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オリジナルコンテンツを生み出すには,揺るぎない「愛」が必要。トゥーキョーゲームスの小高和剛氏による基調講演[CEDEC+KYUSHU 2025]
なお本稿の内容には,「HUNDRED LINE -最終防衛学園-」の重要なネタバレが含まれているので,未プレイの人はご注意を。
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小高和剛氏のこれまでの歩み〜3つの時代から見るオリジナルIP制作〜
講演の前半では,現在47歳である小高氏の半生を3つの時代に区分し,それぞれにおけるオリジナルIPへの取り組み方が紹介された。
最初に紹介されたのは「学生〜フリーター時代」だ。小高氏は中学校,高校とも男子校に通っており,思春期に女子の目を気にすることがなかったため,周囲を含め幼稚なまま成長したと感じているという。
高校時代の小高氏は,大学受験のために1日10時間以上勉強に取り組んでいた。しかし実際の受験が迫る頃には燃え尽きてしまい,「大学に入ったあとも勉強するのは嫌だな」と感じていたとのこと。そんなときに友人から,映画について学べる大学があると教えられ,日本大学芸術学部に入学した。
なお映画に関しては,10歳離れた姉の影響で幼少期から「インディ・ジョーンズ」や「機動戦士ガンダム」,「幻魔大戦」などを観賞していたそうだ。
大学卒業後は,教授の勧めでゲームシナリオ制作会社のフラグシップに入社し,親会社のカプコンからリリースされた「クロックタワー3」の開発に携わることに。このタイトルは,映画監督の深作欣二氏がディレクションを手がけており,現場は撮影が8:00にスタートして翌日の17:00に終わるというハードな環境だったとのこと。そのため小高氏は「自分で映画作品を作りたい」と思い,「クロックタワー3」の開発が完了したあと,少し経ってからフラグシップを辞めた。
アルバイトで資金を稼いで制作した自主制作映画は2本程度。うち1本は,ゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭(当時)で入選を果たしたが,仕事には結びつかないと感じていたという。振り返ると,この時期に中古ゲームショップで働いていて,商品のゲームを持ち帰ってひたすらプレイしていたことが,今の礎になっているそうだ。
またフラグシップ時代の知り合いから依頼を受けて,ときどきゲームのシナリオを書いていたという。携帯アプリ「探偵 神宮寺三郎」シリーズもその1つである。ただ1本あたり2〜3か月かかって,シナリオだけでなくスクリプトも担当していたため,今思えば相当厳しい条件だったとのこと。
一方,スクリプトまで手がけたことで,音楽の始まるタイミングや効果音を入れるタイミング,言葉ではなく表情で語らせる手法などを習得できたため,ゲームのシナリオライターとしてはプラスになったという。
そんな生活がずっと続いていた小高氏だが,29歳のときに転機が訪れる。ゲームショップで女子大生のスタッフがミスをしたため,「そんなんじゃ社会で通用しないぞ」と叱ったところ,「小高さん,社会に出てないじゃないですか」と指摘されたのである。それを聞いて愕然とした小高氏は,「きちんと就職しなければいけない」と考えたとのこと。
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続いて「スパイク・チュンソフト時代」の紹介に。小高氏は,就職活動でアトラスやトライエース,ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)などにアプローチした。その頃は,シナリオ作りを武器にしてサラリーマンとしてゲーム開発に取り組もうと考えていたという。
ただ,「もしかしたら自分のオリジナルが作れるかも」という淡い期待を抱いて,当時「喧嘩番長」や「侍道」など少し尖ったオリジナルタイトルをリリースしていたスパイク(当時)に入社した。そこには,大手だと駒の1つにしかなれず活躍できないだろうという算段もあったそうで,「自分が本当にやりたいと思う仕事にたどり着けそうな会社を選ぶことが重要」とも話していた。
スパイクでの初仕事は,バンダイナムコゲームス(当時)からリリースされた「ドラゴンボールZ Sparking! METEOR」のシナリオのリライトとスクリプト作成だった。また映画制作の経験から,カットシーンのカメラワークなども一部手がけていたとのこと。その頃のスパイクは厳しい労働環境だったため退職者があとを絶たず,何役もこなせた小高氏は重宝されたそうだ。
スパイク時代の転機は「名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵」のシナリオを手がけたときで,社内には「こいつ,結構すごいぞ」という空気が流れたという。そのため,仕事としては相変わらず「ドラゴンボール」などの版権もののゲーム開発を続けていたが,小高氏は空いた時間にオリジナル企画を作ることとなった。
そのとき意気投合して,企画書に絵を描いてもらったのが,小高氏の手がける一連のコンテンツでキャラクターデザインなどを担当する小松崎 類氏で,当時はUIデザイナーだったとのこと。
そのとき企画したのが「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」(以下,「ダンガンロンパ1」)の原型で,小高氏はバトルロイヤルで推理もの,そこに学生の要素を入れるというアイデアを思いついた瞬間,「これは面白くなる」と電撃が走ったような感覚を得たという。
小高氏を応援していたスタッフもそのアイデア絶賛したが,いざ社内の審査会で企画をプレゼンしたところ,「学校のイジメを助長する」「寄ってたかって1人を攻撃するのはどうかと思う」「高校生の殺し合いは倫理的にいかがなものか」といった意見が出て,審査に落ちてしまった。
諦めきれなかった小高氏は,ゲームのオリジナリティをアピールするべく,桑田怜恩の「おしおき」シーンを作りあらためてプレゼンした。小高氏自身は,桑田がピッチングマシーンでボコボコにされる姿を「刺激的でカッコいい」と思っていたが,審査会では「なおさら残酷だろう,無理無理」と否定される結果に。
小高氏は「ほかの会社に企画を持ち込むか……」とまで考えたが,のちに「ダンガンロンパ」シリーズの初代プロデューサーを務める寺澤善徳氏から「社長に直談判してみたら」と勧められ,思い切って実行したところ「いいじゃん」と即断即決でゴーサインが出たそうだ。
「ダンガンロンパ1」は予算1億円程度,約1年の期間で,小高氏を含め極少数のスタッフによって開発された。現在の労働基準法下の環境では考えられないが,当時は徹夜作業も普通に行われていたという。スタッフ同士がしょっちゅう顔を合わせていると嫌気が差してくるため,各自が徹夜する日をローテーションで決めていたことも明かされた。
そうやって完成した「ダンガンロンパ1」は2010年11月にリリースされた。プラットフォームのPSPでは,当時アドベンチャーゲームが奮わなかったなどの要因により,初週の売上本数は5万本程度。しかし虚淵 玄氏や奈須きのこ氏らクリエイターがSNSなどで称賛したところ,口コミで評価が高まっていった。
結果として「ダンガンロンパ」シリーズは,2025年7月時点で全世界累計出荷本数が850万本を突破し,アニメ化や舞台化もされ,15周年を迎えた今なお熱心なファンが多数いる人気IPとなった。
人気IPの生みの親として知られるようになった小高氏のもとには,アニメや漫画の原作をやってほしいというオファーが寄せられるようになった。しかし会社に所属している限り,それらの仕事はなかなか実現できない。そこで小高氏は,引き続きスパイク・チュンソフトとの仕事を続ける一方で,ほかの仕事もやるべく,独立を決めた。この当時,すでに「超探偵事件簿 レインコード」の開発が始まっていたという。
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最後は,現在の「トゥーキョーゲームス時代」の紹介である。独立した小高氏は,同じくスパイク・チュンソフトを辞めた小松崎氏と作曲家の高田雅史氏らとともにトゥーキョーゲームスを設立。資本金は,すでに別会社を設立し活動していた高田氏が立て替えたとのこと。小高氏自身は,すでに「レインコード」の開発に着手していたことや,ほかの仕事が決まっていたため「何とかなるだろう」と思っていたそうだ。
その一方で,開発チームを抱えるのは無理だとも考えていたそうで,IP作りに専念することを決めた。初期メンバーの7人はそれぞれが手に職を持ち,仮に会社が解散してもフリーランスとして稼いでいける人材を集めたという。
そうやって順調なスタートを切ったトゥーキョーゲームスだったが,小高氏とシナリオライターの打越鋼太郎氏による社内コラボプロジェクト「HUNDRED LINE -最終防衛学園-」の原型となるタイトルは,パブリッシャが手を引いたことにより開発中止に追い込まれる。
しかし,根幹の面白さを確信していた小高氏は,「何としても世の中に出さないといけない」と考え,開発の仕切り直しを決断。最終的にはパブリッシャのアニプレックスの協力を得ることになるが,金融機関のプロジェクト・ファイナンスを受けたり,巨額の借金をしたりしつつ,「HUNDRED LINE」を完成させた。その売上は損益分岐点を超えたため,借金も無事完済できたそうだ。
小高氏はディレクターとしての自身について「誰かが金を出すからやってしまえとアクセルを踏んで,プロデューサーに止められるタイプ」と表現し,「HUNDRED LINE」では予算の管理をするプロデューサーの立場も求められたので大変だったと語った。
その一方では,「振り返るとアクセルを踏んでばかりで,あまりブレーキは使わなかったかも」としており,本当に危ないときは数字の管理に長けた高田氏が注意してくれるだろうとも話していた。
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話題はトゥーキョーゲームスの最新作にもおよんだ。大前提として小高氏が意識しているのは,自己表現としての「作品」なのか,遊んだ人を楽しませる「プロダクト」なのかのバランスで,タイトルごとに比率を考えているとのこと。
またゲームなのか,アニメなのか,あるいはキャラクタービジネスなのかといったバランスも考慮しており,たとえば「ゲームに寄せすぎるとキャラクター人気が取れないので,少しゲーム要素を抑える」といったこともやっているという。
2025年4月リリースの「HUNDRED LINE」は,上記のとおり打越氏との社内コラボとしてプロジェクトを立ち上げたが,基本的には小高氏が先導しているそうだ。この背景には,打越氏の「オレの思いどおりに作ると売れなくなる」という思いがあることが明かされた。
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また新規IPは特徴がないと埋もれてしまうため,100種類のエンディングを作ると決めた。開発は予想以上に大変で,シナリオは600万字におよび,海外版用の翻訳も含めてかなりのコストがかかったとのこと。
ジャンルにシミュレーションRPGを採用したのは,「15人の高校生が外敵と戦う」というシナリオにもっとも沿っているからだ。たとえばアクションゲームにしてしまうと,誰か1人を操作してしまうことになる。このように,小高氏がゲームを作るときは「まずシナリオありき」で考えていくことが示された。
そして重要なネタバレになるが,「HUNDRED LINE」はゲームのシリーズで言えば「1」と「2」が同梱された構成となっている。これは,ゲームのプレイ中にたとえばAとBのいずれかのキャラクターを犠牲にしなければならない局面に立たされたとき,何も思い入れがないとプレイヤーの心が動かないことが理由だ。つまり「1」でプレイヤーにAとBに対する思い入れを抱かせ,「2」でどちらを犠牲にするか選ばせることで,プレイヤーに強い印象を与えるというわけである。
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2025年9月リリースの「終天教団」は,宗教とバラバラ殺人を軸にした,尖ったアドベンチャーゲームとして企画が始まったという。「ダンガンロンパ2」のとき,バラバラ殺人がCEROの審査に引っかかり,わざわざ被害者をロボットに変更したという経緯があったため,当初はインディーゲームとしてリリースすることを考えていたそうだ。
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そのため,とくに企画書を作ることなく,プロットを完成させたとのこと。小高氏自身は秀逸なトリックで,しかもゲームでしかできないミステリーに仕上がったと感じていたそうだ。そしてDMM GAMESと別件で話していたときに,たまたま「終天教団」が話題となりプロットを見せたところ,協業が決まったという。小高氏は「初めて企画書なしで通ったプロジェクト」と話していた。
また,小高氏の手がけたゲームタイトルをすべてプレイしてきたという松山氏は,「終天教団」が一番好みだと語る。たとえば「ダンガンロンパ」シリーズだとピーキーすぎて,「やりたいことは分かるけど……」となってしまうそうだが,「終天教団」はちょうどいいとのこと。小高氏も「ピーキーさを少し落として,多くの人に刺さる要素を少し増やすことを意識した」と説明し,「読後感がいい」という感想が多いことを明かした。
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講演の最後には,ゲームのシナリオライターやディレクターを目指す人に向けて,小高氏がメッセージを送った。小高氏はオリジナルコンテンツを作る上では「愛が一番大切」であるとし,「ダンガンロンパ1」や「HUNDRED LINE」,そしてサービスが終了した「トライブナイン」を無償で完結させようとしている事例を挙げて,「自分の金を使ってでも復活させようと考えるのは,愛があるから。そもそもそういう企画でないと通るわけがない。『これは絶対にやるべきだ』『これは絶対に面白い』と確信している人がいないとダメ」と力説した。
メディアミックスに関しても原作側からアプローチするより,「原作が好きだからアニメ化したい,舞台化したい」という人が集まるほうが熱が高まっていくとし,「そういった愛によって,オリジナルコンテンツが育っていく」との持論を示した。
また海外大手と比較すると,インディーゲームも含めて日本にはオリジナルコンテンツを作り出そうとするゲーム会社が多いことにも言及。アイデア勝負の小規模開発が日本のゲーム会社の大きな強みであり,自身も予算などに制限があることで,よりクリエイティブかつ愛のあるゲーム開発にチャレンジできるとまとめていた。
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(C)Aniplex, TooKyo Games
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