が描かれた。彼らは頼る者もいない荒野を旅し,善悪さまざまな人々と出会い,危険な事件に巻き込まれつつ,タイトルになっている「Road 96(96号線)」につながる国境を目指す。
その中で強い印象を残すのが,トランペットとともに旅をする謎の少女ゾーイだ。石油大臣の娘という恵まれた立場でありながら家出し,警察に連れ戻されそうになりながらもくじけずに進んでいく。彼女は複数のシナリオに登場し,旅の様子が断片的に描かれるものの,「なぜ家出をしたのか?」「過去に何があったのか?」という核心は明確に描かれなかった。
そうした疑問に答えてくれるのが本作になる。物語は「Road 96」より以前,ゾーイがまだ家出しておらず,ペトリアで日々を過ごしていた頃が描かれる。
ゾーイは,貧しい労働者階級の少年・カイトと親友であり,建築現場に秘密の隠れ家を作って遊びながら,いつか一緒に「壮大な旅」をしようと誓い合う。しかし,カイトはとある秘密を抱えており,状況の変化が2人の関係性に大きな影響を及ぼしてしまう。プレイヤーは,あるときはゾーイを操作し,またあるときはカイトを操作することで,2人の心情を理解していくのだ。
本作における見どころのひとつは,ペトリアの様子が描かれることだろう。前作では「独裁らしい」「『黒い旅団』というテロ組織が暗躍しているらしい」くらいのことしか分からなかったが,「Road 96: Mile 0」ではペトリアの窮屈さを体験できる。
独裁者タイラックが治めるこの国は貧富の差が激しく,労働者が貧しい暮らしをする一方で,ブルジョワは豪華な屋敷に住んで毎夜パーティーを繰り返している。マスコミもタイラックに牛耳られており,政府に都合の良いニュースしか流さない。子供たちは夏になると政府主導の活動プログラムで忠誠心を植え付けられるばかりか,国民同士の密告まで奨励されている有様。前作のプレイヤーなら「こんな国なら逃げ出したくなるよな」と納得することしきりだろう。
そんな閉塞感溢れるペトリアで,鬱憤を晴らすかのごとく暴れるのがゾーイとカイトの2人組だ。ブルジョワどもの太極拳セッションにヘヴィメタルを流して台無しにするくらいは序の口。道行く人々に新聞をぶつけて“配達”,プロパガンダのポスターに落書き,政府御用達のニュースキャスターが現場レポートをしている横で変顔しつつ好き勝手に喋るなど,さまざまなイタズラを繰り返していく。
くそったれな国で行き場のない青春が爆発しているというわけで,その鬱屈と行動力に自分のティーン時代を思い出す人も多いのではないだろうか。“配達”がシューティング風,どんな変顔をするか自分で選べるなど,イタズラの中にはミニゲーム仕立てになっているものもあるのが面白い。
また,政府が貼ったプロパガンダのポスターに対してどうアプローチするかで,ゾーイとカイトの心情が変わっていく。破ったり,落書きしたりすると,ゾーイは政府への疑念を深め,カイトなら革命的な考え方を支持するようになっていき,終盤での展開に影響する。心情は画面左上のグラフに表示されているため,いろいろと試してみるといいだろう。
本作はペトリアの物語であると同時に,ゾーイとカイトの物語でもある。セレブなゾーイと貧しい家のカイトは対照的な境遇にあるが,2人は友情を深めていく。一緒に秘密の隠れ家を飾り付けたり,バカないたずらに励んだりと,親友でありつつも恋愛ではない関係だ。
しかし,2人はそれぞれに闇を抱えており,徐々にすれ違っていくあたりに切なさがある。ゾーイは10年ほど前に,反政府組織「黒い旅団」が起こしたテロに巻き込まれており,心に大きな傷を負っている。前作でも繰り返し言及された事件だが,真相は果たしてどのようなものなのだろうか? 一方,カイトはこのテロ事件に執着し,繰り返しゾーイから情報を引き出そうとする。親友であるゾーイが苦しむにもかかわらず,当時を思い出すよう迫る様はどこか不自然だ。
そんなカイト自身にも辛い過去がある。ペトリアの汚染を原因とした病気で妹のアヤを失っており,ときに暗い表情で物思いにふけることがあるのだ。そしてゾーイは,カイトが謎の人物と密会しているのを目撃してしまう。
この人物は何者で,どんな思惑を秘めているのか? 物語のクライマックスは,ぜひ自分の目で確かめてみてほしい。
そんな本作の新要素となっているのが,リズム要素を含んだランゲームだ。スケートで快走するゾーイやカイトを操作し,障害物を避けつつゴールを目指していく。ジャンプしたり,しゃがんだりするタイミングはBGMに合わせて訪れるため,自然とリズムに乗って動くことになる。
このモードの背景は,キャラクターの心象風景だったり,周囲で起こっていることを抽象的に表現していたりするため,ブッ飛んだ展開になるのも面白いところ。怪物のように巨大なタイラックがこちらを捕まえようとしてきたり,キャラクターが不安を覚えた際に文字どおり足元が崩れ落ちたりと,見ていて飽きさせない。
その一方,カイトが雪原を疾走して自由さに快哉を叫ぶステージをプレイしていたと思ったら,それは警官から酷い目に遭わされたカイトが見る夢の中だった……なんてシーンもあり,物語の演出としても面白い試みであると感じられた。
本作は冒頭でも紹介したように「Road 96」の前日談である。前作と今作のどちらから始めるべきか悩むかもしれないが,発表順の「Road 96」→「Road 96: Mile 0」でプレイしても,時系列順の「Road 96: Mile 0」→「Road 96」で進めても,どちらでも問題のない作りになっている。
ちなみに,DigixAartのクリエイティブディレクターであるYoan Fanise氏によれば,時系列順に進めるのがオススメとのこと。筆者は発表順にプレイしたのだが,「Road 96: Mile 0」でゾーイの内面とペトリアの実情を知ったことから,改めて「Road 96」をプレイしたくなった。
[インタビュー]新作「Road 96: Mile 0」は,なぜ前作の前日譚なのか。開発者のYoan Fanise氏とのオンラインセッションをレポート
PLAIONは4月4日に発売を控えた「Road 96: Mile 0」のオンラインセッションを開催した。息が詰まるような独裁国家に住む,立場が正反対な2人の若者たちが脱出を決意するまでを描くナラティブなアドベンチャーについて,開発元であるDigiAartのクリエイティブディレクター Yoan Fanise氏が合同インタビューで語った。
ここまで読んできた「Road 96」のプレイヤーならお気づきだと思うが,「Road 96: Mile 0」は前日譚ではあるものの,ゲームシステムが前作から大きく異なっている。
前作は名もなき若者たちを主人公に,彼らの能力値や旅の道行きがランダム生成されるロードムービー的な作品で,体力や所持金といったパラメータを見つつ生きるか死ぬかの選択をする緊張感や,主人公=自分であるという没入感を楽しむ作品だった。一方,今作は主人公がゾーイとカイトに固定されたアドベンチャーとなる。そのため得られる体験も別物だ。閉塞感のある環境と鬱屈したエネルギー,立場が違う2人の友情といったテーマは感情移入でき,こうした物語が好きな人にはたまらないはずだ。
一方,ランゲームパートの操作性には少しクセがある。ミス一発でアウトであるにもかかわらず,カメラアングルなどの問題からどう避けるべきか分かりづらいところも散見される。ただ,チェックポイントが細かく設けられており,リトライ自体は一瞬で可能だ。繰り返しミスしていると,そのセクションを飛ばす選択肢が出てくるので,アクションゲームが苦手でもエンディングにたどり着くことは可能だろう。
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