インタビュー
[TGS 2014]SCEJAの新プレジデントはMSXからの叩き上げだった。盛田 厚氏に聞くPlayStationシリーズとSCEの今後
新しくSCEJAのプレジデントとなった盛田氏は,名前からなんとなく察しがついている人もいるだろうが,ソニー創業者である盛田昭夫氏の甥にあたり,SCEでも取締役を務めている。PlayStationシリーズの日本とアジアでの動向を握るキーマンは,いったいどういう人物なのか。ゲーム業界をめぐるやり取りから読み取ってみてほしい
――本日はよろしくお願いいたします。まず,盛田さんの経歴を教えていただけますか。
盛田氏:
はい。私は30年ほど前にソニーに入社しました。そのときの部署は国内営業だったのですが,その頃,ちょうどMSXというものが登場して,ソニーでパソコンを出そうという動きになり,HitBitシリーズの営業を担当しました。MSXはゲームに非常に適しているということで,HitBitをゲームパソコンとしてプロモーションしており,当時はゲームを抱えて日本中を飛び回っていましたね。ですから,ゲームとの関わりは30年前から始まっていることになります。
話は逸れますが,そこでもの凄く苦労していたこともあって,初代のPlayStationが大成功したときには本当に嬉しかったです。
国内営業を6年務めたあと,イギリスに渡りましてそこでも営業を10年ほど経験しました。日本へ戻るときに,違う業務分野も経験してみたかったので,経営管理部隊に入り,以降は経営管理をやっておりました。そこで事業部の経営管理やQualcommとのジョイントベンチャーでの財務責任者,ソニーのヘッドクォーターでの経営企画などを経験しました。
8年ほど前にSCEに移り,ここでも経営管理や間接部隊(経理/人事など)の責任者として働いていました。そして,このたびSCEJAのプレジデントに就任いたしました。
――就任されての抱負を聞かせてください。
盛田氏:
経営者としては,PlayStationというプラットフォームをいかに拡大していくか,日本とアジアでこれを実現するために皆に道を示して引っ張っていくがが私の仕事だと思っています。
――「盛田カラー」というのは,どの辺に出てきますか。
カラーというのは出てくるものではなくて,あとで評価していただくものだと思うのですが,「いまこういう状況だからこうする」というのがあったとして,次の年に必要なのは違うかもしれません。カラーに縛られず,ちゃんと変化に対応して色を変えていく必要があります。「あの人はこういう人だよね」と一言でいわれるようになるとよくないんじゃないかと思いますけどね。
――今年のTGSに対するSCEのコンセプトについて聞かせてください。
盛田氏:
今年は盛りだくさんです。
まず,先日のカンファレンスでも紹介しましたが(関連記事),PlayStation 4のタイトルがようやく揃ってきました。おそらく「日本ユーザー待望」であったと思われるタイトルが集まっています。ブースで試遊できますので,それらを実際に体験してみてほしいですね。もちろん,PlayStation Vitaでも新作が出てきていますので,こちらも試遊台で楽しんでください。そのほか,ステージイベントも盛りだくさんです。
また,商品化は先の話になりますが,Project Morpheusを出展しておりますので,こちらもぜひ体験して楽しんでいただいて,ご感想をいただけるとありがたいです。それも参考にさせていただいてプロジェクトを進めていきますので。
――カンファレンスでのProject Morpheusの反響はいかがでしたか。
もの凄く大きかったですね。これまでにもあちこちのイベントで展示はしてきたのですが,TGS前の反響はとくに大きかったです。
――先日のカンファレンスでは,日本市場が欧米に比べて遅れているといった表現があって,ネットではそこに反応している人も多かったのですが,このあたりのことについて聞かせていただけますか。
盛田氏:
PS4は,日本では2014年2月22日にローンチさせていただいたのですが,そのときの「出たら買おう!」という人達の需要が一段落しています。欧米では初動の勢いが日本よりも長く続いていて,それと比較すると,「日本では我々が目標とするところに届いていないというのを認識しなきゃいけない」というのが先日の発言の意図でした。
これは,日本のユーザーさんが「このタイトルで遊びたい」「これを待っている」といったタイトルが提示できていなかったことが原因だと思っています。コンテンツは重要です。ですから,先ほども述べたように,今回のTGSでは期待に応えるタイトルを揃えましたので,ちゃんと皆さんに体験していただいて,これから年末商戦にかけて盛り上げていきたいと思っています。
日本って,ゲームを遊んでいる人は非常に多いんですよね。これはコンシューマゲームに限らず,カジュアルゲームでもスマホアプリでもなんでもいいのですが,まとめてゲームエンターテイメントとして考えると,ポテンシャルにはもの凄いものがあると思っています。日本のゲーム市場が遅れているとか悪いとかいった意味ではありません。
――分かりました。逆に,欧米でPS4が非常によく売れている理由は何だとお考えですか。
盛田氏:
――コンテンツが重要ということですが,いままでと同じことを繰り返していてはユーザーも飽きてしまいます。PSシリーズで新しいものへ挑戦していくうえで重視しているものはありますか。
盛田氏:
これにはステップがいくつかあると思うのですが,まず,ゲームが好きで遊んできてくださったような方で現在もゲームを楽しんでいる方,そして最近はちょっとゲームから離れている方にアピールしていくことが第一だと思っています。PS3からPS4になったことで,ハードウェアスペックの上昇を含めてできることは広がっていると思っています。同じ名前のゲームであっても,提供されるゲーム体験はずいぶん違ったものになっていますので,これはぜひ体験していただきたいです。
次のステップとして,最近は普通にゲームをプレイするだけでなく,他人のプレイを見たり,プレイ動画をSHAREしたり,PS VitaでPS4のゲームをプレイしたりと楽しみ方が広がっていきます。こうした楽しみ方をセットでお届けしたいと思っています。これまでのゲーム体験とは違う体験を,PS4のみならず,PSシリーズ全般で提供していきたいですね。
我々は現在PS4を推していますが,これはPS4がPSシリーズの核となると思っているからです。PS4を中心として,PS VitaやPS Plusなどのネットワークサービスなどを展開していきます。さらにデジタルディストリビューションによって,できることがさらに広がりますので,それらを含めた「トータルなPSプラットフォーム」を拡大していくことがキモだと思っています。
――SHARE機能も言及がありましたが,最近ゲーム実況配信などが増えていることも追い風になっているのでしょうか。
盛田氏:
はい。そうですね。ゲームの楽しみ方が広がっているというのは凄くよいことだと思いますので,我々が考えてもいなかったような楽しみ方もこれからどんどん増えてくるでしょう。そういったものをユーザーの皆さんが作っていくこともあると思うので,皆さんが思うことを楽しめるように,いろいろな施策を打っていきたいです。ユーザーを刺激しつつ,皆さんが望むことをどういう場で提供できるかですね。こういったことができるようになったのが,PS4でありPS Vitaだと思っていますので。
――日本市場が立ち遅れ気味な理由には,日本と海外の嗜好の違いというのもあるのではないでしょうか。そういったものに向けた日本独自の施策などはありますか。
盛田氏:
また,日本のユーザーに向けた日本のメーカーが作るタイトルも重要だと認識していますので,そのあたりもちゃんとやっていきたいですね。今回のTGSでは,その一つの答えは出せているのではないかと思っています。
とはいっても,欧米のゲームでも日本のユーザーに響くものはありますし,ビッグタイトルと呼ばれるようなものは,日本でも相当の数が出ています。例えば,「Destiny」は,ハードウェアも牽引するくらい購入していただいています。欧米とは嗜好の違いがあるとはいっても,面白いタイトルはちゃんと受け入れられていますので,そういったものの提供にも力を入れていきます。
――かつては「FPSは日本では受け入れられないだろう」といったことが言われていましたが,「Destiny」はヒットしています。日本のユーザーにも変化が起きているということでしょうか。
盛田氏:
FPSに対する変化が起きているかどうかは分かりませんが,ユーザーの嗜好はもちろん変化しているでしょう。一方で,FPS自体も「FPSだからこんな展開だよね」といったものから脱却し,アクションやRPGの要素をMixしたゲームが出てきています。ユーザーの変化だけではなくて,ゲーム体験も変化してきて,それが日本でもこういったゲームが広がってきた要因ではないかと思っています。今後は,PS4の性能を引き出したりネットワークと組み合わせることで,さらにゲーム体験が広がるようになっていくのではないでしょうか。
――日本らしいタイトルということでは,これまでファーストパーティの作品が牽引していたと思うのですが,最近は少し目立たなくなってきました。盛田さんとして日本のファーストパーティに求めるものはありますか。
盛田氏:
売り上げ本数などの数値的なデータはありますが,ファーストパーティの作品が日本で受け入れられなくなったというよりも,進捗状況の問題ではないでしょうか。売り上げ本数はハードウェアの台数にリンクしていると思うので,先行発売された欧米ではインストールベースも伸びているのに,日本はひと段落しているという状況が反映されているのだと思います。
我々がファーストパーティを持っている理由の一つに,ハードウェアの開発と足並みを揃えたソフトウェアの開発を行うためというのがあります。そこで求められるのは,PS4ならPS4のよさを最大限に引き出すことです。これはワールドワイドスタジオの吉田さん(吉田修平氏)も強く意識していると思います。日本らしさよりもそちらを優先させていることと進捗の問題で目立たなくなっているのではないでしょうか。
私としても日本独自のタイトルは出てきてほしいと思っています。彼(吉田氏)は,Twitterなどでユーザーの声に耳を傾けることは積極的に行っていますし,我々も意見は出していきます。そこはうまくやってくれると思いますよ。
注:日本ではPS4のファーストパーティ作品である「KNACK」は本体に同梱されており,タイトルが売れているという実感は薄いかもしれない
――じゃあ,「みんなのゴルフ」とかは凄く楽しみですね。
盛田氏:
まさにそうですね。
――今回,TGSでインディーゲームコーナーをスポンサードされていますが,その意図を教えてください。
盛田氏:
――インディーズもサードパーティのサポートと同じくらいのプライオリティということでしょうか。
盛田氏:
はい。ここは「ゲームをクリエイトしている人達」という意味で区別するところはありません。MSXの話ではありませんが,現在ゲームを開発しているメーカーにも,元々は一介のゲームクリエイターから始まって,学生時代に作ったゲームがヒットして……といった経緯の方がいますし,そういった世代が次の世代へバトンを渡す循環が必要だと思うんですよね。
――E3ではインディーズの作品が多数カンファレンスで発表されるようなレベルになっていますが,国内でも同様にインディーズが比重を占めるようになってくるのでしょうか。
盛田氏:
すでにいくつかのタイトルは発表されていますし,今後ももちろんそうなると思いますよ。
――Microsoftや任天堂に対するSCEの優位点にはどんなものがあるとお考えですか。
盛田氏:
いい子ちゃんと思われてしまうかもしれませんが,戦うというよりも,切磋琢磨して業界を盛り上げるというのが重要だと思っています。
PSシリーズは20年の歴史があり,そこで作られたものやクリエイターとの関係などは財産だと思っています。一方,スポーツでもなんでもそうですが,相手のことを考えすぎると違うところにいってしまうので,ちゃんとユーザーのほうを見て,そちらにいかに響くようにするかを考えるほうがいいと思いますけどね。
――盛田さんが好きなゲームにはどんなものがありますか。
盛田氏:
好きなゲームというのをおいそれと口にできない立場になってしまったのですが,MSXを売っていた時代には,たくさんのゲームをしてきました。その中で当時自宅でもやり込んだのが「ドラゴンクエスト」だったんです。これはMSX用に出していただいたものでしたが,最初は練習をしなきゃと手に取りました。時間がかかるRPGをやったのは初めてで,こういうのって面白いのかと半信半疑だったのですが,凄く没頭してしまったんですよ。本当に戦っていたり旅をしたりしている気持ちになれました。その体験があって今に至っています。
――では,カンファレンスで「ドラゴンクエストヒーローズ」を発表したときは本当に嬉しかったわけですね。
盛田氏:
はい。あれは営業トークではなく本当に嬉しかったですね。
――最後にPSシリーズに期待する人に向けてメッセージをお願いします。
盛田氏:
PlayStationで,日本のマーケットを引っ張っていきたいと思いますし,業界全体で盛り上がっていくために,その先頭に立って頑張りたいと思います。さらに言えば,日本だけでなく,中国なども含めたアジア全体でワールドワイドのゲーム業界をリードできるように目指していきたいと思います。
――ありがとうございました。