インタビュー
[インタビュー]「ペルソナ3 リロード」は,どのような考えでP3を“再装填”した作品なのか。開発のキーマン3名に話を聞いた
日々の行動やストーリーがカレンダーで進行するシステムや,仲間や街の人との交流でキャラクターが成長するコミュなどの要素を生み,現在の「ペルソナ」シリーズを形作った「ペルソナ3」が再装填(Reload)されて2024年に帰ってくる――この注目のリメイク作品について,本作を手がけるアトラスのペルソナチーム(P-STUDIO)の和田和久氏,新妻良太氏,山口拓也氏に話を聞く機会を得たので,どのような考えでペルソナ3に向き合ったのかを聞いてきた。
「ペルソナ3 リロード」公式サイト
ファンと開発者の双方にとって大きな作品である,P3をリメイクするということ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは「ペルソナ3 リロード」(以下,P3R)の経緯について聞かせてください。
「ペルソナ3」(以下,P3)は現在のペルソナシリーズを形付けた作品としてコアな人気を持ち,リメイクを望む声も大きかったと思います。そんなP3のリメイクへ向けて,いつごろから動いていたのでしょう。
和田和久氏(以下,和田氏):
まず,リメイクを望む声が大きかったのはもちろん存じていました。いろいろな形で声は届きますし,アトラスが毎年行っているアンケートでは,リメイク希望のタイトルとして常に上位に入っていましたから。
皆さんと同じく,私たち開発側にとっても重要な一作で,それだけに生半可な気持ちや考えでは,取り掛かれない作品でもありました。
構想はかなり前からあったのですが,実際に制作に進んだのは2019年の終盤ですね。
4Gamer:
シリーズ的な話をすると,PS4で「ペルソナ5 ザ・ロイヤル」(以下,P5R)がリリースされたあとくらいですか。
和田氏:
ええ。実際はP5Rの開発終盤から数名で動き出していたのですが,P5Rが終わって,ほぼそのメンバーがスライドするようにP3Rの開発チームになりました。
P-STUDIOとしては新しいゲームエンジンでの開発で,さらにこの規模のタイトルで初めてとなる,世界同時発売に向けたプロジェクトでもあって。
そういった意味で,ペルソナシリーズの今を作り上げた重要な作品のリメイクであり,開発としては今後のペルソナシリーズにも関わる新たな挑戦でもありました。
4Gamer:
あらためてP3Rはどのような作品なのか教えてください。
山口拓也氏(以下,山口氏):
2006年にPS2でリリースされたP3をオリジナルとしたフルリメイク作品です。
世界観やストーリー,登場キャラクターといった要素はオリジナル版を変えることなく,ゲームの部分は現在のペルソナ作品として楽しめるよう,デザイン面や遊びやすさなどをしっかり話し合ったうえで方向性を決め,新たに作り直しました。
新妻良太氏(以下,新妻氏):
分かりやすく表現すると,「P5のような感覚でプレイできるP3を目指したリメイク」です。
というのも,今のペルソナファンの皆さんのゲームとしての遊び方の基準になっている作品が「ペルソナ5」(以下,P5)なんですね。このあたりもアンケートなどで分かっているのですが,P5は世界的にもペルソナシリーズの認知を広げた作品なので,国内だけではなく,海外のファンの方もまたP5が基準になっているんです。
4Gamer:
それで言うと,オリジナルのころから継続してシリーズ作品を遊んでいるプレイヤーも,P5のシステムやゲームの進め方が基準になっているかなと思います。
なので,P3を遊びたくなって久しぶりにプレイすると,どうしても遊びにくさを感じるところがあって。リメイクを望む声はそういうところからも生まれているのかなと。
新妻氏:
ええ。オリジナルは17年ほど前のゲームですし,シリーズとして見ても,P3からP5へとナンバリングを重ね,多くの派生作品も生みながらシステム面や遊びやすさが洗練されていきましたから。それとともにシリーズを体験してきた人は,今から過去作に戻ると,やはり遊びにくさは感じてしまいますよね。P5が基準のファンはもちろんそうで。
以前からのペルソナファンはたくさんいて,そういった皆さんがかつて体験したことは,もちろん大事にしなければなりません。ただそれは,先ほど山口が言ったとおり,世界観やストーリー,キャラクターの部分を変えないことでしっかり守れると考えていました。
遊びにくさを生んだ要素を見直し,“今のペルソナ”としてP3を作り直す
4Gamer:
新たに作り直した部分ですが,具体的にどんなところが変わっているのでしょう。
山口氏:
まず分かりやすいところですと,体調システムですね。オリジナルのP3らしさを構築している部分ではありますが,以降の作品からはなくなった要素ですし,現在のペルソナシリーズを象徴するものとなったカレンダーシステムとの相性も良くないんです。
4Gamer:
疲労や風邪状態になって,行動に制限が掛けられるシステムですね。
これを攻略に活かすというコアなプレイ方法がありましたが,たしかにそのランダム性が,思ったようにプレイを進められない部分にもなっていました。
山口氏:
ええ。現在のペルソナシリーズは,「この日,この時間に何をするか」を自分でスケジューリングして楽しむのが基本のゲームの楽しみ方にあると思うんですが,その遊び方にとって体調システムはストレスになってしまうんですね。
ランダム性のためプレイヤー自身で管理するのが難しく,望まないときに疲労や風邪の状態になって,本来取りたかった行動が取れない。バトルのときも,ステータスに悪い影響が出たり,ダンジョン探索の途中で仲間が勝手に帰ってしまったりと,そのランダム性によってプレイヤーが選択する楽しさに影響が出てしまうんです。
和田氏:
そもそもダンジョン探索は,P3のころは今と考え方自体が違ったんですよ。当時は今のように,1日で行けるだけ一気に進むという遊び方ではなく,何日もかけてじっくりと登っていく想定で作っていたんですね。それで,帰るきっかけになるものの一つとして体調システムがあったんです。
4Gamer:
なるほど。シリーズが進み,今はいかに少ない日数で攻略し,ほかの時間をコミュなどに割くか……という遊び方が一つの形になっていますね。それこそ1周目から全コミュMAXを狙うとか。
山口氏:
1周での全コミュMAXは,オリジナル版ほどシビアにはなっていません。感覚としてはP5と同じくらいでしょうか。簡単ではありませんが,要領良く進めれば十分達成可能です。
和田氏:
コミュも,オリジナルから現在に至る間に遊び方が変わったものの一つですね。当時はそもそも1周で全コミュMAXできるような設計じゃなかったんです。それをプレイヤーの皆さんがたゆまぬ努力で成し遂げてしまって。「えっ? どうやったんだろう」と,本当に驚きました。
4Gamer:
P3基準ということで「ペルソナ3フェス」(以下,P3F)や「ペルソナ3 ポータブル」(以下,P3P)の追加要素はないようですが,メインストーリーやコミュに新たなエピソードが加わっているところはあるんでしょうか。
山口氏:
メインストーリーやコミュなど,オリジナルにあるエピソードは基本的にそのままですね。P3Fの後日談やP3Pの女性主人公はありませんが,と言ってもその2作品の要素がなにもないわけではありません。
また,それとは別の形で,世界観や人物を深掘りする新規シナリオの追加はあります。例えば男性の仲間キャラクターですが,オリジナルではコミュがなく,「ペルソナ4」(以下,P4)やP5の男性キャラクターのように,あまり主人公との関係や交流を描けていませんでした。
コミュはオリジナルのままなので,彼らをコミュありのキャラクターにすることはできませんが,それとは違った形で人間性や主人公との関わりを描くものを用意します。まだ具体的なお話はできませんが,期待していてほしいです。
新妻氏:
あとはボイスにも注目してほしいですね。
声優陣による声の演技も,現在のペルソナシリーズで期待されている部分の一つだと思っています。すべて新規に収録していますし,ストーリーやイベントシーンに合わせてそのボリュームも相当アップしています。
山口氏:
例えばコミュだと,今までのシリーズでは部分的にボイスが入ることが多かったですが,P3Rはランクアップ時には全段階でしゃべります。
開発する前から,いちプレイヤーとしても何度も見たコミュのエピソードですが,ボイスが付くとまた深く心に訴えてくるものを感じられるんですよね。プレイしたことがある人も,あらためて新鮮にシナリオの良さに触れられると思います。
4Gamer:
そうなると,テキストもボイスも相当なボリュームになっていそうですね。
山口氏:
ええ。シリーズ最大級のボイス量です。もともとかなりのプレイ時間となるシリーズですが,ボイスをしっかり聞いてゲームを進めるとそれだけたっぷり楽しめると思います。
真っ先に上がった改善点――タルタロスの探索を単調にさせない工夫
4Gamer:
ダンジョン探索やバトルについて知りたいのですが,まずタルタロスはどうなっているのでしょう。
入るたびに各階がランダム生成される,250以上の階層のダンジョンで,世界観やストーリーと直結したものとなっていますが……同じような風景が続き,単調なプレイになりがちでした。新しく作り上げるうえで,このあたりはどのように取り組まれたのかなと。
山口氏:
リメイクを行ううえでの改善点として真っ先に上がった部分で,かなり議論を重ねたものでもあります。もちろん,ファンの皆さんがどう考えているかも把握していました。
とは言え,おっしゃるとおり,タルタロスは世界観とストーリーに密接した作りなので,ダンジョンとしての構造を変えるわけにはいきません。
4Gamer:
そうですよね。単調になりがちではあるのですが,陰鬱な影時間に淡々とタルタロスを上っていく虚無感みたいなのもまたP3の醍醐味ではあったので,この雰囲気を残しながらの再構築は大変だったのかなと。
山口氏:
ええ。例えば階層を減らし,さまざまなギミックのあるP5のような固定のダンジョンを作るといったことはできないので,オリジナルを踏襲しながら,一つひとつの細かい要素の積み重ねで,飽きずにダンジョン攻略を楽しめるものを作り上げました。
一つ例を挙げれば,仲間同士の会話です。一定の間隔で,ここでしか聞けない話などが発生します。あとは,壊すことができるオブジェクトや,背景の動きなどですね。本当にちょっとした,できることや視覚的な変化を加えたくらいですが,おかげでだいぶ退屈しないものにはなったと思います。
和田氏:
タルタロスは,Unreal Engineの表現力によってかなり良いものができました。見下ろしだったタルタロスを立体的に,さらにワイドに表現するうえで,とても見事にオリジナルを踏襲した形で変化に富んだデザインにできたんです。
静止画だと伝わりにくいところもあるんですが,光の差し込みのような光源の演出などをはじめ,飽きがこない表現になっていると思います。
4Gamer:
キャラクターモデルや動きもオリジナルからはだいぶ印象が変わりましたね。
山口氏:
頭身が変わったことで表現や演出にも変化がありました。
オリジナルに比べると,スタイリッシュとコミカルのバランスが気持ち前者寄りかもしれないです。デフォルメされていたオリジナルに比べると,バトル中に尻もちをつくような表現が難しくなりましたが,P3はカッコよさの中にあるコミカルさも大事なので,そこはしっかり残しています。
4Gamer:
タルタロスと同じくらい気になっているのがバトルです。まずパーティメンバーですが,これはプレイヤーが指示を出せるんですよね?
今の時代,AIを賢くするという選択肢もあるのかな……? などと気になりまして。
山口氏:
そこはP4以降おなじみの,プレイヤーが指示を出せる形です(笑)。ある程度の方向性を定めてオートで戦うという仕組みもあるので,今のペルソナの遊び方になっていると考えていただければと。
4Gamer:
もう一つ聞いておきたいのが,バトル時のスキルです。「光」と「闇」の属性に,P5の「祝福」「呪怨」のような,即死だけではなくダメージ効果のあるスキルは追加されているのでしょうか。
山口氏:
まだ具体的な話はできませんが,P3Rではメインキャラクターたちはなるべく等しく活躍できるよう,スキル面も込みで考えて調整しています。見せ場となるバトルの演出も,それぞれの個性に合ったものになっているので,期待して続報をお待ちください。
“かつてのプレイヤーたち”が,当時の想いと作品への敬意を大事に持って挑んだリメイク
4Gamer:
いろいろ思いつくまま聞いてしまいましたが,こういったオリジナルから変更する部分って,どうやって整えていったんですか?
山口氏:
まずはオリジナル版の仕様で,現在のペルソナシリーズと比べて埋もれている部分,今の時代には合わないような要素などを確認しました。そして,見直した部分を開発メンバーと話し合ったり,かつてプレイヤーだったときに気になっていたところを聞いたりして,とにかく細かい部分まで一つひとつ見直しました。
4Gamer:
「かつてプレイヤーだったときに気になっていたところ」というのがとても気になりますね。
和田氏:
山口もその一人ですが,P3Rの制作メンバーの半数以上が,当時はまだゲーム開発者ではなく,プレイヤーとしてP3に触れていた人間なんですよ。なので,当時開発に関わっていた者とはまた違った視点から,かつてのP3の良かったところや不満だった部分を見られているんですよね。
4Gamer:
なるほど。そのあたりは心強さも感じますが,ファンは得てして各々のペルソナの理想像みたいなものを持っていたりもするので,意見のすり合わせも大変だったのかなと。
山口氏:
ええ。当時プレイヤーだった開発メンバーは,皆さんと同じくそれぞれに作品愛が強いです(笑)。
私はディレクターとして,バランスをとりながらリメイクの方向性を探っていったのですが,やはり人それぞれでこだわりのある部分が違って。「そこをなくしたらP3じゃなくなる!」「いや,ここは抑えめにしても,こうすればP3らしさは出る!」「いや,出ない!」みたいに,意見をぶつけ合うこともよくありました。
新妻氏:
私はそれを「喧嘩してもいいけど,来週までにはそのあたりをまとめておいてね」と言って眺めていました。
山口氏:
(笑)
新妻氏:
冗談っぽく言ってしまいましたが,この話し合いが本当にいいリメイクを生んだ結果につながったんだと思うんです。一人ひとりがオリジナル作品に敬意をもって,いちプレイヤーだったころの気持ちも大事にしながら開発者として意見を出し,ゲーム制作に取り組んでいましたから。
4Gamer:
P5基準の遊びやすいP3になってほしいと希望しながら,全体から漂うようなギラっとしている感じ,攻めている感じはしっかり残っていてほしいという自分勝手なことを考えていたのですが,開発の皆さんの話を聞いているかぎり,心配はなさそうです。
新妻氏:
そこは大事にしていましたから。私も開発側になってあらためて,その荒削りなところがP3の魅力だと感じました。
ゲームの部分の粗さは,いま遊んでもらうゲームにするためにはしっかり磨かないといけませんが,作品の本質にあるエッジが効いているところは,角が丸くならないようにしなければならない。今回のリメイクはそのあたりをしっかり考えて取り組めたと思います。
4Gamer:
締めに入る前に一つ,聞き忘れたことがありまして。P3Rの“リロード”って,どういった考えで,いつ決めたタイトル名なんでしょう。
和田氏:
もともとRをつけたいというのはありました。P5の決定版としてP5Rがあって,今作もそういう意気込みがありましたから。リメイクという意味も込めていますが,ただ,ペルソナシリーズ作品が「Persona 3 Remake」じゃらしくないというか,面白くないじゃないですか。
4Gamer:
シリーズファンとしては驚かせてほしいというか,直球すぎてもっとひねってほしいと思うでしょうね。
新妻氏:
そうですよね。最近ゲームだとREもよく使われていますが,ペルソナとして見るとそれも違う。召喚器が銃の形だし,じゃあリロード(Reload)だと。
タイトル名として使うなら,文法的にはリローデッド(Reloaded)なんですが,なんとなくガンアクションっぽいイメージがメインで伝わってしまうなと思い,それなら“Reload”だなと。正式決定まではまた少し時間がかかったのですが,開発チーム内ではすぐ「それだ」となりましたね。
4Gamer:
主人公や仲間たちが召喚器を再装填し,自身に向けて撃つペルソナ召喚シーンが思い浮かびます。ではあらためて,P3Rに注目している読者やペルソナシリーズのファンにメッセージをお願いします。
山口氏:
まずは,お待たせしましたとお伝えしたいです。
私たちにとっても特別な思いがある作品でしたが,皆さんが待ち続けてくれたからこそ実現できたリメイクなので,これまで声を上げ続けてくださったファンの方々に感謝しています。
今後も発売に向けて情報をお届けしますので,オリジナルのプレイヤーの皆さんは変わったところと変わらないところを,P3を知らなかった人はいちから新しいゲームとしてそれぞれ追いかけてほしいです。
新妻氏:
今回の発表で,「今のP-STUDIOがP3を作るとこうなりますよ」という形を見せられたかと思います。オリジナルを知っている人も知らない人も,今の日本のRPGとして遊べる作品であることは伝えたいですね。
オリジナル版に敬意を持ち,とにかく丁寧に作ったリメイク作品です。発売はまだ先ですが,今後も注目していてください。
和田氏:
我々開発者は,毎回ゲームが完成したときに「もう少しこうできたのでは」とか,皆さんの手元に届くときに「受け入れてくれるだろうか」とか,多かれ少なかれ不安な気持ちを抱えているものなんですね。そういった空気で発売を迎えることが多いんですが,P3Rは,珍しくスタッフ皆が「良いものができた」という感触をもって終盤を迎えることができました。それだけ自信をもってお送りできるタイトルになったと思います。
早く皆さんにお届けしたい気持ちですが,もう少しお待ちください。世界同発タイトルとして,日本だけではなく世界のゲームファンと一緒に盛り上がれる日を,私たちも楽しみにしています。
4Gamer:
発売に向けた今後の展開を楽しみにしています。ありがとうございました。
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