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2023年春のマーダーミステリーのトレンドは? ゲームマーケット会場で見かけた新作タイトルをピックアップして紹介
謎解きゲームのSCRAPとタンブルウィードがマーダーミステリーに参戦
5月12日に掲載した記事で紹介したとおり,リアル脱出ゲームで知られるSCRAPが同社初のマーダーミステリー作品を発表した。「雷鳴轟くシェアハウスからの悲鳴」(税込2000円)の先行発売が同社ブースで行っていた。初日分の100個は開場後2時間で完売したそうで,買い逃した人は一般発売がスタートする5月22日を待つことになる。
同作はGMレスの4人向けタイトルとなっており,プレイ時間も公称値で40分と,手軽に遊べるのがポイントとなっている。SCRAPの担当者によれば,脱出ゲームのファンにもマーダーミステリーに興味を持っている(が,プレイしたことがない)人が少なくないそうで,そういう人が手軽に挑戦できるタイトルとして,本作は企画されたという。
「うちのファンの皆さんは,絶対こういうのが好きだと思います。本当に面白い作品がたくさんあるので,その窓口になれればと思って挑戦しました」と話していたので,謎解き好きは挑戦してみるといいだろう。
「雷鳴轟くシェアハウスからの悲鳴」公式サイト
また同じく,公演型の謎解きゲームブランド・タンブルウィードを展開するグリーンダイスもマーダーミステリーに参戦。マーダーミステリーレーベルとして「REDRUM」を立ち上げ,第一作「泉湧館の変転」(税込7700円)を発売した。
ゲームシステムもネット接続を前提とした独自のもので,プレイヤー全員がスマートフォンで専用サイトに接続することで,ゲームの進行に合わせて情報が提供される仕組みになっているという。
初のマーダーミステリー作品ということで制作には苦労したというが,初日分は早々に完売。今後は謎解きゲームと並ぶ事業にしていきたいとのことだった。
REDRUM「泉湧館の変転」公式サイト
カドアナ&グループSNEから新作が続々登場
KADOKAWAのアナログゲームレーベル・カドアナからは,マーダーミステリー作品として「アストリアの表徴 ―名探偵アルフィー最後の事件―」(以下,アストリアの表徴)と「鬼面都市捜査File」の2タイトルが先行発売された。どちらも一般発売は5月31日とのことだ。
「アストリアの表徴」は,「羅生門☆プリンシプル」で第一回新作マーダーミステリー大賞・パッケージ部門を受賞したアーキテクト氏の新作タイトルだ。「羅生門☆プリンシプル」はその後「奇想、アムネジア」と改題され,グループSNEのMYSTERY PARTY IN THE BOXシリーズとして発売されているので,プレイした人も多いはず。
「アストリアの表徴」は19世紀末,シャーロック・ホームズの時代として知られる,ヴィクトリア朝期のイギリスを舞台としている。本格ミステリーゲームを謳う本作では,シャーロック・ホームズ作品に代表される,古き良き本格推理小説に入り込むような体験ができるとのことだった。
「本格ミステリーとマーダーミステリーが,実は相性が悪いということは,以前から指摘されていました。参加者が謎を解いていく都合上,必ずしも事件が解決するわけないので,本格ミステリーにならないんですね。だから今作で目指したのは本格ミステリーそのものではなくて,本格ミステリーの世界で遊ぶことなんです」(アーキテクト氏)
なおKADOKAWAの小説投稿サイト・カクヨムでは,アーキテクト氏による「アストリアの表徴」の外伝小説が連載中だ。こちらはまごうことなき本格ミステリーだそうなので,気になる人は合わせてチェックしてみよう。
また氏によれば,同作は元々は7人用として制作されていたが,テストプレイの結果,もっと濃厚なプレイ体験を提供したいとのことで,プレイ人数を5人に減らした経緯があるそうだ。さらにカバーイラストは「ブギーポップは笑わない」などで知られる緒方剛志氏が担当しており,氏もまたテストプレイに参加したうえで,イラストを手がけたという。自身が担当したキャラクターは,とくに思い入れを込めて描かれているそうなので,プレイした人はどのキャラが予想してみても面白いかもしれない。
カクヨム「推理しない三流探偵アルフィー、ヴィクトリア朝時代を闊歩する」
カドアナ「アストリアの表徴 ─名探偵アルフィー最後の事件─」製品ページ
一方,「鬼面都市捜査File」はKADOKAWAとグループSNEのタッグによるMYSTERY&ADVENTURE BOXシリーズの最新作にあたり,ゲームデザインを友野 詳氏が担当している。
古参のテーブルトークRPGファンならタイトルからピンと来るかもしれないが,本作は氏が1990年代から2000年代に展開していた小説・テーブルトークRPG「ルナル・サーガ」の世界観がベースとなっている。「鬼面都市捜査File」は,原作「ルナル・サーガ」の中でも象徴的な街である鬼面都市・バドッカを舞台に,法の神・ガヤンに仕える神官が活躍する,ファンタジーポリスアクションとのことだった。
会場で話を聞いたグループSNEの安田 均氏によれば,同作は魔法のあるファンタジー世界でマーダーミステリーを成立させるために試行錯誤した作品とのことで,魔法にはさまざまな縛りを課しているという。世界に魔法は存在するものの,ミステリーの解決には用いられないそうで,原作を知らないファンでも楽しめる作品になっているそうだ。
なおMYSTERY&ADVENTURE BOXシリーズでは,第4弾として河野 裕氏がゲームデザインを手がける「探偵禁止領域」が,2023年7月の発売を目指して準備中とのこと。河野氏らしい大正ロマンな本格ミステリーとのことで,やや中級者向けの作品になるとのことだった。
カドアナ「鬼面都市捜査File」製品ページ
このほかグループSNEでは,「誰がために伝書鳩は飛ぶ」(税込3520円)「週末の殺人鬼」(税込2200円)の2作品をリリースしている。
前者の「誰がために伝書鳩は飛ぶ」は,MYSTERY PARTY IN THE BOXシリーズの新作で,絶海の孤島にある研究施設で起こった殺人事件をテーマにしている。デザイナーは北沢 慶氏で,タイトルどおり伝書鳩がキーとなる,北沢氏らしいサスペンスものとのことだった。
一方の「週末の殺人鬼」は,Murder Mystery Miniシリーズの2人用タイトルで,週末ごとに繰り返される殺人事件と,街に伝わる伝説がクロスしていく伝奇ものとなっている。デザイナーの川人忠明氏によるシステムが特徴的で,5人のキャラクターを2人で担当することで,2人用マーダーミステリーの欠点である犯人役プレイヤーの負担軽減を狙ったとのことだった。
またグループSNEでは,7月16日に開催されるイベント「マーダーミステリーフェスティバル2023」に合わせ,MYSTERY PARTY IN THE BOXの新作「ゲノムの塔」と,Murder Mystery Miniシリーズの新作「最期のソワレ」も準備中とのこと。前者は「ヤノハのフタリ」で知られるしゃみずい氏がデザイナーで,軌道エレベーターを舞台にしたSFものになるとのこと。後者は秋口ぎぐる氏が公演用に書き下ろした同名タイトルのリメイクにあたり,演劇舞台関係者の間で起こる殺人事件の物語になるという。
MYSTERY PARTY IN THE BOX特設ページ
「週末の殺人鬼」製品ページ
インディー作品が集結したマーダーミステリーランド
マーダーミステリーの盛り上がりは大手ばかりではない。個人制作や専門店ベースのインディー作品も数多く発表されており,今回のゲームマーケットでは専門店のジョルディーノや,マーダーミステリー制作チームの週末倶楽部が主導するマーダーミステリーランドブースに集結していた。
ジョルディーノ代表のジョル氏によれば,現在のマーダーミステリーは4人用と2人用がトレンドとのことで,中でも手軽に遊べるパッケージ版の需要が大きいとのこと。また2人用といっても犯人がNPCであったり,事故や自殺で犯人が存在しないパターン,あるいはちょっと不思議な事件を調査するものなど,工夫が施されているとのこと。
「自分としては事件を俯瞰して解き明かしていく過程よりも,ミステリーな状況に投げ込まれること自体がマーダーミステリーの魅力だと思っています。だからジョルディーノ作品では,最初は個人目標すら不明で,何が起きているかを把握するところから始まるものが多いです」(ジョル氏)
一方,週末倶楽部代表の小田ヨシキ氏は,作品が増えてきてことで,目新しいギミックが評価軸として大きく注目されるようになってきたと話していた。パッケージや冊子に工夫をしたり,シナリオが終わったと思ったらさらなる黒幕が登場したり,あるいはプレイヤーの中に犯人がいるPvP型から,協力して黒幕を打倒するPvE型に変化したりするタイトルもあるとのこと。
またトレンドとしては,このほかゲームマスターのノウハウ本の売れ行きが良い点に注目しているという。とくに若い層が買っていくそうで,こうした背景にはテーブルトークRPGにおけるオンラインセッションの隆盛があるのではと分析していた。
「テーブルトークRPGの名GMとか,かっこいいプレイルームとか。そういうものに憧れてゲームを始めるので,それがスタンダードだと思い込んでしまい,完璧を求める傾向があるのではと思います。それがマーダーミステリーにも流れてきて,ノウハウを求める人が増えているのではないかと」(小田氏)
今回,週末倶楽部がリリースしたノウハウ本「君がマダミスGMになるために」では,店舗公演などで活躍する13名のプロGMが寄稿しているという。元々はホテルのフロントマンなどの接客業を行っていた人が多いそうで,演技の巧みさというよりは,お客さんをケアして楽しませるホスピタリティが重要とのことった。
ジョルディーノ 公式サイト
週末倶楽部 公式サイト
7月開催の「マーダーミステリーフェスティバル2023」にも期待
マーダーミステリーが日本に上陸してから4年ほどが経過したが,コロナ禍を乗り越え,まだまだ拡大の兆しを見せている。7月16日にはStudio OZON主催の「マーダーミステリーフェスティバル2023」も控えており,さらなる新作が続々と登場するだろう。
「マーダーミステリーフェスティバル2023」公式サイト
黎明期からマーダーミステリーに関わってきたゲームデザイナーの中村 誠氏(代表作に「魔女の聖餐式」など)は,マーダーミステリー界隈が成熟してきたことで,ファンの階層化が始まっていると指摘している。1プレイに数千円を費やして店舗公演やイベントに参加する層と,パッケージを購入して遊ぶ層,BOOTHなどで販売/配布されているインディー作品を中心にオンラインで遊ぶ層がそれで,一口にマーダーミステリーファンといっても,楽しみ方は人それぞれであるようだ。
「公演型とオンラインの間で,パッケージ型がどのようなファンをターゲットにしていくかが,今後の課題になると思います」(中村氏)
マーダーミステリーの可能性はまだまだ尽きない。今後のさらなる発展に期待しつつ,動向を見守っていきたいところだ。
中村 誠氏のnote
- 関連タイトル:
泉湧館の変転
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